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漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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上橋菜穂子著「鹿の王」・人の体は命の森

2014-11-20 | 
国際アンデルセン賞受賞後の初作品。
実は1回読みでは消化不良だったので、じっくり二回読み。

なんたって、国や民族の間に持ち込まれた病気戦争(黒狼熱)が、民族ごとの食習慣の違いによって備わる免疫力が異なる(黒狼に噛まれて死に至る民族とそうでない民族がいる)ということに基づいているから、それを物語の中で説明というか解明していくのだけれど、生活の場が変わるってことは食べ物の質やら生活習慣やら育つ動物までいろんな事柄が変化するし、黒狼熱はどうやらウイルス性の病気らしいけど、そっちも変異して罹患可能性が変わっていくということも理解せねばならず、医学書みたいな様相を呈しているところもある。

さらに病気の対処法には、西洋医学的だったり漢方的だったりさらには宗教的なものまで登場する。

そんな状況の中、登場人物は多いし、国や民族の思惑も複雑に絡み合って、頭の回転をキープしないとぼーっと読んでると意味が解らなくなる。
上橋さん相当気合入れたってとこでしょうか。


だけど二度読みしたら、そんなこんながある程度理解できて、
とてもスケールの大きな、命の渦というか意志というかそんなものが見えてくる。

人の体内を見てみれば、ウイルスやら細菌やら免疫細胞やらとさまざまな命が支えあって森の様相を呈しながら人というある個性を作りあげている。その中には淘汰される命もある。それは自然の意志だろう。

そして人は国や民族を超えて自分にあった暮らし方を選んでいく。もちろん動物たちも。きっとそこにも自然の大きな意志がある。
小さな命が集まって集まって出来上がる大きな意志。
圧巻です。

上橋菜穂子:1962年7月15日東京都生まれの児童文学作家、ファンタジー作家、SF作家、文化人類学者。
獣の奏者 守り人シリーズ 狐笛のかなた など



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小野不由美著:十二国記シリーズいまのところ11冊

2014-09-13 | 
たまたま「丕緒(ひしょ)の鳥」という本を買ってみたら、そのまんま十二国記シリーズにはまり続けてました。文庫本全11冊(いまのところ)。長々と読みふけっていましたので久々の感想文です。

まるで漢文のような漢字使いで、あちこちでふりがな頼り。ふりがなは時々しか出てこないので読みを忘れないうちに読み進まなければならず、しかも物語は壮大で登場人物も多く必死に読みます。


で、出会いの「丕緒(ひしょ)の鳥」は、シリーズの番外編みたいな作品。
3つの短編ですが、簡単に答えの出ない事柄に延々と悩む人(ここに登場するのは十二国というフィクション世界の人だけど)を描いています。
なんだこりゃと思ったけど、深く深く思い悩む過程をここまで事細かくしかも物語にするのはすごい。
ちなみのこの「鳥」はカササギ。

「魔性の子」
「月の影 影の海」
「風の海 迷宮の岸」
「東の海神(わだつみ) 西の滄海」
「風の万里 黎明の空」
「丕緒(ひしょ)の鳥」
「図南(となん)の翼」
「華胥(かしょ)の幽夢(ゆめ)」
「黄昏(たそがれ)の岸 暁の天(そら)」

十二国という異次元世界では、天啓(たぶん神の啓示みたいな)によって麒麟が人々の中から見つけ出した国王がいるのだけれど、必ずしもその王に優れた政治力があるとは限らず、官僚たちはずるがしこく、絶えずどこかで争いや災害が起こり民は傷つけられ、いつまでたっても国はちっとも平和で豊かにはならない。問題はどんどん山積する。

読みながら人間ってそうだよなあと大きな矛盾に同感する。
だけど、天に祈ってもどうにかなるわけでもなく、だからどうしたらいいか考えに考える、そんな中から僅かでも希望が生まれる。だから必死に考えて努力する。それが人間の定めなのだなあ。

十二国記の世界

「魔性の子」「月の影 影の海」あたりはライトノベルっぽいが、どんどん深まっていく。
たとえば「月の影 影の海」の陽子はちゃらい高校生だったが「黄昏(たそがれ)の岸 暁の天(そら)」の彼女は惚れ惚れするほどの成長ぶり。
やや描き込みすぎかと思われる部分もあるがそれは小野さんの女性らしさかもしれない。
まだ、シリーズは終わっておらずまだまだ続編があるらしい。
登場人物を忘れないうちに次を発売してほしいなあ。

