脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

脳機能検査をする意味

2024年03月31日 | 二段階方式って?
エイジングライフ研究所が提唱する認知症の早期診断法「二段階方式」は、まず脳機能検査を実施して脳機能の状態を測ります。その時、普通に使われている認知機能検査だけでなく、前頭葉機能に特化した検査を行うことが大きな特徴で、脳機能を二段階に分けて測るために「ニ段階方式」と名乗っているわけです。横軸の「かなひろい(御者の働き)」が前頭葉検査です。

普通の認知検査で測られるものは高次機能と言われるのですが、前頭葉機能は最高次機能とでも言わなくては、実態を表すことになりません。
3/31の庭の花たち

(牧野富太郎が最も好んだと言われる稚木桜)
世界でよく使われている認知検査(知能検査)であるMMSEやWAISで見事に合格した人たちの中に、前頭葉検査不合格の人たちがいるという事実を知っている人はほとんどいないでしょう。
二段階方式では、MMSEが満点の30点でも、安心せずにむしろ緊張して丁寧に前頭葉検査に取り掛かるようにと研修会では口を酸っぱくしていいます。
MMSEが不合格ならば、前頭葉検査は不要!高次機能に問題があれば最高次機能が機能しないのは当然でしょう。
ムスカリ
MMSE合格で前頭葉検査不合格の方に出会った保健師さんが「不思議なケースに出会いました」と何度も報告してくれました。
普通に見当識や記憶や計算力や言語関係の検査、図形の模写までもスラスラできて、満点。それなのに前頭葉検査になった途端に別人のように四苦八苦してしまうのです。

ペチコート水仙(バブルコジウム)
一般的な認知検査(知能検査)は見当識や記憶力や計算力や言語関係の検査、図形の模写などの「高次機能」をチェックします。
前頭葉機能は、それらの「高次機能」を手足のように使う「最高次機能」です。
状況を判断して、自分の行動を決断し、場合によったら修正をかける。
物事を発想し計画を立てる。
感動したり、抑制をかけたりする。
注意集中力と注意分配力。
分配力こそヒトの行動のベースにあるものですが「何を知っているかをチェックする」認知検査では分配力はおろか上記の機能を測ることは困難です。そしてこれらの機能こそがその人らしさをかたちづくっている…

貝母
鈴蘭水仙
高次機能が合格のテストをしている時にはテスターは安心もしなんだか嬉しくなるものです。その時こそ、前頭葉機能が万全かどうかを慎重に見極めないといけません。
「MMSE合格者の中には、前頭葉機能合格者と不合格者がいる!さあ、どちらの群の方だろうか」という姿勢が必要なのです。

ヒアシンス

カンパニュラ
前頭葉機能はその人らしさの根源です。だからこそ、不合格の時には先行して行ったMMSEで感じた「ちゃんとできている」という印象が砂上の楼閣に過ぎなかったというショックを強く感じてしまうのでしょう。
MMSEが不合格ならば、前頭葉機能は不合格ですから、その確認をするだけです。
西洋石楠花、チラリと紅花トキワマンサク、その向こうに稚木桜。
保健師さんたちを見ていて気づくことですが、「よりよく評価してあげたい」傾向が強いということです。
確かに一般的な「試験」なら、そのような温情も意味がある時があるかもしれません。
でも脳機能検査の時は、そのような態度ははっきりと間違いだと言わなくてはなりません。
できることは二の次で、できないところを探す姿勢で臨まないと検査をしている意味がありません。
できることは良いことで、できないことは悪いことという到達度チェックの検査に慣れすぎています。

フリージア

金時草
良い成績を確認するのではなく、思いがけない「穴」があるかないかをチェックしているのです。
「穴」が見つかれば、生活を支えるために何が必要かを考えることができます。
例えば、生活の援助をする時に腕がどのくらい上がるのかということを調べるとします。
上がって当たり前と思ったり、上がるに違いないと思って省略したら、実際は上がらないのに適切な援助ができないことになってしまいます。運動機能なら正確にチェックする(できないことをはっきりさせる)ことに抵抗がないのに、脳機能はできないことを明らかにさせることを躊躇う…できるものと思ってあげたい…



