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金利調節と量的調節の持つ意義とは

2011年08月22日 15時52分26秒 | 経済関連
本当に、全くの独自見解で申し訳ありませんが、前の記事の続きというか、補足ということで。

何度も喩え話で用いてきたのですが、人体の循環系調節というのを思い浮かべてもらいたいな、と。圧力(血圧)と循環血液量のコントロールが必要とされる、というようなことです。これは、金利と通貨量をコントロールするのと、とてもよく似ている、ということなのです。どちらも重要なコントロール手段なのです。


最も単純な例を考えてみましょう。
今、ふたつの閉じた風船があるとします。中には水のような流体が入っているものと思って下さい(同一であるものとします)。それぞれの体積は分かりませんが、とある量が入っています。
風船の圧は、風船Aが5、もう一方の風船Bが1であるとしましょう。この2つをあるパイプで連結するとします。そうすると、二つの風船はどうなるでしょうか?
そうですね。パスカルの原理が教えてくれたように、双方の圧力が一定の所に落ち着くまで、中の流体が移動することになるでしょう。圧の高い風船Aから、低い風船Bに移動するということです。その後には、双方の流体移動はなくなり、平衡状態となるでしょう。経済で言うところの、均衡というのと同じようなものです。

これが、圧力ではなく金利であっても、似たような変化が考えられます。流体がお金であるとして、金利が5%の銀行と1%の銀行は別々な市場で存在するとします。2つのが同一市場として連結されると、預金者たちは金利の高い方が好ましいのでそちらにお金を移します。1%だった銀行は金利を上げざるを得なくなり、同一の金利になるまで資金シフトが行われる、ということです。預金ではなく、債券の方がいいかもしれません。需要が高まって債券価格が上がってゆく(金利は低下)、もう一方の方は債券価格が下がってゆく(金利は上昇)という変化が理解し易いでしょう。最終的には、均衡状態となります。それはどちらの銀行の売る債券も同じ価格になっているであろう、ということです。

中央銀行というのは、流体の圧と量を調節すべく、金利操作を行います。金利操作とは、連結しているパイプの直径を変化させるようなことです。流体の通過抵抗を変えるという働きをするわけです。金融緩和というのは、パイプを太くして流れやすくする、逆に引締めというのはパイプの直径を絞って狭くすることで流れを妨げるということです。金利と言うのは、全体の圧の高さを調節するのと同時に、パイプ直径を変えて抵抗を変化させる意味を持つのです。
同時に量の調節も行いますので、余った流体を吸い上げたり、足りない時には放出したりするわけです。

今度は3つの風船の連結体を想定してみましょう。
銀行、家計、企業という3つです。中央銀行は銀行に直結しているので、本当は別に存在しているのですが、とりあえず今はそれも銀行に含めて考えることにします。金融緩和が行われると、銀行の金利が下がるので家計は銀行に預金しておくよりも先に使ってしまおう、ということになります。5%の金利の時の預金したいと思うより、3%や1%の方が預金したいと思う人は減るというようなことです。更に、企業は銀行借入が行い易くなるし、今借りておくとお得だと思えば借りるわけです。つまり、家計や企業に銀行からのパイプを太くする(通過抵抗を下げる)ことになると同時に、全体の圧力水準は低くなる(社会全体での金利低下)、ということになります。この時、体積はどうなっているでしょうか?恐らく、緩和前に比べて大きくなっているでしょう。体積が大きいというのは、量的に増えているということです。通貨量が増えているのと同じような意味合いです。

引締めに転じるとどうなるか。
各風船を連結しているパイプ径は縮小し、抵抗は増す。家計は預金を増やしたいと思うようになるので、銀行にお金が集まる。企業も、収益が増えて銀行に預けるお金が増えたり借入を減らすので銀行に戻ってくる量が増えるということになる。その銀行の余ったお金は中央銀行が吸い上げてしまう。体積は小さくなり、通貨量は減少する。

定常状態に近い(成長しない)経済ならば、こうした拡大と縮小を繰り返すだけなのでしょう。けれど、現実の経済は成長するのです。人間が子供から大人に成長するが如く、全体の体が大きくなってゆく、ということがあります。子供の循環血液量と大人のそれとは、大きく異なります。血圧と言う話だけではなく、量的には増大してゆく必要がある、ということなのです。経済成長は、それとほぼ同じような意味合いです。なので、大きく成長していっている間は、少しずつでも血液量を増やす必要があるのです。つまり、通貨量も増える必要がある、ということです。

