駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

雪国に春は

2014年03月23日 | 

                         

 四十数年前と言っても昨日のようだが、医者になって戸惑ったことは数々ある。その一つが医者の扱いである。まず、呼称だ。なんで突然、「おい、お前」が「先生」に変わるのか、冗談もほどほどにして欲しいと思った。まあ、石を投げれば先生にあたると揶揄される日本社会だから、気にすることでもないかもしれないが、白衣の中身は昨日までの学生、非常に違和感があった。特に年上のMRから丁重に「先生」と呼ばれるとかえって恐縮したものだ。尤もNのようにすぐ「あれやれ、これやれ」と命令口調で対応するような奴も居たが。

 MRという不思議と言っては失礼だが、医薬品情報を提供しながら自社薬品を売る職業があるのを知らず、最初は何をしに来る人なのだろうとおぼこいことを言って先輩にあきれられたのだが、以来百人を超えるMRさんとお付き合いをしてきた。町医者は、意外と孤立していて世間や医業界の情報が入ってきにくいのでMR諸氏は外界との窓口という意味合いもあり、時間のある時はいろいろな話をしてきた。

 彼らは典型的な転勤族で、日本全国を歩いている。北海道から九州まであらゆる所を回ってくる。地方の話が大好きで、行ったことのない土地住んだことのない土地の話をいろいろ聞いてきた。まあ、大きな声では言いにくいが、京都大阪名古屋はMRさんにはやりにくいところらしい。そうして全国を転勤して回るうち家族もでき子供も大きくなると、どこかに持ち家をとなるのが定番で、故郷を離れた任地に家を建てるMRさんは多い。Iさんは兵庫県の瀬戸内側出身なのだが、雪の新潟に家を建てたという。気に入ったからそれでよいのだろうが、なんでまたそんな寒いところにと余計なことを言ってしまった。「いや、雪国の春もいいんですよ」。とにっこりされた。そんなものかねと内心思ったことだ。春分を過ぎたが、雪国に春は届いているだろうか?。

コメント (4)
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