雲南黄梅
繰り返します。
二段階方式では脳機能検査は脳機能の状態を知って、生活遂行能力を推し量るために実施しているのですから、勇気を持って、脳機能が正しく反映されたテストを心がけてください。
二段階方式は、続けて30項目問診票、生活歴の聞き取りという段階を経て、その方がアルツハイマー型認知症であるかないか、重症度、脳の老化を加速させた期間までが理解できるのです。所要時間はたかだか40〜60分です。
by 高槻絹子



詳しいブログです。
「認知症の早期診断、介護並びに回復と予防のシステム」
http://blog.goo.ne.jp/kinukototadao












富戸定置網でブリ大漁

2024年03月20日 | 前頭葉の働き
ブリ大漁
今朝、このような素晴らしい動画が送られてきました。漁師さんたちの喜びや興奮が伝わってくるようで、思わず「すご〜い」と声を出しながら、繰り返し見てしまいました。
なんとお昼前、その今朝獲れブリが我が家に到着!富戸の漁師さんが届けてくださいました。下の写真は、ちょうど夕方のテレビニュースで放送されたので、その1シーンのスクリーンショットです。

ここに住んでいると、数年に一回くらいはブリを捌くこともあります。さすがブリともなると、捌くときに頭を切り落とすのに難儀します。何度か挑戦するうち、頭を残して捌く方法に到達しましたが、難しいことには変わりないのです。
今日のブリは、頭を落として、三枚おろし(片身)。中骨も切ってあり、立派な真子までも引き連れての登場でした!
「刺身だね。ブリしゃぶもいけると思う」とお届けメッセージがありました。
料理の前に計測!



重さは約5kg。頭と内臓がないのですから、多分12kgは超えるくらいの立派なブリです。検索してみると5kgを超えるとブリと呼ぶようですが、富戸の漁師さんは「7kgを超えたらブリ」といわれます。繰り返しますが、今日のブリは半身で5kgの重さですよ!



大きな頭と尾ビレはとられていて、身だけで約60cm。全長90cmはあったでしょうね。

身の厚みは30cm。ずんぐりした魚体。丸太夫というのではなかったでしょうか?
真子もきれいです。

ふた腹で500g。

料理してしまうと、大きさはわからなくなるのでどんなに見事だったかをいいたくなるのです。これでちょっと満足して、さあ捌きましょう!

血合いの色が、くすんだ赤ではなくてベージュ色に近いことに驚かされました。漁師さんだからできる締め方があるのでしょうか。
雄節。重さと大きさを測らなかったのですが、このお盆は45cm✖️27cm。

雌節。二つに切り分けるより三等分にしたくなりました。あまりにも脂がみごとだったからでしょうか。

皮を引くときに、包丁にかかる身の重みで先に進みにくいという経験を久しぶりにしました。
皮を引いた後の見事な脂。5mmと言えばちょっと大袈裟ですが、3mmでは足りない厚さです。

テレビコマーシャルで「脳は脂でできている」とか「青魚に含まれるDHAやEPAが良い」と盛んに言われています。
脳が育つ過程でDHAやEPAが必要ということと、炎症を防ぐ力がある(認知症になる原因として脳の炎症を挙げる立場があります)ということが根拠のようですが、適切な量のDHAやEPAを摂取したとしても、家に閉じこもって変化のない単調な生活を続ける、言い換えれば自分らしく前頭葉を駆使して、生きがいを感じながら楽しく変化のある生活をしないならば、認知症への道につながることは簡単に想像できるはずです。
このDHAやEPAがたっぷりのブリ。 DHAやEPAが認知症予防になるかならないかは別にして、あまりにもおいしくて、この美味しさをどう表現すればいいのか言葉を選び豊かな表情を添えて、会話が盛り上がるとき、間違いなく脳は活性化されています。
確かに脂はあるのですが、身が引き締まり、コリコリとした食感を感じるほど。醤油はもちろん(ワサビは不要)美味しい塩でもポン酢でも。
雄節の一切れはためらわれるほど大きいし、雌節は脂がきれいに層になってるのに、いくらでも食べられるのです。不思議な気持ちになりました。
夫は「今まで食べた中で一番!」この表現はどういう味かは言ってないのですが、美味しさを共感できるものでした。
刺身

