7月5日に「映画『アリスのままで』ー若年性アルツハイマー病?」としてブログを書きました。
主演のジュリアン・ムーアの演技は素晴らしいものでしたが、若年性アルツハイマー病をどのようにとらえているかがどうも気になりました。脳機能のレベルと生活実態にギャップがあったからですが。
もともと認知症になった人からの告白とか闘う、というような表現がされている場合のほとんどが、実は認知症ではなく、側頭葉性健忘なのです。
若年性が加味されると、失語症のこともあります。
アルツハイマー病の本人が書いた本「私は誰になっていくの?」で世界中に大きなインパクトを与えた、オーストラリアのクリスティーン・ボーデンさんも、最初は側頭葉性健忘からスタートしたと思います。
ご本人には会っていませんが、彼女の本を読む限り記憶力の障害がスタートだったと思われます。
1995年46歳で若年性アルツハイマー病と診断されました。それから17年後の2012年沖縄での講演の様子がユーチューブにありました。「認知症の当事者クリスティーンさんが講演」で検索してみてください。最初の表情から「これが認知症???」とびっくりされると思いますよ。
本当は認知症の定義から始めなくてはいけないのでしょう。
さしあたってよく引かれる定義「いったん完成された脳機能が全般的に障害され、社会生活や家庭生活に支障を起こす状態」をベースに考えます。
「全般的に障害され」というところから脳卒中の後遺症そのものが認知症ではないということがすぐにわかりますね。
脳卒中は片側に起きるものですから、後遺症は右側か左側の脳に生じます。
その後遺症に負けて、何もしない生活を続けていると健康だった側の脳機能も損なわれていきます。そうすると全般的に障害されますから認知症ということになります。(脳卒中のせいではない!ですからこれは脳血管性認知症とは言えません)
脳血管性認知症は、一昔前には全認知症の70%と言われたたのですが最近はどんどんその占める割合が減っていってます。それでも50%~15%までの数値を目にします。
エイジングライフ研究所では、5%未満と考えています。脳卒中の後遺症そのものが認知症になる珍しいケースや脳卒中を左右脳に繰り返し起こした場合などを考慮してもそのくらいなのです。
認知症の珍しいタイプとして、脳内に水がたまる(正常圧水頭症)や血腫ができる(慢性硬膜下血腫)ことが原因で認知症の症状が出てくる場合があります。この特徴はとにかく急激に起きることです。脳外科で正しい処置をすれば劇的に回復可能です。
最近マスコミでよく取り上げられていますが、問題はその占める割合です。ほんの数%!
もっと少ない認知症のタイプを書きましょう。アルツハイマー病です。
私は浜松医療センター時代に数千人の認知症患者さんに会いましたが、真の意味の「アルツハイマー病」の方には数十人しかお会いしていません。
真の意味というのは、はっきりと遺伝子異常があること(国立精神神経センターの田平先生に遺伝子検索を依頼)、現役でありながら若年で発症すること、経過が考えられないほど早いことの条件がそろっていることです。
これこそが、ドイツのアルツハイマー博士がとても珍しい症例として報告した「アルツハイマー病」そのものです。
この病気の場合に「若年性」とつけること自体がおかしいですよね。必ず若年発症なのですから。
「孤発性」と言ってその当事者の方だけに遺伝子異常があることがほとんどでした。次代のことはまだわからないということです。
「家族性」は珍しくて、私が知っている例は、34歳で発症したたった1人だけです!
父、叔父叔母、いとこに認知症が、しかも年若い状態で起きてしまっていました。現役のまま認知症を発症し、予後は非常に悪く、父、叔父はすでに死亡。家族性アルツハイマー病はそのころ日本で十数家系しかないとされていました。予防も回復の方法もないこの病、これほど稀ということが神様の計らいかと心から思いました。
ついでに「ボケは遺伝しますか?」とよく聞かれますが、この家族性アルツハイマー病の極端な少なさがその答えです。
ただし一言付け加えておきますが、親の生活習慣を踏襲すると、子もボケるということは十分に考えられます。「趣味なく交友もなく生きがいもない、そのうえ運動もしない、仕事一筋の人生」を最上のものと思って生きるには、退職後の第二の人生が長すぎますよね。
実は、認知症のほとんどは、高齢者が、何かのきっかけで、「趣味なく、交友なく、生きがいもない。運動もしない」いわゆるナイナイ尽くしの生活に入って、それが継続していくときに、次第に社会生活や家庭生活に支障を起こしていくタイプなのです。90%以上!
まさに生き方の問題、生活習慣病。
だからこそ、予防もできるし回復も望めるというのがエイジングライフ研究所の主張です。
その人たちの脳は、アルツハイマー博士が症例報告した「アルツハイマー病」の特徴、老人斑、神経原線維変化、脳の萎縮があるから、「アルツハイマー型老年痴呆(今は認知症ですが)」と名付けられました。
アメリカではひとくくりにしてアルツハイマー病というようになりました。ただアメリカでは早発型、晩発型と区別しています。晩発型が「アルツハイマー型認知症」ということになります。
もう一度まとめなおします。
「アルツハイマー病」は遺伝子異常があって、現役のまま若年発症、進行が速い。非常に稀。
「アルツハイマー型認知症」は、高齢者が脳を使わない生活を続けるうちに次第に生活に支障が起きてくる。進行は極めて緩やか。認知症の大部分を占める。
このようにきちんと病名を使い分けてくれたら、わかりやすいのですが。
さて「アリスのままで」に戻ります。
映画のキャッチコピーが「若年性アルツハイマーを発症したアリスが、最後まで闘う姿を描く」というものでしたから、そこからちょっと違和感を覚えました。「(若年性)アルツハイマー病」の患者さんは闘うよりも早く病気が進行してしまうから、闘えないのです。そのくらい激しい怖いものです。
だから、7月5日のブログの最後にも「若年性アルツハイマー型認知症?」として以前書いたページを貼っておきましたし、7月19日にも、ちょうど飛び込んできたケースの紹介をしました。「記憶障害ははっきりあるのですが…これを認知症といいますか?」
この2例とも、認知症ではなく側頭葉性健忘です。この病気は新しい記憶だけが入っていかないにもかかわらず、最高次機能としての前頭葉機能は保持されているという特徴があります。
直前のことも覚えていられないのに、前頭葉が機能するために、表情をはじめ印象が生き生きとしている、行動もテキパしている、気づかいやユーモアが感じられる、もともとおしゃれだった人は変わらずおしゃれ、趣味などの作品が素晴らしいレベルで制作できるなど「これが認知症?」とだれもが不思議な印象を受ける人たちです。
クリスティーン・ボーデンさんがまさにこのタイプですね。
とにかく「原作本を読んでみなくては」と思ってようやく入手できました。
結論を言います。
アリスは側頭葉性健忘ではなく「(若年性)アルツハイマー病」でした。最初のほうで遺伝子異常が見つかったことがはっきり書かれていました。
もう一つの情報がありました、これはドキュメンタリーではなく、あくまでも小説でした。(以下続きます)