今日の記事は、実際に二段階方式を業務で使用している保健師さんのために書いています。
脳機能検査をするときには、できない項目こそ、被検者の生活を知る手掛かりになることを肝に銘じてください。
「そうそう。できましたね」と声掛けをしたい保健師さんたちが多くて困ってしまいます。なるべく「できた」といってあげたくなるんですよね。だいいち、正答になるとテスターが安心できる。
MMSEは、脳の老化が早まっていくときにはできなくなる下位項目の順番があることは、世界で誰も言っていませんが、大切な事実です。
(勉強ばかりでは左脳に偏りますから、我が家に一本だけあるカワヅサクラを追ってみました。咲きはじめは2/2)
当然できるはずの下位項目ができないときには、以下の三つの確認をしなくてはいけません。
1.テスターに原因がある。声が小さい。ラポールを無視して機械的に質問をしてしまった。途中で邪魔が入った。このような場合は再試行すれば嘘のように正答になります。
2.被検者の前頭葉機能に問題がある。前頭葉機能が年齢を超えて働きが落ちてしまうと、注意を集中させることが難しくなります。つまり、テスト状況にあるにもかかわらず「うわの空」の状態になってしまうことがよく起きてしまいます。
この時も、きちんと集中してもらって再試行すれば正答になるものです。
3.被検者の、脳機能に問題がある。この場合は繰り返し質問してもできません。「やろうとする気持ちは十分にあるのに、脳機能に問題があるために、どうしてもできない」。確かにテスターとしたら「できない」ということを確認することは、多大なエネルギーがいります。
咲きはじめ桜花には青空がよく似あいます。
さて、珍しいケースの相談がきました。
「話せることは話せるのですが、何か変。失語症かなあ…と思ったのですが…」
二段階方式で認知症を理解するときには
1.脳機能検査
2.生活実態
3.生活歴
この三つは、まったく同等に大切な情報です。今回の相談事例では、残念ながらどれも少しずつ情報不足。ですからあくまでも推測の域ではありますが、結論をまず明らかにしておきましょう。
非常に珍しいタイプの失語症「原発性進行性失語」の可能性が、一番高いと思います。
変性疾患といいますが、脳内病変(脳梗塞や脳出血や脳腫瘍など)や事故などで脳が傷ついていないにもかかわらず、ことばに関する機能に支障が起きてきます。それも少しずつ少しずつひどくなっていくのです。
当初「痴呆なき緩徐進行性失語(slowly progressive aphasia without generalized dementia)」Mesulam1982年といわれて、一症例で学会発表されるくらい珍しいとされていました。
ところが、二段階方式で認知症を理解しようとする市町村の保健師さんから、時々「原発性進行性失語」の相談が来るのです。もちろん例外的ではあるのですよ。
1.脳機能検査から見ていきましょう。
側頭葉性健忘症でない限り、前頭葉機能の低下はまずあると思った方がいいでしょう。今回もまあ予想通り。
特筆すべきは語想起の際の反応「タヌキ…イール イル…」思った単語が言えない。ちょうど感覚性失語症でキーワードが出ない状態によく似ています。
MMSEは、CTなどの画像診断ができない場合でも、機能低下を起こしている場所を類推できる優れたテストです。
MMSEの特徴は「アルツハイマ型認知症のように単に老化が進んだ場合だと、できるはずの下位項目ができない」
三単語の復唱や文の復唱、計算能力も問題がある(時間がかかる。一桁の加減算はできるが、繰上りや繰り下がりが入ると全然できない)ようです。
さらに「字が書けない」症状もあります。
「字」が書けません。右の例だと文法的にも問題があります。
この人の名前は「明子」ですが「朋子」と書いてしまう、自分の名前を間違えるなんてありえない間違いです。
「れいわ」といいながら、「令」の字が間違い。「わ」が「ヤ」になっています。
細かく見ていくと、たった15分くらいの時間でできるMMSEから大きな情報が得られてることがわかりますが?
