脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

小ボケの発見ーMRI正常・IQ148でも安心しない

2020年07月19日 | 画像だけにたよらない
友人の友人の話です。
去年、定年退職なさった男性。海外駐在まで含め立派に勤め上げられたらしいです。退職後は、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつと伺えば、それだけで、私は「体も脳もお元気で、充実した第二の人生をスタートされたなあ」と、安心します。ところが、認知症を心配して受診したというのです。
今日の写真は雨のあいだを縫って行った伊豆長岡パノラマパーク。

ロープウエイで7分。

ロープウエイ山上駅を出ると、チケットとは違ってこの時期らしい富士山が眼前に。姿を現したり隠れたり忙しいこと。

エイジングライフ研究所は、認知症になるかならないかはその人の生き方にかかっていると主張しています。
特にカギを握るのは前頭葉。いかにその方らしくイキイキと生活し続けるか。その生活を実現させるのが、脳の司令塔である前頭葉の機能です。

一言に脳機能といってしまいますが、前頭葉機能と脳の後半領域の機能(これを知的機能、認知機能、高次機能などといいます)には大きな差があります。レベルが違うのです。前頭葉機能は最高次機能といわなくては実態を反映しませんが、それ以前にほとんど認知されていないという、とっても不思議なことが起きています。
例をあげましょう。
前頭葉白質部を切断するロボトミー手術を思い出してみてください。重篤な精神病の治療法としてロボトミーを考案したモリスは、1949年ノーベル賞をもらったのですよ。薬ができたためといわれていますが、ロボトミー手術は50年代半ばに入ってから行われなくなりました。たぶんとんでもない後遺症(人格変化、無気力、無感情、注意欠如等々)が次第に明らかになったことも影響してると思います。
でもこの後遺症が前頭葉機能そのものだという認識にはつながりませんでした。
先日行った淡島。ひとつ前の記事ウインダムグランド淡島

世界中で使われる知能検査で一番信頼性の高いものはウェクスラ―知能検査でしょう。
ウェクスラー成人用知能検査WAISは改訂を重ね現在WAIS-Ⅳです。ⅢからWMI(ワーキングメモリー指標。ほんのちょっと前頭葉機能がかかわる項目)が導入されました。
ウェクスラー記憶検査WMSもいまはWMS-Ⅲですね。東大の杉下守弘先生が日本語版を作るとき、標準化について協力したことを思い出しました。
WAISは世界中で使われ、約70年の歴史がありますが、脳機能を三頭建馬車にたとえた時、ウェクスラーの知能検査はあくまでも、馬の能力を測っているにすぎないのです。

上図の「脳力」は前頭葉機能のうちでも最も加齢の影響を受けやすい注意集中・分配力の年齢推移を表しています。
他の身体能力や内臓機能や外見(!)と同様に、前頭葉機能といえども、加齢とともに黒い線で表しているように直線的に低下していきます。それは正常老化であり、脳力が低下することそのものが、認知症ではありません。
人は高齢になれば、必ず全員ボケているわけではありませんよね。
正常老化を超えて、老化が加速されて行くとき、認知症への道を進むことになるのです。その条件は脳の使い方が足りない生活が続くということです。
頼朝公

「生きがいも趣味もなく、交遊も楽しまないで、運動もしない」というナイナイ尽くしの生活は、三頭立ての馬車が停まっているようなものです。廃用性機能低下といいます。
その始まりは状況を判断して何をどうするのかを決める御者が出番をなくしている状態といえばわかりやすいでしょうか。
脳機能からみて、認知症には3段階あります。
小ボケ:前頭葉の機能低下が始まっているが、左脳右脳の機能は正常範囲、家庭生活はできるが社会生活は困難。大体3年続きます。早ければ早いほど回復は容易です。
中ボケ:さらなる前頭葉機能低下、左脳右脳の機能も低下が始まる。家庭生活にも支障。この期間は2~3年あって、中ボケまでは回復可能なレベルです。
大ボケ:前頭葉機能の低下が著しく、左脳右脳の低下も進む。セルフケアにも問題が出てくる。ここから種々の問題行動を経て、寝たきり状態へ。この大ボケのレベルになると回復は困難になります。残念なことに世の中ではこのレベルになって「ボケちゃった」といいます。小ボケ・中ボケの回復可能段階で見つけられないから、「ボケたらおしまい」という恐怖が高齢者を苛むのです。
百体地蔵尊