小野 不由美:1960年 大分県中津市生まれ

梨木香歩著「海うそ」色即是空、空即是色

2014-06-19 | 
久しぶりに梨木さんの文章。
子供のころから本の虫だった梨木さんの日本語は鍛え方が違う。
繊細で情景がありありとしてかつ清流のように流れて無駄がない。
時々読めない漢字もある~~;)
こんな日本語の使い手になりたいと思う。
だけど日常の安易な言葉にうずもれて、すぐに素敵な単語や言い回しを忘れてしまう愚かしさに落ち込む日々だ。

題名の「海うそ」は海の嘘、幻つまり蜃気楼をあらわす言葉。

南九州の離島「遅島」を調査のために歩いた若いころ。
それは明治政府の「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」神仏分離令によって破壊された地元の仏教などの宗教施設跡を訪ねる旅だった。当時の悲劇を取り込んで埋め尽くすかのように生い茂る植物やそこに穏やかに暮らすいろいろな生い立ちを持つ人々。
が、それから戦争を挟んで50年後。観光地へと開発が進む遅島を見て愕然とする。
「自分はいったい何をしていたのか」と我に問いかけるが・・・

形あるものを求めてもすべては消えゆく。しかし、空(くう)はまた新たな何かを生み出す。

自然界の時の流れの中におそらく、確かな形を持ち続けるものはないのかもしれない。
だけど、人間はいろんな「経験」を「記憶」として留めることができるなあ。
そのリアルな記憶は人の寿命ととともに消えるとしても、
その思いは言葉によって次世代に語り継ぎ、共有できるものもあるようです。

登場する植物や動物の名前の多さは相変わらず圧巻。これをひとつひとつ調べるだけでもかなり物知りになれる。

梨木香歩 1959年 鹿児島生まれ

沼田まほかる著「アミダサマ」・レビー小体型認知症

2014-06-06 | 

あの世とこの世の境が真っ黒な波にのまれてなくなるような、
この世の出来事こそが確かなものであると思うのは、単なる驕りに過ぎないのかもしれないと、自分の輪郭さえも不確かになるような、そんな世界。

人の深層にある悪が噴出したような、どうにも切ない事件があって、
生死をさまよった幼子「ミハル」は、生きているがおそらくその魂はどちらの世にあるというものでもないようで、周りの人の魂をも激しく揺るがす。そんな不思議な空間をすごくリアルに映画でもみているかのように沼田さんは描ききっています。

読み手の経験によって共鳴する登場人物は異なると思う。
私としては、「カアサン」の異常。
「カアサン」の異常は、物語の流れから想像すると死んだ猫の「クマ」が乗り移ったように思うけど、医師は「レビー小体型認知症」かもしれないと判断する。
確かに、認知症症状に似ていると思いながら読んでいた。
だから考えてみれば、
「認知症」の人の魂はもしかしたら、
この世にしがみついている人間には届くことのない境を超越したところに到達しているのかもしれないなあ。


レビー小体型認知症:レビーさんが発見した中枢および末梢の神経細胞に出現する円形・好酸性の細胞質封入体。これが神経を傷つけることによっておこる認知症。
特徴:
しっかりしているときとぼーっとしているときがある
リアルな幻視、人や動物や虫が見える 幻聴、妄想
手足の安静時の震え、歩行障害、筋固縮、失神やめまい
初期は物忘れが少ない

沼田まほかる著「九月が永遠に続けば」

2014-05-14 | 
この作品は沼田まほかるさんの衝撃デビュー作です。

まずありえないと思われる複雑でドロドロの男女関係。恋愛サスペンスと書いてあったっけ。
ところが読み始めたら止まりません。

次々と暴かれるいくつかの男女関係は、
日々目にする三面記事的なさまざまな事件が思い出されるのですが、
そんな出来事に巻き込まれるときの、人のちょっとした心の揺れとか、エゴとか、
その人が持つ危なっかしい無防備さとか、頑なに閉じてしまった心とか、
巻き込まれても抜け出られないとらわれ感とか
沼田さんは、まさかこれを全部経験したんじゃあるまいな?と
疑ってしまうほどの洞察力で、すごく臨場感があります。

だけど登場人物のほとんどは悪気はなく愛にあふれているとってもいいくらいなのです。

最後は、思わず沼田さんの激情があわらになったのでしょうか。
ひがみやっかみで人を殺すなんて許せないという強い感情がやや唐突に書かれています。
ですがデビュー作でこの内容、しかも50代女性というのは驚きであるには違いありません。

