Untitled(3)

2022年02月05日 | Untitled





無――
あってあるものの地――
梅はひとつの行為へ還る、
花咲く前の花の連なりへ、
空――
隙を枝として
花の色彩は黒である。






Untitled(2)

2022年02月05日 | Untitled






言語の中の身体、
言語の中の空間、
言語の中の色彩、
街道を旅人が行く――
それは鮮やかな死の比喩、
道は松の下に始まり、
言語に終わる。








Untitled(1)

2022年02月05日 | Untitled






影である翳、
間である光、
墨である猛り、
野梅である時――
まだ存在しない花の香、
ひとつの弱。







春の木

2020年05月01日 | 





春の木





なんでもない人が春の木を見上げる
春の木から草と雲の匂いがする
こどもたちの歓声に囲まれて
一本の春の木が月と太陽をめぐっている
なんでもない人が春の木の肌に触れる
木肌を弾くと乾いた軽い音がする
ある日、春の木に鴉が巣を作った
ときどき低空飛行で
鴉がなんでもない人をめがけてやってきては
天へ向かって宙を切り裂く
切り裂かれた天心から
ひとつの蒼い目が見つめている
なんでもない人が春の木を見上げる
なんでもない
なんでもなく春の木は立っている
立ちながら星々の間をめぐっている
やがてなんでもない人は来なくなった
なんでもない人は
なんでもなく
地上から消えた
銀河はいまも
一本の確たる春の木をめぐっている



二〇二〇年五月一日






A springtime tree with a man who is nothing



An innocent person looks up at a spring tree
He can smell the grass and clouds from the spring tree.
Surrounded by children's cheers,
The single spring tree circles the moon and the sun.
The person who is nothing touches the skin of it.
It's a light sound and a raw smell
When he plays it against the wood.
One day, a raven built a nest in the spring tree.
Sometimes it's low-flying.
The raven comes at the man who is nothing,
And it cuts through the air towards the heavens.
From the heavens ripped open,
A single blue eye stares.
The innocent person looks up at the spring tree.
It’s of no concern.
The spring tree is standing for nothing,
Standing and travelling among the stars.
Eventually, the person who is nothing doesn’t come to the tree.
The man who is nothing
Is nothing at all.
He's gone from the ground.
The galaxy is still alive.
It’s all about the one sure spring tree.







歌うパンデミック

2020年04月30日 | 





歌うパンデミック




空が、雲が、光が、風が
だれもいない広場でパンデミックを歌っている
百年の葉櫻が風にさざめく
みどりの光とみどりの影が
パンデミックを歌っている
ここは雲だけの街 
人間がいないということが
これほど清々しいとは!
歴史もやがて終わり
あとはさわやかな風が吹きとおるばかり
人間のせわしない時間は
雄大な銀河の瞬きに変り
星の光が遊び
夜の風は語りあい
空は透ける
人間存在の決まりごとは
ことごとく嘘だった


 二〇二〇年四月二十七日




Singing pandemic

 




The sky, the clouds, the light, the wind...
They're singing a pandemic in an empty square.
A hundred-year old cherry tree buzzes in the wind
The light of the green and the shadow of the green
They're singing the pandemic.
It's a city of clouds over here. 
The absence of humans―
I've never felt so refreshed!
The history will come to an end.
And all that's left is a refreshing breeze blowing through.
The human rush hour,
Turning to the twinkling of a majestic galaxy.
Starlight plays.
The night wind talks to each other.
The sky is clear.
The rules by the human existence,
It was a lie, all of it, I’ve just realized.








パンデミック国家

2020年02月02日 | 十四行詩





パンデミック国家




言いがかりのように始まった令和二年一月。天皇制と日米
安保体制に骨の髄まで飼いならされた日本国民の前に、
治療薬がないとの触れ込みで、新型コロナウィルスの「脅威」が
煽り立てられる。感染症に治療薬などありはしない。

連日、NHKが感染者の足どりを細かく伝えて恐怖を煽る。
この煽り方は懐かしい。二〇一七年の衆議院選挙のときの
「北朝鮮脅威」と瓜二つである。いずれ出てゆくウィルスの
ために憲法改正して「緊急事態条項」を入れろと騒ぐ。

パンデミック国家には脅威と恐怖が蔓延しやすい。
これに弱いのは弱い人々。中国人をあぶりだせ。
帰国者の足どりを洗え。感染者をあぶりだせ。弱者が怖い存在になる。

パンデミック国家は差別と偏見に満ち溢れる。
朝鮮人を殺せとがなり立てた大正の普通の人々。
パンデミック国家の中心で製薬会社と政権の回転ドアがクルクル回っている。







THE ISLAND

2019年06月10日 | 朗読
THE ISLAND







THE ISLAND






One says, “light and shadow,” yet only light is here.
Things one see as shadow also reduce to light now.
The light of cloud, the light of leaves, the light of water.
The dock has no bridges, no shadow.


