脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

免許更新時の認知機能検査(75歳以上高齢者)の問題点

2022年11月27日 | 前頭葉の働き
また高齢者による運転ミスで、死亡を含む重大な交通事故が起きてしまいました。
97歳という超高齢であったことと、近隣の方からは運転技術に不安があるとか車庫入れが難しくなっているといわれていたこと、親族が運転をやめさせる方向で動き始めていたことなども報道されました。
もちろん、おととし免許更新しており、その際受けた認知機能検査も高齢者講習にも合格していたことも報道されました。(写真は11/25小室山山頂)

私は脳機能から認知症を理解するという立場ですから、認知機能検査を中心に考えてみたいと思います。
(続)高齢者の危険運転 初掲載は2019年4月ですが、後半に認知症高齢者の運転をやめさせる方法など知られていない情報もあるのでぜひ目を通してください。

免許更新に先立って、認知機能検査が必須となったのは2009年。その後改正が加えられたのが2017年。そして今年になってさらに変更がありました。
認知機能検査は、3つある検査項目のうち「時計描画」が廃止され、日付や時刻を答える「時間の見当識」と、絵を記憶したあとでその名前を答える「手がかり再生」の2項目のみとなります。
 検査結果についても、「認知機能低下のおそれあり」「認知機能低下のおそれなし」「認知症のおそれあり」の3区分から、「認知症のおそれあり」「認知症のおそれなし」の2区分に変更。
認知機能検査などで運転実技検査もむしろ簡便化されたという解説を見て、目を疑いました。
池袋のあの忘れがたい事件や、たびたび報道される高齢者の事故に不安を覚えている人たちも多いと思います。
高齢者の認知機能をチェックするのは、その低下や問題点を明らかにして、交通事故を未然に防ぐことが目的のはずです。
「この検査で高齢者による事故を未然に防げるかどうか?」
結論はとても「無理」です。今回の97歳男性は合格していたのです。
(高齢ですから、この2年間で低下したということも否めませんが、池袋事件の飯塚被告は「認知症はない」と報道されていました。本当でしょうか?)

私はちょうど今年75歳になったので、お知らせ通りに「認知機能検査」と「高齢者講習」を受けてきました。つい先日実際に受検したのです。
「認知機能検査」は「あなたの『記憶力・判断力』を検査して、『認知症のおそれの有無』を判定します」と明記してあります。
以下は警察庁のホームページの認知機能検査からまとめました

記憶力検査
4枚の絵カード4組を提示され、試験官の口頭説明を聞きながら覚える。
ランダムな数列から指示されて数字だけを消す。(即時再生しないための干渉時間)
自由再生:覚えた絵カードを答える(正答2点)
手がかり再生:カテゴリーのヒントによる正答(1点)
満点:4枚絵カード×4組×2=32点

時の見当識
年:5点
月:4点
日:3点
曜日:2点
時分:1点(±30分で正答)
満点:15点

得点
2.4499×記憶力検査得点+1.336×見当識得点
36点以上:「認知症のおそれなし」
36点未満:「認知症のおそれあり」

なかなか丁寧に作られた検査のような体裁を持っていますね。特に得点に掛ける定数なんか複雑で…

さあ、それでは今から疑問点を列挙していきますよ。
事故後にはだいたいが「アクセルとブレーキの踏み間違い」といわれることが多いですね。なぜ踏み間違えるのでしょうか?
足が動かないのではなく、足を動かす指令がうまく出せない。つまり、脳機能に問題がある。にもかかわらずそのように指摘されることはほとんどありません。先の飯塚被告も足の運動障害のために通院中で、そのための運転ミスと事故後には言われていましたね。
①安全運転に必要不可欠なものは、脳機能の中でも前頭葉機能の中の注意集中分配力です。運転中のことを考えると、どれほどのことに注意を振り向けているか!
(続)高齢者の危険運転の中からコピーします。
考えてもみてください。自動車を運転している時には、ふたつどころではない注意力の分配が要求されます。そもそも何のために運転をしているのか。時間の制約はあるのか。いくべき道を考える。混雑状況により道の変更をすることも。信号や道路標識の認知。スピード、ガソリンその他のメーター表示のチェックも。前だけでなくバックミラーもサイドミラーも確認が必要。同乗者がいれば会話をし、時によったらラジオや音楽を楽しむ。運転終了後の行動のシュミレーションだって、苦も無くこなします。「そうだ。卵と牛乳を買って帰らなくっちゃあ」
もちろん大前提として、人に対しまた他車に対しても安全運転には最大の注意集中力を注がなくてはいけません。
まずこの働きのチェックが必要ですが、現行検査には全く含まれていないという実態には肝が冷えます。
警察庁に代わって言い訳もできます。認知症を記憶障害というとらえ方をしているのは世界の趨勢ですから、認知症か否かを決めるには記憶力の検査が必須ということになるのです。
世界の趨勢に従ったとしても、この検査では高齢者に危険運転をさせないようにするためのチェックとしては意味がありません。認知症への長い道のり(私たちは脳が持っている正常老化を超えて、老化が加速されていくととらえています)で、記憶力よりも先にうまく働かなくなるのが前頭葉機能です。わけても、注意集中力は最も早期に機能低下を起こします。機敏に状況を判断する力も低下します。
つまり、この検査が満点の32点であっても、危険運転、ブレーキとアクセルを踏み間違える可能性は十分にあります。ブレーキをかけるべき状態でもアクセルを踏み続けてしまうのです。