沼田まほかる著「彼女がその名を知らない鳥たち」

2014-05-12 | 
沼田さんの作品、次はどれにするか?題名から選ぶとしたら私的にはやっぱり「鳥」

どんな鳥が登場するんだろう?と期待したら、
水島という優男との待ち合わせ場所、暗いさびしい小さな公園、
なぜかそこにはカラスしかいない・・・

思うにそのカラスは十和子にとって、ひどい目に合わされ捨てられた、
そして多分もう殺されている男「黒崎」の亡霊みたいなもんじゃないかしら。
十和子には亡霊のカラスしか目に入らない・・・
捨てられて7年もたっているのに「黒崎」に恋焦がれている十和子。

ぞくぞくというかぞわぞわというか、すごい心持です。
物語は、十和子の視点で展開するので、同居しているどんくさい男「陣治」や
口うるさい印象の姉の言葉は、どれも信用できなくなってしまうのです。

だけど物語が進むにつれて、十和子の黒崎へのとらわれ方の異常さに疑念が湧きます。
いつまでたっても黒崎の幻影に縛られている十和子。

そして最後の十数ページ。
「あかん!十和子」と走ってきた陣治。その瞬間からもう涙が出てきました。

こんな恋愛、あるんだろうか。一種、感動的です。

それにしても沼田さんの圧倒的な文章力。
人のいやらしさをべっとり書いているのに、引き込まれて止まらない。

一息入れたい気分になるけど、やめられなくてさらに沼田作品はつづく。


沼田まほかる著「猫鳴り」生きること死ぬことを猫に学ぶ

2014-04-24 | 
「ユリゴコロ」で衝撃パンチを食らった沼田まほかる。
続いて選んだ「猫鳴り」は表紙のネコが微妙に変だったから。


20年を生き抜いた猫の「モン」の生きざまと死にざまは圧巻です。

この世に来たからにはと、捨て子猫の「モン」は何があっても生きることをあきらめない。
一方、生来弱かった子猫の「ペンギン」はあっさりあの世に戻ってしまうが、
それでも懸命に生きて、世話をした父子親子になんらかの温かい感情を確かに残していったと思う。
そして老猫になった「モン」は、迫りくる死にあたふたする老人に、こうやって命を全うするのさと悟らせてくれる。

与えられた命を精いっぱい生きることはなんと素晴らしいのだろう。
そりゃあ動物に比べて人間は、悩みや乗り越えなければならないことが
たくさんあってネコより大変かもしれないけど。

たぶん、あの世からみたこの世はよほど恐ろしいところかもしれない。
あの世を死んでこの世に生まれることはどれほど恐ろしい事だろう。
それでも生まれてきたネコや人間たち。

ひとつひとつのエピソードをこぼさず語りたくなる、沼田さんの表現力に恐れ入った。

     
3つの部からなるがすべての部が存在感があり一つでも充分素晴らしく、だけど前の2つがあってこその第3部でもある。

第1部
捨てても捨てても、雨にぬれても泥まみれになっても傷を負っても
戻ってくる「生存本能」が強い子猫「モン」に、
40歳にして初妊娠初流産し喪失感に覆われている信枝の心が揺れる。

第2部
母親の絶対的愛を当たり前のように受ける乳幼児に殺意を抱く父子家庭の中学生行雄は、
「ブラックホール」という「絶望」から抜け出ようとあがく。
あっさりあの世へ旅立ってしまったが、か弱い子猫「ペンギン」の存在が印象的。

第3部
信枝はすでにこの世を去り、夫の藤治は仕事を引退して老猫「モン」と二人暮らし。
「モン」はしばしば体調を崩すようになり、動物病院に駆け込む藤治の不安は膨らむ。

沼田まほかる著「ユリゴコロ」潜む残酷な感情を曝け出す

2014-04-19 | 
またしてもすごい作家に巡り合った。

亮介、洋平、父、母、母X(エックス)、千絵ちゃん、細谷さん、美紗子、エミコ、私のアナタ、ヌスビトハギ・・・・

亮介は父の書斎の押入れの段ボール箱の中から殺人記ノート4冊を発見する。
これを読む、いったい誰が書いたのか想像する、父の不在を見計らってまた続きを読む、また推理する・・・
繰り返していくうちに、しだいに事実が明らかになっていくのだけれど、

ユリゴコロ、それは殺人記を書いた本人が幼児のころ、診察室で医師の語った
ヨリドコロという言葉を聞き間違えて心に刻んだものだけど、
そのユリゴコロを求めて殺人に喜びと興奮を感じるようになったのか、
ノートを読んでいると、淡々と描かれているのに、なんともねっとりとまとわりつくようで怖い。
その怖さは、思いもしないけどまたは思わないようにしているのかもしれないけど
きっと自分の中にもある感情で、これを事細かに露わにされるがゆえの怖さだと思う。

後半の予想を覆す展開には目を見張るものがあり、
それでいいのかと戸惑いながらも単に殺人イコール罪というくくりを超えた何かに到達するように思われた。

沼田さんという人はすごいと思う。

沼田さんの「猫鳴り」も素晴らしかった。近いうちにアップします。

沼田まほかる 1948年生まれ 女性

上橋菜穂子さん国際アンデルセン賞受賞!

