漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
http://kampo.no.coocan.jp/

招かれた天敵・生物多様性が生んだ夢と罠:千葉聡著

2024-06-03 | 
ふと生物多様性ってなんだろう、新聞記事などを読むものの書く人の立場によって意味が異なるような気がする、と思って読んでみたこれ。

もう人知を超えた自然の複雑さ、とても人間の思い通りにはいかないと実感しました。

じゃんじゃん世界をプラントハンティングした時代の話題から、「沈黙の春」の反響により農薬使用が敵対視されて「自然にやさしい」伝統的生物的防除に向かい害虫への天敵昆虫の導入を迫られた昆虫学者たち。
しかしそれは害虫を駆除できないばかりか、在来種の絶滅を招き、破滅的失敗の連続だったのです。

農作物とその天敵、動物、昆虫、鳥、細菌、気候、そして化学農薬。そこには「自然のバランス」などという規則性は全くないと言っていいほど一筋縄ではいかない。

化学的防除と生物的防除のどちらが優れているか、という問いは無意味であるという著者。
日本を含む東アジアは温暖湿潤で害虫が発生しやすく、単純に農薬使用率を欧米と比較できない。病害虫に侵された農産物のほうが人体に有害な場合もあるという。

外来種導入、フェロモン、不妊化、密度依存など様々な検討がなされる一方、同時に予算、期限、政治、農民、民間会社の経済的意向などの圧力もある。

今後、増え続ける地球の人口を賄う農場は広大化し、一つ間違えば大きな不作を招きいっぺんに世界が飢饉に陥る恐れを含んでいる現在。問題は山積したままだった。

最後は、著者らが父島で奮闘したカタマイマイ類など固有種を外来種ヤリガタリウウズムシから守る死闘は手に汗握るものだった。その結果は失敗。父島のカタツムリ類はほぼ絶滅したらしい。


昨日の散歩道でゴイサギ
チュウサギ 抱卵を終えたのか数羽戻ってきた
モズの子たち
いつもの初夏の風景に、感謝するばかりです。

#招かれた天敵 #生物多様性が生んだ夢と罠 2023年3月第1刷 5月第2刷
#千葉聡 著 1960年生まれ東北大学東北アジア研究センター教授 東北大学院生命科学研究科教授兼任

本「動物たちは何をしゃべっているのか?」ふれあいの大切さ

2024-04-03 | 
対談形式で、動物のコミュニケーションを語り人間の本質をさぐる本。

グルーミングするときのグルグルというような「ささやき」が、言葉として発達したのではないかという山極さん。
しかし人間の群れは巨大になり、グルーミングなしで言葉を伝達する必要が生まれて文章ができたが、いまや単発的な文がSNSで発信される。
ふれあいという「身体性」なしに発信される言葉は、十分に文脈が読み取れず、取り違え、無意味な炎上を引き起こし、不安を掻き立てている。
コロナによる隔絶の影響も大きい。

触れ合うことをしないまま言葉だけを頼りに、人との結び付きを築き上げなけばならない現代に、人間はいまだ慣れていない。

動物は、吠え声、呼び声、叫び声、ささやきなどを持ち、その声は自然の中をよく通り、ちょうどよい群れの大きさとふれあいと身体能力とを備えて、自然の中で群れとして自立している。
人間の半数以上は都会に暮らし自力で生きていけない状態。

会って話をする、表情を読む、ふれあう、踊る、一緒にリズムをとる、そんな行為がやはり大切なのだと実感した。
先の日曜日、裏高尾あたりを歩いて1号路を下山すると桜が咲き進んんでいた。

動物たちは何をしゃべっているのか?2023年8月発行
山極寿一(やまぎわじゅいち)ゴリラと一緒に2年間暮らした人物
鈴木敏孝 シジュウカラの言葉を研究

僕たちはどう生きるか:言葉と思考のエコロジカルな転回:森田真生著

2024-02-21 | 
新型コロナが脅威なのはほぼ人間だけで、その人間が行動自粛したお陰で地球環境は改善し、鳥や魚は大いに喜んでいた、という作者。 
これまで忙しく全国各地を飛び回り数学を語る生活が一変した2020年春以降、約一年間の日記。 
その日々の素直な言葉に共感した。私が好む漢方の中医学と同じ世界観だった。  


