脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「アルツハーマー型認知症はアミロイドベータが原因」なのですか?

2024年07月02日 | エイジングライフ研究所から
ネットニュースを見ていたら、以下に青字で書いた記事を見つけました。
6/30に投稿したばかりですが、もう一度。
「アミロイドβが認知症犯人説はどう消えていくのか」

The Japan Times Alphaの記事(英文を和訳)
「アルツハイマー病、血液検査で予測可能」
日本の研究者たちは、アルツハイマー病を引き起こす異常なタンパク質の有無を血液検査で調べることで、アルツハイマー病の発症を高い確率で予測する方法を確認した。東京大学の研究者たちのグループは、この発見を医学誌『アルツハイマーズ・リサーチ&セラピー』で5月23日に発表した。類似する発見はすでに発表されてきたが、最新の研究結果は、人種や民族にかかわらず、この方法が機能することを示していると研究グループは述べた。
タイニーマイス

この記事の前提は、「アミロイドベータを除去する創薬開発に世界中で60兆円も掛けた結果、すべて失敗に終わった。実はアミロイドベータは発症の何十年も前から溜まり始めていることがわかった。溜まってしまったアミロイドベータを除去しても効果がない。ならばできるだけ早期にアミロイドベータがたまらないように手を打てば、発症しない(はず)」というものです。
だから早く見つけることができれば効果が見込めるうえに、この研究によって世界中の人たちを対象にできることになって、救える対象者も膨大になるし大きな利益にもつながるだろうということです。


はて?
「認知症を発症させるのはアミロイドベータ」説は万全なのですか?文頭にあげた二日前の記事で書いたようにこれはもともとあくまでも仮説。しかも根拠となる論文に改ざんが見つかってしまっている状態ですよ。


日経新聞web版
「エーザイ、認知症の「本丸」狙う新薬 米で30年度にも」
エーザイはアルツハイマー病の症状を引き起こす「タウ」と呼ぶたんぱく質を標的とした新薬を開発する方針だ。新薬候補物質について安全性を確かめる小規模な臨床試験(治験)を進めており、米国で2030年度をメドに実用化する。タウを標的にする新薬開発は難しい一方で高い効果が期待されている。
以下、アルツハイマー型認知症発症の機序、アミロイドベータとタウ蛋白の関係、タウ研究の経過の解説は省略。
世界の大手製薬会社がタウを標的にした新薬開発に入っていること。エーザイは世界で唯一、承認されている治療薬レカネマブを持つため、レカネマブと今回開発を目指す新薬の組み合わせに商機を見込み、「アミロイドに続き、タウを標的とした治療薬を実用化できればアルツハイマー病の治癒も視野に入ってくる」と期待を寄せる。
アルツハイマー病を中心とした認知症の患者数は23年時点で世界に5500万人以上いる。エーザイは既存の治療薬レカネマブについて販売地域の拡大を進め、レカネマブだけで32年度に売上高1兆3000億円とする目標を掲げる。タウを標的とした新薬が実用化できればアルツハイマー病治療薬の売上高のさらなる上積みにつながりそうだ。

日経新聞ですから経済に軸足を置いた記事ではありますが、なんとなくこれで認知症の治療薬がどんどん開発されていくだろう。一歩先んじたエーザイも安泰だろう。などなどと明るい未来が見えるような気になってきます。

はて?もう一度繰り返させていただきます。
「認知症を発症させるのはアミロイドベータ」説は万全なのですか?文頭にあげた二日前の記事で書いたようにこれはもともとあくまでも仮説。しかも根拠となる論文に改ざんが見つかってしまっている状態ですよ。

なぜこのような展開になるのか、私にはさっぱりわかりません。
それより、皆さんがなんとなくではあっても確信している「生活ぶりにこそ認知症になるかならないかのカギがある。イキイキと自分らしく楽しく生きている高齢者はみんな元気」ということを正しいと保証する「権威」は出てこないのでしょうか?
by 高槻絹子



「アミロイドβが認知症犯人説」はどう消えていくのか!

2024年06月30日 | エイジングライフ研究所から
6月24日、MHKのクローズアップ現代は「”誤診”される認知症 適切な治療を受けるには」というテーマでした。
”誤診”というのなら正しい”診断”があるはずですが、実はそこに問題があって、エイジングライフ研究所は、現在流布されている認知症の診断そのものに大きな疑問を持っています。
そろそろ巣立ち



世の中で行われている診断の大きな前提は、アルツハイマー型認知症発症の原因を、アミロイドベータの蓄積による老人斑が正常な神経細胞にダメージを与えて萎縮が起き、その結果として脳機能を衰えさせるということに帰着させています。アミロイドベータを追求していくと行き詰るためにタウ蛋白に原因を求める立場もあります。
この前提のもとに開発された認知症治療薬アデュカムマブやレカネマブについても、いくつか記事を書きました。

スモモ

アミロイドベータに関する歴史をまとめておきましょう。
アルツハイマー博士は、のちにアルツハイマー病と名付けられる若年発症、急速に認知症症状が進行して亡くなった患者の死後剖検で多くの老人斑と顕著な脳萎縮を発見。その老人斑がアミロイドベータからなっていることは、ずっと遅れて1980年代に入ってから判明しました。
サンゴバナ



1991年、John HardyとDavid Allsopが「細胞外アミロイド沈着がアルツハイマー病の原因である」と仮説発表。
2010年、「アミロイドベータの毒性で神経細胞が死滅して脳萎縮が起き認知症を発症する」といういわゆる「アミロイドベータ仮説」が提唱され、この仮説が現在に至るまでアルツハイマー型認知症発症の原因と信じられています。
世界中の権威あるところや人にとっての最重要な聖典のようです。
トゲあるウチワサボテン

前掲の記事にも書いたように、アミロイドベータを標的にした創薬はすべて失敗に終わり、アメリカ食品医薬局のアデュカムマブの迅速承認に対して、職を辞した委員たちがいたのは、アデュカムマブによって認知機能が改善するという根拠に対する疑念があったからです。
アクあるゴボウの花

さらに付け加えます。2022年に報道されたこのニュースは、どうして大きな動きを生まないのでしょうか?正確を期すために引用します。
Newsweek (2022.7.27)
「アルツハイマー病の原因はアミロイドβ、とした重要論文で画像操作の可能性が明らかに」
米ミネソタ大学(UMN)のシルヴァン・レーヌ准教授らの研究チームは、2006年3月16日付の学術雑誌「ネイチャー」で、「『アミロイドベータスター56(Aβ*56)』というオリゴマー種がアルツハイマー病に関連する認知障害に寄与している可能性がある」との研究論文を発表した。
アルツハイマー病の早期治療における有望な標的として「アミロイドベータスター56」が注目され、この研究論文はこれまでに2269本の学術論文で引用されている。
しかし学術雑誌「サイエンス」は2022年7月21日、6カ月にわたる調査の結果、「この研究論文は画像操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じた。
また、「ネイチャー」ではこの研究論文に7月14日付で「一部の図表について疑義が指摘されている。ネイチャーは調査をすすめ、すみやかに回答する予定だ。この間、この研究論文で報告された結果を使用する際には注意するよう勧める」と追記している。