原発性進行性失語症は、運動性(しゃべりにくい)といわれるのですが、私の持っている症例でも、保健師さんからの症例でも、当初は感覚性(入力障害、聞き取りにくい。キーワードがなかなか出てこない)の場合の方が多いようです。
私たちは、診断をする必要はありません。
脳機能検査の結果をそのままに理解してあげることから始まります。
「単語を三つ続けて言うと、復唱できない」
「三つの文章の指示には従える」
「文章をそのままに復唱することが非常に難しい」
「書字に関しては、思ったように書けない」
この脳機能で生活していることを理解してあげてください。そのために検査したのです。
昨日友人宅の寒緋桜を見に行きました。
私たちの業務は、脳機能検査をして、生活指導をすることです。何らかのきっかけから「生きがいなく、趣味なく、交遊も楽しまない。そして運動もしない」ナイナイ尽くしの生活を続けるうちに、脳の老化がどんどん進んで、生活に支障をきたすようなタイプのアルツハイマー型認知症。そのタイプに対して生活改善指導を行って改善を図ることです。
そのためには、1.脳機能検査。2.生活実態。3.生活歴の指し示す内容が、老化が加速した結果であることが大切です。今回はもう少し突き詰めておかなければいけなかったですね。特に脳卒中やけがの既往があるかないかは、必須の情報です。
今回のようにアルツハイマー型認知症といえない場合は、ドクターの診察を仰ぐことになります。
その時病名を伝えるのではなく、今起きている「症状」を具体的に説明することが重要です(くれぐれも診断はしないように気を付けてください)。
さあスタートです。自己紹介をなさった後で法話が始まりました。
アラアラとあたふたしてしまいましたが、すぐにそばのホワイトボードに用意された紙を貼ってくださいました。
「至道無難(シドウブナン) 唯嫌揀択 (ユイケンレンジャク)」これで一安心。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/c9/17a9a1e269f6256d39682f86e5441178.jpg)
法話会なので、「お話を聞く」心づもりでスタンバイ。そこに飛び込んできたのが、言葉ではなく音だったのです。
言葉は意味が分からなければ、音なのです。まるで感覚性失語症の世界です。
感覚性失語症の体験ーアナと雪の女王から
ぜひ挿入してあるユーチューブを聞いてください。
「Let It Go」が流れてきます。流れてくる「音」のうちメロディは右脳で聞きますからちゃんと「Let It Go」と分かります。
歌詞は全然わかりません。この全然わからない他言語の歌詞を聞いているときが感覚性失語症の状態。もちろん松たか子さんが歌う日本語だけは、わかりますよね。日本語を聞いていても他言語のように聞こえ、理解できない状態が感覚性失語症です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/06/080b0981bd8277d474a9b37fa44fe26e.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/04/e87745d1b0256f2d553a10f671539af2.jpg)
話は戻りますが、言葉の音が聞こえて、意味につながってくれると、さらに「聞く」体制が深まってきます。
法話に集中できて、次にお話になることに対して興味津々という状態ができあがるからです。
ところで、「状況を理解して法話を聞く」という状況に自分をもっていくのは前頭葉ですが、この前頭葉機能は注意を集中させる働きも担っています。
残念なことに、この注意集中力は年齢とともにだんだん低下していくので、聴衆の年齢によって配慮が変わることになります。高齢者が多いとゆっくり話さないと理解ができません。若い人たちだと、ゆっくり過ぎるとむしろ理解しにくい・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/5f/e99e439638be5e80026cd424772ccd18.jpg)
もうひとつお話しておきましょう。
状況を理解するのは前頭葉の大切な働きですが、その時論理的にアプローチする左脳タイプと、感覚的で大雑把な右脳タイプがあるようなのです。もちろんどちらか一方しかないというのではなく、どちらが優勢かということです。状況によっても変わりますね。
結婚記念日ー左脳と右脳のせめぎあい
右脳タイプの人たちにとっては、論理が通るかどうかよりも感覚的に納得できるかどうかの方が重要なファクターになるので、情緒的な訴えが不可欠です。その具体的方法は、声の強弱、表情や身振りを取り入れるということですが、法話にはおのずから限界があると思います。「伝えたい内容に対する真摯な思い」があれば、どうにかなるものではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/d9/3684a30b03874af468f9032993a1e933.jpg)
法話には禅語がつきものだと思います。
禅語は、私のような一般の人たちにとっては、左脳から入って、どこかでコペルニクス的転回があって胸にストンと落ちるもののような気がします。論理的に考えていきながら、「あ、そういうふうにも考えられるんだ」と気づかされるのです。
(これは茶道の先生から教えていただいた時の感想です)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/74/6781e0bbc8722d483af08f46352a0f24.jpg)
私は「言葉の意味」を重視した考え方を書いてきたのですが、般若心経を絵解きしながら文字が読めない人達に教えた絵心経に触れないわけにはいかないでしょう。