おびただしく多様な時間と空間の「尺度」があり、人間の尺度がいちばん偉いわけではないことに気づいていること(「エコロジカルな自覚」ティモシー・モートン)  

「何をしても間違っている可能性があるくらい、この世は生態学的に豊かなのである」

  「人間の知恵で思いつくことなど所詮、風に揺れる木の葉にも及ばない。まずは自分でないものに耳を傾け、謙虚に、観察してみること。」

  「いまほど世界中で子どもたちが、人間ばかりと接触している時代はない。」  

「自分が何に依存して生きているかを把握すれば、自分の存在が、まるで毛細血管のように地球生命圏全体にしみわたっていることを発見する」  

「食べることは、食べられたものに置き換わる過程である。えんどう豆を食べリンゴを食べ魚を食べるときには、えんどう豆やリンゴや魚を構成していた分子が、それまで自分を構成していた分子と置き換わる。さっきまでえんどう豆だったものが僕になる」

  「僕たちは弱く、悲しく、しかしだからこそ他者と呼応し、響き合うことができる存在として、」

  「未来についてたしかなことは、今の自分が、自分ではなくなること、滅びてなくなるのではなく、果てしなく翻訳(translation)をかさねながら、いつしか自分の知らない何者かに生まれ変わっていく」 

 いまや農業排水(化学肥料や農薬)が海を汚染している。単一農業の危険性。
  
僕たちはどう生きるか 2021年9月発行 
言葉と思考のエコロジカルな転回 
森田真生(もりたまさお) 著 1985年東京都生まれ
 京都府在住 独立研究家 鹿谷庵 

ロブ・ダン著「家は生態系」あなたは20万種の生き物と暮らしている

2022-04-30 | 

原題は「NEVER HOME ALONE」あなたは一人で暮らしてはいない

生物多様性が、健康に生きるために大切だということを膨大な検証から実証した物語です。

これでも実証実験は始まったばかりだとか。

2021年2月発行

生物多様性が低下すると、アレルギー、喘息、炎症性慢性疾患は増える

慢性的な自己免疫疾患は過度に清潔で衛生的な生活と関連がある

人は生まれつき生物多様性を好み、それが不足すると情緒的健康が損なわれる

多種多様な生物にさらされることで集中力の維持時間が長くなる

殺虫剤をまくと「天敵不在空間」が生み出され、例えばチャバネゴキブリは家の中のほうが生きやすくなっている

害虫の天敵がわんさかいる家をつくること

干渉型競争:住み着いている菌が多いほど外部からの菌が侵入しづらい

デコロナイゼーション(抗生物質で猛攻すること):もっとも質の悪い薬剤耐性菌がもっぱら病院に住み着くのは、他の菌との競争がないから。薬剤耐性菌は外では弱者である。

中庸こそが万能薬:排除するのではなく生物多様性の恩恵を受けながら病原菌を寄せ付けない生活

手味、テロワール:キムチやパンを作る人の手や家に定着している菌たちが、旨味を作り出し、外部の不用な菌を排除している

以上のような事柄を証明した生物学者たちの気の遠くなる単純で膨大なコツコツ積み重ねる検証実験の努力に心から敬意を表したい。

私たちは「気持ち悪い、薬剤を使って殺したい」という考え方を改めなければならないでしょう。

たくさんの生き物たちの群れをいつも纏うことで守られているのだから。

 


ポール・ナース著「生命とは何か」すべての命はつながりあっている

2021-12-06 | 

著者ポール・ナースは2001年ノーベル生理学・医学賞受賞を受賞しています。

翻訳(竹内薫)がうまくてフレンドリーな文章で、話しかけられているような気分になります。2021年3月発行 

生命体ってどうやって生きてるんだろう。それを知るときっと、頭でっかちな妄想で自分を孤立させることがなくなるでしょう。

私たちの体は強固な構造の遺伝システムによる情報によって、驚きべき機能を化学的物理的にこなす精密機械である。

そして「生命体は依存しあっている。ヒトもヒトとヒト以外の多くの細胞が混ざりあってできたひとつの生態系だ。われわれの30兆個の細胞など、この生態系からすれば微々たるものだ。われわれに依存したり、われわれの内側で生きている多様な細菌、古細菌、真菌、単細胞真核生物などの共同構成員の数は天井知らずなのだから。さらにわれわれが食べる一口ごとの食べ物は、他の生き物によって作り出されている。」 