Business Insider(2022.7.29 )
「アルツハイマー病研究の重要論文に改ざんの疑い」
2006年に発表され、その後のアルツハイマー病の研究に大きな影響を与えた論文に、改竄された内容が含まれている可能性があるという調査結果が、科学誌「Science」で発表された。
この調査によって、ミネソタ大学の研究者、シルヴァン・レスネ(Sylvain Lesné)を筆頭著者とする2006年の論文に画像の改竄があったことを示唆する証拠が示された。
2200以上の学術論文に参考文献として引用されたこの論文は、アルツハイマー病の早期治療の有望な標的としてアミロイドβ*56というタンパク質への関心を呼び起こした。

クルクル飛翔する紅葉の種
後半のナンレポートをぜひ読んで考えてみてください。
「100歳の美しい脳」デヴィット・スノウドン著

*アルツハイマー変化は脳重量・萎縮の状態・アミロイドβ沈着状態からみます。
*ステージというのがアミロイドβが沈着している状態です。0が最小、増えるとともに数値があがっていきます。
*青欄は状態が良好、赤欄は状態がよくないことを表しています。
82歳の例のようにアルツハイマー変化がほとんどなく、絶対ボケてるはずがない脳を持ちつつ、重度の認知症をきたした例。91歳と?歳の例のようにアルツハイマー変化が大きくても、全く認知症がない例。さらに100歳という超高齢でありながらアルツハイマー変化がなく、認知症状も皆無であった例。
これは実証研究ですが、どう考えますか?
脳のアルツハイマー変化と認知症の発症には関係がないということにならないでしょうか?
スカシユリ

そろそろアミロイドベータの呪縛から逃れてもいいのではないかと思うのです。
認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症の正体は、脳の使い方が悪くて、特に前頭葉の出番がなくなって脳機能の老化が加速されてしまったもの、廃用症候群です。その立場に立ちさえすれば、
「脳の使い方生き方によって認知症は防げる」「いきいきと自分らしく、楽しい日々を工夫して過ごす」という高齢者にとって希望的で納得のいく指針を示してあげられると思います。
by 高槻絹子

高齢者の自動車事故は前頭機能低下が原因

2024年06月11日 | エイジングライフ研究所から
高齢者による自動車事故のニュースが度々報じられています。今までブログにたびたび書いてあるように、高齢者の自動車事故の原因としては前頭葉機能低下が最も考えられるところです。突然の脳卒中発作や心臓病なども皆無ではないでしょうが、その確率よりも問題にすべきは前頭葉の機能低下です。(一番上の記事が直近で2022年。一番下の記事は2008年のものです)






最近の花を紹介します。
ブーゲンビリアの花

ブーゲンビリアの全体像

テレビの声が飛び込んできました。最近多発している高齢者による運転事故を受けての特集のようでした。羽鳥慎一モーニングショー6/11。
お話をしているのは自動車教習所の指導員歴35年の方。3万人以上に免許更新や安全教習をなさったとのことです。
おもしろいほど、小ボケの人たち(前頭葉機能には支障が起きているが、世の中で一般的に行われる認知検査には合格する脳機能レベルの人たち)が運転するときの特徴を言い当てています。
高齢者の免許更新については、警察庁のHPの中に解説図があります。

75歳以上の高齢者の免許更新については、この改正された制度で自分が受けてみて感じたことを書いてあります。
免許更新時の認知機能検査(75歳以上)の問題点
ここに書いたように検査そのものが的外れであるうえに、実に簡単にクリアできるような採点方法になっています。さらに上図をよく見るとわかるように、この検査はできるだけ合格させる方向で組み立てられています。この簡単すぎる認知機能検査で「認知症のおそれあり」に該当した高齢者でも医師によって「認知症でない」とされたら、免許更新の道は残っています。
最近の高齢者の事故では「認知機能検査には合格していた」と付け加えられることが多いですよね。検査そのものが安全運転の基準を満たしていないということでしょう!
(続)高齢者の危険運転の後半を読んでください。今のように完成された認知症だけを認知症と診断していたら、そのドクターが糾弾されることになる可能性があります。このアプローチも大切かもわかりません。
ベニガクアジサイ

実車指導、運転適性検査、講義の三本立てで免許更新はできるのですが、一番免許更新の可否にかかわりそうなのは実車指導ですね。実車「指導」であって、車を運転させてその人の運転能力の合否を決めるわけではなく、ただ乗るだけ…つまりどんな運転をしても全員合格です。
テマリテマリ

この実車指導時のエピソードがおもしろい。(実車指導時は指導員のかたと免許更新希望者は複数名乗ります)
一時停止を無視。
「しっかりと待ってください」と指導。
「あそこで停まっても周りが見えず、停止線の位置がおかしい」

左折時、対向車線に出る。
小回りするように注意。
「いつもの車と違うからうまくできないだけ」

同時乗車している免許更新希望者の実車指導後
「運転が怖かった。カーブのスピードが速すぎ。交差点でふらつく。一時停止無視」などと正しい感想を言う。
自身も同様の運転をするので指摘する。
他人事。
ウズ

もう一つのエピソードは認知機能検査の時のことでした。
テスト実施について解説するときに、適切なタイミングでうなづきながら聞いているので理解していると思って、開始の合図をすると
きょとんとして「何をするんですか」という。
この指導員の方が感じる「これはなにが起きてるのか!」という違和感がとてももよく伝わってきました。
名前不明の色が魅力的なアジサイ

小ボケの方の家族が、症状を説明するときに
「何かしゃべるとおかしくない。それどころかもっともだというようなことも言えるんです。でも…やってることはどこか前のおじいさんorおばあさんと違うというか、前ならしなかったようなことをしたり、絶対するはずのことをしなかったり…」といいながら、同時に「この違和感はわかってもらえなさそう」というアピールを感じることはよくあります。
そのようなときには、日常生活の具体的なシーンのことを聞きます。
着衣、食事(作法も炊事も)、入浴、トイレ、掃除、片付け…その時「車の運転で最近気がかりなことはありませんか?」と質問すると、家族はとても具体的に訴え始めるのです。
車を運転するには、前頭葉機能のうち、最も早期に低下し始める注意集中・分配力が必須です。家族にはその変化がわかりやすいのでしょう。
多肉植物(紅輝殿?)の花