絵心経で般若心経を唱えることはできますが、意味は分かりません。とここまで書いて、文字がわかる私でもほとんど同じように意味は分かっていないまま唱えていることに気づきました。
意味を超えて「唱えること」、そのものに意味があるということなのでしょうか。
ウーン。私たちが生きている、どうしても意味を追求する日常生活の尺度と、全く違う尺度があるということですね。
法話会に出席させていただいて、最後にはこんな感想を持ちました。
フロク。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/e1/37b0cb60a87b35988596716e5d11b964.png)
(フェリシモマスキングテープセットより拝借しました)
今年になって続けて失語症の質問がありました。
ずいぶん前の記事で、とても珍しいケースですが、再掲します。参考になるといいのですが。(初掲載は2010.1.26)
巷では、ある程度年をとった人たちがなかなか言葉が出てこなくて「あれが、ほら何して・・・」「この前のあれは・・・」「あの人とあそこに行って・・・」
代名詞ばかりのしゃべりになると「失語症になっちゃった」と言いますね。
そんなことは「度忘れ」とでも言えばいいことです。
失語症って、そんなに軽いものではありません。
とても丁寧に検査されたケースをご紹介します。
MMSは20点(減点は所・記銘・想起・命名・復唱・口頭命令でした)この減点の下位項目を見るだけで、失語症があることに気づかなければいけませんよ。
A4版白紙
テスターの記録を転記します。相談者の答えを青字で書きます。
時
「今日の日付を教えてください」
「え?いつから言えばいいの?」
「今日の日付です」
「だからいつから?」
「今日は何日ですか?」
「10日」続けて、年・月以下もすべても正答
所
「ここは何県ですか?」
「わからないな。困ったなあ」と言いながら、出席カードを見て「福祉センター」と答える。その後「困ったな」と言いながら時間はかかったが正答できる。
記銘
「何?どういうこと?」再教示するも「何?みかんって言えばいいの?」
再再教示すると、「電車?電車に乗ってくるの?」
命名
鉛筆:「え?わからない。鉛筆の何て言えばいいの?」
時計:「なんだっけ?出てこないなあ」
復唱
「ちりって何?天気のこと?ちりもくばれば?」
口頭命令
「私、書けないよ」
「言われたとおりにやってみてください」と教示すると、言い終わる前に始めて半分に折って机上に置く
書字命令
すぐに読んで「眼を閉じるってどうするの?」と言いながら正答
文を書く
「私のことを書けばいいんだね?もうわからないんだから」といって書く
かなひろいテスト
練習問題を読んで「この話は知らない」
教示に対して「こんなのできないなあ。困ったなあ」と言い下を向いて固まってしまったために中止
質問するたびに「どういうこと?」「困ったなあ」「わからないなあ」「ごめんね」といった言葉が何度も出てくる。
伊豆高原の1月(これだけの厚さの氷は初めて)
どうですか?丁寧に検査していることが伝わってきますね。
そして正確に検査状況を記録しようとしたことがわかります。
検査は、どのようにできないのかを知るところからはじまり、それはなぜなのだろうかと推理しなければいけません。
その前提が、テスターのこのような検査態度なのです。よく頑張りましたね、M守さん!
この相談者はことばの障害がありますが、どんな障害でしょうか。
『質問するたびに「どういうこと?」「困ったなあ」「わからないなあ」「ごめんね」といった言葉が何度も出てくる』
この記録がヒントです。
「聞こえるけれども理解できない」
「話せるけれども、的確には言えない」ですね。
失語症を大胆に分類してしまうと、情報が脳から出ていく方よりも、脳に入ってくる方が、強く障害されているということになります。マニュアルC95P参照してください。
感覚性失語症のパターンです。
伊豆高原の1月(路地のシンビジューム)
二段階方式では、この検査の後生活実態を調べ、最近の生活歴も確認します。
同居のお嫁さんの申告では①②③⑤⑥に⑭が相当するということで「小ボケレベル」でした。
脳機能検査結果≠生活実態です。脳機能検査のほうが悪く、生活実態のほうがいい場合は、まず失語症を疑い次に側頭葉性健忘を疑います。
MMSの下位項目を見ても失語症。二段階方式の手技に沿っても失語症。
なぜこの言葉の障害が起きたのか?は、生活歴から聞き取っていくことになります。
病気はしなかったか。けがはしなかったか。
脳の障害は、そのほとんどがある日突然起きてきます。病気や事故がその原因です。
この人の場合は、まったくそのようなことがなかったのです!
徐々に言葉の障害が起きてきて、だんだんに悪化してきている・・・
これは変性疾患を疑うしかありません。
緩徐進行性失語(最近は原発性進行性失語ともいいます)と考えることになります。二段階方式では、このような場合は専門医療機関受診ということになっていますよね。このタイプの方には北海道岩見沢市でもお会いしました。
ところで、同居のお嫁さんの見事な観察もお伝えしておきましょう。
これが、入力障害を主とする失語症の生活実態です。
伊豆高原の1月(天気がいいと房総半島が見えます)
・言葉のキャッチボールがうまくできなくて心配
・会話は成立しているように見えるが、相手から言われたことについては、いまひとつ理解できない様子
・言われたことが分からないという自覚があって会話も外出もしたがらない。
・またはしゃべる始めると一方的にしゃべり、しゃべり終わると席を立ってしまう。
・買い物を頼んでも、理解不十分のようなので地図を書いてあげると、ちゃんと買ってきてくれる。