認知症を怖がる必要はありません。前頭葉機能が自分らしくきちんと働いている自覚さえあれば。なぜならば、脳が正常老化を超えて老化を加速し始めるときには、必ず前頭葉機能から低下を始めるからです。
そしてもちろんそれだけではなく、その機能をチェックできる体制が整うことが必要なのですけど(エイジングライフ研究所の考えを導入した市町村では検査体制ができています)。
ところが、長谷川式、MMSという簡便な知能検査からWAISまで。世間に流布している検査はすべて脳の後半領域の機能だけを測定します。それでは小ボケが見つけられません。小ボケで見つけることこそ、認知症の回復には必須のものなのに…

友人の友人の話に戻りましょう。
ドクターの説明
「MCI(軽度認知障害)には至っていない」その根拠として
「MRIの所見。①前頭部は年齢並みより少し委縮気味。②左海馬5%ほど委縮。現時点では全く問題なし」
「WAISはIQ148、WMSはIQ128でともにすばらしい成績。以前はWMSももっと良い成績だったのが、低下が始まっていて、その差が大きくなったので『おかしい』と感じる事象が増えてきたのだろう」

画像診断では、その形態はわかりますが機能はわかりません。(このブログ右欄カテゴリーから『画像だけにたよらない』を読んでください)
「年齢を超えた萎縮とか5%の萎縮」とかドクターから宣告されて、ショックでなかったでしょうか?その言葉でいたく傷つく人もいます。そしてそこからボケていく人も。
それとこの説明は、脳(形ですけど)は老化していくという暗黙の了解があります。おもしろいですね。
萎縮があるかどうか、小さな多発性脳梗塞(ラク―ナ)があるかどうかは、脳機能には何の関係もありません。
どの程度働いてくれているかどうかは機能検査しなくてはわからないのです。今回は一番丁寧なWAISまで実施(そしてすばらしい成績)。でも、前頭葉の機能テストは未実施ですね。
肝心の前頭葉機能についての言及がない。どんなに馬の能力が高くても、指令が出ないと宝の持ち腐れです。

と、わざわざ驚かしておいて、私の推理を言っておきます。
1.多分大丈夫でしょう。
機能的には、WAISとWMSは1時間から場合によれば2時間もかかる検査なので、それにちゃんと対応でき、成績も上々だったということから、司令塔としての前頭葉がうまく機能したことになります。状況判断力、注意の集中力や分配力、意欲などが正常に働いて、「馬」の能力をきちんと引き出せたと考えるわけです。
最初に書いたように「退職後、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつ」というような生活がほんとうに楽しめていたら、脳は老化の加速は起こしませんから。
2.一つ気がかりなことがあります。
受診に至る経緯です。何がきっかけで受診されたのか?どんなエピソードがあるのかないのか。ご自分だけにわかる「違和感」の有無とか。
たんに世の中の風潮に乗っただけならばいいのですが。ちょっと医療費がもったいなかったかなぁ(笑)
先月書いた前頭葉機能低下?―「忘れる」のではなくも読んでみてください。






あけましておめでとうございます

2019年01月04日 | 画像だけにたよらない


今年の年賀状(友人用)は、2018年6月のハワイ島マウナケア山頂でのサンライズ写真を使いました。考えてみたらマウナケアは環太平洋の最高峰ですから、この時私たちは、その日の一番早い朝日を見たということになりますね…