ブリしゃぶ用の野菜

真子の煮付け


実は、料理をしながら私は懐かしい思い出に浸っていました。
「桜が咲く頃、ブリが揚がるとブリ祭りができるよ。1匹で、どんな大食漢の漁師でも30人くらいなら、みんな満腹にさせられる!」この言葉を聞いたのは、伊豆に移ってきてしばらく経った時、大船頭をなさった方の奥さんからでした。(もう亡くなられました…)
魚にあった料理法や捌き方、そのコツなどもたくさん教えていただきました。故郷北九州で母から教わったことと違うこともあって、そのような時はいつも「新鮮な魚なら」というキーワードで納得できました。
骨で出汁を取る時は、母は「生臭さが出ないように熱湯に入れる」と教えてくれましたが、ここでは「水から入れるに決まってる。そっちの方がよくエキスが出るから」と。
「カマスは丸焼きが一番!お腹がこんなに綺麗な魚はいないから」鮎とサンマ以外の魚で腑を取り出さずに焼いたことはありませんでした。
「脂の抜けたサンマは、塩水につけた後そのまま丸干しにする」と教えていただいてからは、寒くなってあがってくる痩せたサンマを心待ちにしたものです。
「綺麗に捌けても手際が悪いとダメ。手際良くするには工夫をしないとね」
海藻のとり方や食べ方も。地域と経験に根ざした知恵をたくさん授けていただきました。
最近言われるデュアルタスク。同時に二つのことをすることが認知症予防になるという主張で、例えば「料理しながら歌を歌う」ということもよく例に出されています。鼻歌まじりにブリを料理した時と、今日のように具体的にお一人の顔や言葉や、当然その時々のシーンまで思い起こして懐かしさや感謝の気持ちを募らせながら料理するのでは、根本的に脳の使い方が違います。
研究室では、思い浮かばないのかもしれませんね。


夕方のテレビで富戸定置網のブリ豊漁のニュースが流れました。味について若い漁師さんが、ニコニコしながら「おいしいです」と言っていたのはよかったです。そのシーンも確認してください。富戸定置網には、大学卒業してそのまま漁師の世界に飛び込んだ若者もいるのですが、これは特筆すべきことかもしれません。
テレビ静岡ニュース「伊東市でブリの定置網漁が活況」 

by 高槻絹子





















美味到着

2024年03月18日 | 私の右脳ライフ
伊能忠敬の日本大図の正確さには、誰しも驚かされると思いますが、なんと伊能忠敬の時代(伊能図の完成は1821年。200年以上も前)に伊豆東海岸の網代と川奈と稲取に定置網が描き込まれているのです。国土地理院からいただいた日本大図から網代地区を拡大しました。
定置網漁は、網に入った魚の大部分が出ていってしまう(95%も出ていくとか!)環境にやさしい漁法です。まさに江戸時代からSDGsを実現していると言えますね。
車で7分のところに定置網を持つ富戸漁港があります。お知り合いが時々獲れたての魚を持ってきてくださいます。漁の様子を写真で見せてくださることも。独り占めはあまりにも勿体無い…


先日それは見事なイワシが届きました。大羽イワシ。27センチくらいありました!

イワシには鱗がないと思っている人は多いでしょうね。新鮮なイワシにはウロコがありますよ。
私にとっては、イワシの一番美味しい食べ方はお刺身か酢でちょっと締めたものです。
夫は、甘辛く煮付けたのが一番好きだと思います。

酢洗いしたものは握りにしました。

中骨と真子、白子は煮付けて。(この中骨は一緒に届いたホウボウですね)

一夜干しも作りました。塩焼きとは一味違います。

三枚に下ろしたものは、天ぷらやムニエル用。

頭でお出汁をとって、腹のすき身をたたいて団子にして味噌汁の具にします。美味しいと思える人は食べたことがある人だけでしょうね。魚は廃棄分が多いと耳にしますが、捨てるのは内臓とヒレくらいで、これも環境にやさしいと言えるかもしれませんね。

ちょうど友人が来ていたので、天ぷらにしました。付け合わせは沖縄南城市産の「サクサク王子」というインゲン豆。

「サクサク王子」茹で時間2分以内という指示があったので、2分と1分30秒茹でて丘上げしてみました。茹で時間は短くてオッケー。何事も興味深くやる時は面倒という気持ちは湧いてきません。

旅をして来たものがもう一つ。

金沢近江町市場のズワイガニ!

