魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中で見苦しいところもありますが、ご容赦願います。

クサカリツボダイ

2016年12月19日 19時17分20秒 | 魚紹介

今日はいつもの北海道シリーズから離れて、鹿児島の深海性魚類をご紹介。

スズキ目カワビシャ科のクサカリツボダイ。

あまり聞きなれない名前の魚ではあるが、意外とこの魚はよく食べられている。スーパーなどでたまに売られている「ツボダイ」の干物は本種の干物であることが多い。故阿部宗明博士の「新顔の魚」でも1970年に登場、それによれば1969年にソ連からかなり大量に日本の商社へ売り込みがあってから注目され始めた」ものだという。カワビシャ科は英語名Armorheads、甲冑の頭。頭部が露出した骨に覆われていて硬いことからこの英名がついた。写真をみれば納得。一方種の和名についてはテングダイやヒョットコダイなど、ユニークなものがいる。カワビシャ科は世界で8属、計13種が知られているが、属については流動的で、たとえばクサカリツボダイ属は属として認められたり、あるいはツボダイ属に含められたりする。

頭部だけでなく、胸鰭の周辺にもこのように巨大な骨が見られる。

臀鰭は4棘。スズキ亜目の魚の臀鰭は2~3棘のものが多い気がするが、ツボダイやクサカリツボダイでは臀鰭棘数は4である。カワビシャやテングダイ、ヒョットコダイ、ショートボアフィッシュ、あるいはロングスナウトボアフィッシュといった種は3と、種によってばらつきがある。

クサカリツボダイは深海性で水深200~400mほどの場所で釣りや底曳網などで漁獲される。分布域は北半球に限られ、房総沖、鹿児島沖、八丈島近海、天皇海山、ハワイ諸島、北米西岸に分布している。近縁種のPentaceros richardsoniは南半球の産で「ニュージーランド海域の水族」では南半球産のこの種に「クサカリツボダイ」の和名を使用しているなど、若干の混乱がみられるので注意。

「新顔の魚」でもクサカリツボダイの学名はP. richardsoniとなっていうがその後1983年にこの科の分類学的な再検討がなされ、P.wheeleriが新種記載された。これが日本に分布するものであり、クサカリツボダイの和名が当てられるのはP.wheeleriとなっている。もう1種学名がついたのがいるが、それはクサカリツボダイと同種とされている。

クサカリツボダイは八丈島などにもいて、深場の釣りで釣れることもある。しかしながら鮮魚としてお目に罹れることは少ない。今回はせっかくの鮮魚だったので刺身にしてみたが、これが脂の乗りも程よく美味なものであった。

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ウケクチコオリカジカ

2016年12月17日 10時48分00秒 | 魚紹介

昨日はいろいろあってサボりました。すみません。今日も北海道の魚を。

スズキ目・カジカ科・コオリカジカ属のウケクチコオリカジカ。

コオリカジカの仲間は日本に11種、日本からの記録は文献に基づく記録のみとされるヒメコオリカジカを含めて12種が知られているが、深海性で北方性のため、あまり写真を見る機会がない種。カジカの仲間に限らず、ほかのカジカ亜目、あるいはタウエガジ科やゲンゲ科など、そんな種が多いように思う。この魚を送っていただいた坂口太一さんは、この個体をクロコオリカジカではないか、としていた。

しかし、前鰓蓋の棘の先端が分岐していないことや、下顎が少し長めであることからウケクチコオリカジカではないかと思われる。写真はこの個体の前鰓蓋骨棘最上骨棘。

検索図鑑で示されているもう一つの特徴「胸鰭後端よりも後方の体側に櫛鱗が散らばる」ということについては、画像から見る限り、さらに触った限りではそのような櫛鱗はなかったものの列状の櫛鱗はあるので、これもクロコオリカジカとは違った特徴である。また検索図鑑では後頭部に棘がある様子が書かれていたが、「日本の海水魚」の本の中で記されているウケクチコオリカジカの写真ではそのような突起はないように見えた。この形質と櫛鱗の分布には変異があるのか、あるいは雌雄の違いなのか、あるいは別のまだ日本から報告されていない種もしくは未記載種なのか。はっきりしない。もっとたくさんの個体を見てみたいところである。

ウケクチコオリカジカも、コオリカジカ属の魚である。代表的な種であるコオリカジカについては以前にもご紹介している。

コオリカジカ

コオリカジカの鱗列

コオリカジカとウケクチコオリカジカの区別は簡単である。コオリカジカは背側に単尖頭棘をもつ鱗列がある。これはかなり強い棘である。その一方ウケクチコオリカジカは強い棘になっていない。そのため、調理の時にわずらわしい、なんてことはない。

ウケクチコオリカジカの腹面

フサコオリカジカも似ているが、フサコオリカジカは腹部に櫛鱗が散らばっているということだが、この個体は散らばっていないように見える。また、フサコオリカジカは眼と鰓蓋骨の間に棘がないのが異なる。

