アブソリュート・エゴ・レビュー

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イエスソングス

2010-07-08 00:36:17 | 音楽
『イエスソングス』 イエス   ☆☆☆☆☆

 1973年に発表されたイエス初のライヴ盤。大傑作『こわれもの』『危機』に続く堂々のリリースで、アナログ・レコード盤にして三枚組という大作である。イエス自身もレコード会社も自信満々というところだろうか。もちろん内容も期待を裏切らない素晴らしさで、イエス絶頂期の輝きがもれなく収められている。イエスのライヴ盤はその後も色々と出ているが、文句なくこれがベストである。

 収録曲はストラヴィンスキーの『火の鳥』に始まる全13曲。三枚組ということで大作の『危機』『同士』『燃える朝焼け』なども余裕でフルバージョン、そして各メンバーのソロもたっぷり収録されている。かゆいところに手が届いていて選曲もベストである(しいて言えば『アメリカ』があれば完璧だった)。音質がまた良くて、はったりやわざとらしさのない素直な録音だ。臨場感もあり、バランスもいい。スクワイヤのベースが思う存分ガリガリいってるのが嬉しい。

 とにかく、イエスの5人の演奏能力、アレンジ能力、豊富なアイデアを嫌というほど思い知らされるライヴである。『危機』はまさにイエスの完全主義が凝り固まったようなアルバムで、「計算尺を使って曲を作っている」と言われる緻密なアレンジ手法を究極まで突き詰めたアルバムだった。しかも長尺曲ばかりで、演奏技術のみならず最新のスタジオ技術がとことん駆使されているのは間違いない、と誰もが考えたし、実際に駆使されているはずだ。それをライヴでどこまで再現できるのか、というのがこのアルバムを手にしたファン最大の関心事だったわけだが、イエスはサポートメンバーの助けも借りずたった5人で『危機』の複雑なアレンジを完璧に再現して見せ、ファンの度肝を抜いた。シーケンサーなんてものはない時代だし、もちろん楽譜もなければ指揮者もいない。イエスがロック界最高の演奏技術を持つ集団だという評価はこれで揺るぎないものになった。

 ところで『こわれもの』『危機』でドラムを叩いていたビル・ブラッフォードは『危機』発表直後に脱退し、このアルバムの大部分でドラムを叩いているのは新加入のアラン・ホワイトである。前にもさんざん書いたが、ビル・ブラッフォードに比べるとアラン・ホワイトのドラミングはかなり見劣りする。しかも加入したてということで、本作で聞けるホワイトのドラムはまだこなれていない部分が多い。もしも本作のドラムがすべてブラッフォードだったら、と考えると、個人的には非常に残念である。さらに素晴らしいライヴ・アルバムになったのは間違いないからだ。ただしホワイトのドラムも良いところがないわけではなく、その骨太さによって重量感を増している曲もある。

 さて、私が考える本作中のベスト・トラックは『パペチュアル・チェンジ』『ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス』『スターシップ・トゥルーパー』の三曲である。全部サード・アルバムの曲だが、これらは間違いなくスタジオ・バージョンを凌駕している。次点が『危機』『シベリアン・カートゥル』そしてリック・ウェイクマンのソロ『ヘンリー八世の六人の妻』からの抜粋だ。

 『パペチュアル・チェンジ』はブラッフォードがドラムを叩いている曲の中の一つだが、他のメンバー、特にベースのスクワイヤとの息の合い方が全然違う。一糸乱れぬとはまさにこのこと。ちょっとした遊びフレーズまでビシビシ合わせてくるのが最高に気持ちいい。アンダーソンのヴォーカルもリラックスしていて伸びがあるし、三声コーラスも美しい。そして何と言っても驚きはあの間奏部分の演奏。スタジオ盤では別々に録音された二つの演奏を左右に振り分けて重ねてあるトリッキーな部分で、どうするのかと思っているとなんと、いっぺんに両方を演奏してしまっている。ベースとキーボード、ドラムとギターというペアに分かれて別々のパートを異なるテンポで演奏し、重ねている。口あんぐりである。もちろん、バラバラに聞こえながらも最終的な拍数は辻褄が合っている。個人的にはここが本アルバム中最高の鳥肌演奏である。

 『ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス』はホワイトのドラムだが、ドカドカうるさい骨太な音が迫力と重量感を増し、スタジオ盤よりパワフルな演奏になっている。リック・ウェイクマンのキーボードも装飾が増えていて効果的だ。ハウがギターを弾きまくったあと、静かになってアンダーソンが歌う部分はドラマティックで聞かせる。それにしても、これだけギターを弾きまくらせてもらえればハウも本望だろう。まあどの曲でもハウは常に弾きまくりだが。本作の大トリである『スターシップ・トゥルーパー』もアンダーソンの透明感のあるハイトーン・ヴォイスが印象的だ。後半のインスト部分では壮大なメロトロン・コーラスの上でまたしても弾きまくるハウのソロが聞き物。堂々たるフィナーレの後はアンダーソン、スクワイヤ、ハウの三声コーラスだけが残って終わる。

 注目の『危機』は歌のバッキングがスタジオ盤よりうるさいのと、ホワイトのドラムがバタバタしているのが気になるが、ギターとキーボードの音は軽みがあって聴きやすい。しかし残念なのは、最後のサビだけスタジオ盤よりキーを下げてあることだ。一番盛り上がるところで微妙にテンションが下がってしまう。このライヴ・バージョンも決して悪くはないが、私はやはりスタジオ・バージョンの方が好きだ。

 その他各自のソロや『同士』『燃える朝焼け』など聴き所はまだまだたくさんあるが、長くなるのでやめておく。とにかく、おなかいっぱいになるまで楽しめるライヴ・トラック集であることは間違いない。


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