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アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Exit...Stage Left

2012-10-23 21:24:47 | 音楽
『Exit...Stage Left』 Rush   ☆☆☆☆☆

 ラッシュはこれまで数多くのライヴ・アルバムをリリースしているが、結局のところ1981年発表の『Exit...Stage Left』(邦題『神話大全』)が最高傑作だと思う。時期としては『Moving Pictures』の発表直後で、普通言われるところのバンドの絶頂期である(ラッシュの歴史の中に特別な絶頂期というものがあるとすればだが)。

 何がいいって、まず音がいい。ニールのドラムの音は軽快かつ素直で、オーケストラルなドラミングが満遍なく拾われている。アレックスのギターは最近のへヴィーな音ではなく、もっとスペーシーで空間を感じさせる透明感のある音。そしてゲディのベースはもちろんリッケンバッカー時代で、ゴリゴリした音ながら厚みとふくよかさがある。最近のエッジの効いたジャズベの音もいいけれども、ちょっとベキベキし過ぎていて、この頃の音と比べると厚みに欠ける気がするのだ。とにかくこのアルバムのベースの音は良い。そして全体にサウンドの抜けが良く、バランスが良い。

 ただしアレックスのギターが小さめでへヴィーさには欠けるので、ハードロック・ギターが聴きたい人は物足りないかも知れない。この頃のラッシュはへヴィーさよりスペーシーな音がトレードマークで、三人とは思えない分厚い音を売り物にしていたが、このアルバムがまさにそれで、たとえばシンセサイザーの音もぺらぺらしたデジタルではなくアナログ、それもオーバーハイムの重厚な音ばかり。要するにプログレの音だ。ペダルシンセの音が一番迫力あるライブ音源もこれで、最初聴いた時は「The Spirit of Radio」の冒頭、ギターのリフに続いて鳴り響くタウラス・ペダルの分厚い音に度肝を抜かれたものだ。

 それからもう一つ、ゲディのヴォーカルも非常に良い。最近のライヴではだんだん高音がきつくなってきているゲディだが、このアルバムではやすやすと超高音を出していて、エコーのかかり具合もよい。アンジェリック・ヴォイスが映えている。

 更に、選曲が良い。最高傑作といわれる『Moving Pictures』発表後なのでもちろん『Moving Pictures』、そしてその前作である『Parmanent Waves』から多く選曲されていて、しかも大作「Xanado」、インストゥルメンタル「La Villa Strangeato」、定番「The Trees」が含まれている。また長大な曲が多い中、4分以下の「A Passage to Bangkok」「Closer to the Heart」「Beneath, Between & Behind」の3連発がいいアクセントになっている。

 もちろん欲を言えば「Limelight」がない、長尺曲なら「Natural Science」の方が良かった、など色々注文が出てくるだろうが、言い出したらキリがない。どうせなら『Yessongs』みたいに三枚組にしてめいっぱい収録して欲しかった、と言いたいがそれもまあ我慢するとして、とにかく構築美を誇った時期のラッシュとしてはベストの選曲であると認めざるを得ない。

 そしてもちろん、演奏がいい。いいも悪いも、完璧な演奏である。歌と演奏が技術的に完璧であるというだけでなく、三人のノリが生み出すダイナミズム、曲の魅力が最高度に引き出されているという意味でも完璧である。これ以上の「Trees」、これ以上の「Tom Sawyer」、これ以上の「La Villa Strangiato」は、少なくとも私には考えられない。そしてその完璧な演奏が、先に述べた通りの素晴らしい音響で聴けるのである。これ以上何を望むのか。

 それにしてもあらためて思うのは、これがたった三人のバンドが生演奏で出す音だろうか、ということだ。シーケンサーなどまだ全然使っていない頃である。手数の多さとか、マルチプレイ(ゲディは一曲の中で歌を歌いベースを弾きキーボードを弾き足でペダルシンセを弾いている)だけの話ではない、真に驚異的なのは、それらの音をリアルタイムで楽々と組み合わせ、壮大な楽曲を美しく完成させる三人のケミストリーである。演奏と表現の引き出しの多さが尋常ではない。最後の「La Villa Strangiato」などを聴いていると、ほとんどこのバンドが化け物に思えてくる。この意味が分からない人は、スタジオ・バージョンと聴き比べてみて欲しい。このライブ・バージョンの方がはるかに精緻で、ニュアンスに富んでいて、しかもダイナミックなのである。あり得ない。

 ラッシュの本当の凄さはライブを体験するまで分からないと言われるが、このアルバムを聴けばその一端を垣間見ることができるだろう。

 


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