エイジングライフ研究所の二段階方式を使って、認知症の有無や重症度を見ていくときには
1.脳機能検査
2.生活実態(30項目問診票)
3.最近の生活歴聴取 の三本柱を用いることは何度もお話ししてきました。
二段階方式を実施するとき、初心者の方々は
1.脳機能検査にエネルギーを掛けてしまって、
2.生活実態(30項目問診票)や
3.最近の生活歴聴取がおろそかになりがちですが、検査を受けている人を理解するためには1も2も3も同じように大切な情報ということを忘れないでください。
二段階方式では、この三つの情報の意味することが共通するかどうかをチェックしなくてはいけないのです。
(1.脳機能検査が小ボケなら2.生活実態も小ボケ3.生活歴も小ボケ相当の時だけ、普通の認知症という考え方になります)
今日は2.生活実態の話です。
小ボケレベルだと本人が自覚しています。軽いほど、はっきりと申告してくれます。
30項目問診票の1~10の小ボケ相当の生活実態のほとんどに丸をつけてくれて、それは気の毒になるくらいです。
つけくわえですが、「10.相手の意見を聞かない」の項目だけは、原則本人は丸をつけません。
もし本人が小ボケレベルであって、「10.相手の意見を聞かない」の項目を自覚しているといった場合は、ほんとうにもともと人の意見に耳を傾けない難しい人柄の場合が多いようです。
小ボケでも、だんだん進んで中ボケに近くなると、自覚があいまいになってきて、30項目問診票の丸の数は少なくなっていくものです。
中ボケになると自覚がなくなりますから、家族や施設の職員など周りの人の評価が大切になります。
小ボケは本人評価、中ボケ以下は家族(他者)評価が原則ですが、どのレベルであっても、家族がその人をどのように見ているかを申告してもらうことで、その家族の関係が垣間見えてくることがよくあります。
もちろん1.脳機能検査の結果を基礎において、解釈していくことになりますよ。
実務研修会で「家族はどのくらい正確に、認知症の人の症状をとらえているでしょうか?」と尋ねてみます。
「妻が夫を見る時」→「正確」 (原則的にはその通り)
→「より軽く」 (いわゆるいい家で妻が防衛的な時)
→「正確」 (一番多いケース)
→「より重く」 (妻が夫を嫌っている時)
「夫が妻。息子が親」→「軽く」 (原則的にはその通り。例外は、夫や息子が責任持って面倒をみている場合で、この場合は正確に申告する)
「嫁した娘が親を見る時」→「軽く」 (原則的にはその通り。月に一度以上の頻度で泊りがけで世話をしている場合には正確に申告する)
「同居の息子の嫁」→「より重く」 (実務研修会では、みなさん笑いながらほとんどこのように答えますが、実態は正確なことがほとんどです)
以上話したことは、原則論ですよ。
脳機能に対して家族評価が悪すぎる時があります。そのような時は、認知症の方、本人 に問題があることが多いのです。
夫婦関係が破綻していたとか、子どもに対する愛情が不足していたとか、嫁入りした時からずーと泣かされ続けてきたとか訴えられることが多いのです。
興味深いケースがありましたから紹介します。
85歳男性。
1.脳機能検査は正常。
2.生活実態も正常(7のみ丸)
3.生活歴が問題でした。
「農業が生きがいだったが、2年前くらいから認知症の妻の状態が悪くなって、田んぼをやめ畑をやめ、今は自家用野菜を作るだけになってしまった。
気力、体力ともに落ちてしまった。
ただし、趣味はナンプレや漢字ゲーム。読書も続けている」
脳機能検査の結果が正常だったことと、担当保健師さんは趣味も楽しんでいるということから問題なしと考えたのですが、もともと民生委員もやったりして、地域では人格者で通っている方でした。その人が「気力、体力ともに落ちてしまった」と言っているのです。
ボケはじめは物忘れではなくて、意欲低下です。
30項目問診票は正常範囲の申告でしたが、脳機能低下が加速される時、一番最初に自覚される意欲低下を申告していることに注意してあげましょう。
生活実態をもう少し詳しく聞いていくと
「妻は数年前からおかしくなってきた(中ボケから大ボケ)。ディlサービスは嫌がるので行かせていない。
畑に行くとついてきたがる(中ボケ)。畑仕事は手伝っているつもりでも邪魔になることが多い(中ボケ)。
半日くらいは一人で留守番ができるが(中ボケ)、用意してある食事を温めたり片づけたりはできない(中ボケ)。
息子夫婦と同居しているが、息子が失業中で嫁が働きに行っているため、自分が面倒をみている」という状態がわかってきました。
青字は、申告された症状から妻の脳機能レベルを想定したものです。だいたい中ボケレベルではないかと言えます。
「夫婦二人暮らしで、片方が小ボケの間はもう片方は正常で生活できるが、中ボケになったら、もう一方は小ボケになっていく」ということも知っておかなくてはいけません。
放っておけないので、自分の活動が制約されるということと、将来がとても不安になるからです。
このように脳機能検査ができないときには、2.30項目問診票を使って評価してもらいます。
もちろん正確に観察ができていて、正直に申告してもらわないと使えないですが。
夫が妻を観察した結果は1~10に6個丸が付き、11~20はすべて、21~30に2個丸が付きました。中ボケ下限ということになります。
同居の長男の嫁は、1~10には一つも丸が付きません。11~20に2個、21~301個。
この丸の付け方はおかしいですね?
1~10に4個以上丸がついて初めて、11以下に丸が付き始めるものですから。
この嫁は姑をみてない!いや、見る必要がないといった方が実態なのでしょう。
嫁に妻の介護を任せている夫や、妻に親の介護を任せている息子が、認知症になった人の実態を知らないまま生活しているのと、全く同じことが起きています。
夫や嫁という家族としての立場ではなく、その人とどのくらい深くかかわりを持っているか、どのくらい向き合っているかが、認知症になった人を観察申告するベースなのだと改めてわかりました。