「流れに乗れなくて、マイペースで走るのでスピードが遅すぎて怖い」
「慣れた道なのに、どこを走っているのか、わからなくなってる時がある」
「ブレーキをかけるタイミングが変わって危ない思いをよくする」
「フラッシャーが遅い」
「左や右に寄りすぎる」
「半ドアのことが多い」
「駐車場で車をたびたび探す」
「ぶつけた時に、ブレーキをかけた後にそのまま進んで傷を大きくしてしまう」
「自宅の駐車場でたびたびぶつける」
「事故を起こしたときに対応ができない」
ヒペリカムの花と実




先の指導員の方は続けて
「免許更新の時ぎりぎりで合格している。運転技術が危うい高齢者がいる」というふうに言われました。そういう高齢者もいるし、指導員として厳しくみても合格!といえる高齢者もいるということですよね。もちろんその間も。
ぎりぎり合格者のぎりぎりを生み出すものが前頭葉機能がうまく機能していない結果だとは思われてないような。それこそが認知症の早期状態とは思われてないような。
世の中の趨勢というか権威ある方々はこのレベルを認知症の始まりと思っていないのですから、致し方ないのかもしれません。でも、ここまで気が付いているのですからかなり残念なことだと思いました。

by 高槻絹子



変形性膝関節炎と膝蓋前滑液包炎(女中膝!)再掲

2024年06月03日 | エイジングライフ研究所から
友人と話していて、テーマが変形性膝関節炎になりました。高齢者によくみられるものではありますが、膝の不調をすべて変形性膝関節炎にすべきではないと、8年前に体験したことを話しました。彼女の勧めもあって再掲することにしました。

昨日珍しく虹を見ました。Googleフォトの「編集」に標準的についている機能だけを使って編集しました。色彩補正、切り抜き、消しゴムマジック、3D変換。ちょっと不思議な写真になりました。


変形性膝関節炎と膝蓋前滑液包炎(女中膝!)
初掲載2016年4月18日
1か月くらい前、右膝をついたとき一瞬、膝に痛みが走りました。表面的には何の変化もないようですし、どこが痛いか押してみてもよくわかりません。
膝をついたときでも痛い時もあれば全く痛くない時もある程度です。それ以上に歩くことに何の支障もありません。坂でも階段でも平気ですし、スピードも落ちていません。もちろん歩き始めに問題があるわけでもありません。そうそう、正座も問題なくできます。
たいしたことはないと思ってましたが、もし何かが入り込んでいたら早めに取り除いた方がいいと思って受診しました。ちょうどガラスの破片でも入っているかのようなチクっとした痛みでしたから。
(庭のハナミズキの様子を見てください)

「膝をついたとき、チクっと痛い時があるのですが、そのほか日常生活では何の問題もありません」と症状を説明します。
内科・外科を看板に掲げているドクターは「ああ、それは変形性関節炎と言ってね、まあ齢をとるとねえ…」とちょっと笑いながら言われました。
私は、高齢者外来(早期痴呆相談窓口)で働いていた時に、膝に支障があるおばあさんにたくさんお会いしましたので、病名も承知していましたし症状もよく知っている方だと思います。(不思議なほど女性に多かったと思います)
「歩き始めや階段昇降に支障があり、正座ができない」とよく訴えられました。上に書いたように私にはその症状は全くありませんしたが、「え~!」とちょっとショックを受けながらも「元気に過ごしているようでも、私も齢なんだ。それにしても変形性膝関節炎とは…」と、とても素直にドクターの説明を聞きました。

なぜ、「普通の変形性膝関節炎の症状がない」ということをもう一度訴えなかったかと後で思ったのですが、私の知らない「跪いたときに痛みが走るタイプの変形性膝関節炎がある」と思い込んだのです。
しばらく周りの人たちに「私、変形性膝関節炎なんだって!齢をとるとこんなに急に来るものなのね」と言い回り、逆に「あら、私も膝が痛いことはよくあるわ」とか「痛くてもそのうち痛くなくなることもあるのよ」など、皆さんが結構膝の痛みを持っていることもわかってきました。

でも、ある時「歩き始めや階段昇降に支障がなく、いくらでも歩け、正座もできる変形性関節炎はあるのだろうか」と疑問が起きてきました。
困った時のネット検索。ネットは玉石混交だからすべて信じることはできません。
でも「膝をついたときに痛みが走る」と検索したら、同じ症状を訴えている人がいるのです。
しかも10代20代、そして中年層の人も。
痛みの表現が「思わずウッと言ってしまうような痛み」とか「息が詰まってしまうくらいの痛み」とか「針を刺し込むような痛み」とか「激痛」などいかにも痛そうで、私の痛みもこのくらい痛いといってもいいのかと妙に感動しました。そして、ほとんどの人は、日常生活には支障がないことを書き足しています。私と同じ症状です。

素人の私から見てもはっきり的外れと思われる回答も多かったのですが、1.オスグッド成長痛というもの(若いか、若い時にり患していた場合)2.半月板損傷などはそれなりの解説と思われましたが、私には当てはまりません。
自分の体験を、善意でしょうが無責任に回答していることもあり、いかにもドクターの回答の場合は受診を勧める回答になり、私と同じ症状があることはよくわかりましたが、病名は納得できるものがなかなかヒットしません。
いくつも見ていくと「女中膝」という説明を見つけました。
「これだ!」膝をつく動作をし過ぎたために、跪いたときに痛みが出るというもので、私は使い過ぎた実感はありませんでしたが、症状の説明としては一番納得できる解説でした。

「女中膝」を検索して「膝蓋前滑液包炎(しつがいぜん かつえきほう  えん)」という病名にようやく行きつきました。
細菌による感染症でない場合は保存的。よほど水がたまったりした場合は水を抜く。積極的な治療はしない。対処は膝をつかないようにすること。
ちょうどそのころ、おもしろい新聞記事に目が留まりました。
走ることを習慣としている医師・歯科医師の全国組織「日医ジョガーズ」代表理事の小嵐正治さんの言葉です。「日医ジョガーズ」のことは、マラソン大会のときに伴走して参加者の心臓発作に備えて下さっていることで知っていました。
以下は記事(日経新聞ですが日付不明)から。
「かかとが痛んだときは、かかとを浮かせて走っていた。人間の体はよくできていて、どうやら自力で治るようになっている。治療とはどの程度、必要なものなんだろうと思ってしまう」
小嵐先生は整形外科医…
私も自分の自然治癒力を信じましょう。と、とってもいい気分になりました。