われわれは、他のすべての生命と深い絆で結ばれている」 

「自然淘汰が効果的に機能するには、生物は死ななければならない。競争上強みのある遺伝的変異を持っている可能性がある次の世代が、古い世代にとってかわることができるからだ。」

生命はすべて、こんなに素晴らしいのだけれど、そのことを知っているのはおそらく人間だけだ。

だから人間は地球のすべての生き物を守らなければならないと結んでいます。


ディーリア・オーエンス著「ザリガニの鳴くところ」

2021-11-25 | 

女性動物学者が書いた殺人ミステリーです。

おおよそ人間は、神に近い特別な存在だと考えがちですが、著者は人間のあらゆる行動を、野に住む動物と同じ目線でとらえ描いています。

たとえば、差別や集団いじめは七面鳥の群れの行動で例えたり、着飾ったり、派手な車やボートに乗る男たちは繁殖期の雄に過ぎないようです。

主人公の少女カイアは、幼いころから湿地に一人取り残され暮らし、その豊かな自然は、彼女を湿地の生物学者に育てあげ、感情豊かな詩人にもしたのでが、しかし同時にその思考は動物的で、雄の求愛行動、雌の雄を利用する様々な形は、一見残酷なようでも自然の法則の中ではごく当たり前のことだったのでしょう。

派手なオスの典型であるチェイスは、カイアから贈られた貝のペンダントをいつもしていたなんて、実はカイアを愛していたのかもしれなあ。

結末は驚く展開でしたが、法律など人間の物差しに収まらない、カイアの本能に偽らない行動を見たような気がしました。

ホタルのメスは、仲間のオスを呼ぶ光り方と変えて別種のオスを呼ぶ光り方をしてそのオスを食らい、カマキリのメスは、交尾しながらそのオスを食らう。自然界のメスは強いのです。

物語に登場した鳥たち

オオアオサギ、七面鳥、シラサギ、セグロカモメ、カラス、ハチドリ、ガチョウ、ネッタイチョウ、ハクトウワシ、ハクチョウ、ムクドリモドキ、アメリカワシミミズク、アオカケス、クーパーハイタカ、カッショクペリカン、アカオノスリ、コウノトリ、マガモ、ハクガン

2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位


自然の素晴らしさに驚く心・レイチェルカーソン著「センス・オブ・ワンダー」

2021-10-25 | 

感動する本に出合いました。

レイチェル・カーソンは、人間の環境破壊(農薬など化学物質による)に警告を発して世界的ロングセラーとなった「沈黙の春」の女性作家であり生物学者です。
農薬を使いすぎて、春になっても鳥の声もしない沈黙の春・・・

相変わらず環境破壊は進んで、すでに野鳥の数は激減しています。おそらく数年後には地球のデリケートな均衡は保てなくなり、地球環境がどっと崩れるのではないかさえと言われています。

「センス・オブ・ワンダー」は「沈黙の春」を書き終えた(1962年)後に書かれた作品で、その時彼女はすでにガンに侵されていて2年後に亡くなられ、彼女の最後の作品です。

写真の文庫本は、今年(2021年9月)に発刊されました。この中の彼女の文章は、大きめの字の文庫本サイズで70数ページにしかすぎません。しかしその中に、あふれるほどたくさんの「センス・オブ・ワンダー」が素直で美しく優しい言葉で表されているのです。

「センス・オブ・ワンダー」とは「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳されています。この感性は子供にはあるが年齢とともに失われる。だがセンスオブワンダーの記憶は、消えることがなく、

「やがて大人になるとやってくる倦怠感と幻滅、私たちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」

だから子供たちに、自然に接する機会をたくさん与えてほしいと訴えています。

作品の中のあるセンスオブワンダーを抜粋します

「風のないおだやかな十月の夜、車の音が届かない静かな場所に子供たちをつれていき、じっとして頭上にひろがっている暗い空の高みに意識を集中させて、耳を澄ましてみましょう。やがて、あなたの耳はかすかな音をとらえます。鋭いチッチッという音や、シュッシュッというすれ合うような音、鳥の低い鳴き声です。

それは広い空に散って飛びながら、なかま同士がはぐれてしまわないようによびかわす渡り鳥の声なのです。

わたしは、その声をきくたびに、さまざまな気持ちのいりまじった感動の波におそわれずにはいられません。わたしは、彼らの長い旅路の孤独を思い、自分の意思ではどうにもならない大きな力に支配され導かれている鳥たちに、たまらないいとおしさを感じます。また、人間の知識ではいまだに説明できない方角や道すじを知る本能に対して、湧きあがる驚異の気持ちを押さえることができません。」

