駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

特急おしゃべり男

2011年04月16日 | 診療

 おしゃべりは女の専売特許のように言われており、確かにおしゃべりな人の割合は女性の方が高いのだが、特急のおしゃべりとなると男にも相当の御仁が時々居る。

 こういう事を書くと睨まれるかもしれないが、おしゃべりな人の話は繰り返しや冗長な説明感想が多く、しかもその内容は自分や自分の身の回りのことがほとんどなので、はっきり言えば十分の一にまとめられる。嫌みに言えば十倍伸ばされている。

 どちらかと言えば無口な私にはとうていできない芸当なのだが、口を挟まなければ五分でも十分でもしゃべり続けている。特急おしゃべり男の場合、声が大きく(甲高いことが多い、低音には未だお目に掛かっていない)間断なく話す人が多く、しかも女性と違って聞き手の反応にさほど関心を払わない。

 これが患者さんだと聞いている方はカルテを書くのが大変である。一言の質問に返ってくる十言の要点を少しずつ書き取り、果てこれは何かなと考えていると、十分伝わらなかったと思うのかまた初めから大声で全く同じでは気が引けるのか多少脚色しながら、訴えが始まる。これでは考えが上手くまとまらない、その内頭が痛くなってくる。耳元であーでもないこーでもないと途切れなく大声で話されると考えることが出来ないのだ。「頼むから静かにしてくれ」。と言いたくなるがそうは言わず奥の手を出す。おもむろに診察を始めるのだ。「はい、口を開いて」。「胸を出して」。とゆっくり呼吸をさせ、異常のない聴診を長目にしながら、考えをまとめてゆく。「これは鼻風邪ですよ。暖かくして少しお茶を多めに飲んで、お薬を飲んで下さい」。

 彼の声は待合室にいてもドア越しに何を言っているのかは分からないが聞こえており、やがて静寂が訪れる。ははあ、お帰りになったなと心の中でニッコリする。ちょっとかなわないなあと思うことはあるが、歓迎しない患者さんとまではゆかない。ちょっと神経質な傾向はあるが人なつっこく悪い人は居られない。待合室に入ってくると声がするので、あっ来たなとわかる。何ヶ月も来ないと「KさんMさんこの頃来ないねえ元気だか」。と話題になる。

コメント
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