アブソリュート・エゴ・レビュー

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三大怪獣 地球最大の決戦

2014-11-08 15:30:52 | 映画
『三大怪獣 地球最大の決戦』 本多猪四郎監督   ☆☆☆☆

 昭和ゴジラ・シリーズ5作目。傑作『モスラ対ゴジラ』の次であり、まだまだ見ごたえある特撮が満載だ。また本作は飛翔する破壊神キングギドラの初登場作品でもあり、そういう意味でもエポック・メイキングな作品と言っていいだろう。

 本作の特徴はとにかく華やかで、ワクワクさせる要素がいっぱいという娯楽要素の充実にある。それはもちろんシリーズ初の宇宙怪獣キングギドラの登場と、対する地球側に三体もの怪獣が登場してバトルを繰り広げるという特撮要素の贅沢さに加え、『ローマの休日』を意識した若林映子と夏木陽介のロマンス要素、そして国家的陰謀と暗殺をからめたスパイ・スリラー要素、などなどのヒューマンドラマ・パートの充実も見逃せない。

 映画は冒頭から実に快調なテンポで「怪獣映画」としての世界観を作り上げていく。冬なのに日本脳炎が流行る暑さという異常気象、降り注ぐ謎の流星群、そして円盤の到来を待つ人々。日本中に世紀末的な不安が蔓延する中、黒部ダムのそばに落ちた巨大隕石を調査するために村井助教授(小泉博)率いる調査隊が赴く。一方、進藤刑事(夏木陽介)は訪日するセルジナ公国サルノ王女(若林映子)の護衛を命じられるが、政治的陰謀のため飛行機は爆破され、王女は行方不明となる。その直後、サルノ王女そっくりの自称・金星人が日本の繁華街に出現し、このままでは日本は破滅する、と予言を繰り返すようになる。

 進藤刑事と、ジャーナリストであるその妹・直子は金星人を追うが、やがて金星人の予言通り、阿蘇山の火口からラドンが、そして海からはゴジラが出現する。ようやく金星人を保護した進藤刑事と直子は、彼女を精神医学者の塚本博士(志村喬)に見せるが、博士は彼女を記憶喪失ではないと診断する。そして金星人は、かつて高度な文明を誇った金星を滅亡させた、恐るべき宇宙怪獣「キングギドラ」がやってくる、と予言する。折りも折り、黒部ダムの巨大隕石に異変が起き、炎の中から三つの首を持つ金色の大怪獣が姿を現す…。

 地球の滅亡云々という予言を繰り返し、どうして皆さんは私の言うことに耳を傾けないのです、と盛んに訴えるにしてはあんまりはっきりしたことを言わなかった自称・金星人が、ついに「金星を滅亡させた『キングギドラ』が来ます」と口にする場面には、ゾクッとくる戦慄がある。そして、まさに「満を持して」というにふさわしいキングギドラの出現。あれは隕石から産まれたのか、それとも隕石に隠れていただけなのかは不明だが、空中の炎が形をなしてキングギドラとなる場面は、ゴジラシリーズの歴史に残る名場面だ。

 そしてキングギドラはただちに地球の破壊を開始する。巨大な翼で飛翔しながら、三つの龍の口から地上に稲妻の雨を降らせ、すべてを破壊し尽くす金色の魔獣。これこそもっとも美しいフォルムにして、もっとも威厳に満ちた破壊神の姿である。グッドデザイン賞もののオリジナル・キングギドラの姿を心ゆくまで堪能できること、これがおそらく特撮ファンにとっての本作一番の見どころだろう。たとえば、後の金子版『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』に出てきたキングギドラは寸詰まり体型であまりにもみっともないし、ヘンにキラキラ光ったりするのもかえってダサい。古典的な風格と巨大さと均整美を兼ね備えたオリジナルのフォルムこそがベストだ。地球の怪獣とは明らかに異質な形態で、電気的なあの鳴き声も個性的だし、武器が「引力光線」という謎めいたものであるのも神秘的でいい。

 もちろん、次作の『怪獣大戦争』にもキングギドラは登場するし、フォルムも同じだけれども、金星が舞台ということで背景が書割っぽいこと、そして実は宇宙人に操られていたという情けなさで魅力半減である。やはり、日本の町並みの上空を飛翔し、引力光線で地上の建物が木っ端微塵になるという絵がもっとも映えるし、かつて金星を滅ぼした宇宙怪獣が地球にやってきてただ暴れ回るというシンプルさが良い。なぜ破壊するのか、そんな理由付けも不要である。破壊神に理由などいらない。そこに星があるから、これで充分だ。