調理はこのように塩焼き。写真の右がウケクチコオリカジカ。左はイヌゴチ。以前ご紹介したイヌゴチのほうが目立っているあ、希少性という意味ではこちらのウケクチコオリカジカのほうが上回る。

ウケクチコオリカジカは現在のところ、北海道のオホーツク海からのみ報告されている。魚類検索に掲載されている生息場所は「水深905m付近の大陸斜面」ということである。しかし、実際にはもっと浅い水深で漁獲されることもあるのではないかと思われる。クロコオリカジカはふつう250~900m、フサコオリカジカは175~900mだということで、これらの種類と混ざっていても気が付かないだけかもしれない。カジカ科はまだまだ研究途上。これから様々な種が発見されたり、属が移されたり、あるいは種としては消滅することもあるだろう。

坂口太一さん、ありがとうございました。

 

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ヨコスジカジカ

2016年12月15日 22時55分31秒 | 魚紹介

北海道シリーズ。

カジカの仲間は初見の種が多い。このヨコスジカジカも、私にとっては初めて見るカジカである。ヨコスジカジカは比較的おおきくなるカジカの仲間で北海道では食用になる種。検索図鑑によれば大きい個体では体長36cmにもなるということであったが、この個体はやや小さめで、しかし私にとってははじめてのこのカジカ。喜びは大きい。

今回の個体は雄の個体であった。ヨコスジカジカの雌雄は腹鰭に違いがある。雄は軟条が長くのびていて、黒色斑が多数ある。雌は普通の魚のような腹鰭の形をしている。写真の個体の腹鰭は大きな胸鰭にかくれてしまっている。

前鰓蓋に大きな棘がある。カジカの仲間は前鰓蓋に格好いい棘があるものが多い。

本種によく似たものにクジャクカジカがいる。クジャクカジカは体長30cmになり、ヨコスジカジカとよく似ているが背鰭の第2鰭膜が最もよく切れ込む。今回のヨコスジカジカも第2背鰭が若干切れ込んでいるように見えるが、クジャクカジカの鰭膜の切れ込み方はこれとは異なる。興味がある方はぜひ調べてみてほしい。学名Hemilepidotus papilioと打ち込んでぐぐる、あういはFishbaseに打ち込めばヒットするだろう。

もうひとつの見分け方は鱗である。この仲間は腹側と背中側に小さな鱗の列があるのだが、ヨコスジカジカではほぼ同じ大きさなのに対し、クジャクカジカの体側腹側の鱗の列は小さく細かいのが特徴である。またヨコスジカジカとナメヨコスジカジカでは鱗の様子も異なる。ナメヨコスジカジカは臀鰭基底付近に明瞭な鱗列がないのに対し、ヨコスジカジカでは明瞭な鱗列が臀鰭基底にあり、これは臀鰭基底後端にまで達する。

ヨコスジカジカ属は北太平洋から6種が知られており、日本には3種が知られる。東北地方太平洋岸に生息する種もいるが、北海道の沿岸に多い。クジャクカジカは北海道全沿岸~アラスカ湾まで、ナメヨコスジカジカは北海道太平洋岸~オホーツク海岸を経てアラスカ湾まで、そしてヨコスジカジカは茨城県以北太平洋岸、北海道全沿岸、ロシア沿海州、朝鮮半島、コマンドルスキー諸島にまで分布しており、この3種の中では最も東よりな分布の種だろう。

食べ方は色々ある。今回は鍋+うどんで食してみた。肝や生殖腺まで食べることができ、かなり美味しい。並ぶ鱗もあまり気にならない感じであった。カジカの仲間の大型種は鍋や汁物で美味しいものが多い。

今回の個体も坂口太一さんに送っていただいたもの。ありがとうございました。

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イヌゴチ

2016年12月13日 00時26分14秒 | 魚紹介

北海道の魚シリーズ。まだまだ続きます。スズキ目・カジカ亜目・トクビレ科・イヌゴチ属のイヌゴチ。以前ご紹介したカサゴ亜目のイネゴチとは一字違いの大違い。

イヌゴチはトクビレ科の中でも特に格好いいといえる。トクビレの雄の長い背鰭・臀鰭も格好いいし、ツノシャチウオ属もまた格好いい。サイトクビレなど鎧をまとった新型兵器のようにしか見えない。一方イヌゴチはどこか爬虫類のようにも見える。正面から見た様子は遠い昔に死に絶えた曲竜の仲間である、アンキロサウルスなどのようにも見えるのだ。

イヌゴチの横顔は曲竜類よりもトカゲとかカメレオンとか、そんな類のようにも見える。口は前方についていて、腹面にあるトクビレ属魚類や、テングトクビレなどと見分けるおとができる。また、下顎が上顎よりも前方に出ないことで、以前にこのぶろぐでもご紹介したシチロウウオやサブロウ属、オニシャチウオ属の魚と区別することができる。