茹で方自慢のお店なので、こんなに見事な茹で上がりでした。これは家庭ではとても無理だと思います。

自家製ブロッコリーをいただきました。友人から「ブロッコリーを茹でるときには塩、砂糖、油を入れるといいそうよ。Daigoの料理番組で言ってた」という情報があったのでそのように下準備をして一皿追加。

また別の友人がノンフライヤーを勧めてくれたので、ヘルシーなノンフライヤー料理にも挑戦しています。卵を焼くときに油が不要でこんな感じになります。このパンを作っている近所のパン屋さん「まねきねこ」のさやかさんが「どういう調理法ですか?」と尋ねてきました。ちょっと目にしない卵の様子ですね。「まねきねこ」といえば、国産小麦、天然酵母を使うだけでなく、生体エネルギーということも導入してより健康的でよりおいしくを追及しているお店です。

今日は、最近食べた美味しいもの備忘録でした。海山からの恵みに心から感謝していただきました。
by 高槻絹子






ニューヨークランプミュージアムを満喫

2024年03月17日 | 私の右脳ライフ
最近、近所のニューヨークランプミュージアムに3度も行きました。
毎回「心ときめくものを見つけよう!」を心に秘めて訪れますが、不思議なことにと言いたくなるほど、毎回発見があります。
入園すると、目に飛び込んでくるのが花畑の向こうに広がる相模灘。
寒い間に訪れたご褒美として筆頭にあげられるのは、三宅島が見えることだと思います。
ニューヨークランプミュージアムは、よく手入れがされていて、季節の花が楽しめるようになっています。ルピナス越しの相模灘。(伊豆東海岸)
訪問時期を少しずらして、撮影角度を変えると、景色も前景の花も変わります。ストック。

何度も訪れているうちに、顔馴染みになった関崎さん。

かつてのプラントハンターのように、世界中は回りませんが、ネットを駆使して珍しい植物をゲットしては育てていらっしゃいます。
この日は「シトロネルムが手に入りました。柑橘系の香りがする植物で一番香りが強いんですよ。ほら。レモンマートルよりも際立ってるでしょう。ここのニオイゼラニュームスペース見てくれましたか。これで網羅できているんですよ!」お仕事なら楽しそうすぎる関崎さんです。
ずらりと並んだ鉢のそれぞれの株から、不思議なほど名前通りの香りがするのです。ローズ、ミント、レモンなどなど。

次に説明してくださったのは、ツタンカーメンのエンドウマメ。ツタンカーメンの墓から見つけられた種。花もさやも紫色。茹でると緑色になるそうです。

我が家ではマンジェリコンと言っていますが、正確にいうとポルトジンユらしいです。その花。初めて見ました。


関崎さんの力を借りなくても、心惹かれるものは見つかります。
いつ行っても声を上げたくなるのが門脇灯台をのぞむこの景色。ポスターに使われることが多いアングルです。空と海があれば、同じ景色にはなり得ません。
足元を見てもびっくりすることは見つかります。
ディモルフォセカは白や紫の一重の花。南アメリカに群生のディモルフォセカを見に行った友人が「黄色もオレンジ色もあるのよ」と教えてくれて、注意してみると確かに黄色やオレンジ色の花が目に入るようになりました。

でもこれはちょっと違う!




全体の感じはそっくり。花だけがちょっと違う。新しい品種のようです。検索が簡単にできる世の中になってとても嬉しいというか複雑になってきました。
もともと何十年も前にディモルフォセカと教わったのですが、その後オステオスペルマムという分類法が出てきて、一年草と多年草という分け方だったりもっと差をクリアにしたり、という状態で、現在はオステオスペルマムという方が優勢のようです。


ずいぶん前から、このラナンキュラスは咲いていましたが、角度を変えて写せば印象が全く変わります。
フラワーポンドも毎回どきっとするスポットです。

アンブレラスカイ。季節感を表すカラーを想像しながら角を曲がる楽しみがあります。今回は「桜のピンク」でビンゴ!でした。


3/10は駐車場で開催中のわんわんマルシェに遭遇しました。

いつも犬連れのお客さんが多く、園内にもたくさんのペット用のフォトスポットが用意されているニューヨークランプミュージアムですから、的を射た企画だったのでしょう。大盛況でした。