・初詣で、毎年買う「金太郎飴」を買ってくるように頼んだら「飴って何?」と言ったが、夫が「神社の絵を描けばわかるだろう」と地図を描いたら、確かに金太郎飴を買ってきた。
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お嫁さんに対する生活指導は、「あなたがアメリカにいると仮定して、あなたが困らないように相手からしてもらいたいように、お母さんにしてあげるのが大原則です」
伊豆高原の1月(ロウバイ)
「一番困るのがペラペラとしゃべられること」
「はっきりと表情やジェスチャーをつけて会話すること」
「言葉でなく、実物を示してあげること」
「左脳がうまく働かない失語の状態は治せませんが、脳の老化はなるべく先送りにしなくてはいけません。脳リハビリは右脳と運動の脳が主役ですから、この二つはいつも使うように気をつけましょう」
「あなたがアメリカにいても楽しめるものは、お母さんも楽しめます」
「音楽・絵・花・景色・買い物・手芸・知ってるゲーム・・・」
こんなエピソードも報告しておきましょう。M守さんの記録です。
ジグソーパズルをとても楽しそうに50ピースのものでもあっという間に完成させてしまう。
「孫とよくやる」「色で探していくといいね」
絵を見て「かわいいね」と言いながら迷うことなくはめ込んでいく。
これが左脳がうまく機能できなくなった、けれども右脳が機能している人の生活実態です。
この年末年始にたくさんの日の出の写真をいただきました。あまりにも見事ですからご紹介します。
山梨七面山のご来光(M笠T子さん撮影)
写真だけ飛び込んでくるわけではありません。
友人からメールが来ました。「知り合いの方が脳梗塞なんです」でも、これだけの情報では何も言えません…
次の知らせを待っていました。
四国石鎚山系寒風山(K藤T司さん撮影)
お見舞いに行った様子のメールが来ました。青字がメール、私の類推は黒字で書きました
「車いすに座って」→下肢にマヒがある。
「けっこう、表情がある」→障害が思ったより軽いか?右脳はダメージを受けてないはず。
「右半身マヒ」→左脳障害がはっきりした。
「小さい声が出せる」→小さい声しか出せない?左脳に損傷があるので後遺症として十分考えられる
「話に対し必ずウンウンと相槌」→理解できているかどうかは不明。元来穏やかな、人の話に耳を傾けるタイプ?
「笑顔もある」→上記の穏やかな人柄を、さらに支持できそう。
「時々ため息も」→病状が安定してきて、現状の理解もできるようになったため暗澹たる思いに駆られている可能性もある。
熱海から(海からの日の出。写真サイズが小さくて失礼します)
私からの返信メールの要約です。
「失語症の状態がどのようなものか?足にマヒがあるので入力に問題があることが普通だが、その程度を知る必要がある。聞くことと読むことではどちらが良いか?単語と文章ではどうか?ハイ、イイエで答えられる質問でどのくらいコミュニケーションがとれるか?実物や絵とかイラストの理解はどこまでできるか?
出力も細かく見る必要がある。
言葉はコミュニケーションの道具だから、どのような能力があるのかをまず理解すべき。ということはむしろできないことにより注目することを意味する。
入力障害を持つ人とのコミュニケーションは、難しいことが多い。
左脳の障害は、たとえ言葉が思い通りに出なくても、感情が損なわれるわけではないので、感情の交流は十分に可能なので、ちょっと気が楽な面もある」
脳障害の解説①左脳が障害されても「目は口ほどにものを言い」
熱海から南下、伊東市北部からの日の出はまだ大島にかかりません。(T橋T里さん撮影)
二度目の面会の様子も知らせてくれました。
「満面の笑みで『お母さん』と。『お母さん元気ですか』といってくれたと思う」→そうかもしれないし、「○○さん」といいたいのに「お母さん」となったのかもしれない。
「言葉のオウム返しができる」→単語なのか文なのか。それがとどまることなく続くことはないか。
「懐かしい歌を覚えてる」→これは当然。「歌」を担当する右脳の損傷はないのだから。リハビリのヒント!
「看護師さんから笑顔は最高といわれている」→右脳の健全さと病前性格の良さ、対人親和性の高さなどを意味しているのだろう。
伊東市南部伊豆高原の我が家からだと、初日の出は大島の左岸の方から明るくなります。
10分足らずのスペクタクルショー!太陽が出てしまう前の方が、色彩は見事ですね。
伊豆高原でも少し高いところだと。高橋チヨミさん撮影。
メールでやり取りをしながら、隔靴掻痒(靴の上から足を掻く。じれったいの意味)の思いに駆られました。
これだけのやり取りでは、まだ失語症のパタンすら見えてきません。どこの能力があるのか(どの能力が損なわれたか)を知らなければ、リハビリの方向が決まりません・・・
失語症の理解のために、以前のこの記事をあげておきますので理解の手助けにしてください。
感覚性失語症の体験ーアナと雪の女王から
プロレベルの写真もお正月のプレゼントに。城ヶ崎海岸カフェ&コテージ JGarden からの初日の出(I井Y彦さん撮影)
保健師さんからの質問です。
「時の見当識もちょっと採点しにくいし、なんだか本人や家族の訴えとドクターの診断に違和感があります」
エイジングライフ研究所の二段階方式では、脳機能と生活実態と直近の生活歴に整合性がない場合(それぞれが意味することが一致しない場合)には、生活指導の対象としている「脳の老化が加速された、ごく普通のアルツハイマー型認知症」と考えずに、専門医受診ということが鉄則です。
もちろん、脳機能は正しく測定できている、生活実態は正しく把握できているということが前提ですよ。
脳機能に比べて、生活実態がよすぎる場合はまず失語症を疑います。大雑把な説明ですが、外国で生活している状態を想像してみてください。言葉に関しての意思疎通は難しいですが、生活そのものはほとんど問題なくこなせると思いませんか?