四国の友人K藤T司さんからは、こんな素敵なサンライズ写真が届きました。愛媛高知県境、石鎚山系寒風山からの日の出。

顔を出すや否や樹氷を輝かせる朝日。言葉も出すに夢中でシャッターを切り続けたとコメントがありました。

雲海の向こうからの日の出。つまりその先は太平洋ということですね。

こんなに見事な景色も見せていただきました。

K藤さんとは、奥様と知り合ったご縁が先でしたが、もう50年近く前にお知り合いになりました。それから福井県に転勤されたときには「越前ガニを食べにいらっしゃい!」というお誘いに、子供二人連れて即参上したり、東京に遊びに来ていただいたり。四国の実家に帰られた後にも、お邪魔しましたね。
最近はFBという便利なもので、お互いの動静がよくわかります。
直近の写真を紹介しましょう。初登山の記事でした。石鎚山頂神社へ初詣ということですがなんという雪の中!これでも去年よりも雪は少ないとか。


さて今日のテーマです。
こんな見事な写真を見せていただきましたからお礼コメントを送りました。
「ブログをお知らせくださってありがとうございました。たくさん写真を拝見しました。四国の山々もきれいですね!
山登りをしている戸畑高校の同級生がいます。ここからK藤さんのページを見てくれたらいいのですが」
お返事です。
ありがとうございます。頭も体も元気で山登りが続けられるように頑張りたいと思います。ちなみに、昨年、頭のMRI検査結果では『特に悪いところはありません。しかし、申し上げにくいのですが、年相応に脳の萎縮は進んでいます』・・と言われました」

『萎縮』は平常心で受け止められましたか?『脳梗塞がココとココに〇〇個あります』と言われることもよくありますよ。
その時、患者サイドとしての発言はこれですからね。

『年相応に脳にもシワ(萎縮)やシミ(梗塞巣)ができたってことですね。見た目と同じように、脳の見た目も歳とったんですね。それで、私の脳の働きには問題があると言うことでしょうか?(こんなにイキイキ生活してるんだから問題ないですよね!)』
形より働きが大切です!」
お返事
「 『顔にもお腹にもシワが入るんだから、脳だってそうだろうな』と思いました。(その通り!)ただ、働きも低下しているのも事実ですね!」

「歳相応にね」とごく簡単にお返ししました。追加で話させてください。

この画像は、去年NHKテレビ「チコちゃんに叱られる」で使われたものです。
右側が、私たちエイジングライフ研究所のデータで「前頭葉機能(なかでも、意欲、注意集中力や分配力)は20歳前後をピークに低下していく」という事実を表しています。ちなみに左側のグラフはハーバード大学のもので言語能力(単語量)は50歳までは能力を高めていくが、その後はやはり減少していくということを表しています。
つまり、脳の能力といえども加齢の影響を見事に受けるということです。
下の図もみてください。

歳とともに脳の力も老化していくことは紛れもない事実ですが、歳をとった人が全部ボケてしまうわけではないこともまた真実です。正常な老化の先に認知症はありません。
「人生の大きなできごとや生活の大きな変化をきっかけに、それに負けてしまって「ナイナイ尽くしの生活が継続された」時に、老化が加速されてしまい認知症の道へ進んでしまうのです。

私たちは脳を使いながら生活していくのですが、それはちょうど三頭立ての馬車が進んでいくようなものです。
デジタルな情報処理、つまり仕事や勉強を担当する左脳。
体を動かす運動脳。
アナログな情報処理、つまり趣味や遊びを担当する右脳。
どれほど馬の能力が高くても、馬車を上手に動かすためには御者、前頭葉が不可欠です。そして前頭葉こそが自分が自分らしく生きるかどうかのカギを握っています。
K藤さん。
登山を楽しむためには体を鍛えておかなくていけないでしょうし、天気予報も地図も検討されるでしょう。
景色を楽しみ、花をめで、またそれを写真にも撮り、発表の場所もある。お仲間もたくさんいらっしゃるようですね。
K藤さんの馬車は機嫌よく疾走している感じです。若いときほど早くなく、若い時ほど無理ができない…でもそれをコントロールするのが前頭葉ですから。これからも三頭立ての馬車がK藤さんらしく走り続けられますように。
この樹氷の写真もすてきでした。

機能に問題がない(今まで通りの生活が楽しくできている)のなら、器質を調べる(MRIやCTなどの検査をする)必要はありませんから。医療費を押し上げます(笑)
繰り返しますが「機能」には誰にでも正常老化があるので、無駄な心配はしないこと!一般的にいって、正常老化であるかどうかは「意欲があるかどうか」、「自分が自分らしく生きているかどうか」が目安になると思います。