さまざまなお店が出ていました。こだわりの食べ物もたくさんありましたが、食べ物以外のお店は驚かされるものがたくさんありました。
家から30分歩けば、体の健康にも脳の健康にも役にたつ場所があることに感謝しています。

by 高槻絹子
















東日本大震災から13年

2024年03月10日 | 正常から認知症への移り変わり
東日本大震災からもう13年…この日には2011年3月20日に書いたブログを再掲することにしています。
13年前の2011年3月10日。
3月11日の藤沢町(現一関市)講演のため、気仙沼前泊でした。
早朝に出発して、奥州市江刺区の自主的な認知症予防教室「年とらんと会」にお邪魔してから、気仙沼に向かいました。詳細はブログに書きました。(後半)
岩手県奥州市の認知症予防教室「年とらんと会」
13年前の3月10日から11日の二日間は何という時間だったでしょうか!10日は奥州市で旧交を温め楽しい時間が過ぎました。夜は気仙沼港を見下ろす気仙沼プラザホテルで友人たちとおいしいお食事と楽しい会話で時を過ごしました。翌朝藤沢町(現一関市)の講演場所へ行く車中でも、とりとめもない会話を楽しみながら「ホテルからはカーブが続く上り坂。坂の上の台地に藤沢町はあるの2024年3月10日だろう」と思ったことを、今思い出しました。
11日14時46分以降は想像もできないことが起きていることに気づくのにも何時間もかかりました。たまたま私がいたところはそれほど大きな揺れが起きなかったのです。
交通手段がなかったので、一関市の小野寺保健師さんのお宅に避難させていただき、奥州市の千葉謙さんのご尽力で自宅に帰ることができたのは1週間後。
あれほどお世話になった千葉謙さんは昨年末鬼籍に入られました…こうしてお名前を書くだけでも、あの笑顔と渋い声と何よりもいつもユーモアを忘れていなかった謙さんが胸いっぱいに広がります。
2024年3月10日。穏やかな春日でした。


以下は再掲記事です。

東日本大震災ー高齢者を認知症から守る(1)
私は、3月10日から、岩手県に行っていました。
11日の地震発生時には、岩手県藤沢町(一関市と宮城県気仙沼市の中間)で講演をしていました。
震度7と後から聞きましたが、地盤のせいか建物のせいかしゃがみこむこともなく、実際、壁にかかっている表彰額も一枚も落ちることはありませんでした。
こんな大災害とも思わず、ただ交通遮断になりましたから、そのまま一関市の小野寺保健師さんのお宅で生活をさせていただきました。ラジオの情報は聞いていたのですが、16日夜になって初めてテレビを見て、その惨状に声もなく涙が流れるばかりでした。(その後、奥州市の知人の暖かいお心づかいで、18日に花巻空港から帰宅することができました)
この避難生活に関しても報告したいことや感謝したいことは山のようにありますが、今日は、エイジングライフ研究所の原点に立ち返って認知症の発症やその予防について話したいと思います。
認知症の発症という観点からみると、今避難所にいる高齢者の方だけでなく、ご自宅にいらっしゃる方でも、大変危ない状況だと考えざるをえません。
エイジングライフ研究所は、脳機能という物差しを持って認知症を見ていきます。
通常は、症状(どんなことを言うか。どんなことをするか)から認知症を考えるのです。セルフケアに支障を起こす、徘徊、夜中に騒ぐ、粗暴行為、異食など余程困ったことをしでかさないと認知症と思われていません。
普通の高齢者が、昨日までまったく正常で、ある日突然このような状態になるでしょうか?認知症は徐々に進行するものなのです。
Sikumi
まずは脳の機能を説明しましょう。 
右脳、左脳については皆さんもよくわかっていらっしゃるでしょう。
簡単に言うと左脳は「言えばわかる」脳です。
右脳は「言葉ではうまく言えないけど、でもわかっている」時活動しています。
昔の人は「よく遊び、よく学べ」と言いましたが、遊ぶ時に効率よく働くのが右脳。学ぶ時に効率がいいのが左脳といってもいいでしょう。
わかりにくいのが前頭葉のはたらきです。
脳全体の司令塔の役割を担っています。前頭葉がその状況判断で右脳、左脳を上手にその人らしく使いながら生きていくのです。
「よく遊び、よく学べ」が右脳、左脳の説明なら、「十人十色」が前頭葉の説明に相当します。
Photo_3
生きていくということは、自分らしく三頭建馬車を動かし続けるということです。
その時、それぞれの馬の元気さも大切ですが、その馬を上手に使いこなすことができる御者(前頭葉)の働きがなくては、馬車は上手に走ることができません。
前頭葉機能は広範囲にわたりますが、その中の注意集中分配力は、18歳でピークを迎え20歳代はそれを維持し、その後は加齢とともに直線的に低下していきます。年齢とともに能力低下を起こしても、それは必然であって認知症ではありません。
老化が加速していくときに、認知症への道に入ったということなのです。
Photo 
老化が加速されていくときには、まず前頭葉の老化が加速され、その後脳の後半領域の機能低下も順々に起きてきます。
そのレベルによって、認知症は三段階にわけることができます。回復が極めて困難な大ボケに至るまでには、最初のきっかけから6年以上もかかります。

