駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

内省の秋

2012年10月29日 | 身辺記

    

 ついこの間まで暑い暑いと言っていたのに、もう書斎に暖房が欲しいくらい寒くなった。忍び寄る秋ではなく、駆け寄る秋だ。屋内に居る時間が長くなるせいか、読書の秋などと言う。秋でなくても、活字中毒の私は本に囲まれ、積ん読書に励んでいるのだが、もう少し読みたいなあという気持ちは確かに秋になると強くなる。

 物思う秋でもある。少年老い易く学成り難し一寸の光陰軽んずべからずと父がよく言っていた。もはや学成ることのない私は勝手に別に学でなくとも成り難いと思うようになった。父がどんな感慨を込めてそう言ったかはもはや分からないが、子供の私に教え諭すというよりは、実感として口について出たのだろうと想像する。

 四十の声を聞くまでは、何か業績とか地位をという気持ちがあったような気がする。どこかで、矢のような光陰に何とか追いすがろうとしていた。しかし、開業してからは患者を診ることに専念できるようになり吹っ切れた。好判断だったのかもしれない。

 もう既に母の享年を越え、あとは何時まで診療ができるかという所まで来た。円熟にはほど遠いが、残り少ないと邪念は消えてゆく。時にはコンニャロウという患者に出くわして、腹立ち心塞ぐ日もあるのだが、学は成り難し否人生も成り難しと思いなして働いている。

コメント (4)
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