 


 

(椎間板ヘルニア≠慢性腰痛の原因)=(多発性脳梗塞≠認知症の原因)

2011年12月04日 | 画像だけにたよらない

テレビで面白いことを聞きました。
「50年に一度くらいの、大きな発見です」と、コメンテーターのドクターがおっしゃっていました。
その内容は
「椎間板ヘルニアがあっても、腰痛の原因にならない(場合がある)。
さらには、ヘルニアを手術で切除したにもかかわらず腰痛が治らないというケースもあり、『ヘルニア=腰痛の原因とは限らない』ということが分かってきた。
慢性腰痛の原因についてはもともと分からないことが多く、椎間板ヘルニアによるものは5パーセント、脊柱管狭さく症や圧迫骨折などによるものは9パーセント、そのほか腫瘍などによるものは1パーセント程度で、
 つまり、85パーセントについては、MRIやX線など目に見える形では、原因は不明」

 

私が興味深くみたのは、「脳の器質検査と認知症の関係」とよ~く似ている点です。

もともと、認知症(当時は老人性痴呆と言っていたわけですが)の担当領域は精神科がになっていたこともあって、重症化しないと病院受診をしない傾向がありました。
つまり受診した患者さんは、重症の認知症。そのほとんどは高齢者ですよね。

富士(粉サトウのような初雪)2011_1124_140400p1000027                                         ドクターは、家族からとんでもないような重度の症状を訴えられるわけです。
徘徊。
夜中に騒ぐ。
家族のことが全く分からない。
異食がある。
粗暴行為。
弄便などの不潔行為。

そして日常生活にも介助が必要な段階・・・
片時も目が離せない・・・

慢性腰痛で言えば、「痛くて痛くてたまりません。どうか助けてください」というレベルでしょうか。
そしてレントゲンで見ると「ひどい椎間板ヘルニアがある」「犯人はこのヘルニアだ!」

さて認知症の場合です。
CTを撮りました。患者さんの脳のCT 写真を見ると、そのほとんどの方に多発性脳梗塞が認められます。
「この多発性脳梗塞が、このとんでもない症状の原因」という結論になることも想定範囲内!
病名としては脳血管の障害があるので「脳血管性痴呆」と分類されました。
そして日本は世界でただ一国だけ「脳血管性痴呆」>「アルツハイマー型痴呆」となっていたのです。
年配の保健師さんたちは70%が「血管性痴呆」と習ったのですよね?!

ちなみに多発性脳梗塞が認められない場合は、萎縮が目立つということになって「アルツハイマー型痴呆」とされました。
高齢者が主体の検査ですから、CTを撮った時に正常ということはまずあり得ません。脳も老化しますから。2011_1125_105700p1000032                         木の洞に可愛い芽が

ところが、脳の器質検査に新風が吹くことになりました。
脳ドックです。

正常な高齢者が受診します。
物忘れなど訴えることはあっても、前述したような重度症状がある高齢者は、脳ドックには一人も受診しませんね。

もう大体結論はわかったと思います。
つまり症状のない高齢者にも、多発性脳梗塞はたくさん見つかりました。70代で70%といわれています。
ミズクラゲの赤ちゃん2011_1125_114100p1000037
この段階で、CTなどの器質検査は特に早期の認知症に関してはほとんど診断の基準になりえないということがもっと広まってもよかったと思うのですが、いまだにCTやMRIの方がきちんとした検査だと思っている人たちが多いですね。
二段階方式を学んだ人たちの中にもいらっしゃるのが残念です。

認知症を早く見つけるためには、年とともに老化していく脳の形を見るよりも、その働きを知ることの方がはるかに重要であることをおさらいしておきましょう。
認知症の早期発見には、器質検査よりも機能検査が必須なのです。

 


脳腫瘍

2010年10月16日 | 画像だけにたよらない

今年の1月の「失語症の検査」

http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20100126   

3月の「緩徐進行性失語その2」http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20100313
をクリックして読み返してみてください。
この方のその後の情報が届きましたので報告します。
実は亡くなられたのです・・・

 