小ボケ:「指示待ち人」
家庭生活は問題ないが社会生活がこなせない。世話役ができない。趣味をやめてしまう。無表情。
    
中ボケ:「言い訳のうまい幼稚園児}
家庭生活に支障が出てくる。話していることを聞けば変わりないが、やることは幼稚園児のようになる。
     
大ボケ:「脳の寝たきり」
セルフケアにも問題が出てくる。通常はここからをボケと思っている。
「」内は家族による、生活状態の一言表現。      
以下、きっかけの説明はその2へ

東日本大震災ー高齢者を認知症から守る(2)

上のグラフの星マーク「人生の大きな出来ごと。生活の大きな変化」の説明です。
重要なことは、そのことが起きたらだれでも老化が加速するのではないということです。そのことが起きて、その変化に適応できず、閉じこもったり何もしなくなったりしたら、いいかえるとそのことをきっかけにして三頭建の馬車が止まってしまったら老化が加速していくということなのです。その状況変化が御者の意欲をなくし、指令を出すことをやめてしまうときが認知症への第一歩なのです。

仕事一筋の人の定年退職。
息子に代を譲ったおじいさん。
嫁が来て、しゃもじを渡したおばあさん。
孫が手離れた祖父母。などなど
繰り返しますが、「そのことが起きたら」ではありません。
「その後の生活が新しく描けなくて何もしない状態になったら」前頭葉は出番を失って老化を加速していくのです。
 
「高齢者が、病気やケガで安静にしていたら、ボケてしまう」ということは世間の常識です。
「20代の若者が長期安静にしたらボケるでしょうか?」講演でこの質問をすると、皆さんは笑って
「そんなことはない」と言われます。
このことは皆さんが脳の老化曲線を承知しているということではないでしょうか。
入院した高齢者が全部ボケるわけではありません。
ボケる人は、安静にして 何もしない!
ボケない人は、リハビリに励んだり、回復するにつれて人の世話をしたり、手芸などの趣味を楽しんだりしています。

このきっかけの説明をよく理解していただきたいと思います。
「寂しさ」の下の左下の図から反時計回りです。
左下。
脳は「使ってナンボ」という正直者です。
三世代同居をしていても、孫は勉強、塾と忙しく、子どもは仕事に追われている。その結果、起きる時間も別なら食事も別。当然会話もない。一人でテレビで時間を過ごすしかない。
このような生活は、脳から見れば「ひとり暮らし」以外の何物でもありません。
楽しみや刺激の少ない生活は、前頭葉の力を発揮する場がありませんから老化を早めます。
右下。
家庭内に種々のトラブルが発生し、「何もしてやれない」とか「この先どうなることか」とか「世間さまに顔向けできない」などという状況になった時、
「お手上げ」と前頭葉が判断してしまうと、頭の中はそのことで覆われて、将来の展望も楽しみも何もキャッチすることができなくなります。
子どもの離婚騒動、サラ金、リストラ。孫の病気、非行、不登校などの心配事が相当しますが、今回の大惨事こそこの状態の最たるものといえるのではないでしょうか。
最後に右上。
「別れ」を意味しています。
これは親しい人との死別を筆頭に、友人や孫との生き別れもあります。ペットとの別れもありますし、趣味のサークルに参加できなくなるというような別れもあります。
身体の不調も「別れ」と位置付けてもいいかもしれません。
環境の急激な変化そのものも、前の環境を失ったと考えればやはり「別れ」でしょう。