それで約1か月たった現在ですが、たぶん改善はしていると思います。ただ膝は付かないように気を付けていますから、痛みがないかどうかまではわかりません。
とても個人的なこのテーマでブログを書いたのは、変形性膝関節症は「歩き始めや階段昇降に支障があり、正座ができない」ということと、「そのすべてに問題がないのに膝をつくと激痛が襲う」膝蓋前滑液包炎のことをお知らせしたかったのです。
開業医ですら、その差を考慮してくれない場合があるということもお伝えしたかったことですが。
この体験から、ひとつお話ししたいことがあります。ACジャパンがテレビで流している「認知症」のCMの件です。以下続く。
以前に書いたこの記事のことも思い出しました。
(椎間板ヘルニア≠慢性腰痛の原因)=(多発性脳梗塞≠認知症の原因)

by 高槻絹子

2040年に認知症高齢者推計584万人に

2024年05月13日 | エイジングライフ研究所から
今日の見出しは1週間ほど前に、厚生労働省研究班がまとめて発表したものです。正確には582万2000人。
愕然とした人もいるでしょうし、読み進めていくと9年前の予測値802万人に出会うことになり、はるかに低い数値に妙な安堵を抱いた人もいたかもしれません。
近所に咲いている蛇結茨(ジャケツイバラ)

ちなみにその理由として厚労省は生活習慣病の改善や健康意識の変化などによって認知機能の低下が抑制された可能性がある」と説明しています。

この記事の後半に認知症の新しい薬であるレカネマブの治験の進捗状況にも触れられていますが、この薬は認知症発症の原因をアミロイドβ沈着に限局して、だから沈着する前に排除するという考えのもとに開発された薬ですが。
先の認知症高齢者の推定数減少の理由としてあげられた「生活習慣病の改善や健康意識の変化などによって認知機能の低下が抑制された可能性がある」と、いうことは、今まで開発してはその効果が否定されて消え去っていった種々の認知症治療薬(その開発費用は70兆円とも言われています)、その先のレカネマブがなくても認知症発症の原因とされているアミロイドβの沈着が起きないという意味でしょうか?それはアミロイドβが原因という前提が、もしかしたら違うということでしょうか?
一碧湖チョウジソウ



レカネマブの持っている大きな問題点はこのブログでも何度か書いていますので、目を通していただきたいのですが、「レカべマブは認知症に立ち向かう切り札」ではありません。
私たちは認知症は脳の使い方を誤った生活習慣病、廃用性の機能低下つまり誰にでもある脳機能の低下が加速されたものだと考えています。
中伊豆グリーンポケット ハンカチの木

サンショウバラ



たまたま遊びに来た友人が、「新聞に出ていた認知症患者の推定数のことだけど。どのくらいのレベルの人を認知症患者って数えてるのかな?小ボケ(真の早期認知症のレベル。一般的な認知機能は正常で前頭葉機能だけ低下が進んだ人たち)は入ってないよねえ」と呟きました。
介護にも携わらず、全く普通の生活をしている友人ですら、このような基本的な疑問を持つのに専門研究者の皆さんにはこのような疑問は浮かばなかったのでしょうか?
中伊豆グリーンポケットユキモチソウ

クレマチス

どういうことをする認知症者の数なのでしょうね?
そのレベルによって、地域での見守りも可能になります。
伊東アートビレッジ ナヨクサフジ


ところで、記事はさらに続いていました。
「物忘れなどの症状はあるものの、生活に支障がなく、認知症と診断されるまでには至らない『軽度認知障害
(MCI)』の人の将来の推計を初めて公表し、2040年には612万8000人にのぼる」というものです。
この軽度認知障害も問題ありです。
言葉だけ読むとわかった気持ちになりますが、目の前の高齢者が、物忘れを訴えれば軽度認知障害でしょうか?
逆に物忘れを自覚しない高齢者はまずいません。
「生活に支障がない」程度の失敗は、高齢者なら誰しもしでかしています。
線引きには脳機能という物差しが必須ですよ。
ナンジャモンジャノキ

私自身が、言葉や文章の深い意味を考えずに書かれたことを鵜呑みにして「理解」したつもりになるタイプなのですが、いくらなんでも同じ記事の中にこれだけ反対の主張や疑問がいっぱい湧いてしまうことが述べられているのには、ちょっと驚きました。

by 高槻絹子




私見 認知症治療薬レカネマブ

2024年04月30日 | エイジングライフ研究所から
アルツハイマー型認知症の治療薬レカネマブは2023年7月にアメリカ、追随したように2023年9月には日本がその使用を承認しました。2024年1月に中国がレカネマブを承認したというニュースには驚かされました。そして日本でも治験の希望者が増えているという情報が目に付くようになりました。
私たちは当初からレカネマブに対して大きな疑問を持っていますから、ここでもう一度疑問点を整理して提示しておきたいと思います。
まず、いままでにこのテーマでお話ししている記事をあげておきますから興味ある方はお読みください。(4/30金時草に来たアサギマダラ)

 
2023年9月12日「講演会の準備ー講演で話すということ」の中の、レカネマブに関する部分を抜き出して加筆してみました。知りえた情報は青字で、私のコメントは黒字で記しました。 


質問が出た時のために、最近話題の認知症治療薬「レカネマブ」と「若年性認知症」に関しては、回答用に備忘録としてのスライドを作りました。自験例でない話の時は、慎重の上には慎重を期して情報を集めます。自験例と比較して、説明ができ納得できるかどうか。まずは自分でチェックするのです。「レカネマブ」に関して現時点での問題点が理解できたと思いましたから、ここにあげておきます。ちょっと専門的ですが質問が出た時点で、状況に応じて口頭で解説するつもりです。

レカネマブの問題点(18か月の投与実験の報告)
目的治すではなく進行抑制。従来の開発薬より早期にAβ(アミロイドベータ)を除去できるように働きかける。
従来薬はAβを除去するが、レカネマブはAβ形成前の原材料を除去する。
対象MCIか早期のアルツハイマー型認知症が対象でMSE22~30。
早期といわれているが、二段階方式で言えば小ボケから中ボケ前半。発症してから3〜4年というところ。
副作用脳出血17.3%。脳浮腫14%。
脳出血は従来薬の副作用32.5%よりは改善したが、それでも高すぎる。
コスト
・年間薬価385万円(アメリカの薬価)。
日本では290万円で設定されたという報道だったが昨今の円安でどうなっていくのか。
・月一度1時間かかる点滴のために通院。
以下、埼玉県の情報による。月に二度通院して点滴。8回目以降は投与後30分で帰宅可能になるが、それまでは病院待機が必要。治験を受ける人の負担も大きいが、医療従事者の負担も増す。
・年二度MRIによるチェックが必要。
治験決定のために第一回のMRI検査。その後6か月ごとに実施
・治験前にAβの沈着がない証明が必要。PET(高価)か腰椎穿刺(高侵襲)。
・副作用を防ぐためにアポリポ蛋白4の遺伝子チェック(高価)が必要。
自己負担額ではなく検査をはじめ治療に要する費用を考慮しなくてはいけない。例えばMRIによる検査だけでも20,000円から50,000円。個人負担は1割もしくは3割に過ぎないけれども。

