アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

アフタースクール

2009-01-01 18:28:44 | 映画
 皆さん、あけましておめでとうございます。2009年になりましたね。私にとって去年は結構キツい年でしたが、今年はいい年にしたいと思います。本年も宜しくお願いします。


『アフタースクール』 内田けんじ監督   ☆☆☆☆

 日本版DVDを購入して鑑賞。『運命じゃない人』が面白かったので期待していたが、期待を裏切らない面白さだった。やっぱりこれも騙し絵映画で、『運命じゃない人』は同じシーンを視点を変えて繰り返すことでどんどん意味が変わっていく映画だったが、今回は「これはこういうことだな」という観客の思い込みを後半に全部ひっくり返してしまう、という映画だった。ミステリで言えば「叙述トリック」だが、この監督はこういう作風専門なのだろうか。ミステリの書き手では時々いるが、映画監督では珍しい。

 「真相はこうだった」というありがちなどんでん返しじゃなく、観客の目の前で繰り広げられていた人間関係や言葉の意味までがガラッとひっくり返ってしまうのがすごい。「騙し」の落差が尋常じゃなく大きい。そして落差が大きければ大きいほど観客の快感は深まる。この映画をDVDで観た人は必ず二回観てしまうと思うが、私もそうだった。観終わった後、続けてもう一度最初から観たが、これがまた愉しいのである。一粒で二度おいしい。

 こういう映画なのでとにかく会話の端々、登場人物の身振りや表情の一つ一つまで細かく神経が遣われている。すべてがダブルミーニングにならなければいけない、つまり虚構と真相、どっちの文脈でも成り立つようにしておかねばならない。かなり緻密な作業である。真相を知ってもう一度観返してみると、さすがにちょっと苦しいなというところもチラホラある(たとえば訪ねてきた探偵に中学教師が「子供ができた」と告げるあたり)。が、ぎりぎりセーフだと思う。

 というわけで、騙される快感については申し分ない。が、その一方で、止むを得ないこととはいえ辻褄合わせに力が入りすぎている気がしないでもない。騙しを除外して人間ドラマとして見ると薄味で物足りない。話そのものは軽くて、TVドラマ的だ。

 主人公は同年代の男性三人、中学教師、サラリーマン、探偵だが、役者は三人ともそれぞれいい味出している。探偵役の佐々木蔵之介は唐沢版『白い巨塔』で、江口洋介の里見先生に何かといえば「やめといた方がいいですよ」と背後霊の如く囁く役だったのを覚えているが、最近はドラマで主演とかもしているらしい。売れているのだろうか。この映画では観客と一緒にとことん騙され、しまいには「おまえがつまらないのはおまえのせいだよ」などとバッサリ言われてしまうかわいそうな役だ。が、爬虫類っぽい顔が陰険に見えるせいかあまり同情できない。ルックスって大事だ。

 それからヤクザの親分役の伊武雅刀も良かった。木村を脅しにやってきて刑事と対面するファミレスのシーンは大爆笑した。

 映画の終盤は当然ながらそれまでの謎解きになるが、くどくどセリフで説明するのでなく映像で見せるのがスマートで、小さなところまで丁寧にフォローアップされているのが気持ちいい。特に最後、エレベーターのビデオ映像の「謎解き」には笑った。そして映画全体をあれで締める、という潔さがまたいい。とことん「騙し絵」に徹した映画である。こうなったら内田監督にはこの路線をきわめて欲しい。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです. (coollife)
2009-01-09 16:13:57
ego_danceさん,あけましておめでとうございます.
私も見事に騙されましたし,騙されることが快感でした.
私の場合,この作品が最初で,次に「運命じゃない人」を最近見ました.
どちらも,面白かったですね.
次の作品を期待してしまいます.
ネットで見ると,「ウィークエンド・ブルース」という自主制作映画があるらしいですね.
探してみようと思います.
返信する
騙し絵 (ego_dance)
2009-01-13 11:11:28
確かにどっちも面白かったですね。それぞれ趣向が違うのがいいです。「運命じゃない人」は、携帯電話って相手がどこにいるか分からない、というところから膨らんでいったらしい(監督の話)ですが、この「アフタースクール」は何がきっかけだったのか気になります。

それにしてもこの路線で何作行けるんでしょうか。プレッシャーもあるでしょうね…
返信する

コメントを投稿