昨日、NHK文化センター梅田教室で開催された下記の講演会に参加してきました。
生命をとらえなおす-動的平衡とは何か-
講師: 生物学者・青山学院大学教授 福岡伸一
私たちの周りには、遺伝子組み換え、ES細胞、臓器移植など、
生命操作を巡る様々な議論があり、根底には「生命はミクロな部品が
集合したプラモデル」という見方があります。しかし生命は、ミクロな
レベルでは、常に入れ替わりながら新たに構成されている
「動的平衡」な状態にあります。
この「動的平衡」論をもとに、生命とは何かを考えます。
本を読んでいない方はピンとこないでしょうが、福岡さんの著書は高度な理系の内容を文系の人にも分かりやすいように、しかも叙情性豊かに書かれています。また、芸術などへの造詣も深く、それらが最大の魅力でしょうか。2007年に読んだ「生物と無生物のあいだ」、2009年に読んだ「世界は分けてもわからない」は、共にその年のMyベスト本リストでノンフィクションの1位と評価しました----2007年度、2009年度。
実は私、テレビ等でも福岡氏が話されているのを聞いたことがなく、その文体の感じから真面目だけれど軽妙洒脱な話し方をされる方かなと想像していました。しかし、実際には、話の内容には軽妙さもあるものの、学者らしくゆっくりと落ち着いて真摯に話される方でした。低くよく通る声も印象的。
講演は、冒頭に2枚の写真が映し出され、これはいったい何でしょう?というところから始まりました。私は「動的平衡」を読んでいたので分かりましたが、その写真をきっかけにレーウェンフックとフェルメールの話につながり、そこからは魅力いっぱいの福岡ワールドにひきこまれました。福岡さんの本は「世界は分けてもわからない」でもそうでしたが、科学ミステリー・科学サスペンス的な面も多少あり、レーウェンフックとフェルメールに関する福岡説・福岡論も実に興味深かったです。
講演の内容は基本的に著書に書かれたものがベースでしたが、やはり著者の口から語られるととても説得力があり、より印象に残ると思います。
動的平衡とは
・要素はたえまなく更新される
・平衡がたえまなく求められる
・柔軟、可変的
・回復、修復
生命、環境、自然 = 動的平衡
・全てのものは移ろう(うつろう)
・長い時間軸で考える
・部分的な思考におちいらない
・流れをとめない
・占有から共生
これらのまとめ、キーワードもとても分かりやすかったです(細かい転記ミスがあるかもしれませんが)。著書を読んだときもそうだったように、知的好奇心を大いに刺激された1時間半で、脳死問題と脳”始”問題についての指摘や最先端技術への危惧などにはうーんと唸り、しかし、精密にしてしなやかな生物・生命の不思議さに改めて驚き、至福のひとときを過ごすことができました。
会場は満員で、質疑応答の際に「難しい質問ですね」と言いながら、しかし、分かりやすく丁寧に回答される姿勢も素晴らしかったです。講演会後の著書販売&サイン会も大盛況でした。私は既に所有していた「動的平衡1」とエッセイ集「ルリボシカミキリの青」の2冊にサインして頂きました。あちこちのページに付箋(メモパッド)を貼っていたため、「おー、たくさん貼られていますね」的なことを仰られ、「大事と思うところに貼りだしたらキリがなくなってきまして・・・」と答えると、笑っておられました。これからも素晴らしい本をどんどん書き続けて、我々を深遠な生物学の世界にいざなって頂きたいものです。そして、個人的には2人の息子が文系のセンスも持った理系人間(?)になってくれないかなあ・・・なんて思っています(笑)。