「あの人がいれば、あれもできるし、これもしたい。でもあの人がいないから・・・」
「元気なら、もっと見えれば、もっと聞こえたら、何でもできるけど、思ったようにできないから、あれもできない。これもできない」
「この環境でなければ、できることがあるのに」
そう思ってしまうことは私たちには十分に理解できます。
でも、この先には
「あれもしたくない。これもしたくない」という意欲低下が待っています。

意欲は前頭葉の働きですが、前頭葉がその力を発揮する必要条件とでもいえるもので、意欲なくしては、司令塔としての前頭葉機能(状況の判断、決断、指令)は発揮できません。そうすると三頭建の馬車も止まってしまうのです。

その別れを乗り超えられずに、閉じ込もり、目標も楽しみも何も見つからない生活が続く時、馬車は留まったまま、御者も馬も動くことなく時間だけが流れていく・・・脳は老化をどんどん加速していきます。
最も危ない状況です。
今、テレビの画面で拝見する高齢者の皆さんの胸中を思う時、まさにこの喪失感のただなかにいらっしゃるだろうと思うのです。
最初は、状況の理解そのものもあまりにも受け入れ難く、現実のものとしてとらえられなかった可能性すらあります。
でも、落ち着いてくれば来るほど、そして高齢であればなおさら、事の重大さや失ったものの大きさに打ちひしがれてしまうでしょう。将来に対する展望が描けないことを責める気持ちはありません。多分私だって・・・
でも。とあえて言わせていただきます。
こんなに過酷な運命に翻弄されたのに、その先にまたボケという悲しい状況を迎えさせるわけにはいきません。
どうにか、それぞれの皆さんの馬車が再び動き始めることができるように、心を配っていかなければいけないと思うのです。
どのようにして、馬車を動かすことができるのか?その3としてまとめます。

東日本大震災ー高齢者を認知症から守る(3)

私たちの三頭建の馬車の仕組みは 仕事勉強の左脳、身体を動かす運動脳、そして趣味や遊びの右脳の三種類の仕事に特化された馬たちと、それを上手に操る御者役の前頭葉から成り立っています。
いつの時でも、三頭の馬が働いて馬車が動いている時には前頭葉は全体を見守っています。
それ以前に、動き始める時もまず前頭葉が状況を判断して一鞭をふるうところから始まるのです。
このことはとても大切なことですから、よく覚えておいてください。

「馬車が動き始める時と動いている時には、御者は必ず働いている」
「何かをやろうと思う時と、やり始める時と、やっている時には前頭葉は必ず動いている」と言い換えられます。
脳の老化が加速されるのは、前頭葉が出番をなくして、何もしなくなるところから始まります。まず置かれている状況を判断しなくなる。意欲がなくなる。周りに関心が持てなくなる。
前頭葉がその状態になると、馬車を動かす三頭の馬たちはいくら元気であってもその力を発揮できない状態(小ボケ)が続き、次第に三頭の馬自体も力を落としていきます(中ボケ)。
最終段階が御者も馬も倒れてしまった状態(大ボケ)と考えるとわかりやすいかと思います。
Sikumi_3 
エイジングライフ研究所は、脳の老化が早まった場合には「脳のリハビリ」ということで、脳の元気を取り戻す指導をします。その柱は二つあります。
 ①一日一時間の散歩を。
 ②右脳を使って楽しむ時間を。
散歩
「ボケ予防のために歩いています」という方は多いですが、理由として
「歩いたら、歩く刺激が脳に行くでしょ?」と思っていることがほとんどのようです。もちろん外に出て歩けば、自然に触れ、景色や花を楽しみ、風や日差しを感じたりして五感を通じてその刺激が脳に入ることは間違いありません。
でもこれは本末転倒の考えです。
「歩く」時には、脳の運動領域が身体に対して命令を出し続けなくては歩けないのです。脳卒中で脳の運動領域に損傷を受けた人は歩けません。
一時間歩いていると脳の運動領域は一時間働いています。もちろん前頭葉もです!自覚がなくても歩くことは、間違いなく広範囲の運動領域が働くことですから、皆さんが考えるよりも脳を使うという効果がありますが。