2014-03-26 | 
守り人シリーズ獣の奏者シリーズで心から感動した作家「上橋菜穂子」さんが国際アンデルセン賞を受賞された。


あれだけの物語ですからねー。
子供が読んでも人格形成に大いに役立つと思うし、大人が読んでもたまらない魅力があり
私もどっぷりのめり込みましたから・・・。

今後はどんな物語を綴ってくれるのか楽しみにしています。
いつもあとがきには「我孫子にて」と書いてある。
なので私にとっては千葉県我孫子市が心の中で特別な場所になっている。
(余談ですが、今年も11月に我孫子でジャパンバードフェスティバルが開催されます^^)Y)

日本人は20年ぶりだそう。
おめでとうございます。



窪美澄著「よるのふくらみ」人の性(せい、さが)

2014-03-11 | 
窪美澄さんの作品は、性の話題がストレートに登場する。
この作品もいきなり冒頭、
生理が来てても毎周期きちんと排卵してるとは限らないんだから基礎体温を付けたほうがいいわよ、
みたいな会話から始まる。
まるでわが薬局の日常会話みたいなので、するっと入り込んでしまった。



性欲とか子供をもうけたいという衝動は、動物としての性(さが)だろうけど
その程度は人それぞれなんだなあ。
おまけに理性的な日常もあり(この物語ではうわさ好きな商店会が舞台となっている)
そんな狭間で若者たちが揺れ動く。

性欲、子づくり欲の程度や方向がバッチリ同じ相手に出会うのは難しい。
だけど結局、周りに何と言われようと
そんな相手を探してさまよい続けるのが動物の性(さが)なんだろうと思った。

相変わらず、こんな話題になるとうまい。

窪美澄 1965年東京都稲城市生まれ

ふがいない僕は空を見た   晴天の迷いクジラ


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いとうせいこう著「想像ラジオ」死者の思い

2014-03-10 | 
杉の木の上にひっかかってる、赤いヤッケを着て仰向けになったまま、
それでラジオDJやってるってどういうこと?
しかもこの「想像ラジオ」は、
聞き取れる人と聞こえない人がいる。聞こえ方も様々みたい。

混乱しながら読み始めたけど、あれ?もしかして・・・

第一章の終わりで気づかされます。
この人はあの津波で、すでに・・・
なんの予備知識もなく購入してしまったので、まさかあの大震災の話とは思いもよらず・・・

余りに急な出来事に「死者」は戸惑い、家族や同僚の心配なんてしながらさまよっているのでしょうか。
あの天災は神様の仕業だとしても呪い返したいと言う言葉にドキッとしました。

死者の思いがこうやってあの世とこの世の間くらいに渦巻いているのか、
それともこれは生き残った人々のやるせない思いの塊なのか。

いずれにしても、そんな記憶を忘れずに胸に抱いて生きてゆかなければならないのかもしれませんね。

池井戸潤著「下町ロケット」男の夢

2014-01-09 | 
あれだけ話題の池井戸潤さんなのに読んだことがなかった。
まずもって銀行とかバブルとか「倍返し」でやっつけちゃうとか、
そんな経済のいろいろが苦手だもん。
それに、この作品が直木賞を受賞した当時、候補作品だった高野和明著「ジェノサイド」
すごく感動してちょっと対抗意識燃やしちゃったし。


で、今回文庫本が発売になったので、読んでみた。
それなりに読みやすくて面白くて、あっという間に読んでしまった。
夢をかなえるって、紙一重のところがあるけど、強い強い気持ちで立ち向かうことが必要だね。
一方で、もしもこの社長の奥さんだったとしたらと思うと
かなり心労が絶えないだろうなあなんて現実的なことを考えてしまった。

池井戸潤 1963年 岐阜県生まれ

梨木香歩著「冬虫夏草」・形を変えて生きていける

2013-12-12 | 
待ちに待った「家守綺譚」の続編です。

友人「高堂」の家の家守として住み込んだ作家「綿貫」が
その庭でフリー状態で飼っていた犬のゴロー。
ゴローは、グッドタイミングでひょっこり現れ、すべてお見通しという具合に
助け舟を出してくれる本当に頼りがいのあるいいやつだった。
そしてこの「冬虫夏草」では、ゴローが数か月帰ってこないという。
なんと。
綿貫は、ゴローを見かけたという情報をもとに鈴鹿の山々に出かけていく。