 

全体を整理すると
①脳機能検査の結果から「失語症状がある」
そして家族もそのことを納得している。

②「急激な変化ではないし、言語野を損傷するような病気も事故もしていない」
つまり、器質障害がない。
MRIは正常と言われている。(このことを書き忘れていました)

③変性疾患としか考えられない。
感覚性失語症から発症しているが、徐々に失語が重くなっていくことは覚悟しなくてはいけない。失語は重くなっていっても、それに引きずられる形での脳の老化の加速だけは食いとどめよう。(これが3月の報告内容です)

「生活の中で何か変、今までと違う人のよう(お嫁さんは言葉のキャッチボールができないという見事な表現をしていましたね)。でもお医者さんはMRIを見ても何の異常もないといわれる」
「保健師さんに相談したら、生活の中で変と感じていることをとてもよくわかってくれた」(検査結果が失語症を意味していたので、ご本人ができないことを言い当てることができる)

このような状況だったのです。
保健師さんから、状態の説明と生活指導をしてほしいということで、私が相談を受けたのです。

私は3月にご家族と会いました。
脳卒中や事故による失語症発症は急激なことが特徴ですから「急激な発症ではないこと」は確認しました。②は家族への聞き取りだったのですが、その前提に「器質的には正常」というお墨付きがあったのです。

報告の電話はこのようなものでした。
「あの後、直後の受診では相変わらず器質的には正常と言われたのですが、6月になって実は脳腫瘍が見つかりました。そして、あれよあれよという間に亡くなられたのです。数年前に乳がんを手術されていたこともわかりました」

「原発性脳腫瘍だったのですか?それとも転移性脳腫瘍?」

「それは…はっきりしませんが」

エイジングライフ研究所として今回のことを考えてみました。
MRIで見つからないものが、二段階方式の手技を用いることでわかる!
そういうことですよね。
器質よりも機能の方が大切なのです。わかりやすい言葉でいえば「見た目より働き」

検査結果が通常の脳の老化が加速されたものでなく言葉の障害がはっきりしたら、エイジングライフ研究所二段階方式では次のように考えます。
以下は1月のブログから転載

「なぜこの障害が起きたのかは、生活歴から聞き取っていくことになります。
病気はしなかったか。けがはしなかったか。
脳の障害は、そのほとんどがある日突然起きてきます。病気や事故がその原因です。
この人の場合は、まったくそのようなことがなかったのです!
徐々に言葉の障害が起きてきて、だんだんに悪化してきている・・・
これは変性疾患を疑うしかありません。
緩徐進行性失語(最近は原発性進行性失語ともいいます)と考えることになります。二段階方式では、このような場合は専門医療機関受診ということになっていますよね。」

追加訂正します。
今回のケースは12月に医療機関受診してMRI=正常というお墨付きがありましたので、脳腫瘍は除外していたのですが、書いていませんでしたね。
もしまだ、受診していなかったとしたら当然「変性疾患」とともに「脳腫瘍」も考えなくてはいけないのです。脳腫瘍の場合は、ある大きさになるまでほとんど無症状でいて、症状が出始めると次第にそれが強くなってくるのです。

その差を決めるのは、CTやMRIなどの器質検査です。
「脳腫瘍ならすぐにはっきりと見つかる、変性疾患は機能には明らかな障害があっても画像で見えるようになるまでは何年もかかる」はずですが・・・
脳腫瘍がこんなにも画像で見つからないとは!私には新しい発見でした。

生活指導が進むうちに明るくなっていったお顔が忘れられません。
真剣に聞いてくださったご家族のお顔も。

短い期間でしたがご家族の皆さんにご本人が失語症でどんなに困っていらっしゃるかを説明してあげることができたこと、失語症があってもできることを具体的に伝えてあげられたことは、少しの光だったのではないでしょうか?
ご冥福をお祈りします。


器質と機能ーCTでわかること、脳機能テストでわかること(続々)

2007年08月06日 | 画像だけにたよらない

重なるときは重なるものですね。7月4日付けブログで取り上げたケースを相談された保健師さんからの、相談です。
まず、A4用紙を見てください。

Situgo197001

この人のMMS得点は2点でした。
命名=1点と模写=1点。
低下順が違うことはすぐわかりますね。
立方体模写の見事さにも注目を!

