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芭蕉の俳句(183)

■旧暦5月12日、日曜日、父の日、

(写真)Red

杉浦日向子の『東のエデン』を読む。江戸がまだ色濃い明治一桁の世界を描いていて、興味深い。元殿様の書生やその許嫁の御姫様、外国人、ラシャメンなどが登場。なかなか楽しかった。




梅が香にのつと日の出る山路かな
   (炭俵)

■元禄7年作。いよいよ最晩年の句に入った。この句の眼目は、「のつと」であろう。この措辞には、違和感とおかしみを感じてきた。早春のまだ寒い空気の中を日が「のつと」出てきたというのは、どうも違和感がある。早春にしては呑気すぎる気がするのである。また、その呑気な日の差し方におかしみがある。「のつと」の理解が気になって、 外国語に訳されたこの句を調べてみた。ヤン・ウレンブルックという人がレクラム文庫でドイツ語に訳しているのを見つけた。


Zum Pflaumendufte
Ging plötzlich die Sonne auf
Im eigen Bergpaß.


■「のつと日の出る」は「Ging plözlich die Sonne auf」となっている。「のつと」は「plötzlich」である。この言葉は、「突然に、思いがけずに」という意味の副詞である。ユーモラスな響きは消えて、意味だけが残った感じである。また、日は山路に昇ってきたという理解で、雲間から日が差しているという理解ではない。
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