『死の接吻』 アイラ・レヴィン ☆☆☆☆
サクサク読めるエンターテインメントが読みたくなって再読。こういう時にこの本はピッタリなのである。アイラ・レヴィン23歳の時の処女作だが、とてもそうとは思えない巧みな小説だ。
利己的な青年が美貌を武器を女をたぶらかし、財産を手に入れようとする。「女は金についてくる」ではなく「金は女についてくる」というわけだが、女が妊娠して計画に破綻をきたし、殺人を決意する。
こういう『赤と黒』式の倒叙ミステリはたくさんありそうだが、本書の特徴はその巧みな構成にある。殺人者である主人公の行動を律儀に追っていくだけでなく、章によって視点が切り替わり、手を替え品を替え読者を翻弄してくれるのである。
まず最初は倒叙形式で始まる。青年が殺人を決意する経緯、準備、決行、そして予想外の展開によって余儀なくされる計画の修正、などなど。非常にハラハラさせてくれる。
そして次の章では、妹の死に不審を抱いた姉エレンの捜査が話の中心となるが、ここで突然犯人が誰だか分からなくなってしまうのだ。最初の章で犯人が被害者の恋人であり、美青年であり、大学のクラスメイトだとバレているのだが、名前だけは出てこない。そして第二章になってエレンが妹の恋人を探し始めると、条件に合致する青年が二人浮かんでくるのである。第一章では犯人の行動と心理をつぶさに知らされた読者にも、どちらがあの「彼」なのかまったく分からない。というわけで第二章はいきなり「犯人探し」の本格ものに変貌する。エレンはこの二人に接近して妹との関係を探り出そうとするが、ここでも非常にハラハラさせられ、そしてあっと驚く展開で「彼」の正体が明かされる。
そして最後の第三章ではもう犯人の正体が分かっているので、三人目のターゲット、マリオンの視点から青年の行動が描かれる。もちろんマリオンは青年に騙されるわけで、ここでは「いかにしてマリオンが青年の術中にはまっていくか」という物語が展開する。もちろん最後には青年の計画は破綻をきたすわけだが、いかにして青年が破滅するかは読んでのお楽しみである。
という風に、最初は犯人の心理を描いた倒叙もの、次は犯人が誰か分からない本格もの、最後は被害者側の物語を描くサスペンスもの、と一冊で三度おいしい構成になっている。どの部分も非常にハラハラさせてくれて、途中で本を置くのが困難だ。ただし、軽快にサクサク展開するので重厚さには欠ける。宮部みゆきのような重厚な人間ドラマが好きな人には物足りないだろう。
それから結末が、今読むと典型的ハリウッドのアクション映画のような終わり方で、どうも物足りない。初版が1953年という時代を考えれば仕方ないかも知れないが、青年の破滅をあそこまできっちり描かないで、暗示させて終わるぐらいの方が良かったような気がする。青年の本性がバレてしまってからがあまり面白くないのだ。
と、いくつか欠点はあるものの、効率よくハラハラドキドキしたい時には最適である。アイラ・レヴィンは『ローズマリーの赤ちゃん』というオカルトものも書いているが、これもやはり高性能のページターナーだ。
サクサク読めるエンターテインメントが読みたくなって再読。こういう時にこの本はピッタリなのである。アイラ・レヴィン23歳の時の処女作だが、とてもそうとは思えない巧みな小説だ。
利己的な青年が美貌を武器を女をたぶらかし、財産を手に入れようとする。「女は金についてくる」ではなく「金は女についてくる」というわけだが、女が妊娠して計画に破綻をきたし、殺人を決意する。
こういう『赤と黒』式の倒叙ミステリはたくさんありそうだが、本書の特徴はその巧みな構成にある。殺人者である主人公の行動を律儀に追っていくだけでなく、章によって視点が切り替わり、手を替え品を替え読者を翻弄してくれるのである。
まず最初は倒叙形式で始まる。青年が殺人を決意する経緯、準備、決行、そして予想外の展開によって余儀なくされる計画の修正、などなど。非常にハラハラさせてくれる。
そして次の章では、妹の死に不審を抱いた姉エレンの捜査が話の中心となるが、ここで突然犯人が誰だか分からなくなってしまうのだ。最初の章で犯人が被害者の恋人であり、美青年であり、大学のクラスメイトだとバレているのだが、名前だけは出てこない。そして第二章になってエレンが妹の恋人を探し始めると、条件に合致する青年が二人浮かんでくるのである。第一章では犯人の行動と心理をつぶさに知らされた読者にも、どちらがあの「彼」なのかまったく分からない。というわけで第二章はいきなり「犯人探し」の本格ものに変貌する。エレンはこの二人に接近して妹との関係を探り出そうとするが、ここでも非常にハラハラさせられ、そしてあっと驚く展開で「彼」の正体が明かされる。
そして最後の第三章ではもう犯人の正体が分かっているので、三人目のターゲット、マリオンの視点から青年の行動が描かれる。もちろんマリオンは青年に騙されるわけで、ここでは「いかにしてマリオンが青年の術中にはまっていくか」という物語が展開する。もちろん最後には青年の計画は破綻をきたすわけだが、いかにして青年が破滅するかは読んでのお楽しみである。
という風に、最初は犯人の心理を描いた倒叙もの、次は犯人が誰か分からない本格もの、最後は被害者側の物語を描くサスペンスもの、と一冊で三度おいしい構成になっている。どの部分も非常にハラハラさせてくれて、途中で本を置くのが困難だ。ただし、軽快にサクサク展開するので重厚さには欠ける。宮部みゆきのような重厚な人間ドラマが好きな人には物足りないだろう。
それから結末が、今読むと典型的ハリウッドのアクション映画のような終わり方で、どうも物足りない。初版が1953年という時代を考えれば仕方ないかも知れないが、青年の破滅をあそこまできっちり描かないで、暗示させて終わるぐらいの方が良かったような気がする。青年の本性がバレてしまってからがあまり面白くないのだ。
と、いくつか欠点はあるものの、効率よくハラハラドキドキしたい時には最適である。アイラ・レヴィンは『ローズマリーの赤ちゃん』というオカルトものも書いているが、これもやはり高性能のページターナーだ。
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