脳機能の検査は主に言葉を使って行いますから、言葉能力に問題があれば、結果は悪くでることになります。でも生活には問題がない。
ついでに説明しておくと、脳機能がいいにもかかわらず、生活上に様々な問題が勃発するときには精神的な問題を考慮することになります。
例えば、脳機能が少ししか落ちていないのに、妄想のような思い込みが強くて周囲を振り回すような場合です。
さて相談事例です。
脳機能検査から問題が発生しています。検査実施日平成30年2月21日です。
「今日の日付は?」という質問に他する答えが「平成28年2月20日」。普通に脳機能の老化が加速されている場合には、2月と答えられる時には、平成何年かは正答できるものなのですが…
「季節は?」には「春」
この場所はむしろ寒いエリアですから、2月中は「冬」でしょう。
このような時には「わからない」のではなく「言えない」可能性を思いつかないといけませんね。
他の下位項目の低下順には特に問題はない。と言いたいところですが
「文を書く」の課題に対して「おすわりしてテスト中」文になっていないこと以前に、60歳の男性が書く文章でしょうか?
保健師さんたちは、よりよく採点してしまう傾向がありますが、脳機能検査の目的はむしろ「できないところを明確にする」ところにあることを忘れてはいけません。
この方の検査結果です。
MMSの得点や時の見当識の得点からは、あたかも中ボケレベルの低下のようですが、上図を見て、あまりにも整った図形に注目してほしいと思います。特に立方体透視図のみごとなことに。右脳の構成能力に問題はないことを伝えてくれています。
「時の見当識」「文を書く」のできなさと実に対比的でしょう。
つまりこの方には、「適切な言葉が出てこない」という言葉の問題があると結論付けられます。
生活実態はどうだったでしょうか。
妻の申告だと、30項目問診票で小ボケレベルに4個丸がついています。これは生活実態は前頭葉機能がやや低下しているということを意味し、MMSに反映される能力にはまだ低下が見られないと、妻は思っているのです。
つまり、脳機能に対し生活実態がよすぎるケース。
もう少し具体的に聞き取ってありました。
・毎日散歩している
・毎日ゴミ出しをしている
・家のこまごましたことは、むしろ好きなことなので続けている
・料理好きでおいしい料理が作れる
・庭・植木の手入れ、池の掃除などは率先してやる
60歳の男性ですよ!どう見ても生活にトラブルが出始める中ボケではないですね。
MMSの下位項目低下順に、老化が加速された時とずれがある。そして脳機能検査≠生活実態(生活実態の方が良好)。この条件から、言葉の障害があるという結論が示唆されるのです。
生活歴を聞く以前にこのようなケースは専門医受診です。
実はこのケースは、既に受診していました。
「妻が気にした本人の物忘れ」を主訴に平成27年受診したかかりつけ医は「軽度認知症」と診断し投薬が始まったそうです。この時57歳です!
次に、平成29年12月の受診した専門医はMRI、CT検査して「脳萎縮がある」という指摘と「車の運転はやめた方がいい」と言われたとのことでした。
どこにも失語症の診断がない!
保健師さんたちは、お医者さんではありませんから診断や病名を言うことはできません・・・
もう一度、専門のドクターに
「言葉の問題あり=流ちょうに話せているがキーワードが出ない」
「脳機能検査の模写を見ると、左脳右脳の機能差が示唆される」
「生活実態と脳機能が一致しない」というように左脳の問題(失語症?)とアピールすることだけしかできません。ちょっと悔しい。
何の能力でもいいのですが、上手な人と下手な人がいますよね。
運動能力がわかりやすかと思います。普通に走っても早い子と遅い子がいる。もちろんうまく指導してやると、それぞれに結果がよくなることは確かですが、どう見ても早めの子と遅めの子がいる事実は残るでしょう。どの子でもすばらしい指導者や環境を整えたら、例えばオリンピック出場ができるかというと…それはあくまでも遺伝的素因が関与しているだろうとみんな思っています。
音楽の世界でもしかり。創造的な世界でもしかり。
上の図は、右によるほどその分野の能力にたけているということを表しています。
左によるほど、下手or苦手(というか、できない)ということです。
そして、だいたいの人たちはちょっと上手なレベルから、ちょっと下手なレベルまでの幅の中にいます。そこを外れて「それにしてもすばらしい!」とか「並じゃないよね」といわれる人達がちょっといて、そのさらに上をいく、天才といわれるほんの一握りの人たちがいる。
西伊豆新名所 馬ロック(1月10日)
今は、右の方向で話しましたが、当然左の方向でも同じです。こちらはほんの一握りの人たちのことを「天才」とは言いませんけどね。
