アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

リトル・ロマンス

2013-04-27 10:13:18 | 映画
『リトル・ロマンス』 ジョージ・ロイ・ヒル監督   ☆☆☆★

 日本版DVDで再見。大昔観た映画なので、ずいぶんとなつかしかった。ダイアン・レインのデビュー作である。まだ子供だけれども、可愛いというより知的なルックスで、ハイデガーを読んだりする天才少女という設定に似合っている。

 ストーリーは少年と少女が出会って早熟な恋に落ちる、まわりの大人は振り回されるというもので、『小さな恋のメロディ』系である。本作の特徴としては、パリでフランス人少年とアメリカ人少女が出会う国際恋愛であること、ローレンス・オリヴィエ演じる老詐欺師ジュリアスが二人のサポート役となること、ヴェニスのサンセット・キスという最終目標、そして二人はラストで離れ離れになる運命であること、だろうか。

 国際色豊かな点については、フランス語と英語が飛び交うこともそうだけれども、パリからイタリアに入ってヴェニスへ、という舞台の移動がインターナショナルで華やかだ。ついでに言うと主人公の少年ダニエルは映画ファンという設定で、冒頭はヒル監督自身の『明日に向かって撃て!』のワンシーンが画面いっぱいに映し出されるが、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードがフランス語で喋っている、というギャグになっている。昔パリに行った時私も驚いたのだが、半分ぐらいの映画館では吹き替えで上映しているのである。昔観た時はこれがギャグだと分からなかったが、英語圏の人が観るとかなり笑える場面だと思う。

 ローレンス・オリヴィエは若い頃の二枚目ぶりが嘘のような軽妙な老詐欺師ぶりで、若い二人にサンセット・キスのことを教えるのも彼だし、コメディ・リリーフでもあり、本作のキーパーソンである。ヒッチハイクさせてもらった夫婦から財布をスッてその金でご馳走する場面は(けしからんことだけれども)おかしい。

 そして、本作のおかげで世界中に広まったヴェニスのサンセット・キス。夕暮れ時、ゴンドラに乗ってためいきの橋の下でキスを交わせば永遠に結ばれる、というロマンティックな伝説である。これは伝説でもなんでもなく、ただジュリアスの口からのでまかせだったのだが、それを信じてダニエルとローレンはヴェニスを目指す。途中で嘘だとバレ、二人は元気をなくすが、その時にジュリアスが言うセリフが、おそらくはこの映画の核心となるメッセージだ。彼は言う、「私がこれまで言ったことは嘘ばかりだったかも知れないが、これだけは本当だ。もしも愛しあう二人が一緒に不可能に挑戦し、何かを成し遂げたならば、それは二人を永遠に結びつけるんだよ…」

 またこの時、なぜ嘘をついたのかと問われたジュリアスは、それは人生にささやかなロマンスをもたらすものだから、と答えるが、ここで「リトル・ロマンス」という言葉が出てくる。この映画のタイトルは少年少女のロマンス、という意味と同時に、(たとえ嘘であっても)人生に必要なささやかなロマンス、という意味もあったんだな、と今回気づいた。

 さて、ヴェニスから戻った二人に別れの日がやってくる。おそらくは、決定的な別れである。もともとダニエルとローレンはフランス人とアメリカ人というだけでなく、貧乏なタクシー運転手の息子(母親はいない)と金持ちの社長令嬢という環境の隔たりがあり、最終的にはこの恋は成就しないだろうな、という予感がオーディエンスにはある。おそらく、この後二人が結ばれることはない。しかしだからこそ、二人で手に手をとってヴェニスを目指したあの夏は美しい。その記憶は、二人の心から一生消えることはないだろう。ローレンは別れ際にダニエルに言う。「あなたと出会ってからこれまでの一瞬一瞬を、私は絶対に忘れない」

 この映画は小品といっていいささやかな映画であり、芸術性という意味では取るに足りないかも知れないが、アカデミー賞監督のジョージ・ロイ・ヒルがこれを撮ったという事実に、私は感動するのである。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ジョージ・ロイ・ヒル (海松)
2013-05-01 16:04:11
 ええーっ、『リトル・ロマンス』ってジョージ・ロイ・ヒルの作品だったのですか!
しっかり観たことがなかったので、今度しっかり観ます。
 ジョージ・ロイ・ヒルはお洒落でカッコイイ監督ですね。
「メイキング・オブ『明日に向って撃て!』」も観たいです。
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Unknown (ego_dance)
2013-05-02 12:43:09
確かに意外かも知れません。ジョージ・ロイ・ヒル監督なんです。自分の映画「明日に向かって撃て!」と「スティング」が出てきます。
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56歳 (海松)
2013-05-27 16:39:16
 ご返信いただき、恐縮です。
『リトル・ロマンス』はジョージ・ロイ・ヒルが56歳で撮った作品なのですね。 56歳の時の作品というのが、ますますカッコいいです。
 アラン・パーカーの『小さな恋のメロデイー』も侮れない傑作だと思います。
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アラン・パーカー (海松)
2013-06-06 19:17:57
『小さな恋のメロディ』の脚本がアラン・パーカーでした。
失礼しました。
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アラン・パーカー (ego_dance)
2013-06-11 10:04:36
アラン・パーカーといえば、ミッキー・ロークとデ・ニーロが出ている怖い映画『エンジェル・ハート』はこの人が監督なんですよね。『小さな恋のメロディ』のノヴェライズがアラン・パーカーの名前で出ているのを知って、ぶったまげた記憶があります。
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