 

 


東山彰良著「どの口が愛を語るんだ」・悩みが軽くなるかも

2021-07-24 | 

もう題名からして東山ワールドを感じます。

4つの短編それぞれが、どこまで行っても混沌としている「愛」に関連する作品です。

宗教のような破滅的な愛、人をダメにする愛より、勘違いでも依存に過ぎなくても偽善でも、それを愛と思ってとりあえず生きるのでもいいんじゃない?って感じでしょうか。

すごく悲劇的で、どうにもならない場面にいくつも遭遇する人生でも結局、人はなんとかなっていく。

東山さんは、文章が軽快で濃厚でますますうま味が増し、読みだすと止まらなかった。

悲劇のヒローみたいに物語にうずもれない、ちょっと達観した感じが好きだなあ。


澤田瞳子著「星落ちて、なお」分かり合えない苦しさ

2021-07-13 | 

画鬼と呼ばれた河鍋暁斎の娘とよ(河鍋暁翠)を主人公に

鬼才画家の後を生きる苦しみを描いた作品。

そもそも家族ましては異母兄弟、それぞれの思いなんて分かり合えるはずがない

誰も自分のことで精いっぱいだから。

そうとわかっていても、日々、人の言葉に悩まされる。

「そうじゃない、わかってほしい」と願ってしまう。「なんでこんなに辛いんだ」と嘆いてしまう。

気持ちが通じないと急にその人が遠のいた気がして恨みたくなったりする。

澤田さんの物語の中には、そんな日々をするすると描いてくれている。

結局、ジタバタしながら生きていくんだなあ。

 


劉滋欣著「三体」宇宙的視野をもつ

2021-07-09 | 

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲとやっと読み終えた「三体」

洪水のように知識が渦巻く劉さんの脳内で溺れそうになりながらも楽しく遊んだって感じです。

SFとはspace fantasy、宇宙の幻想。

劉さんは誰も見たことがないことをどんどん描き、私の空想できる範囲をはるかに乗り越えて物語は展開します。

三体Ⅰで、どうにもこうにも頭の中がごちゃごちゃになります。

三体Ⅱに入ると、彼の中に中国5千年の歴史があることを感じました。侵略の戦いに耐え続けてきた大陸的強さでしょうか。宇宙とはいえ安易に隣人と仲良くしようなんて甘いのです。

そしてⅢ、感動的な宇宙の姿(二次元に飲み込まれる太陽系)と、地球人の愚かさと、そんな小さな存在でもきっと宇宙の一部なのだということを感じました。

島国日本で暮らす私は、視野が狭くなりがちですが、こうしてSFによって宇宙的視野にさらされると、日々の問題を一歩引いた目線で考えられそう。いやいや島国根性はなかなか治りそうもありませんけどね。

あれだけくじけそうになりながら苦労して読んだのに、今は「三体」ロスです。

 


梨木香歩著・僕はそして僕たちはどう生きるか

2021-02-26 | 

この青臭い題名ゆえに、避け続けていた本です。

梨木さんらしい攻め方で、多感な十代に向けて、

戦争や経済社会などの人間の「群れ」に束縛されず、自分の意志を持とうと訴えています。

人は群れとして生きる生き物だけど、ゆるやかに迎えいれてくれる群れがほしい

しかし、

それは「個で生きられる」背景が備わっていなければ無理だと思う

豊かな自然を所有していて自給自足できるとか、どこからかうまい具合に支援をうけられるとか・・・

そんな余裕がなければ、いやでも「群れ」に隷属しなければ生きられない人のほうが多いと思う

それが、戦争の片棒を担ぐことになったりするのは、悲しいことだけど。

そんなことをまじめに考えてしまったところは、この本が良書といえるのでしょうね。


劉慈欣著「三体」想像を超える宇宙SF

2021-02-06 | 

作者の劉さんはエンジニアで、物理学的な知識でどんどん想像を膨らますものだから、それについていくのが大変でした。

人間の将来に失望した人々が、この地球の人間たちをどうにかしてくれと異星人に頼んじゃったのです。

当然、異星人は地球を救おうなどとは考えず侵略方法を練るわけです。

異星人が地球に到着するのは、なんと450年後!

