アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

必殺仕業人

2006-03-01 19:08:05 | 必殺シリーズ
『必殺仕業人』   ☆☆☆☆

 中村主水シリーズをすべて観尽くしたわけじゃないが、これまで観た限りでは最高作は『必殺仕置人』だと思う。エピソード一つだけと言われればおそらく『新必殺仕置人』の最終回になるだろうが、作品トータルで考えるとオリジナル仕置人の方がインパクトが強い。中村主水、鉄、錠という布陣も最高だし、痛快さも最高、そしてアクの強さも最高だ。しかし、その『必殺仕置人』がオモテの最高作だとしたら、ウラ最高作は個人的にはこの『仕業人』ということになる。

 ウラというのは要するに、幅広く一般受けはしないだろうが、一旦好きになったら病みつきになるというマニアックさではNo.1だと思うからである。無論私は病みつきになった一人だ。

 『仕業人』の特徴はとにかく貧乏臭いということだ。主水シリーズの作品それぞれを一言で言い表すと、『仕置人』はパワフル、『仕留人』は静謐、『仕置屋』は華やか、『新仕置人』はバランスの良さ、ということになるが、『仕業人』は「どん底」あるいは「貧乏」である。華やかさや元気さとはまったく無縁の世界だ。やはり静かで地味だった『仕留人』には糸井貢のインテリ的苦悩がもたらす格調の高さがあったが、『仕業人』にはそれもなく、とにかく貧乏でやりきれない、金が欲しい、という世界である。二言目には「金くれ」だの「金貸せ」だの言っている剣之介がその象徴だ。

 画面も初夏の涼やかさ、市松の美麗さが特徴だった『仕置屋』とは打って変わり、粉雪が舞う寒々とした季節で、何もかもが灰色にくすんでわびしさを漂わせる。中村主水も格下げになってさらに悲惨な境遇、家では傘はりの内職して間借り人を住まわせるなど、いつになく貧乏臭い。主水のルックスもむさ苦しい。
 そして中村敦夫演じる赤井剣之介がまさに『仕業人』の中核なのだが、彼は元侍ながら人を殺したお尋ね者である。お尋ね者といえば糸井貢もそうだったが、剣之介には家はなく職もない。川原の掘っ立て小屋や廃屋に住み、連れのお歌と一緒に道端で大道芸人をやって糊口をしのいでいる。大道芸も顔に白粉を塗りたくって居合いを見せるというブザマなもので、道を歩いているだけで嘲笑されたりするという、なんとも気が滅入る境遇である。ほとんど乞食同然だ。剣之介が暴れたせいで掘っ立て小屋(というかむしろで作ったテント)が倒壊したこともある。町人にまで馬鹿にされる、まさに社会の最底辺。しかしその最底辺の剣之介が欲と金で肥え太った権力者を討つ、これが仕業人ワールドの醍醐味である。

 それからまた、頼み人達もみな悲惨である。必殺シリーズはもともと救いのない暗い話が多いわけだが、『仕業人』ではそもそも頼み人達の境遇がどん底で、そのどん底の中でさらにひどい目に会うというパターンが多い。例えば第五話の夫婦は隠れ里という落伍者の吹き溜まりみたいな場所で暮らしているのだが(赤井剣之介も一時的にそこで暮らす)、そこから抜け出そうとした結果夫は身代わりで死罪、妻はレイプされて井戸に身投げする。第七話の仇討ちをしようとする父と娘は乞食並みのボロボロの身なりで、しかも父は旅の病で失明している。とにかくどん底の境遇の人たちばかり出てくる。その人達を襲う更なる悲劇は、もうかわいそうで見ていられない。

