大地は恵みをもたらす。ここに越してくる前からあった庭のツゲの生垣は、ところどころ枯れるようになった。枯れた枝は切り取るからところどころ隙間ができてくる。通行人がよく見えるようになった。だいぶ前まではかなり繁っていて、スズメバチが巣を造りあわてて駆除を頼んだこともあった。
いまの庭は阪神淡路・地下鉄サリンの1955年に家を新築した際、近くに住む庭師さんにすべてお任せして出来た。ウメ、カキのほかにマツ、ハナミズキ、サルスベリ、クロガネモチなどが植えられた。その中でウメはアブラムシにとりつかれたり、誤った剪定などで急速に劣化が進行して昔の面影はない。かつては梅酒を作るほど実をつけたり、ハトが巣作りをしたこともあった。
庭に自生するフキは早春に蕗の薹の天婦羅の恵みをもたらす。そしてフキは木々が新緑になる今頃は冬枯れの無残な庭の景色を一変させる。地下茎から多くの葉柄を立てて、大きな丸い葉で庭を緑一色に染めてしまう。葉柄を熱湯で下茹でしてアクを抜き、表面のスジを取り煮物や佃煮としていただく。冬に花が咲くツワブキも庭にあるが、これを食用にすることはない。
せまい裏庭に自生しているのはミョウガである。素麺の薬味や天ぷらや酢の物にしていただく。フキもミョウガも放置していても季節になると恵みをもたらしてくれるからこんなありがたいことはない。サンショウの木からは料理に添える若葉「木の芽」がとれる。カキの木の芽吹きの頃の若葉は何ともいえぬ鮮やかな色で目を楽しませてくれる。高くて収穫には難儀するが、秋には少ないながらも実をつける。キンカンは小さな実ばかりでもっぱら小鳥のえさとなっている。