別居の娘による30項目問診票は6-6-3.
すると大ボケレベルということになりますが、よく尋ねると脳梗塞の後遺症で左半身麻痺があるための日常生活上の介助と、「家族の名前がわからないのではなく、いえない」ということがわかり、「最近急に中ボケレベルの行動が目立つ」ことを心配していることが判明しました。
A≠B

以下、青色部分は保健師さんによります。
独居。脳梗塞既往あり、左半身麻痺あり。7/19に長女・長男より「少し前から様子がおかしい」と相談あり。
主訴「ろれつが回らない」「言語が変。簡単な言葉がいえない」
→受診の必要性が高いのでまずは医療機関でCTなどの検査をする旨伝える。
7/20受診。「CTとるが問題ないといわれたが、おかしいので一人にして置くのは不安だ」と相談あり。再度詳しい検査をすすめ、その日にMRIとなる。
7/23MRI読影結果、以前の右脳梗塞の他に左脳萎縮ありといわれる。
二段階方式実施。 MMS=2/30 立方体模写=可 動物名想起(1、2) かなひろいテスト中止。

本人は「できない。できない」「バカになっちゃって困る。どうしてこんなになったのか」と質問するたびに言う。名前も「最近わからない」と言い人の名前もあやふやとのこと。

独居で、隣町に住む娘さんが定期的にフォローしており、町の「脳のリフレッシュ教室」にも月1回参加していた。先月の様子も、いつもと変わることなく元気に参加していた。  急速な変化ですから≠C

本人が話せないためはっきりしないが、5月か6月かひどく転倒したらしい。

この町は、二段階方式を導入して、平成14年度から各地区で「脳のリフレッシュ教室」を実施し、次々に自主活動化させています。そのため、このケースの18年度のデータがあったのです。

Situgo188002

このとき、MMS=26/30。立方体模写=可 動物名想起(8、0) かなひろいテスト(7、1+21、可)
本人による30項目問診票5-2-0とA=Bが成立していました。(Cについては確認が必要ですが、生活指導なしの検査はありませんから、確認済みと思われます)
以上が平成18年8月7日の脳機能の状態です。

そして、先月の6月には教室に普通に参加して、今月の7月になって家族がおかしいといい、本人が困惑している。
このような急速な変化は、普通のボケには起こりえません。
脳の気質的な疾患か、精神的に病的な症状が起きたと考えるのが、二段階方式の考え方です。

P1000020_1

隣人の作 完成までに約2年

脳機能テストの分析、本人・家族の訴え、急速な変化からこれは「言葉の問題」が起きていると言うことは、明らかです。
その時、失語症ということばは使いませんが、私たちは病院の受診を勧めなくてはいけません。
でも、受診の結果が「問題ない」といわれたら・・・
上手に他院受診を勧めるでしょう。それでも「問題ない」といわれたら・・・
私たちには、何もすることはできません。
7/4のようなケースなら、後遺症ととらえて生活指導の意味が大きいのですが。
今回は、保健師さんが疑っているように慢性硬膜下血腫(マニュアルC 59P)の可能性も捨て切れませんから、再受診も頭においておくべきでしょう。
他の脳内病変があったとしても、私たちには何もできません。
私たちにできることと、できないことは峻別されていることを自覚してください。今回のように何か脳内病変が起きているに違いないとわかるときには、本当に残念で、悔しいことですが・・・

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カラスウリの花。秋の赤い実とつながらない???