ゼロ金利状態というのは、どういうことなのだろうか。
上の例で考えるならば、パイプの直径を変化させる、という調節能は失われた状態ということです。もうこれ以上、パイプを太くすることができない、ということです。パイプをもっと太くできないと、今以上には通り易くはできない、通過抵抗を下げることができない、ということになります。じゃあ、どうすればいいか。金を流す方法はないのか、ということですけれど、だったら、「体積を大きくすればいいじゃないか」と。風船を連結しているパイプを変化させられなくとも、内部の流体を増大させることはできるのではないか、ということです。これが量の調節ということの意味です。
極端に言うなら、風船周囲を陰圧にできれば、風船は当然に膨らみますわな。銀行の風船の圧力がゼロであっても、陰圧であれば、マイナスの圧なのだから、家計や企業の風船の体積は増大する、ということなのです。実質金利を下げる、マイナスにする、ということの意味は、そういうような意味合いでしょう。名目値であるところの、圧力は下限がゼロであっても、体積を変えることは不可能ではありません。マイナスの実質金利は、インフレ率が名目金利を上回る水準でなければ、起こりません。デフレ下では、勿論風船周囲の圧力を逆に高めているだけなので、体積が増える(マネーストックが大きくなる)はずもない、ということです。

長い期間、高血圧症の状態が続くと、腎臓や脳のautoregulationのレンジは上がってしまうのです。そういう環境に慣れてしまうから、ということでしょう。各臓器に元々備わっている自動調節能の下限値が変わってしまう、ということです。低い状態が続いたとしても、やはり、レンジが変わってしまうでしょう。デフレというのは、そういうのと一緒なのです。インフレもそうかもしれません。変動域を大きく変えるということは、そう簡単には行かないのです。


それから、風船の連結体のようなものは世界各国に存在し、その連結体は世界全体の市場ということと同じです。昔に比べると、この世界全体の連結体の連動性は高まりました。それは、どこかの国の調節結果が、他の連結体にも影響が及びやすくなった、ということです。かつては、現在のような連動性はありませんでした。各国の市場が独立性が今より強く、連結されていたパイプがもの凄く細かったので、通過できる絶対量に限りがあったからです。
この連動性が上がった要因としては、ざっと次のようなものがあるかと思います。

①政治的な要因:
分かりやすいのが、旧ソ連との東西冷戦構造のようなものが消えたこと。今のロシアや中国のような共産圏諸国が西側経済に連結され、市場プレイヤーとして登場してきたのは、政治的なハードルが大きく改善されたから。けれど、例えばイランや北朝鮮のような立場となれば、やはり積極的には市場に参入できず、連結性は乏しくなる。

②物理的処理速度=ハード面など:
通信網や通信速度、コンピュータそのものの劇的な性能向上、そういうものによって、即時性が高まった。結果の反映も、早まった。90年代前半の日本で株式の売買注文を行うには、前日までに出しておけ、とかで、電話で注文してからそれが反映されるまで1日かかっていた。結果を知るまでには、もっとかかった。今は、瞬時に結果まで分かる。

③情報伝達速度:
欧州の市場で起こった変化は、すぐさま日本の投資家たちにも伝わる。政策当局の態度や反応や議論の仕方なども、ニュース伝達網を通じて、世界中に一気に拡散する。インターネットの登場は、こうした情報伝達速度を劇的に変えた。結果として、投資家の一致したような行動や反応は、昔に比べて起こり易くなったであろう。同時に、何処かの国の政策変更などが他の国のコンパートメント(上述した風船のようなもの、各経済主体のこと)に影響を及ぼし易くなった。ギリシャの金利変化は、影響が日本にも及ぶ、みたいなことですね。

④物理的移動速度、しやすさ:
政治的要因にもあるけれど、国境を越える障壁は格段に小さくなった。旧ソ連や中国への入国すら非常に困難だった時代と比べて、今は、簡単にモノや人が移動できるようになった。このことは、経済活動の効率性を高め、結果として連動性も高まることになったであろう。金を出す企業家や投資家たちが行き来し易いということは、資金逃避なども早くなった、ということを意味するからだ。


なので、今の方が昔(例えば前世紀)に比べて、他国の経済政策の影響を受けやすいということは考慮しておく必要があると思います。