(実はこの図は、小ボケ(前頭葉機能がうまく働かなくなった状態)になった時に、性格が先鋭化したり問題行動が目立つ人たちの解説のために使っているものです)
伊豆市東府や(1月10日)
さて、エイジングライフ研究所の二段階方式では脳機能を決められた手技で測定して数値化します。テストの方法も採点基準もキチンと決められているのです。
テスト時間は20分以内を目標にするという短さですから、ほんの少しだけ採点基準が甘いところも設けています。
例えば「文を書く」という課題があります。失語症の本格的なテストだと厳密に採点するところを、偏や旁の誤りは-1/2点。一字以内の誤りはノーカウント。送り仮名や濁点などの誤りもノーカウント。かな・漢字交じりでも問題はないなどとしてあります。
ほとんどペンを持つことがない高齢者が検査対象にいらっしゃることも考慮してあります。つまり最初にあげた図の左に寄っている人たちもいることを前提にしてあるのです。
「べんきょうしてます」→「ベンきョ?シとます」2字の間違いです。
どんなに贔屓目に見る判定基準であっても、これは不合格ですよ。「下手」なのではなく「書けない」ことをわかってあげるべきです。
「平成」→「干セう」になってますね。
この人は「書くのが下手」なのではなく「書けない」のです。そこを見つけてあげるために検査をしているのです。
テストをする側に、「この人はできない」ということをなるべく認めたくないという気持ちがあります。「できてほしい」とか「できて当たり前」と思うものだから「なんだかちょっと変だけど、まあ、とにかく一応書いてあるし。字を書かない生活かもしれないし」とできない事実から目をそらしてしまうのでしょうね。
「下手」ということを通り超えている、はずれのはずれということに気づいてください。
半年後。
4月のテストの時に「シ」をきちんと書けていることにも注意してください。今回は最初と次の2画は縦つながりではなく横つながりです。すると「シ」と書くつもりより「ツ」と書きたかったのかもしれませんね。3画目は下からですから「シ」の可能性が高くなりますけども。
どっちかはわかりません。書かれた直後に読み上げてもらってもよかったかもしれません。
「町のテストス[ツorシ]トる」これが「町のテストスシトる」ならば「ス」を「ヲ」の一字の間違いととらえると(失語症検査ではこれははっきりまちがいにカウントしますが)この文は書けていることになります。
「町のテストスツトる」これだと2字の間違いがあって文にもなっていませんから、文は書けないことになります。
それ以上に、日付を見ると「書く」ことそのものにとても困難があることがわかります。書きたかった日付は「平成29年12月1日」だったのです。とにかく書けないことに困り果てている状態がこの結果からわからないといけません。
点数化する時には、客観的に正確に評価しなくてはいけませんが、「目の前に示される情報のすべてはその人の脳が働いた結果である」ということを、謙虚に時には感動しながら受け取りましょう。
ケアマネさんからの情報として
「うまく書けないので、書く内容はご本人が考えて、実際に書くのは奥さん。という状態がずーと前から続いていた」そうです。
確かに書くことそのものが苦手な人はいます。でも書かなくてはいけない状態になったら、下手でも苦手でも書くのが社会人としての生き方です。
この方は社会人として、人並みに生活してこられなかったのでしょうか?そんなはずはありません。
書くことがとても苦手で書けないのだとしたら、それだけで普通の社会生活は無理だということになるのですよ。
病気かケガか。この方の人生のどこかで、「書く」という脳機能にダメージが起きたに違いないのです。とこの検査結果は訴えています。
12/7に「0点と1点の間」というブログをあげました。
二段階方式を使いこなすには、やはり経験も積んで、その人を理解できるツールだと自信を持たなくてはね。
がんばってください!
前記事「慢性硬膜下血腫で初笑い」の付録です。
「朝起きたら右足が上がらなかった。なんだか変だった」とT葉さんが言ったことを報告しましたね。
私は続けて質問しました。
「言葉はしゃべれるのに、なんだかわかりにくいということはなかったかしら?
聞こえているけれど、何を言いたいのかわかりにくい。
英語は聞こえていても、意味は分からないでしょ?あんな感じというか・・・」
間髪入れずに
「ああ、そういえば。
ボクはとにかく面倒。とにかくやる気がでない。とばかり思っていたけど、言われてみるとそうだったかも。『妻の言葉がわからない』なんて思ってもいないので、『面倒なので聞いてない』ことにしたのかもしれないな~」
「もちろん今は大丈夫でしょ?」
「ああ。まったく元通り!」
「元に戻ったのは、手術台の上で、でしょ」のやり取りがありました。
見てきたようなことを言っていますね。
かといって、私に透視能力があるわけではありません!