ところで
このケースの場合、利き手が右という前提で推理していますから、一度は利き手を確認しておく必要があります。
利き手が右ならば、「右側に起きた前回の脳梗塞は、左麻痺は残したが、構成能力には後遺症は出なかった。今回は左側に何らかの病変が起き、そのために言葉の問題が出ている」という推理になります。

 


器質と機能ー形と働き(続)

2007年07月04日 | 画像だけにたよらない

今日も相談ケースを通じて、CTなどの画像診断の限界と脳機能検査の実力について話しましょう。
Senmaida1 

 

 

 

三重県熊野市丸山千枚田  Busstop_1 

 

 




近所のバス停
 
83歳女性。
前頭葉テストの結果:動物名想起(3,0)
かなひろいテストは不能。
MMSの成績は14/30。
同居の嫁と夫による30項目問診票は8-3-4
一応、脳機能テストの結果と生活実態は一致しそうです。

ところがMMSの内容は、時=3 記銘=2 想起=2 
命名=0 口頭命令=0 文=0(錯書・文にならず) 
模写=0
このMMSの下位項目をみれば、普通に老化が加速されたものでないことはすぐに想像が付きますね。
言語担当の左脳の機能がはっきり障害されています。
でも、それだけではなくて構成脳である右脳の機能も悪すぎます。
A4白紙を見てください。

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以下藍色部分はは保健師さんの聞き取り。
H19年5月30日、自宅にて転倒。左側後頭部を床に強打。本人談によると、その場で家人が来るのを待っていた。2階にいた嫁が大きな音に気づき見に行くと、倒れていた。
翌日脳外科・整形外科受診。CTとるが問題なしと
6月3日頃より、ろれつが回らず、歩行も不安定。身の回りのことも気に掛けてあげないと困難。動作もゆっくりになってしまった。
6月11日二段階実施。
6月12日脳外科再受診。CT上特に問題なし。
6月18日再度違う病院にて受診。「CT上特に問題なし。年のせい」といわれる。持続する頭痛を訴えると「じゃあ、クスリ欲しいの?」と頭痛薬を処方される。
6月11日に比べ症状の進行はなし。
熊野市瀞八丁 
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瀞峡の新芽

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二段階方式でのアプローチ:
①MMSの得点と30項目の一致度を見ます。大体一致かなという所ですが、次に
②MMSの下位項目の低下順を見ます。上述のように低下順が違うわけですから、ここで、通常の老化が加速されたものではないと予測が立ちます。実はこの時点で「専門医受診」です。
③念のために、30項目との一致具合をさらに検討します。このケースは事故以降問題が出てきたということでの相談ですが、特に重度症状はいつから当てはまるようになったのかも確認しておきます。
④事故以前の生活実態の確認も必要です。つまり事故以降、急激に変化が起きたという確認です。

二段階方式では、対象相談者が私たちにできる生活改善指導の対象者と考えるためには、A脳機能テスト・B生活実態・C生活歴の意味するところが一致することが、必要だと考えています。

今回のケースは、Aは老化が加速されたとは考えられない結果であり、Bは大体相当するか?です。でもCが違うのです。「5月30日の事故」からであってMMS=14になるだけの生活歴がありません。

家族が、生活上のトラブルをはっきりと具体的に訴えているにもかかわらず
二ヶ所の脳外科で「CTが正常だから(器質的には)正常」という診断がなされました。
二段階方式には、器質的変化を調べるCTやMRIの情報はありませんが、脳機能を理解し、上記のように3条件を検討することで、家族の訴える生活実態を深く理解することができます。

 

P1000006_3

今後の指導方針:脳外科のDr.が「正常。治療はない」と診断されていますから、安心して脳リハビリの指導をします。

①事故以降できなくなったことを整理。言葉の入力障害・キーワードが出ない・ろれつ不全・構成能力にも軽度障害・歩行不安定など
②できないことを理解した上で、積極的に関わりを持つ必要性を指導。刺激することで改善の可能性が出てくるが、刺激しなければ改善の可能性がなくなり、後遺症として確定してしまう。
③一方でできることをはっきりさせる。言語は書字命令のほうが理解しやすいが絵カードの理解力は?ジェスチャーはどの程度有効か?右脳機能のうち、音楽・ゲームなどできることを探す。
④歩行訓練は専門医のアドバイスを受ける。
⑤慢性硬膜下血腫(マニュアルC参照)の可能性だけは考慮して見守る。