治験は18か月間だが、早期、若年から投与を開始する必要がある薬なので、いつまで投与するかは大きな議論になるだろう
アメリカでは個人保険が主なので保険会社の拒否があるが、日本は皆保険…
27%の進行抑制CDRで偽薬群1.66低下。投与群1.21低下。0.45/1.66×100≒27%の進行抑制ができたとされる。
この数値をもとに3割抑制といわれるが投与群でも悪化している。
今回の統計処理は個人内での変化ではなく集団の平均化。
CDRは、本人の脳機能検査ではなく観察による評価なのでバイヤスが否定できない。
CDRは、1~2の変化で初めて臨床的意義があるとされる。そもそも最低評価の0.5に到達していないということは症状の段階には変動がなかったということになる。(参考までにCDRの評価で0.45が意味する変化を考えてください)

Aβ原因仮説に疑問
従来の創薬はAβの減少には成功しているが、認知機能の改善が見られない。これまでにかかった開発費用は数十兆円と言われている。Aβの沈着が本当の原因なのか、どうか?
元来2002年に提唱された仮説にすぎないのに、Aβ原因が前提となっていることにエイジンーlグライフ研究所は大きな問題点を感じている。

先発の治療薬アデュカヌマブの経過は以下に書きました。

by 高槻絹子

二段階方式の説明

2024年02月26日 | エイジングライフ研究所から
友人から問われて、二段階方式の話をしました。残念ながらzoomだったんですが。後で考えて、一番大切なことの説明が足りなかったのではないかと気になっています。
思いついてブログで解説をしてみることにしました。今日の投稿は保健師さんたちに対する基礎の復習のつもりで書いてみます。
「二段階方式」においては、認知症を三つの側面から理解します。

  • 神経心理機能テストによる「脳機能テスト」の実施と判定(A)
  • 30項目問診票による「生活実態」の確認と把握(B)
  • 過去数年間における脳の使い方という視点からの「生活歴」の聴取(C)
という三つの側面をリンクさせて総合的に判定、鑑別します。AのレベルとBの生活実態が一致して、さらにそれを説明でき得るCの確認ができた場合、つまりA=B=Cのみアルツハイマー型認知症と解釈することになり、初めて個別生活指導の対象となります。その割合は90%を超えますが、A=B=Cにならない場合は専門医受診という流れになります。
A=Bであっても説明できる「ナイナイ尽くしの生活歴」Cをはっきりさせられなければ、アルツハイマー型認知症とは言えません。(散歩途中に見つけた春の花)

Aは研修会での講義をもとにマニュアルAを利用して正確な検査を心がけましょう。できることよりもできないことをはっきりさせてあげるために実施していることを忘れないように。できないことがわからなければ、生活の援助法がわかりません。
例えば、生活の基盤をなす「時の見当識」について考えてみましょう。
今日の日付を完璧に理解していれば、それに応じた生活ができます。今日の日付が曖昧になれば曖昧でもできる生活なら可能です。今日の日付がわからなくなったとしても、教えてもらえば「あぁそうだった」と言うふうに了解できればほとんど家庭生活なら困ることがないと思いますが、教えてもらってもまたすぐにわからなくなってしまうと言う状態だとかなりの配慮が必要になってきます。
もちろん今日の日付に関して、全くお手上げの場合はそこを十分に配慮しないと様々なトラブルを引き起こすことになります。
日がわからなくても、大体その月の上旬中旬下旬ぐらいはわかる人もいます。まったくわからない場合もあります。
今年が何年かわからなくなっている人に年齢を尋ねても、正しい年齢が答えられるはずもありません。多くの場合若くなっていくことが多いです。
季節がわからなくなった人に関しては、夏にセーターを着て汗をかくと言うような状況が生まれてきます。
さらに低下すると、昼夜の区別がつかなくなります。その時になって初めて夜中に騒いで、家族が困ってしまう状況が生まれるのです。
こう考えると、何ができないかを知ることがどんなに大切なことか、少しはわかっていただけるかと思います。目の前の人の実力を知る姿勢が大切ですから、問いかけの言葉一つでもマニュアル通りを心がけるようにしてください。もし正答でない場合に、検査者の言い方が悪いのではなく能力の低下があると確信するためですから。

Bを知るための問診票は私が脳外科に勤務していたときに、以下のような経緯で作りました。
最初は1000冊のカルテを広げて、受診の理由を書きだすことから始めました。そのカルテは全員が脳機能テストを受けていましたから、脳機能が正常レベル、小ボケレベル、中ボケレベル、大ボケレベルの方々の訴えに分類できます。そしてそれぞれの段階で特徴的な訴えを10項目ずつまとめて、小ボケレベルの脳機能になったら訴えられるものを1~10とし、中ボケになってから訴え始められるものが11~20。そのときは1~10の症状よりも、現在の症状に困って受診しますから小ボケの訴えは不思議なほど出てきません。脳機能が大ボケレベルにならないと訴えられない項目が21~30。もちろん1~20の症状の訴えはありません。
ところがあてはまるものすべてに〇をつけるようにしてもらうと、小ボケは1~10まで、中ボケは1~20まで、大ボケは1~30に〇が連なることになります。

具体的に説明しましょう、物忘れではこういうことがクリアになりました。
正常:知ってる人や物の名前が出てこない。
小ボケ:言ったことを忘れて何度も同じことを言う。一日何回も言ったり、言い終わったらすぐ又いうこともあります。(私はオルゴールシンドロームと名付けました)
中ボケ:今日の日付がわからない。薬を飲んだかどうかわからない。
大ボケ:食事をしたかどうかわからない。家族かどうかわからない。
食事したかどうかもわからない状態では、服薬管理ができないとは訴えないのです。でも服薬管理はできるかと尋ねられたらできないと答えることになります。
物忘れといっても、脳機能に応じた訴えになるのです。それを明確にしたのが30項目問診票です。
保健師さんたちは、脳機能レベルと30項目問診票が示すレベルが驚くほど一致することにびっくりすると思います。それは以上のような経緯から作った問診票だからです。

A≠Bになってしまう時には、家族の人間関係も影響するので考慮してください。
妻の評価:だいたい正確。関係性が悪いとより悪い。世間体を気にするとより軽い。
夫の評価:実際よりも軽く申告。介護のキーパーソンなら正確。
同居の息子:実際よりも軽く申告。介護のキーパーソンなら正確。
嫁に行った娘:実際よりも軽く申告。月に一度以上、泊りがけで介護する場合は正確。毎日立ち寄っても一言二言の会話では気が付かないこともある。
同居の息子の嫁:最も客観的で正確。家族関係が破綻していれば情報は得られない。

