エイジングライフ研究所は認知症を「脳機能」という物差しを持って理解します。じゃあ他ではどういうふうに認知症を理解するかというと、それは「症状」です。「症状」で判断すると重症化すればするほど、その判断は(診断も)確実になりますが、早期発見には程遠いことになります。
お断りですが、ここでは認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症について話していきます。
わが家の稚木桜(ワカキノサクラ)
エイジングライフ研究所では脳機能の物差を当てて認知症を軽度認知症(小ボケ)・中等度認知症(中ボケ)・重度認知症(大ボケ)の三段階に分類します。世の中で「認知症」と思われているのは、残念ながらここでいう重度認知症レベルです。大ボケの「前段階」と言ってもたかだか中ボケ下限にしかならないことはお分かりですよね?認知症の発症や経過そのものも、仮説だったアミロイドβ説もデータ改竄が指摘されていて、確定されているものはありません。
私たちはアルツハイマー型認知症になる原因は生き生きと脳を使わないことによる廃用症候群…脳の使い方が足りないために脳の老化が加速していく生活習慣病だと主張しています。だからこそ早期発見が重要になり、その鍵を握るのは前頭葉機能です。この点に関しては唯一無二の主張だと思います。認知症における認知機能検査はMMSEをはじめとして、脳の後半領域の測定にとどまっています。
グラフに注目してください。
これはある地区、65歳以上全人口303人中231人に個別に実施した脳機能検査の結果です。
縦軸MMSE(グラフ上はMMSと表示)は脳の後半領域の機能を測ります。多分世界で一番使われている検査だと思います。
横軸は私たちが開発した前頭葉テスト(かなひろいテスト)で、二つの検査を同時に実施しています。
最も注目すべきことは、MMSEで合格点と言われる24点以上の人たちの中に前頭葉テストの不合格者がいることです(黄色)。普通に認知テストをやっていたのではこのグループは見つけることができません。
この普通の認知テストでは合格、前頭葉テストが不合格の脳機能レベルの人たちが小ボケ。
次の段階の中ボケは前頭葉テストが不合格に加え、MMSEがさらに15点まで低下した脳機能を持つ人たちのことです(オレンジ色)。一般的にはMMSE 20点がカットオフ値とされることが多いです。これは中ボケ真ん中を切ったレベルです。
大ボケの脳機能レベルになると、MMSEは14点以下で前頭葉テストはほとんどできません(赤色)。
話が前後しますが、脳機能の基本情報です。
左脳右脳と表示してあるのがいわゆる認知機能テストのターゲットになり、御者は前頭葉機能を意味します。
前頭葉機能は脳の司令塔。いわゆる左脳や右脳にある認知機能から情報を受け取り、状況を理解、判断を下し馬車を進める立役者。その時その時の判断は十人十色です。その色を出すのが前頭葉機能です。前頭葉こそ自分らしさの源といえます。
その前頭葉機能だけがうまく働くなくなったのが「小ボケ」。
隣家のハクモクレン
「小ボケ」の脳機能になると「状況を判断しながら、たまに注意力を分配しながら、その課題について意識を集中させて取り組む」ことが不得手になってしまいますそして、そのような前頭葉機能の能力低下を自覚してもいるのです。
てきぱきと物事をこなせない。
感動がなくなった。
動作が緩慢になった。
抑制が効かない。
根気が続かない。
意欲がなくなった。
つまり以前の自分ではないようだ自覚しているのです。前頭葉の機能低下を自覚している。これが認知症の始まり「小ボケ」です。
決して物忘れではなく、以前の自分のように物事に対処できない(ということを自覚している)。ここが認知症への入り口であることを、みなさんはもっと信じてほしいと思います。
近所のウメ(伊豆高原では珍しい)

今回のケースです。
夫との死別後、一人暮らしになりました。半年ほどもかかったでしょうか、それでも元気になったころ、もともと洋裁が上手だったため近所の高齢女性が集まって簡単な袋物や着物や帯のリメイクなど手芸サークルができていたそうです。作品作りが楽しみと言いながら、多分おしゃべりや、終了後のたまの外食も生活がイキイキとなる中核だったことは容易に想像できます。
そこに襲ってきたのがコロナ。特に当初は三密回避が徹底されて、真面目な人ほど家に閉じこもってしまう状態になりました。
このように今までの生活、時に生きがいを感じていたようなことができなくなって、趣味なく生き甲斐もなく交友を楽しむこともない。そして運動もせず家に閉じこもっている「ナイナイ尽くしの生活」こそ、認知症を発症させる生活習慣なのです。
少しずつ老化が加速していくうちに、さらに悪い条件が。一つは本人の腰痛。もう一つは、お仲間が一人暮らしに不安があるということで入所。5年も経つうちに出掛けられなくなった人も出てきて、グループ再開の目処も立たない。
生きる力を支えてきたものがなくなってしまった。このような状況の中で認知症はヒタヒタと忍び寄ってきます。
以下の写真は川奈ホテル(4/7)

