アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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めまい

2007-04-30 21:48:01 | 
『めまい』 ボワロー=ナルスジャック   ☆☆☆★

 ヒッチコックの超有名映画の原作を読了。映画はもちろん観たことあるがかなり昔なので細部はよく覚えていない。ただダリが手がけたことで有名な夢のシーンは強烈で記憶に残っている。

 小説は大筋こそ映画と同じだが、雰囲気は結構違う。舞台が第二次大戦中のパリということで、死と神秘のムードがより濃厚なのもそうだが、主人公のキャラクターがヨーロッパ的冷淡さを湛えて茫洋としているところ、話の展開がシンプル、単調でモノクロ映画っぽいところなどが印象的だった。

 展開はかなり緩慢だ。観たことなければ、これをヒッチコックが映画化したと言われてもあんまりイメージがわかないのではないかと思う。主人公の弁護士が挙動のおかしい友人の妻を監視することになり、やがて不倫の恋に落ち、女は身投げして死んでしまう。ここまでが前半。友人の妻が死んだ祖母に憑依されたとしか思えないような言動をするところ、自殺願望があるところなどが、オカルティックで幻想的な独特の雰囲気を醸し出している。また主人公の弁護士が友人の妻にひかれていく心理を克明に描写してあるところは背徳的な不倫小説のようだ。
 後半は、死んだ女のことが忘れられない弁護士がそっくりの女を発見し、またその女とつきあい始める。この後半では弁護士の精神状態が怪しくなってくるため、読者はすべてが主人公の妄想なのか、それとも本当にこの女は死んだ(はずの)女と同一人物なのか分からなくなってくる。いよいよ終盤に差し掛かってから女の意外な行動が明るみに出、物語は急展開するが、それまでの物語は淡々としていて展開が遅い。神秘的なムードがあってそれはそれで悪くないが、ある程度平坦さを感じるのも事実。そのままだと精彩を欠いた物語になってしまうところを、最後の急展開がうまい具合にしめている。この灰色のイメージを退屈と感じるか雰囲気があると感じるかが好みの分かれ目だろう。

 映画版『めまい』では主人公の高所恐怖症が重要なテーマになっていて、「高いところから落ちる」という恐怖感があちこちでビジュアル化されていた。小説でも主役の弁護士は高所恐怖症だが、映画ほど強調されていない。それよりも、女が死者にとりつかれているんじゃないか、または死者の蘇りなんじゃないか、というオカルティックなサスペンスがメインになっている。

 結末が映画と違っているのも驚いた。映画と違って最初と同じ死に方をしない。このことからも「高いところから落ちる」というのがテーマになっていないということが分かる。最後の一行は見事だ。

 最近のサスペンス小説を読み慣れた読者にとってはシンプル過ぎて物足りないかも知れないが、独特の幻想風味がある、モノクロ映画のような渋い小説だった。

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