時間や空間の概念を覆し、あちらとこちらの事情が交錯して混乱し二度読みしました。

相当ぶっ飛んだSFです。

まだまだ物語は続いていて、これは序盤に過ぎません。いったいどうなるんでしょう。


椋鳩十(むくはとじゅう)著「鷲の唄」・生き物として

2020-10-17 | 

梨木香歩さんの「不思議な羅針盤」を読み返していたら、椋鳩十という名がでてきて、だいぶ前に友人に教わった名前だったのを思い出した。さっそく図書館で借りてみた「鷲の唄」。

「山窩調」「鷲の唄」「夏の日抄」の3部からなり、1983年に発刊されたものだが、「山窩調」は昭和8年の作品。

山窩とは山を転々としながら暮らす無籍者。彼らの暮らしをショートストーリーで詞調につづる。

法律も何もない山の中で「生き物」として「素」で生きるのは、非情だったり残酷だったりするが、考えてみれば、今の他人との関係だったり国と国との取引も、これと大差がない。結局人間らしさなんてうわべのことで、人も生き物だということだろう。

これを読むと、今の、言葉を飾り理屈をこねた様々な本が、なんだが味気ないものにさえ思えてくるほど、後を引いた。

本を開いたら、30年前のしおりが褪せることなく折り目もなく挟まれていた。

今はカードでピッとやるだけ。返還日が書かれたレシートみたいなものを挟んでくれる。


上田早夕里著・深紅の碑文

2020-09-17 | 

破滅の王」以来、上田早夕里さんの作品にはまり、

「魚舟、獣舟」「華竜の宮」「リリエンタールの末裔」そして「深紅の碑文」まできました。

これらは内容がつながっていて「オーシャンクロニクルシリーズ」と呼ばれています

地球が異変を起こして海底が盛り上がり、海面が今よりも260mも上昇した25世紀。

陸地が減った人間は、海で生活できる人間を遺伝子操作で作っていた。

陸に生きる人間と海に生きる人間もどき。

そしてさらに数十年後には、「大異変」が起こるという予想が・・・

それはマグマが広範囲に吹き出しその後太陽が見えない暗闇と化し、一機に氷河期に入りほとんどの生き物が死滅するという。

少しでも生活物資を確保しようと焦る人々に争いが絶えない。

政府は人口を減らそうと考え、争いを抑えない、出産を制御する、悪質な生物兵器、殺戮AI・・・

企業を起こして人を救おうとする人、家族や仲間のために敵を殺しつくそうとする人、ノアの箱舟的な宇宙船を飛ばして未来に希望をつなごうとする人・・・

いろんな人々の思いが詳細に描かれ、長編です。

戦争、難民、救助団体、病気の蔓延、政府の思惑、兵器の開発、宗教支援、遺伝子操作、AI、

いつになってもそれらが人間という生き物の性みたいです。

SF愛好家たちに人気というのも納得です。


上田早夕里著「破滅の王」戦争と科学、人類の道は?圧巻の長編

2020-07-09 | 

世界中が戦争をしていた1930~40年代の物語。関東軍防疫給水部本部、細菌戦...
上海自然科学研究所の細菌学者に、軍の手がのびじわじわと戦争に巻き込まれる。

終わりの見えない戦争をどう終わらせるか?

ある細菌学者は、強毒性の細菌を見いだし、まんまと菌株を複数の外国に分けた。
きっと誰かが菌を撒く、抗菌対策がないままに敵味方なく感染死者が増えれば、世界は戦争を止めて協力するだろう、戦争を終わらせるための死人は、仕方のないことだと。

フィクションだが、登場する実在した人物たちが、上田早夕里さんの圧倒的な筆力を借りて物語りを紡ぐ。 
巻末の参考文献は、日中の戦争からナチス、細菌学まで6ページに及んでいた。

圧巻の長編でした。

そして驚くべきことに、細菌R2v(キング)はまだ世界にあって、
その感染者は、1943年に見いだされてからこの物語が書かれた2017年で6億人以上、死者は5億人以上、
いくつかの抗菌剤が開発されたが未だに対策はない。

戦争の暗部まで端折ることなく書き尽くす上田早夕里、きっと気持ちの熱い人だと思う。 

昔読んだパティスリーの物語も菓子知識と菓子職人の現場の厳しさが凄かった。