駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

忍び来るもの

2012年10月12日 | 小験

        

 忍んで来るようなものは大抵歓迎されないものとしたものだ。色恋沙汰なら、まんざらでもと思われる方も居られるかもしれないが、人目を忍ぶのでは歓迎しない関係者が居るだろう。

 院長と言えば統括が仕事のように思えるが、零細医院ではレジの小銭を揃えるのも仕事になっている。どうも妻が事務長というのは考えものだ。

 いちいち小銭の枚数を数えるのは手間なので、小銭入れに並べて五十枚にしている。これはまずまず順調にできる。問題は揃えた十円や百円をレジに入れる時だ。崩して手の平に受けてやればいいものを両端を抑えて棒状のまま移動させようとするから事故が起きる。力の入れ方が足りないと、棒が中ほどで破綻し小銭をばら蒔くことになる。それには懲りているので十分力を入れて慎重にやるのだが、肘が壁に当たってあっという間に小銭をばら蒔いてしまう。こうなると、ことだ。リリーは私は泣いていますベットの上でと歌っていた。私の場合は受付の床に這いつくばって泣いていますということになる。なぜかというと、小銭を上手く摘まみあげられないからだ。

 ついこの間まで、こんなドジは踏まなかったし、小銭を床から摘まみあげるのもさほぼ難儀ではなかった。薄暗い待合室を振り返ると背後に私に忍び来るものの気配を感じる。なんだか「おい、おい」。と泣きたくなる

コメント (2)
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