At the Gavutu harbor ruins of Yokohama air fleet,
Only shadow remains of the lost flower.
Only memory remains of the lost scent.
Only light remains of the lost color.


The shadow of the word, the shadow of the voice.
The light, single and multitude.
The soldiers had no shadows.


On Solomon Islands,
In the first color from beings,
Light children playing with light birds.








【朗読】十二ロールのシングルのトイレットペーパー

2019年06月09日 | 朗読
【朗読】十二ロールのシングルのトイレットペーパー







movement et temps 第九番


十二ロールのシングルのトイレットペーパー



どこにも存在しない青い花がプリントされた、ビニールのパッケージからは微かにその青い花の香りがしている。ドラッグストアーのやや高い棚に積み上げられた十二ロール入りのパッケージはあまり目立たない。「ふっくらやわらか」がセールス・ポイントのトイレットペーパーも、四つずつ三段重ねると意外に重い。一ロールで五十メートルあると謳っている。五十メートルの空間が十二個凝縮しているわけである。つまりは六百メートルの空間が、この安っぽいビニール・パッケージ一つの中にある。次々に縦に伸びるか横に重なって広がるか、垂直に高い壁と化すか、意外な重さは六百メートルの空間の重さであった。五十メートルのロールの芯には幻の青い花の香りが宿り、それが六百メートルの空間を自在に咲き乱れている。どこにもない青い花が咲き乱れた夏野をまるめて十二ロール、手に提げてレジに並ぶ。下の方に買い物した印の黄色いテープを貼ってもらって帰る。幻の花の消費量は激しいのである。







【朗読】茄子

2019年06月09日 | 朗読
【朗読】茄子




movement et temps 第十一番

      茄子





茄子の笑いは人知を超えている。とぼけた丸い頭と江戸紫のテカリ、しっぽの恣意的な曲がりとヘタまでの絶妙な紫のグラデーション。茄子は一個の人格である。憎めない。憎からず思っている茄子を裏返すと、ヘタから白い光が射している。光が射して紫が静かに開けるところである。日の出だ。夜が明けると茄子が三本、キッチンの水を張った桶の中でうなずき合っている。きらきら水滴のついた茄子を一個、まな板の上にころがす。包丁の刃を斜めに入れると、ざくっと気持ちのいい手ごたえがある。そして、いつの間にか手ごたえも包丁も消えて茄子そのものになっている。茄子――それは天地に満ちた大いなる笑いなのである。



   天地のむらさき満つる茄子かな







【俳句の朗読】

2019年06月07日 | 朗読
【俳句の朗読】夏の俳句13句「薔薇の柵」






夏の俳句13句「薔薇の柵」


扇風機話すそばから風の聲

紫陽花や無明なる世の手の穢れ

扇風機あらぬ方へと風送り

湯上りの牛乳美味き薄暑かな

更衣心もかへてみたきかな

椎の種降りしきるなり薪能

青葉して言葉なくあるありがたさ

郭公の聲に静まる宇宙かな

四十雀天なる聲に地なる聲

閻王も人も通れぬ薔薇の柵

天上の光る葉の上四十雀

閻王の口より出でし牡丹かな

夏帽子裏山といふ翳りあり


詩「燃えるごみ」の朗読

2019年05月25日 | 朗読
詩「燃えるごみ」の朗読:連作散文詩「mouvement et temps 第10番」







燃えるごみ




燃えるごみの重さは水の重さである。傷んだトマトの水の重さである。レタスの芯の水の重さである。キャベツの堅い葉の水の重さ、胡瓜のヘタの水の重さである。プリントアウトしたモンサントの記事に引いた赤い線は、やがて包まれる炎の予兆であり、ティッシュの中の小さな蜘蛛は、命のまま炎に包まれた反逆者たちの悲鳴である。片方だけ残った古い靴下は、失われた大地と雲の記憶である。これらを一括りにして燃えるごみの袋へ入れる。燃えるごみの重さは火の重さである。燃えるごみの重さは大地の重さである。木曜の夜、ごみを出しに行くと赤い月が出ていた。やがて火となり水となり土となるごみを提げて、近くて遠い道のりを集積場へと歩いてゆく。燃えるごみの山の中へ袋ごとごみをほうり投げる。ドスッと心のように孤独な音がした。ふり返ると燃えるごみが燃えている。炎が高く月に届くほど燃えている。夜のごみ集積場はあかあかと燃えている。



詩「てのひら」の朗読

2019年05月20日 | 朗読
詩「てのひら」の朗読:連作散文詩「mouvement et temps 第6番」


詩「回転」の朗読

2019年05月19日 | 朗読
詩「回転」の朗読:連作散文詩「mouvement et temps 第1番」


詩「四十雀」の朗読

2019年05月19日 | 朗読
詩「四十雀」の朗読:連作散文詩「mouvement et temps 第8番」


詩「砂時計」の朗読

2019年05月19日 | 朗読
詩「砂時計」の朗読:連作散文詩「mouvement et temps 第5番」