娘が気になったのは以下の通りです。
「生活は特に困る様子もなくこなせているようですが、何かお母さんらしくないんです。どこかちゃんとしてないというか。
そういえば部屋が片付いていない。もともととてもきちんとした母だったのですが。
あ。冷蔵庫にお豆腐が3丁もあったことがあります。
ニュースは見てるというのですが、話は以前のようには盛り上がらない。
いろいろやってると言いますが、どうも居眠りしてることが多いみたいです。
「それから、同じことを何度も言います。普通の顔をしていうので、なんだかとても変な気になります。うーん。それより気になるのはもともと好きだったことに関心がなくなったことかな。花とか音楽とか…」
「そうそう、食事は自分で作っています。そこそこのものはできていますが献立が単調すぎる気がします。もともとそんなふうに同じ料理ばかり作る母ではなかったんです。
続けて鍋を焦がしたので、電磁調理器に変えたほうがいいかなと思っています」

「家族のこともわかるし、徘徊はしないし、生活は一人でできているし。
何よりちゃんとしたことが話せるんです。ちゃんとしたどころか教訓のような立派なことも言いますよ。
ボケてはいないんですけど、気になるというかこれって歳のせいですか?それとも…」
言外には「歳のせいと結論づけてほしいけど、それにしたらちょっと変…でもボケてると言われたらショック!」こんな心境が見て取れます。
このようなやりとりは、小ボケの家族がよく訴えることですから、私は全て頷きながら聞いてあげます。前頭葉機能というキーがなければ、なかなか言われていることの理解は進まないものですが。
結論。前頭葉機能が万全ではない。
理由は腰痛の発生と楽しみにしていた仲間との交流が途絶えたことで脳機能の老化が加速された。
普通はもっと低下するけれども、腰痛が起きるまでは散歩を欠かさず、家族の交流があったこと。それにもまして一人で袋物など作って人にあげていた(だんだんあげる人がいなくなった)ことなどで小ボケレベルに止まっている。
娘さんはとても納得して、「母の脳が元気になるように頑張ります。母がその時間を楽しんであっという間に時間が経ったというようなことが脳リハビリなんですね。ドリルをやるのが脳トレかと思ってました」
後日談。
「あれから、妹とも相談しながら、母のやり甲斐や生き甲斐になることを考えて、実行しているところです。
母は昔から薔薇が好きで、でも父が亡くなってから庭の手入れもできておらず、、、先日は一緒に苗を買いに行ったりして、春のお庭を作ろうとう計画をして色々な面で前向きなところも出て来た感じですが、近所の高齢者コミュニティの卓球は嫌だと言いました😅
本人のペースで私も寄り添えたらと思ってます。
薔薇の品種もよく覚えていてそれも驚きでした😃近所の人にもみてもらえたら嬉しいと言ってました〜。
あと、4月21日に運転免許の認知症検査に行くのですが、本人は意欲満々ですけど、結果次第でまた今後考えて行かねばと思ってます」
松川湖(4/6)

中伊豆友人宅(4/4)
ちょっと長い私の返信。「お母さんの反応が良いのなら、脳の老化加速が早い段階で発見できたということです。よく変化をキャッチできて良かったですね。
それと、その変化が前頭葉の機能低下という理解ができたことも好条件でした。色々楽しんで計画をしてください。
お母さんがバラや庭づくりという楽しい趣味を持っていたということが最大の勝因ともいえます。まだ洋裁の腕でも使えるし。こういう多趣味なお母さんでよかったです!
前頭葉が元気がない時には理解はできるのに行動につながらないことも多いです。
お庭のこともちゃんと色々言えますが実際には手付かず…というようなこともよくあります。
(一緒に苗を用意したのはとても良いことです。)
スターターが作動しないことも多いので、そっと背中を押したり、一緒にやったりしてあげてください。
運転免許の更新はできる可能性の方が高いでしょう。
でも前頭葉機能が低下しているときの運転は、非常に危険です。
池袋事件を持ち出すまでもなく、高齢者による事件は全部前頭葉機能低下が関わっています。
免許更新では前頭葉検査が行われないことと、記憶検査も合格点の設定が低いです。
このまま前頭葉機能が復活して元の元気なお母さんに戻られてから運転した方がいいと思います。今まで書いた高齢者と運転に関する記事をまとめています。読んでみてください。高齢者の自動車事故は前頭葉機能低下が原因 より悪く見る必要はありませんが、よりよく見ないように気をつけてください。喋る力で評価するとどうしても高くなります。やったことで評価しましょう」
早期発見、早期対応。ほんとに春がきたみたいですね。