綿貫のゴローに対する思い入れはすごい。
ゴローの素晴らしさを語るくだりは、自らをしっかり下座においている。
それほどゴローはすごいのだ。

ところで、冬虫夏草(とうちゅうかそう)とはサナギダケつまり虫の幼虫にキノコが寄生したもの。
漢方ではコウモリガの幼虫の寄生されたものを用います。

寄生されたと思うと、命を乗っ取られたようだけど、
この本では「冬は虫として夏は草として生きる」との理解でこの物語の象徴となっています。

やがて襲いくるらしい大きな天変地異。防ごうと思ってもどうにもならない。
そこに暮らす生き物はひとたまりもないだろう。
いや、
生き物は、きっとそこで、生きられる形に変化して生きていく。

最後の「茅」の章は、泣いた。
二度目を読んで、登場するさまざまな人たち、河童、イワナ、竜、
季節を彩るたくさんの植物たち、うつくしい日本語たちによって、
情景が一層鮮やかとなり、
そして最後の「茅」の章ではやっぱり、泣いた・・・



過去の家守綺譚のレビューではやはりゴローのエピソードを書き出してました。
村田エフェンディ滞土録   梨木香歩関連記事

上橋菜穂子著「物語ること、生きること」「外伝刹那」「流れ行く者」

2013-11-13 | 
上橋菜穂子さんは守り人シリーズ獣の奏者シリーズで大ファン。
そのスピンオフの短編を見つけた。そしてまたあの世界に浸ってしまった。

流れ行く者: 守り人短編集
「流れ行く者」では、あの長い旅に出る前のジグロとバルサのエピソード。
相変わらず上橋さんの語りのうまさに情景がありあり浮かぶ。
この後に展開した長い長い道のりと大きな世界を思い出した。

獣の奏者 外伝 刹那
「獣の奏者 外伝刹那」は、とても女性的な内容。その細やかさに心が震えた。
自分の感情にまっすぐに突き進んだエリン。
理性と体の感情の狭間で究極の折り合いをつけ力強くわが道を選択したエリンの師
エサルの生きざまに泣きそうになった。
まぐわうこともなく自由に飛ぶこともなく感情をいっさいあらわさない静かな
王獣の大きな存在がいっそう彼女らの強い生き方を引き立たせる。

物語ること、生きること
「物語ること、生きること」では
上橋さん、どうしてあんなに面白い物語がかけるの?
という疑問に答えるべく、彼女が自身の生い立ちなどを楽しく語ってくれています。
なんだか、お茶しながら上橋さんとおしゃべりしてるみたいな気分になります。

ところで上橋さんは、どの本にも「あとがき」に必ず「我孫子にて」と書いてある。
先日ジャパンバードフェスティバルに勇んで出かけたのも、
「我孫子」ってどんなにいいところなんだろうと思っていたから。
この辺に住んでるのかなあなんて勝手に思いながら手賀沼湖畔を歩いてました。

森見登美彦著「ペンギン・ハイウェイ」小学生のころ

2013-11-09 | 


新興住宅地に突如現れた愛らしいペンギン。
森見さんの作品なのに、タヌキやキツネではなく、
ペンギンにシロナガスクジラにジャバウォック。そしてここは京都じゃない(たぶん)
これまでの作品と雰囲気ががらっと違う。
だけど軽快に理屈をこねまわす感じはやっぱり森見さんかな。

この町で3人の小学4年生が「研究」のために川に沿って探検する。
その風景を想像するのがまた楽しい。
たぶん想像するその地形や景色は読む人皆違うだろうと思う。
できれば映像化しないでほしいなあ。

「一生、ゆるさないから」とスズキ君をひっぱたいたハマモトさんに心が熱くなり、
「死」について考察したウチダ君の解釈に、頭がつーんとし、
とうとう「研究」を解明したがゆえに「お姉さん」への初恋を失い、新たに抜けた乳歯で血の味が口の中に広がるヤマモト君に胸がキュンとした。

夏休み、朝は早くから起き、空は青く白い雲が湧きあがり、
そして赤い夕焼けに染まるまで、途方もなく一日が長く
知らない小路一本発見しただけでも、いろんなことに驚き想像した小学生のころ。
一日一日が盛りだくさんだったなあと、思い出して幸せな気持ちになった。

森見登美彦 1979年奈良県生まれ