電子楽譜

 もう一週間ほど前になるが電子楽譜システム(記事では電子「譜面」とあったが、これは「楽譜」だろう)が開発され演奏時の使い勝手などを検証中であるとの記事が新聞に載っていた。システムを開発した会社の事業所が川崎市にあり、協力したのが事業所同様川崎市のミューザ川崎に本拠地を置く東京交響楽団であった。もちろんその記事を掲載した新聞は神奈川新聞である。

 今回開発された電子楽譜システムはモニター型とタブレットパソコン型(電子ブック様のものか?)の二種類だそうで、それぞれ脚がついていて特にタブレットパソコン型は遠目には従来からの譜面台とそう変わりがないようにも見える。電子化された楽譜の情報をディスプレイに表示させる仕組みで、メクる時にはペダルを踏むらしい(本番用には自動スクロールも可か?)。考えてみれば、技術的にはまったく難しいことはなく、問題は果たして需要があるのか、どこまでコストダウンできるのかだろうな。

 記事の見出しは「音楽業界もエコ化」となっているが、郷秋<Gauche>はこの見出しに二つのいちゃもんをつけたい。まず一つ目は「音楽業界」ではなく「音楽界」だろう。経済的に成り立って初めて良い音楽を継続的に提供できることを考えれば一つの産業だから「業界」である。しかしだ、物を作るんじゃなくて文化を創り人びとに心の安らぎを与える仕事である。宗教界と言っても宗教業界とは言わないだろう(そういいたくなるお寺さんなんかもあるけれど)。音楽の世界も同じだ。業界ではなくここは界、「音楽界」として欲しいところである。

 いちゃもん其の二。本番では電子楽譜システムを使ってペーパーレスになっても、自宅での練習の時にはどうするんだ。結局はデータの入っているメモリカードをPCに差してプリントするのだろう。ワープロが導入され始めた25年前を思い出して欲しい。「これからはワープロの時代。ペーパーレスの時代!」が謳い文句であったではないか。にも関わらず、ペーパーレスの時代はいつになってもやってこない。届いたE-Mailを必ずプリントして読む人を、郷秋<Gauche>は少なくとも3人は知っている。紙はなくならない。

 もうしばらく前のことだが、80年程前に出版されその後絶版にとなったガスパール・カサドの楽譜がストックホルムの古書店で売りにでているのを見つけて購入したことがある。其の楽譜の前の持ち主はアマチュアであったのだろうか、所々にフィンガリングが鉛筆で記されていた。ピアノ伴奏とのでだしのタイミングを合わせるのに苦労した箇所なのであろう、タイミングを記したらしい丸印や音符が書き込まれた箇所もある。スウェーデンの長い冬、暖炉が赤々と燃える部屋でどんなセロ弾きとどんなピアニストがこの曲を奏でたのか。

 豊かな情感と文化を音符にあるいは文字に託して紙に刷られた楽譜や書籍は物であって物ではない。書いた人の心が宿る生き物である。郷秋<Gauche>には、そこには機械には置き換えることの出来ない何かがあるように思えてならない。

 今日の1枚は、馬酔木(あしび)。馬が食べると酒に酔ったようになることからつけられた名前。ただし原種の花色は白でピンクのこれは園芸種。
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