今日は、憤りを通り越してちょっと悲しくなってしまうほどの「器質重視」の報告でした。


器質と機能ーCTでわかること、脳機能テストでわかること

2007年06月21日 | 画像だけにたよらない

今日の話題は、脳のCT画像の話です。
ケースの相談が何例か続きました。以下藍色部分はは保健師さんの原稿です。
①84歳女性。MMS24 かな(27,2,不可)
 立方体の模写
Mosya001
30項目本人4-1-0 
同居の娘4-2-0

61歳で夫他界。4人の娘を育て、舅・姑ともに見送る。
夫他界後はじめた習字は師範まで取る。趣味も多彩、さらには婦人会の役員も。
7年前に交通事故で右肋骨・右腕骨折。入院はしなかったが完治までに1年近くかかる。
MRIは異常なし。
3年前に世話役・発表会を辞める。食事のしたくも長女が行うようになる。サロンには現在も参加している。
確実に認知は出ている。家族も受診を定期的にしており脳の萎縮を指摘されている。本人はDr.から『年なりに忘れっぽくなっている』と言われている。

指導:交通事故をきっかけに脳機能が落ちている。特に右脳・前頭葉の働きが落ちている。サロンや旅行の継続を勧める。

私のコメント:右肋骨・右腕骨折の状態から、交通事故のとき右脳を打った可能性は十分に考えられる。
しかし7年もたってなお上図のように立方体模写が完璧であるから、右脳に後遺症として構成失行が残ったとは考えられない。
前頭葉そのもののダメージ、前頭葉以外の微細なダメージによる前頭葉機能が完全に発揮できないようなことが起きた可能性も否定はできないが、そうだとしたら、7年前から後遺症を抱えて生活を続けたことになる。現在小ボケの状態なので、脳機能は例外的によく持っていることになる。
ところが生活歴をよく聞くと、3年前に役職その他を退いたときがある。この方の前頭葉は、単なる趣味の会に参加するのでは、満足できないと考えれば、前頭葉の機能発揮の場として不十分な日々が3年前から始まり現在まで続いていることになる。としたら、ごく普通の老化が加速されたパターンと解釈することができる。
P1000004_8 P1000005_4

このケースのように、事故とか脳卒中とかが明らかなときにCTやMRIの画像の結果に振り回されることのないように気をつけなくてはいけません。
例え、梗塞巣や出血箇所がはっきり見えたとしても、気質的にそうなっている(形としてはこの状態)ということがわかるだけです。
機能がどうかは器質検査からはわかりません。
まして萎縮や多発性脳梗塞など、高齢者に多く見られる状態は、その画像の特徴が加齢によるものかどうかは、器質検査である画像を眺めていてもわからないのです。
とにかく機能検査を行わなくては、「働きがどうか=生活はどうなるか」はわからないのです。
その機能検査が私たちの「二段階方式判定スケール」です。

②72歳女性。MMS11かなひろいテスト不能
Mosya002 模写は左の通り。
30項目はケアマネさんの評価によると7-6-4

多弁だけどなんか気になるしゃべり方でした。
例えば時刻に対して「昭和・・・昭和じゃない・・・、昼前ご飯食べてないから、11時前(正答)」
命名で、鉛筆に対しては「これは普通の鉛筆」
時計に対しては「これは普通の・・・時計」
(キィワードがなかなか出てこない)

さらに、生活歴の聴取から7年ほど前に脳梗塞の既往があることがわかりました。

私のコメント:脳機能は大ボケ、生活実態も大ボケで安心しないでください。
まず、立方体が上手すぎる。(右脳の機能がよい)そして、「気になるしゃべり方」がある。
いずれにしても脳機能に左右差がありますね。

脳卒中の既往があるということと、上記のテスト結果から、脳梗塞は左脳におき、軽い感覚性失語症(入力障害・キィワードが出ない・流暢な話し方マニュアルC 95P参照)が後遺症として残ったことがわかります。

7年間も、失語症があることをわかってもらえず苦しいことだっただろうと胸が痛みます。CTもMRIも撮ったでしょうに。
脳梗塞は指摘されても「その結果、こういう後遺症があって、生活上はこういうことに気をつけるように」という指導はなかった・・・

私たちが生きていくときに、脳の形が問題なのではなく、脳の働きが問題なのです。器質検査にすぐる機能検査ができることに誇りを持ってください。

 

 

 


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