脳機能というのはおもしろくて、症状によく耳を傾けると、脳のどの場所に問題があるか見えてきます。
CTやMRIが普及する前の脳外科では(見ることができないので)、どこに病変があるかは、とにかく患者さんの訴えることや家族による経過報告をよく聞いたそうです。
今は詳細な画像診断ができるので、かえって症状を真剣に聞く姿勢が減ってきていると聞いたことがあります。
(ハワイの州鳥 ネネ)
「左脳と右半身が関連している」ということと「左脳と言葉が関連している」はみなさんがよく知っています。(右欄カテゴリーの中の「左脳の働き 失語症」を見てください)
上半身を動かす場所やそこを養う血管と、下半身を動かす場所やそこを養う血管は違います。
「言葉」とひとくくりに言いますが「書いたり、話したりする」のは脳から外へ向かう動きですから「運動性」といいますし、「聞いたり、読んだりする」のは外から脳へ入ってくる情報ですから「感覚性」といいます。
非常にシンプルに言ってしまうと、右上半身に障害が起きたときには同時に「話せない」というように脳から出ていく情報処理にも障害があることが多いのです。
右下半身に障害が起きたときには、「聞き取りにくい」というような脳に入ってくる情報処理の障害が伴うことが多いのです。
脳が、それぞれの場所で違う働きを持っているということは、興味深いことですね。
脳卒中を起こした人に対するときには、こういう簡単なことでも、一応知っておいた方が対応が楽ですよ。
メロディを理解するのは右脳ですから、歌詞がわからなくても、「Let It Go」という曲だということはよくわかります
後から挿入できました。
家族も、ディサービスのスタッフも、みんながみんな「認知症」と思っていたのです。
妻の発言
「とにかくわからせるのが大変なんです。分かってしまえば、やることはそんなにおかしくないのですけど」
私「と、いうと?」
妻「例えば…ゴミを捨てて来てと頼むでしょ。
それがなかなかわからないんです。
トンチンカンなこといったり、知らない振りをしたり。
全くイライラさせられっぱなし!
そのくせ、いったんわかってゴミを捨てに行くと、そのあたりの掃除までキチンとやって来てくれるんです。」
私「他には?」
妻「もう一年も通っているディサービスの名前も覚えられないのに、帰った時に私がいなくても、紙に書いておくと何でもやってくれます。
鍵をあけて、お米をとぐとか、洗濯物を取り込むとか」
身近に認知症の方をお世話した人なら、「これはちょっと違う」と思うはずです。
認知症の人は「いうことはちゃんとしてるのに、やることが変」
ちょうど、逆!
こういうタイプの失語症があることも知っておかないといけませんね。
1・滑らかに話す。
2・が、なにがいいたいかが、こちらに理解できない。
(だから、トンチンカンなことをいう)
3・聞こえているのに、内容がわからない。
(あたかも、英語を聞いているかのような状態なのです)
4・自分が言いたい、その言葉がいえない。
(だから、ディサービスの名前が答えられない)
5・この人のように、聞き取りが悪いのに、読み取り良好という場合もある。
家族は、さすがに症状を理解していましたね。
それが失語症とは知りませんでしたが。
タブレットからです。写真が入れられませんでした(^。^;)
たまたま続けておもしろい相談がありましたので、今日は保健師さんの勉強です。
今日の花はハスの花。T口さんが春先に植え付けてくださいました
ケース1
保健師さん「なんだか変なんですけど・・・。普通ではないと思うのです」
私「普通でないって?」
保健師さん「MMSの低下順が老化が加速している時と違います。言葉の問題にしても入力障害も出力障害もあるし。涙が出て途中で話せなくなってしまって」
ケース2
保健師さん「認知症だけでなく失語症もありそうなのですが」
私「どういうタイプの言葉の障害かしら?」
保健師さん「勝手にしゃべってる感じがしました。何か一つの単語が入るとそれだけでしゃべってしまうというか。
ずーと話し続けるんですが、突然ふと我に返った時みたいに黙ってしまったり。
検査中でも、勝手に話すので制止しながらやりました」
保健師さんは入力障害を考えたみたいですね。
認知症を理解するには、A「その方の、脳の機能がどういう状態になっているのか知る」ことがすべてのベースになります。
そしてその次、B「その脳機能でどのような生活を行っているのかを確認する」ことが続きます。
さらに大きなカギとしてC「ここ、数年の生活ぶり。それまでの生活を大きくかけ離れた生活を余儀なくされるような生活上の変化がなかったかどうかを聞きとる」という、もっとも保健師さんたちに期待される段階が必須になります。
このケース1・2についても同様のアプローチで考えてみました。
「簡単な検査をしております」といいながら書かれたものは「かうたなけうさおしています」
立方体模写が可能な点も注意が必要です。
MMSにも特徴的なことがいくつかありました。
時の見当識は5点なのですが、所の見当識で、どうしても郡の名が出てこない。
記銘は1回目「みかん、県名、わからない」2回目「みかん、わからない、わからない」とともに1/3点。3回目には3/3点になったのですが、テスト途中で「ダメダメそんなの」「わからない」と辛そうに訴えながら止めそうになったとのこと。
それなのに、想起は2/3点!