②時の見当識にも問題があります。
「わざわざ重みづけをした配点法が間違っている」
私たちは精緻な高齢者の脳機能検査のデータを持っていますが、時の見当識にはできなくなっていく順番があります。脳機能の老化が加速するとき、つまりに認知症の重度化に従ってできなくなる順番が決まっているのです。
(私たちが使う時の見当識と、質問項目が少し違います)
一番難しいのは「日」です。つまり「日」が答えられたら、その他はまず正解といえるくらいということを、この検査を作成された方がご存じないのだと思います。
私たちの持つデータに即して、配点してみると以下のようになります。
年:3点
月:2点
日:5点
曜日:4点
時刻:1点(±30分で正答は私たちのデータに比べて厳しい評価ですが)
現行だと、一番難しい「日」だけできなかった場合12点になり、定数をかけると16.032点。私たちの二段階方式では10点、定数をかけると13.36点。
前頭葉機能だけの低下にとどまっている最も早期のレベル(小ボケ)でそろそろ「日」があいまいになる段階です。実際には次の段階(中ボケ)に入っても運転している高齢者はいると思います。中ボケがどんどん進んでいくと時の見当識は、時刻だけがわかる状態になります。(これもわからなくなると大ボケです)得点は1点にまで落ちているのです。換算して1.336点どまり。それでもまだ世の中でいう認知症、徘徊や夜中に騒ぐ、家族がわからない、日常生活全面介助などの症状は一切ありません。

③カットオフ値(36/35)の意味が不明
時の見当識が満点だった場合は、15点×1.336=20.04点となります。認知症のおそれなしといわれる合格ラインの36点になるためにはあと16点でよい。しかも定数2.499をかけるわけですから実際に必要な得点は6.4。7点あれば合格!
自由再生4/16と1/4だけ正答できヒントでは一つも答えられない。ならば8点になりますがこれは現実的な想像ではありませんね。
最低でクリアする場合を考えてみると、自由再生では一つも正答できずヒントをもらって正答できたという状態が考えられます。16枚の絵のうち7枚、ヒントをもらってようやく正答できれば合格…
受検した人は、想像がつくと思いますが何一つ思い出せないという状態は、それこそ想像ができないと思います。それでも問題なく合格するのですよ。

時の見当識が「日」だけできなかった場合でも現行ならば、16.032点。合格ラインの36点にはあと20点。定数2.499で割ると必要な点数は8.003点。
例えば、上で述べたように現実的ではありませんが自由再生で4/16正答できればよい。自由再生で正答がゼロでも、ヒント再生で8/16正答ならば得点は20点となって、合計点は36点以上となり合格「認知症のおそれはない」ということになります。組み合わせはいくつもありますが、いずれにしてもそんなに高いレベルは要求していないことがすぐにわかると思います。

何のための検査なのでしょうか?「検査はしました」としか言ってないような気がします。
もともと的が外れた機能をターゲットに検査を組み立てていますが、これほど採点基準が甘いと、検査をしている意味はないのではないかと思ってしまいます。
一番大切なことは、記憶力の良い悪いと運転技能とは関係がないということと、事故を防ぐためには前頭葉機能中でも注意集中力に特化した検査が必要だということです。





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