「歩く」時には、運動領域の多くの部分が活性化されます。でも足腰に痛みのある方は、椅子に座って上半身だけの運動でもいいのです。
効果的なのは「体を動かすことで、脳を動かすことになる。そうすればボケない」という自覚です。自覚を持てば持つほど御者はその行程を大切に思って、意識的に状況の変化をキャッチしようとするとは思いませんか?
誰かに言われた結果であっても、体を動かしている時には脳が働いているのです。でも、自分で、というのは御者である前頭葉が目的をはっきり持って、「こんな時だからこそ、体のためだけではなくて、脳を動かしてボケないようにしよう」と考えると、自分の体調や周りの様子にも気を配りながら運動を始め、そして続けることになりますね。その時前頭葉が目覚めています。
そこまで考えられないのが現状でしょう。だれかが音頭をとって、避難所の高齢の方たちの運動を促す時間が実現できたらいいのです。そうしておくと、習慣化することにもつながりますし、自宅に帰られても、あるいは仮設住宅に移られても、ボケ予防としての運動の大切さを訴えやすくなります。
右脳
 
その1で説明したように、右脳でよく遊び、左脳でよく学ぶのです。
仕事や勉強は「やらねばならない」もので、趣味や遊びは「楽しくてもっとやりたい」ものですね。
形、色、音楽など右脳を使う場面からは、もっとやりたいというレベルの意欲がわいてきます。
元気をなくしている脳にとっては、右脳刺激の方が適切な理由です。
避難所のテレビ報道で、中学生の合唱に涙する方々を見ました。こういう時だからこそ、より強く胸に訴えてくるのでしょう・・・
そういうことはできても、左表にあげたような一般的な右脳刺激は皆さんのお気持ちを思うととても無理だとわかっています。
 
でも、どんな厳しい状況の時だって右脳は使えます。それは感情を行き来させるという状況を作ることです。
人とのコミュニケーションを図る時、私たちはまず「言葉を使って」と思います。
でも言葉だけでは人とのコミュニケーションは成立しません。
自販機の「ありがとうございました」はコミュニケーションでしょうか?
言葉の内容以上に、相手の表情、身振り、声の調子、高低、強弱・・・
そのような情報をもとに私たちはより深く相手の心情を知ることができますし、自分の気持ちも伝えることができます。
言葉以外のすべての情報は、右脳と前頭葉の連係プレイの下でやり取りされます。この時間は、脳の機能としては高次元で、とても脳はイキイキと活動しています。
言葉を発することなく、手を握り合っても、抱き合ってもわかりあえるのが私たちです。テレビ報道で、涙で言葉にならない方を見ながら私たちも涙を流しました。ともすればあふれそうになる涙をこらえながら言葉少なに語る人にも、涙しました。言葉の奥に隠されたその方の心情を私たちは感じることができます。
悲しい時間ですが、私たちの馬車はそんな時しっかりと進んでいるのですよ。
一人でポツンと過ごすことのできない避難所だからこそ、悲しみを訴え、気持ちを労りあい、共に涙を流していいと思います。
そして次の段階が来た時には、皆で声を掛け合い、必ず前を見て自分の馬車を自分らしく動かそうと思っていただきたいと思います。
今後、高齢者が住むことになる仮設住宅や施設も用意されていくことでしょうが、人は体があって生きていればいいというものではありません。その人らしく生き抜いていっていただくためには、その人の覚悟が要ります。

本当に前を向くことが難しい状況だと承知の上で、ボケないためになお前を見て生きていっていただきたいと切に願います。
亡くなられた方々のご冥福を祈りながら、残された方々に笑顔が浮かぶ日が来ることを信じて、今回のブログは書かせていただきました。

by 高槻絹子

ブログ村

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