アブソリュート・エゴ・レビュー

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スーパー・ジェネレイション

2009-02-01 17:55:25 | 音楽
『スーパー・ジェネレイション』 雪村いづみ   ☆☆☆☆

 ティン・パン・アレーつながりで入手したCDである。雪村いずみというシンガーについては美空ひばりあたりと同世代の歌手という以外、まったく何も知らなかった。ティン・パン・アレーは1970年代頃に活動していた細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆からなる音楽ユニットで、メンツから分かるようにジャズからファンク、ポップス、フォークまであらゆる音楽ジャンルを咀嚼し独特のサウンドを創り出した曲者集団である。プロデューサー集団でありながら演奏者としても当然ながら一流で、その音は実験性と都会的洗練が複雑にブレンドされている。私は彼らのファースト『キャラメルママ』と荒井由美の『ひこうき雲』(演奏がティン・パン・アレー)を聴いてファンになり、彼らがインスト部分を担当したというこのアルバムに手を伸ばしたわけである。

 これは一種の企画もので、「銀座カンカン娘」などを作った服部良一の曲を雪村いずみが歌い、演奏をすべてティン・パン・アレーがやるという、つまり三世代のスーパー・アーティストの共演なのである。しかし企画ものといっても安易さはかけらもない。良心的かつクリエイティヴな企画であり、ここにティン・パン・アレーを持ってきたのは企画担当者の卓見だ。私は「銀座カンカン娘」や「東京ブギウギ」「蘇州夜曲」なんて曲のオリジナルは知らず、従ってこのアルバムのアレンジがどこまでティンパンの独創でどこまでオリジナル通りなのか判断できない。が、ティンパンのトレードマークである洒脱さ、ノスタルジックな暖かさ、乾いた抒情性などがすべてここに見られることからして、いわゆる「懐メロ」である服部メロディをティンパンが料理することで、もともと服部メロディが持っているジャズっぽい「モダン」の感性が、もう一段階洗練された形で花開いたのではないかと思う。

 アルバムはインストルメンタルの「序曲<香港夜曲>」で幕を開けるが、この曲はまさにティンパンの魅力全開である。ストリングスとホーンの甘い響き、軽快なリズム隊、乾いたエレピの音、郷愁を誘うフルートのメロディ、そして終盤のジャズっぽいアドリブの応酬。そして雪村いずみのヴォーカルが入ったムードたっぷりの「昔のあなた」へと続く。ゴージャスなストリングスが印象的だ。

 初めて聴いた雪村いずみのヴォーカルは、思いがけず声が太くて力強いのが印象的だった。発音にどこかバタ臭さがあり、アメリカでも評判が良かったというのがなんとなく分かる。非常にくっきりした、はきはきした歌唱である。ただ現在のJ-POPに慣れた耳からすると、発音が明瞭過ぎ、発声が素直過ぎるのがちょっと時代を感じさせる。

 曲は陽気な「ヘイヘイブギー」、妖しげな「バラのルムバ」、「銀座カンカン娘」「東京ブギウギ」と続いていくが、どれも「懐メロ」っぽいノスタルジーを感じさせながら現代でも通用する洒脱さがある。たとえて言うと、現代のアーティストが「昭和ノスタルジーを感じさせるようなおしゃれな曲を作ろう」と思って作ったようにも聴こえるのである。それにしても、「銀座カンカン娘」のアレンジにはびっくりした。アタマがどこか全然分からない。こんな演奏に合わせてよく歌えるものである。さすがにこれはティンパンの独自アレンジなのではないだろうか。

 「胸の振り子」「一杯のコーヒーから」は都会的なアレンジと乾いた抒情性がユーミンの「ひこうき雲」にも通じる現代性を感じさせ、「蘇州夜曲」では日本的な美旋律をたおやかに聴かせる。そしてクラリネットが入ったビッグ・バンド風の陽気な曲「東京の屋根の下」が締めくくり。

 正直言って服部メロディというものがどれほど素晴らしいのか私にはまだ良く分からないが、少なくともティン・パン・アレーが料理したこのアルバムの曲の数々は、ノスタルジックでありながらいまだに古びない普遍的な魅力を持っている。雪村いずみのはきはきした歌唱や昔風の歌詞に抵抗がなければ、特に「懐メロ」に興味がない人が聴いても充分面白いと思う。


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