 しかしそのやるせない、どん底の世界で恨みを晴らす仕業人の活躍は実にシブい。決して『仕置人』のように派手ではない。でもシブいのだ。

 メンバーは中村主水、赤井剣之介、そしてやいとや又右衛門。『仕業人』の魅力の一つはとにかく各キャラクターの曲者ぶりである。一筋縄ではいかない。おなじみ中村主水はルックスもますますムサくなり、降格のせいでさらにせんとりつにいびられる毎日だが、間借り人の女性にセクハラしたりといやらしさもアップグレード、他のシリーズとは一味違う。とても時代劇の主人公とは思えない。剣之介はさっき書いたような自分自身どん底の男で、いつも「金くれ」「金貸せ」言ってるし、たまに仕事料が入ると大根や白菜を買って興奮したり、仕事料について「いつまでも五両っていうのもな。物価も上がってるし」などと殺し屋らしからぬ発言をしたりする。最初の頃はどん底の生活に嫌気がさしているふうだったが、実は結構鈍感な男で、後にお歌が「私達この先どうなるの?」というと、「どうって、このままでいいじゃねーか」などと平然と言ったりする。お歌が家を買いたいと言った時なぜか反対したこともある。かと思うと、妙に侍気質でシビアだったり、かなり変な奴である。

 ちなみに剣之介の殺し業は指輪状の刃物で相手の髷を切り、その髪で首を絞めて殺すというものだ。つまり坊主頭や角刈りは殺せないことになる。

 変な奴ということではやいとやがまた輪をかけている。女たらしでキザで嫌味な男で、かなり自己中心的な性格をしている。最初の頃は仕業人仲間と話す時もなぜか敬語だった。神経質な性格で、仕置きに出ようとして一度戻り、火鉢の火が消えていることを真剣に確認したりする。金にうるさいのは主水や剣之介と同じだが、ものすごい縁起担ぎで仕置の前に必ず占いをする。占いの方法はおみくじから茶柱までまったく一貫性がない。そこで不吉な卦が出たりするとあわててお払いをするのがおかしい。やいとやの殺し技は熱した針を急所に刺すというものだが、腕っ節は弱くて喧嘩をすると大抵やられる。時々、針を構えた自分の姿を鏡にうつしてチェックしていることもある。相当なナルシストである。しかしこのやいとや、普段はへらへらしているのに殺しの際の表情はやたらクールでカッコイイのである。

 とまあ、ここまで一癖も二癖もある連中が揃った殺し屋チームも珍しい。この三人はお互いにあまり信用していないドライな関係で、その絡みがとにかく面白い。やいとや主役篇の第十話では主水がやいとやに向かって刀を抜きながら、「おれはもう少しこの娑婆で楽がしてえ。俺が生きるためにおめえに死んでもらう」などと言うシーンもある。

 この『仕業人』らしさが炸裂するエピソードは多数あるが、私は第一話の仕置シーンが印象深い。残忍な奥方にお歌が捕まり、月琴を弾かされる。月琴のわびしい響きだけをバックに、仕業人達が闇にまぎれて屋敷に忍び込むシーンが描かれるが、躍動感や明るさが皆無のこのシーンのシブさがもうたまらない。また粉雪舞う中一杯のうどんを分け合って食べるお歌と剣之介など、『仕業人』的切なさに溢れたシーンが満載の素晴らしいエピソードだ。

 このように素晴らしい『仕業人』だが、後半になるとスタッフの疲れのせいか視聴率がふるわなかったせいか、この暗さわびしさが薄まってトーンダウンしてしまう。わびしく救いのない最終回はまさに『仕業人』的なのだが、この後半の息切れのせいで全体としては星四つにしておく。しかし前期必殺のテイストを愛する人ならば、この『必殺仕業人』は必見である。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
仕業人 (空画)
2010-12-29 11:12:12
こんにちわ。

仕業人、いいですね。

やいとやの技が好きで、やいとやが熱された針を悪人の眉間に刺し、悪人が痙攣する様を、よく友達とふざけて真似してました(笑)
返信する
仕業人 (ego_dance)
2010-12-30 10:27:13
これは好きですね。時々無性に観たくなってDVDを引っぱり出します。特に寒々とした感じの初期が最高です。

>やいとやの技が好きで、やいとやが熱された
>針を悪人の眉間に刺し、悪人が痙攣する様を、
>よく友達とふざけて真似してました
想像するだけで笑えます。
返信する

コメントを投稿