この脳機能からは、単純な老化の加速が起きたのではないということがわかりますね。
保健師さんは「言葉が出にくい様子がある。話が途中でふっと途切れ、話を変える様子がある」と言葉の出力障害を強く疑いながら、記銘ができなかったために「入力障害が主体」と考え、そうすると「この検査中の反応が説明できない」と悩んでいたみたいです。
失語症に関してはマニュアルC95Pにまとめてありますが、あくまでも典型的な場合の説明ですから、このケース1のように、入力障害と出力障害が一緒に起きることもよくあります。保健師さんの観察通り、出力障害が主体だと思います。(だから涙が出る。入力障害の場合はあまり泣いたりしません)
「生きがい対応型ディ、さわやかカラオケを進める。失語症が疑われるため家族に確認して専門医に受診」という保健師さんの結論は正しい展開です。
ただ、エイジングライフ研究所二段階方式では、A脳機能だけの解釈で終わることはありません。
B生活実態を見てみましょう。
本人が小ボケレベルだと自覚しています。(MMSは失語のために20点ですが、時の見当識が5点、想起2点ですから生活実態は確かに小ボケでしょう)
そうすると、C生活上の変化の有無が、ケース1を理解するためには重要なファクターになってくるのです。
今この方には言葉がうまく言えないという障害があります。
失語になったのは、1年半前の腰椎骨折を起こした時なのかどうか(転倒の際に頭部打撲したために失語症が起きた。または脳の言語野を含む部分に器質的な何かが起きたために倒れていたとも考えられる。この事故とは無関係にもう少し前だったことも考えられる)は、家族からの聞き取りを待つしかないのです。
が、その時をきっかけにして失語という障害を持っただけでなく(たぶん)、生活が大きく変わって家事などほとんど何もしない状態で、日中は近所を歩くだけくらいになったため脳の老化が加速してきていることも事実です(小ボケレベル)。
失語を念頭に置いた脳リハビリが必要です。
文を書くときに「それはだめだ。できない」と拒否したそうですが、保健師さんが励ました結果「話をしている」とちゃんと書けています。
図形の模写は一方が四角形。もちろん0点ですが、「惜しい!」
時の見当識の得点が5点ですから、図形の模写ができないとすれば、右脳障害を疑って「専門医受診」となるのですが、この場合は本来はできるのに、前頭葉の注意力が発揮されずにうっかりミスになったという印象が強いですね。
脳機能に問題がないということを確認するためには、再挑戦してもらっておいた方がいいでしょう。
記銘は2/3。3回目に3/3になったのはケース1と同じですが、「27」を二度とも「22」と答えたというのです。
ケース1とできなさ加減が違うでしょ。
こういうときにテスターは「しっかりしてくださいよ!検査中なんですから!」と相手の前頭葉を叱咤激励したくなるものです。
計算の際にも、93の後は「ダメダメ」と拒否的にやめてしまうし、一方的な話をし始めてしまう。
一言にいって、非常にテストがやりにくいタイプの方だったと思います。
誠蓮(マコトレン、八重咲きのハス)
A脳機能を見てみましょう。
前頭葉テストは全滅。立方体模写は上図の通り。テスト中は多弁なのにもかかわらず動物名想起は4個のみ。かなひろいテストは丸は6個付きましたが内容把握は全くできません。
MMSは20点でしたが、時の見当識5点、想起1/3点です。記銘と模写は脳機能としては多分問題なしで、実際には小ボケレベルということになります。
B生活実態は本人が小ボケレベルと表明しています。
C生活歴に至った時に保健師さんは「そうか!やっぱりこれでいいんですね」
ちょうど2年前に大きなターニングポイントがあったことを保健師さんは捕捉していました。ごく普通の、老化が加速された認知症と考えていいのです。
対人的トラブルが出ていて、小ボケ状態にとどまっているとは考えられなかったそうですが、生活実態の確認では「ゴミだしOK。風邪薬の自己管理OK」と家庭生活上のトラブルはまだ起きていないことが明らかになっていました。
ただこのケース2は、もともと性格的に難しいところがあったのです。
それをコントロールしてきた前頭葉が機能低下を起こしたために、その身勝手さやむずかしさが前面に出てきてしまったと考えると、今起きているトラブルの本質が見えてくると思います。
テスト場面では人間関係の問題は起きてきませんが、テストのやりにくさという形で端的に現われます。
A4版白紙の図形の模写の線分が一線でなくこのような描き方になる時には神経質な傾向を考慮するのが鉄則です。
また、日付けの書き方にも注意してごらんなさい。
「平成二十二 六月8日」単に前頭葉の注意力不足だけでない、「変わり者」らしさが出ていると思いませんか?
いずれにしても、結論としては失語を考える必要はなく、前頭葉が言語野の能力をフルに引き出せていないという解釈で十分です。
老化が加速して小ボケレベルなのに、でも生活実態上でトラブルが多発するときには、この性格傾向の偏りも考慮する必要があります。マニュアルC163Pを参照してください。