イヌゴチ属は1属2種が知られ、いずれも日本に分布している。イヌゴチは北方に生息する種で、島根県・岩手県以北の日本、サハリン、カムチャッカを経てアラスカ湾までの北太平洋、朝鮮半島の日本海岸にまで分布。一方この属のもう1種トンボイヌゴチはやや南方系の種。南日本の太平洋岸に分布し、土佐湾でも漁獲されている。四国でも運が良ければトクビレの仲間に出会えるチャンスがあるのだ。

さて、このイヌゴチを料理してみた。イヌゴチが含まれるトクビレ科の代表種であるトクビレは軍艦焼きと呼ばれる料理法で知られる。腹の中には味噌や野菜を詰めて焼いて食べるのだという。我が家では味噌味の焼き物はあまり人気がないので塩焼きで。肝ももちろんのっけて。軍艦焼きについて知りたい人はクックパッドにも掲載されており、興味がある方は調べてみるとよいだろう。

完成~!小さいほうの身にのっている肝臓はイヌゴチのものではなくケムシカジカの肝臓。なお、このイヌゴチは雌で卵を持っていたが、卵は煮てたべた。塩焼きは温かいうちに食べないと硬くなってしまう。焼きたての身は美味であった。なおイヌゴチの塩焼きの右上方にも何やら魚の塩焼きがうつっているのだが、その魚の紹介はまた後日。

今回のイヌゴチも坂口太一さんからのいただきものでした。ありがとうございました。

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メガネカスベ

2016年12月12日 11時18分47秒 | 魚紹介

先月も「モヨウカスベ」を食したばかりの私。

しかしまた新たなガンギエイ科魚類と巡り合うことになった。それが今回のガンギエイ目・ガンギエイ科・Beringraja属のメガネカスベ。

メガネカスベはその種標準和名こそよく聞くエイであったが、意外なほどWEBの画像が少ない。以前私は別のガンギエイ科魚類をメガネカスベと思い込んできたが、ここでようやく本物のメガネカスベと出会うことができた。

今回は全長45cmほど。しかし交接器があり、雄と考えられる。大きいものは全長1mに達するともいわれ、ガンギエイの中でもゾウカスベやテングカスベに次ぐ大型種といえるようだ。以前愛媛県のスーパーで北海道産の巨大なエイ鰭を発見し、これが何の鰭かわからなあったが、メガネカスベが1mを超える巨大な種であると知り、納得。

 

腹面は以前紹介したモヨウカスベほどロレンチニ瓶があるように見えない。

しかし口や鰓の周辺にはびっしり。ちなみに口の上のほうにある1対の穴のようなものは鼻孔であり、眼ではない。ロレンチニ瓶もここに集中させて効率を高めようとしているのか。

雄のメガネカスベの尾。雄の尾背面には1列の棘がならんでいる。雌では複数列の棘があるようだが、いずれにせよコモンカスベのようなとげとげした感じもない。棘はアカエイやトビエイのような毒棘ではなく、触れてもそれほど痛みがあるようなものではないが、うっかり触れてしまうと手を傷つけるおそれがあり、注意が必要である。そしてその棘の後方には小さな背鰭が二つある。そして尾鰭もあるのだが、尾鰭は尾端背面にあり、腹面には尾鰭の隆起がない。

本種は長い間Raja属とされたが、Ishihara et al. (2012)は卵殻の形態や分布パターンの分析をもとにガンギエイ科魚類の整理を行い、本種はBeringraja属に移動された。この属に含まれるのはメガネカスベと、世界最大級のカスベであるBeringraja binoculata(日本には産しない)の2種のみとされる。属の学名の由来はベーリング海のRaja(ガンギエイ科の属)、ということであるが、見た感じでは属の標準和名はついていないようである。さらにソコガンギエイの仲間はガンギエイ科とは別の科に移されているが、こちらの科の学名はついていない。詳しくこれらの件にしりたい方は以下の文献も参照にしてほしい。

Ishihara, H., M. Treloar, P. H. F. Bor, H. Senou & C. H. Jeong, 2012.  The Comparative Morphology of Skate Egg Capsules. (Chondrichthyes: Elasmobranchii: Rajiformes). Bulltein of the Kanagawa Prefectual Museum (Naturea science) No.41: 9-25.

メガネカスベの日本における分布域は、北海道~千葉県銚子までの太平洋岸、日本海岸、東シナ海。北方に多いとされているが、沖縄舟状海盆にもいるようだ。ほかに朝鮮半島、中国、ロシアの日本海沿岸、ピーター大帝湾にもいるらしい。Beringraja binoculataの分布域はベーリング海から北米東岸。

食べ方は前回と同様に唐揚げ。サメやエイは臭いのでは、という人も多い。特にガンギエイ科のエイのいくつかは世界でも有数の臭さを有する「ホンオフェ」の原料になるのだが、ホンオフェは発酵させて腐らせたエイを使用した韓国料理であり、新鮮なガンギエイは臭みもないのである。今回も唐揚げは非常に美味であった、坂口太一さん、ありがとうございました。

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