![Simg_2020tx Simg_2020tx](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/05/0d840c6575668e4ff598b19fde66c234.jpg)
2月15日撮影の紅梅。もうかなり咲いているはずなので、早い内に行ってきたい。
仕事場の帰り、東京駅前のブックセンターに寄り道をした。
目当ての本を買い求め、二階にある珈琲ショップで一休み。休みというより、少しでも早く本を読みたい気分だったのだ。私にはそんな癖がある。とにかく早く読みたい。
本を眺めながら二十分ほど休憩し、気合いを入れ直して重い腰をあげた。
階段を降りきったところで、女性に声をかけられた。
「あらっ、お久しぶり!」
茶系のコートを身につけ、四十歳ちょっとくらいの男好きのする顔が、満面の笑み。
「………?」
とっさに私は身構えた。知らない女性だ。いかに美人相手でも、顔見知りでなければ、話の接ぎ穂も作れない。
「冷たいわァ、もうお忘れですか!」
ひどく馴れ馴れしいところ、一見して水商売。咎め立てをしている気配で私を見つめる。ぎくっ!
「………?」
人慣れしているはずの私でも、とっさには返す言葉が出ない。
「十一月、お店にお出で下さったではありませんか!」
「十一月ですって……?」
「沼川さんとお出で頂いたでしょ!」
怪訝そうな顔をしながら、女性は名刺を出した。
「荒木町の『かほり』ですよォ!」
たしかに名刺は、新宿・荒木町のスナック『かほり』のママとなっている。
「申し訳ありませんが、沼川さんって方、私は存じあげておりません。残念ながら人違いですよ!」
「▲□さんではないのですか?」
「いいえ、違います。私は▲□ではありません。人違いです!」
せっかくの美人だが、私としてはそのように言わざるをえない。▲□さんを演じ通すことはできない。
一瞬、女性の顔が朱に染まった。
「ご免なさい、ご免なさい。てっきり▲□さんと思い込んでしまい……」
女性はひとしきり詫びてから、逃げるように去って行った。
「惜しかったな」
女性を見送った私の胸中である。
あれほどドギマギしたのに、あとで残念がっているのだから、我ながら情けない男。
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