それでもA≠Bの場合
脳機能レベルAが悪いのに、生活実態Bが良好なら失語症。
脳機能レベルAが高いのに、生活実態Bが悪い場合は精神的な問題。






A=Bであっても説明できる「ナイナイ尽くしの生活歴」Cをはっきりさせられなければ、アルツハイマー型認知症とは言えません。保健師さんたちはAとBまでは情報が取れますが、Cが難しいとよく耳にします。
ナイナイ尽くしの生活が始まって小ボケはだいたい3年間。中ボケはさらに2~3年。6年もたつとだいたい大ボケレベルになることは頭に入れておきましょう。詳細はマニュアルBで解説してあります。
最初に低下が始まる前頭葉機能が不合格のとき「生活が変わって、ナイナイ尽くしになっていったきっかけがない」という人がいますが、それならばその人は、前頭葉機能がきちんと動いていない状態で生きてこられたことになります。前頭葉機能が足りないと社会生活はできませんから、誰かから指示をされるか、援助される生活を続けてこられたということになります。
認知症の定義は「いったん完成された脳機能が、何らかの理由で全般的に低下して、家庭生活や社会生活に支障を生じた状態」ということになっています。つまり言い換えると、社会生活をこなしてきた人だけが認知症になるのです。目の前の方をよく理解してください。この方の人生に思いを馳せてみましょう。家庭生活や社会生活をされている時のその人らしい色々な思いや苦労やもちろん楽しみや喜びが見えませんか?
でも今は違う。前頭葉機能が正常に働いていなければ「その人らしさ」は出てきません。
正常な老化を重ねていくだけでは、高齢になっできなくなることが増えていってもその人がその人らしくなくなることはありません。
このようなことを考えながら、きっかけは必ずあると思って生活歴を丁寧に聞いていってください。

「このような前頭葉の出番が極端に少ない、ナイナイ尽くしの『単調な生活』が続くならば、脳は居眠ってしまい、老化が加速されるだろう」
「この人の三頭建の馬車は、御者が指令を出さないので動いていない」と、テスターが、納得できるまで、具体的な生活実態を聞きだすことが大切です。丁寧に生活歴を聞くことで、脳のリハビリが具体的に見えてくるものです。
二段階方式の目的は脳機能検査をすることでもなければ、生活実態を根掘り葉掘り聞くことでもなく、ましてだれにとっても楽しいことであるはずもないナイナイ尽くしの生活に入るきっかけを聞くことでもありません。
目の前の高齢者がアルツハイマー型認知症であるならば、そして回復が可能なレベルであるならば、残りの人生をその方らしく駆け抜けていっていただきたいと思うから、生活改善につなげるためにAもBもCも必須な情報なのです。





活動の初期に脳リハビリで印象的な方がいました。
小ボケの男性。校長先生を定年退職なさった後、教育委員会に勤務その後退職して第二の人生へ。1年ぐらいで相談に見えました。(今考えるとよく受診につながったものだと思います)
小ボケの方たちは「なんだか以前の自分とは違う。どうしてもやる気が出ない。何事も面倒…」という自覚があります。初期ほど強く、中ボケに近ずくとだんだん消えていきます。
30項目問診票に自分でチェックして○をつけることができるのです!○をつけることができれば小ボケレベルにとどまっているとも言えます。
第二の人生に入ってナイナイづくしの生活を続けたから、脳がサボって元気をなくしてる状態ということを納得してもらって、さあ脳のリハビリ指導の開始です。

散歩:用もないのに歩けるか!
ゲートボール:バカとは遊べん。
家事の手伝い:男はそんなことはできん。
趣味(近所の絵手紙教室):絵筆を持ったのは中学まで。
まさに「ああ言えば、こう言う」状態です。この時の対応は「ボケるのとどっちがいいですか」と直截的にいいます。脳の正常老化が加速されたものが認知症であると言う確固たる信念がないとなかなか言えないようですが、このためにA=B=Cの段階を経てきたのです。
軽ければ軽いほど理解してもらえます。
理解できても実際には、御者が居眠っている訳ですから自動車で言えばスターターが効かないような状態です。ちょっとした後押しが必要なことがほとんどです。
ゲートボールはだめでしたが、散歩は毎日欠かさず出かけることができました。そして絵手紙教室に行くようになって、その作品を離れて住んでいる中学生の孫に送り文通が始まったそうです。こうして小ボケは改善していきます。

中ボケの女性。夫の死亡後、元気をなくしていたところに本人の体調不良、腰痛まで加わって大切にされていました。ところが同居している中学生の孫が急性白血病で緊急入院。慌てて入院させたら、入院直後より不穏な状態になり(このような場合は中ボケであることがほとんど)、驚いた娘たちが、交代で病院に行ってはリハビリなどに勤めようやく退院。その時の脳機能レベルはまさに中ボケの半ば。

中ボケになると自覚がないので、小ボケの時のように背中を押すだけでは行動につながりません。
文字通り手を引いて一緒に歩く。
手芸が好きな方だったので、毛糸編みモチーフを勧めてみました。模様編みのセーターが編める人だったのに四角のモチーフが丸になる始末。ところが根気よく付き合っていくうちにできるようになるのです。最終的にはこたつ掛けやベッドカバーまで完成させることができました。
刺子なら線の上を縫うのだからと布巾から始めた刺子作品も、最終的にはこたつ掛けまで完成させました。

女性の場合は、家事の手伝いという分野があります。多くの場合嫌がらずにやってくれますが、中ボケの人の場合は、その成果はほとんどやり直しが必要な状態です。例えば、グリーンピースを皮から外してもらうと、最終的には全部がグチャグチャで選り分けないと使えないとか、お茶碗を洗ってもらうと洗い直しが必要とか。
この方の場合は、花も歌も好きだから、生活に変化を持ち込むことが容易だったと思います。援助は必要でしたが。
一旦元気をなくした脳の元気を取り戻そうとする時、手を添えてくれる家族や友人がいるかどうかは、そのご本人がどう生きてきたかというところに帰着すると思います。
そこまで含めて認知症は生き方の問題だといつも思います。
家族は「大事なおばあちゃんが元気がなくなったので、何もさせないで大切にしてきたのですが、それは大切にしたことにならなかったのですね。できることはやらせてあげることが本当に大切にしてあげることだということがよくわかりました」と言いました。
まさに正答です!「できること」を教えてくれるのが脳機能検査です。

by 高槻絹子

















「体の健康」と「脳の健康」

2024年02月14日 | エイジングライフ研究所から
の最後の段落は、認知症だけが予防的福祉の対象になり得ると主張しました。2022年度の介護費用トータル11兆2千億円と認知症を関係付け過ぎと思われた方がいるかもしれません。