 個々の「絵」としても、遠くの空で飛翔するキングギドラが小さく望めるカット、鳥居の手前に人間、向こう側にキングギドラが見えるカット、飛翔するキングギドラの風圧で屋根が吹き飛ぶ松本城を下から見上げたカットなど、マニア心をくすぐるカット満載である。そして何より、「高度な文明を誇る金星を滅ぼした宇宙の破壊王が地球にやってきた」という、キングギドラの正しい氏素性を踏まえたストーリーは本作だけなのである。

 さて、圧倒的に強大なキングギドラを倒す可能性があるとしたら、モスラとゴジラとラドンが力を合わせることだけだというインファント島の小美人の言葉で、モスラがゴジラとラドンの説得を試みる。小美人が怪獣の会話を通訳する場面は子供騙し丸出しだが、三体の怪獣とキングギドラがもつれあって戦う戦闘場面にはまだまだシリーズ初期の美しさがある。なんといっても、ゴジラ、ラドン、モスラと比較されることで際立つキングギドラの巨大さにはうっとりしてしまう。

 ただ、ゴジラは放射能火炎も吐くけれどもあまり効果はなく、岩を投げつけている程度で、幼虫モスラの吐き出す糸が主要なダメージを与えているようだ。キングギドラの引力光線もせいぜいかゆくなる程度のようで、この頃は怪獣の光線技にあまり迫力がない。これが平成ゴジラ・シリーズより劣る点で、だから怪獣同士の戦いがプロレスじみてくるし、石を投げつけるなど子供の喧嘩みたいになる。戦いの迫力、獰猛さの点では物足りない。

 そしてついに戦いの決着がつくが、本作における私の最大の不満はこれで、キングギドラがただ逃げ出して終わりというのはあまりにもぬるい。ダメージなんてないに等しい。あれは宇宙に逃げていったということになっているようだが、アメリカあたりまで飛んでいって破壊の続きを再開しても全然おかしくないし、宇宙で一休みして明日またやってくるかも知れないじゃないか。殺してしまえとまでは言わないが、せめてもうちょっとダメージを与えないと決着がついたと言えないと思う。このぬるさもまた本作の子供だまし感を増幅する一因となっている。この点に関しては、後のヘドラやメカゴジラの壮絶な末路を見習って欲しい。

 さて、その後金星人はサルノ王女としての意識を取り戻し、飛行機でセルジナ公国へ帰っていくが、進藤刑事との空港での別れが泣かせる。記憶は失くしてしまったはずなのに、「あなたに助けられたことだけは、なぜか覚えているのです」と王女は言う。この遠まわしなセリフに万感の思いを込める王女、そしてそれに表情だけでこたえる進藤刑事。いいねえ。そして二人はまたそれぞれの場所へと帰っていく。もう二度と二人の人生が交わらないことを知りながら…。子供の時ははっきり言ってなんとも思わなかった場面だが、大人になって見ると結構イケる。

 そしてラストシーン。小美人を乗せてインファント島に帰っていくモスラ。それを崖の上から見送るゴジラとラドン。日本に残ったゴジラとラドンはどうなる、という疑問には目もくれずに画面いっぱいに広がる「終」の文字。この二人はもう味方なんだからいいじゃん、というテキトーさ満点のラストで、結構脱力する。ゴジラが人類への脅威であることを止めた瞬間である。

 という具合に、子供騙しテイストが徐々に表面化しつつある作品ではあるが、その後の平成ゴジラ・シリーズを経過した目で見るとストーリー、特に人間ドラマ部分のディテールがしっかりしていて、それが安心感に繋がっている。特に大きいのは役者力だ。助教授役の小泉博、進藤刑事の上司役の平田昭彦、精神医学者の志村喬などベテランがしっかり脇を固めて、いい仕事をしている。やはり特撮といっても役者の演技や存在感は大きいなあ、ということをあらためて痛感する。ストーリーの説得力が明らかに増すのである。志村喬に、あの顔とあの声で「それは人間の能力を越えた問題ですな」と言われると、誰だって「そりゃそうだな」と納得してしまう。

 そんなこんなで色々とアラもあるが、特撮映画として総合的に見ると、盛りだくさんで華やかな、結構愉しめるフィルムというのが私の意見だ。子供っぽさも洒落として愉しむ気持ちが大切である。



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