認知症が介護が必要となった原因では認知症が一番多いことは多いのですが、それでも20%弱ではないかという声がきこえてきそうです。
今日は少し違う視点からお話をしてみようと思います。
私たちの主張は、一言で言えば認知症は脳の使い方が悪いために起きる生活習慣病であるということです。脳をイキイキと使わない、特に状況を判断し自分の行動を決める前頭葉の出番がない生活こそ認知症を生み出すものだと思います。いわゆるナイナイ尽くしの生活、生きがいも趣味も交遊もなく、運動もしないで家に閉じこもっているような生活こそ、認知症にとっての元凶です。
明日の小布施に備えて長野前泊。善光寺。
アルツハイマー型認知症の方々から直近の生活歴を伺って行くと、ナイナイ尽くしになるきっかけをどの方も持っています。
前頭葉機能だけが老化を加速している人たち(小ボケ)はきっかけを自覚し、説明することが可能です。ほとんどの場合、それは3年以内に起きています。(小ボケの期間はだいたい3年間)
前頭葉に加え、脳の後半領域のいわゆる普通の認知検査が低下してくると、本人には生活が困難になっているという気持ちがないし、もちろん自分の生活がどの時点でナイナイ尽くしになったのか説明はできません。家族に生活上の変化が起きたきっかけを聞くと、4〜5年前の「あのできごと」に気づくことになるのです。
仁王門

阿形金剛力士像(高村光雲・米原雲海作)

吽形金剛力士像(同上)

たくさんの方のお話を聞かせていただきました。
大きく分けてみると、それまで生きがいだった仕事がなくなる。病気や怪我。親しい人との死別や生別。心配事トラブルなどの勃発。老老介護などの楽しみのない単調な暮らしなど。
きっかけは、起こったそのことや状況が当人にとってはとても大きなショックだということを理解しなくてはいけません。
確かに同じ状況が起きても、それに負けずにまた新しく前を向ける人もいるのです。
でも目の前にいる脳を老化させてしまった人は、そのできごとがその人の生きる意欲を削いでしまうのです。心が折れたという表現が適切な気がします。何もしたくないという場合もあるでしょうし、何に対しても心が動かないというほうが適切な場合もあるでしょう。
山門







上にあげた「65歳以上の要介護者の介護が必要となった主な原因」のグラフに戻ってみましょう。
脳卒中、心臓発作、関節疾患、骨折などなど。このようなことが起きてしまったとき…
将来に目を向けてリハビリをがんばったり、日常生活の注意点を理解して前向きに生活を組み立てることができる人は次第に認知症になっていく恐れはありません。
がんばろうと思える人は大丈夫!
六地蔵

でも、そういう方ばかりではないことには、すぐ気づいてくださいますよね?
高齢期になって病気や怪我などが起きるとそれをきっかけとして脳が正常老化にとどまらず加速していく、つまり認知症になっていく人たちがあまりにも多くいます。そしてそれは「病気(や怪我)になったのだし、高齢だから無理はさせられない…」と妙に認めてしまう風潮を、私は憂えます。
その病気や怪我に対する働きかけだけでなく、認知症予防の働きかけも必要なのです。
まず病気や怪我というとんでもない災難に会いました。これは避けられなかったわけですが、その後の生活ぶりによっては、本人が望んでもいないし、周りの介護を担当する方々にとっても大変な認知症という状況を生んでしまうということに気が付いてほしいのです。これは避けることができる災難です。
介護が必要な状態の時、脳機能が正常であれば介護者が如何に楽に介護ができるか…介護者の心身にも経済的な面でも、介護される側の脳機能が正常であるかどうかは大きな差を生みます。介護していらっしゃる方々からの声にも耳を傾けてみてください。
「体の健康」に対する教育や指導、最近は疑問も投げかけられていますが検診などが徹底されて、世界に冠たる長寿国になった日本。
次のステップとして「脳の健康」への興味や関心を引き出す必要があります。
皆が本当に望んでいるのは「体の健康」だけではありません。そこには「脳の健康」が必須…
「脳の健康」に関する健康教育。認知症を防ぎうる脳の使い方をみなさんに知ってほしいものです。
年齢に関わらず、どのような状況下にあっても、前を向いて、楽しい生きていることの意味と喜びを、今見つけられなくとも見つけていい、今見つけられなくても見つけるべきだという励ましが必要です。
なぜならそれこそが「脳の健康」を生み、認知症予防につながることだから。自分のためだけでなく、家族のため、国のためになることだからです。

by 高槻絹子




2022年度介護費用11兆2千億円をイメージする

2024年02月11日 | エイジングライフ研究所から
今週は、認知症予防活動の指導で小布施町に行きます。各地区に「脳のリフレッシュ教室」を立ちあげていて一番古い地区は今年22年目を迎えます。
講演も何度もしていますから、少し切り口を変えて介護費用の話に重きをおいてパワーポイントを作ってみました。
「脳のリフレッシュ教室」の目的ははっきりして
いました。

つまり正常者に対する認知症予防活動なのです。
もちろん20年も経てば、鬼籍に入られた方も、入院入所なさった方もいらっしゃいます。
ところで厚生労働省が「認知症になるのを一年先延ばしにしてほしい」と言っていることをご存じですか。介護保険にとても多額の国費がかかっているのですから、本当に正直な希望だと思います。
教室参加者の方に聞いてみると、皆さん異口同音にこのように言われます。

「教室に来てみんなと楽しい時間を過ごしていれば、脳がイキイキ元気になってボケずに済みそう」という実感を持っていらっしゃる。
年度末に「今年も一年経ちました。認知症に一歩近づきましたか?」と尋ねると、シャイな小布施の人たちでも「いやいや。そんなことはない。今年も元気に楽しく暮らせたよ」と答えると思います。(今週確認してみますね)
厚生労働省の希望はここに実現しているのですよ!

介護保険は認定のレベルに応じて以下の介護費用がかかります。そのうち自己負担金は1割から3割ですが、認定されたら月額限度額としてこれだけかかるのです。
要支援1:  50,320円
要支援2:105,310円
要介護1:167,650円
要介護2:197,050円
要介護3:270,480円
要介護4:309,380円
要介護5:362,170円
ひとりの人が要介護1になるのが1年先送りされたら、167,650円✖️12月=2,011,800円、200万円セーブできる!200万円(マイナス自己負担金)を国・県・市町村に寄付したことと同じです。延べ人数をチェックしてみたら、すごいことをやってきたと思うのですが、小布施町のこの「脳のリフレッシュ教室」が、どのくらい小布施町の財政に寄与したか調べるよい方法はないでしょうか?

莫大な介護費用を理解してもらおうと作ったパワーポイントです。スクリーンショットがうまく撮れませんでしたからPC画面を写真で撮ったものをあげてみます。
一枚目は左脳に訴える数字をベースにしました。
1兆円を超えたこと、その増加のスピードがだんだん速まっていることなどはわかりやすいと思います。

でも「1兆円」がどのくらいの金額か実感できる人は多分いない…実感できるのは予算作成をする官僚くらいでしょうか?
そこで工夫しました。「1万円札を積み上げていくとどのくらいの高さになるか?」
幸いなことに100万円の新札の札束が1㎝というキリの良さですから、日本で一番高い富士山と比べてもらいます。計算をしてみる時間はなしで、感覚的にとらえた感想を言ってもらいます。
「富士山より高いことはないだろう」から「とても富士山では間に合わないはず」までいろいろ想像できますね。

正答を説明するための次のスライドは、自分のために作ったようなものです。何度も間違いがないか確認して、最終的に愕然としました。

もちろん地学的な用語は検索してみました。
・対流圏は雲や雨などの天気現象が起きる層でだいたい10㎞の高さ。上空ほど温度が下がる。
・成層圏は大気の対流が起こりにくく温度は上昇していく層でだいたい50㎞まで。境界にあるオゾン層で紫外線を吸収。
・中間圏は、温度が再び下降していく層で、だいたい80㎞までの高さ。マイナス100度。流れ星はこの層で起きることも知りました
・そしてその先は熱圏。1200度ともいわれる高温のこの層は広大無限の宇宙空間につながっている…
11兆円は110㎞なので熱圏に入ってるんですよ。ここはオーロラの世界。一万円札が宇宙空間に拡散されて見えなくなっていくシーンが胸に迫ってきて、私はこの図で圧倒されましたが、小布施町の皆さんにもう少し実感していただく方法はないかと模索して、今度は100万円の札束を横に重ねていく(もちろん札束は立てて)と、長野駅から新幹線でどこまで行けるのかを調べてみました。
小布施駅と長野駅の距離が17.5㎞ですから、それを足して合計で110㎞の駅。
上りは安中榛名駅。下りは糸魚川駅。

どちらの方が、たくさん使ってしまっているかを実感できるでしょうね?それは見る方が決めることですが、とにかく毎年毎年これだけの札束が消えていっているという現実を、私たちは知らないといけません。
最後に、介護保険は認知症高齢者だけに使われているものではないことを確認しておきたいと思います。厚労省HPより
ちょっと前までは、脳血管障害が最多だったのですが、とうとう認知症が最多になってしまいました。
あまりにもわかりやすいことですが、認知症の場合は最初から対応に苦慮する重度の認知症状を出すわけではありません。「いったん完成された脳機能が、全般的に低下して社会生活、家庭生活に問題が起きる」という定義からして、さかのぼれば普通の社会生活をしていた時があるわけです。
もちろん権威ある筋はアミロイドβなどの変性疾患として理解しているのですが、エイジングライフ研究所は脳の使い方が足りない生活、特に前頭葉の出番がない生活実態そのものが脳の老化を徐々に加速させていくものであり、世に言われるような認知症症状が出てくるまで5年以上はかかると主張しています。
他の疾患は、選択の余地のない介護状態が避けられませんが、現在は症状が重くならないと認定されない認知症だけが、予防的福祉の対象になり得るのです。


by 高槻絹子















アルツハイマー病と型

2024年01月17日 | エイジングライフ研究所から
  1. 友人からのメールが届きました。
英語が得意な人です。たまたまでしょうか、FAST(Functional Assessment Stagingの略で、 主にADL(生活自立度)の程度から認知症の重症度を評価するスケール)に目を通したら、疑問が湧いてきたという内容です。
ひとつは
アメリカではアルツハイマーは「型」ではなくて病気ですね。」
このブログでも何度か書いてありますが、もう一度まとめてみましょう。
稲取のアニマルキーパーズカレッジを見学しました。

アルツハイマー博士が「記銘力障害」と「見当識障害」を訴える(つまり痴呆症の要件を満たしている)51歳という若さの患者に出会ったのは1901年。この珍しい自験例を、「アルツハイマー病(Alzheimer's disease、略してAD) 」と名付けて報告したのは従来言われてきた「老年痴呆(senile dementia)」とはその経過が全く違うからでした。
①若年発症。
②急速に悪化。
という特徴がありました。博士のこの症例は、初診時51歳、54歳死亡という経過をたどりました。病理学者でもあったアルツハイマー博士はあまりにも普通の「老年痴呆」と違うということで実施した死後剖検で
③老人斑(アミロイドベータによる)・神経原繊維変化・脳萎縮が顕著。という特徴を発見しました。ここまでが第一段階。

もともと普通の経過を辿った「老年痴呆」は解剖をすることはなかったのですが、解剖をした症例で「アルツハイマー病」の特徴と言われる「老人斑・神経原繊維変化・脳萎縮」の3兆候が認められたのです。つまり「アルツハイマー病」も「老年痴呆」も最終段階は全く同じ病理構造を持っているということが明らかになりました。その症例がたくさん集められたのは20世紀半ばのことです。
ここで第ニ段階に入りました。

そして第三段階はイギリスそしてアメリカです。
このような鑑別法が入ってきた時に「最終的な脳の病理状態が同じなので、まとめてアルツハイマー病と表現する。ただし発症年齢65歳で区分けをして早発型(early-onset:EO-AD )と晩発型(late-onset:LO-AD )の区分けをつける」

第四段階。
日本には、ドイツからの情報も、アメリカ経由の情報も入ってきたために混乱が起きてしまいました。
本来なら若年発症で急速に悪化していくものこそがアルツハイマー博士の提唱した「アルツハイマー病」。痴呆を「アルツハイマー病」と一括りにしたイギリスやアメリカでも「早発型」と「晩発型」の区別はつけていたのですが、みごとにその差は無視されてしまって、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆(のちに認知症)、病名ではなく人名そのままのアルツハイマーまで、まったく自由な呼び方になっていきました。最近では「アルツハイマー病」が多い印象ですが、介護の現場ではアルツという言い方まであるようです。

このようなことになってしまった原因は発症の機序や経過を無視している。さらに言えば重度認知症のみに対応していれば早期の段階や経過を知ることがない。
だからこそ、若年層で発症した側頭葉性健忘症を、若年性認知症とする大きな間違いが起きてしまいました。重度認知症の家族が訴える徘徊や粗暴行為や日常生活が自立できないなどという症状が皆無で、記銘力障害による困り事を本人が感情を込めて訴えるタイプを、認知症のごく初期の段階と誤解したためなのです。
厚生労働省による分類でも、若年性認知症は発症年齢が65歳以下と書かれています…若年発症だけ
でなく急速な症状の進行を伴ってこそ本来のアルツハイマー病です。
側頭葉性健忘症の人たちは、適切な生活指導や生活環境さえあれば、脳機能を長く維持します。

興味がある方はもう少し詳しく書いてありますので読んでみてください。長くてすみません。
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ブログカテゴリーの「側頭葉性健忘症」には具体例が挙げてありますから、まず側頭葉性健忘症がどういうものが実感してみてください。
脳機能から認知症を理解する立場なら、前頭葉機能が機能しているかどうかをチェックすればすぐに早期認知症と違うことがわかるのですが。

もう一つの質問はFASTの'Loss of ability to smile' に関してでしたね。
「笑い」のことについては次回に書きましょう。

by 高槻絹子






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