脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

インタビューの極意「ひとつ繭の中」

2011年09月23日 | 二段階方式って?

新聞にノンフィクション作家の梯久美子さんの興味深いエッセイがありました。
インタビューの極意ともいうべきことに触れていました。
「幅のあるゆったりした視線で相手を見つめる」

エイジングライフ研究所の二段階方式では、正常から認知症のごく初期から、もちろんはっきりとボケとわかるレベルまで対応します。

2011_0905_084200p1000007 手技は、まず脳機能検査、それから生活実態に一致するかどうかの確認。さらに生活歴を聴き取って、脳の老化が加速されたケースであることが確認されたなら、そこからが最も大切な生活改善指導になります。

そして保健師さんたちが苦手とするのが、生活歴の聞き取り、ですね。

「今から自分のすべてを、能力も、時間も、あなたのために使います」という気持ちを込めて、脳機能検査を始めます。
そしてその姿勢は、二段階方式の手技を行っている間中保つべきなのですが、テストや生活実態の確認には、それでも客観的に通用する基準があります。
生活歴の聞き取りに関しては、本当に一人一人違います。2011_0905_132800p1000012

生活も違えば、家族環境も違う。
ものの感じ方も違えば、生き方も違う。
同じ出来事であったとしてもその出来事から受ける影響は異なってくるほうが当たりまえでしょう。

必要条件としてはただひとつ「心をこめて聞く」。

具体的にはどうすることが「心をこめること」なのか、その答えがここにあると思います。
読みながら「ウワァー、おんなじだ」と声をあげました。

インタビューの極意として梯久美子さんがおっしゃっていることと、生活歴を聴き取る時の極意は同じです。

2011_0909_055300p1000066 「ひとつ繭の中」ちょっとイメージしてみてください。
安心感が感じられますね。
「安心して何でも言っていいのです」という姿勢は、相手の心を開かせる大切な鍵です。
そしてそれはとても居心地のいい時間。
皆さんが苦手とされる「生活歴の聞き取り」はそういう時間と空間のプレゼントでもあることを知ってください。そのような覚悟をもって臨むことが、むしろいい結果につながると思いますよ。

私たちには脳機能テストの結果という武器がありますから、相手の人生に深く立ち入ることができます。
その時も、自分は傍観者ではなく、かといって一体化してしまっているのでもなく、そうちょうど柔らかな繭の中に一緒に入っているというイメージですね。

その時、私も、相手から心の中を見透かされていると思います。


そろそろ被災地に小ボケが・・・

2011年09月19日 | 二段階方式って?

それまでの生活が一変して、その人らしくイキイキと生きられなくなる。
状況を判断して、見通しを立て、自分がどう進むか考え、決定する肝心かなめの前頭葉の出番がなくなる。
その結果、生きがいなく、趣味も交友を楽しむこともなく、運動もしない「ナイナイ尽くしの生活」に陥って、半年すると前頭葉機能ははっきりと低下してきます。2011_0909_062300p1000073

3.11から半年が過ぎました。
あの大惨事に会われた高齢者の方々こそ、いま述べたような生活に陥っても仕方がないと皆さんも思っているでしょう。

「少しは理解できます。想像できます」とも言えないほどの、苦しみや悲しさを体験なさった高齢者の方々。
「将来を見て、今なにをすべきか、考えましょう」と言っても空念仏にすぎない。
「どう考えても先が見えない」のが、厳しい現実です。

そして、負ける。
悲しいことにその先に待っているのは、前頭葉機能の老化加速です。元々年齢とともに低下していく前頭葉機能が、発揮する場所も時もないという状態に置かれると老化が加速されるのです。エイジングライフ研究所ではそれを小ボケと言います。2011_0909_062200p1000071

東北地方のある町からの相談です。

「夫69歳が変。けがをした妻に対する配慮もないし、ガステーブルの使い方がわからない」という妻からの訴えで、夫の脳機能検査をしたところ、前頭葉機能のみの低下がみられました(これが小ボケ)

けれどもいろいろ生活実態を尋ねていくと、どうももう一つ妻の訴えと夫の生活状況にずれが感じられる、というのです。

妻は、7月に足首を骨折し自分のことだけに精いっぱい、実姉のところに世話になっている状態。
そのため夫は一人暮らしが始まって、当初は家事に戸惑ったものの、最近では、買い物をしてきて家事もこなし、意識的にテレビを見たり散歩に行ったりと、それなりに生活を組み立て始めている印象が強い。2011_0909_062200p1000069

「それなのに、気遣いもしないし、いつ帰ってくるかとも尋ねない。全くの無関心。もうこんな人とは一緒に住めない」と妻が強く強く訴えたといいます。

「離婚や別居は考え直して、二人で生活できるように、工夫しましょう」と保健師さんが説得をし、一応の結論としては
「妻の気晴らしも必要、買い物も頼んだり家事の分担も考えてもらって、二人で暮らすようにする」ということになったそうです。2011_0909_062200p1000070             

さらにお二人の生活歴を確認していったところ
実は平成7年に、夫は脳梗塞を発症し一カ月入院。
その後精神的にも不安定となり、65歳まで在職できていたものの、発病後は家のことは一切妻が取り仕切ってきたことがわかりました。

家のローンなどもすべて妻が処理して、震災のちょっと前に払い終わったところだとか!

自宅は陸前高田・・・
全壊して、たぶん何らかの事情があるらしく子どものところにも行かれず、他町の雇用促進住宅に入居したということもわかってきました。                                 

仮設住宅は2年間しか住むことができない。
2年たってどこに住めるというのか?
ローンを組めるあてもない。
私たちはどうなってしまうのか?

どうすれば生活ができるのか?
仕事はどうなる?
私の体は元に戻るのか?
夫には頼れない・・・2011_0909_062300p1000072

今回の大惨事は、いわば「一家の長」たる妻の方により重くのしかかってきたとも考えられます。
この状態で、妻の前頭葉がイキイキと機能できるでしょうか?

妻にも小ボケが忍び寄っていることに気づいてあげましょう(脳機能検査は必須です)。その観点から話を聞いてあげることで、より深い理解につながりますから。

そして、きっと多くの町で、このような状況の高齢者がたくさんいらっしゃるはずです・・・繰り返しますが、この状態は、脳機能検査をしなければはっきりと指摘してあげることができません。

将来の展望のないこの状況での脳リハビリは難しいことは承知していますが、それでも手をこまねいてボケさせることはできません。
せめて散歩。できれば集いの中で右脳刺激を図る。
とにかく脳機能からみて、このままではボケに確実に近づいていくという、危険な現在の状態を説明してあげなくてはいけません。2011_0909_062300p1000074_2

私は早く早くと焦りますが、「当面は自殺予防です」と言われた声が耳にこびりついています。

でも、講演会の時に皆さんが答えてくれます。
「ボケるくらいなら死んだ方がいい」

この言葉もかみしめてください。そんなに猶予できるゆとりはありません。


かくしゃくヒントその12―人のためになる(続)

2011年09月18日 | かくしゃくヒント

前回ブログの続きです。

長めの夏休みの後帰宅したら、千葉キヌさんからのお手紙が届いていました。私の「チャンチャンコの型紙を送ってあげてください」のお願いに対してさっそくリアクションしてくださったのです。そしてそれを私に報告してくださった・・・ありがとうKinukinu2_2 Kinukinu1

キヌさんがどのように毎日を生きていらっしゃるか彷彿としてきます。毎日いろいろに起きてくる出来事に対して、瑞々しい感性で対応していらっしゃることがわかります。そして世話人は買ってでもやる!

そうなのです。このような生き方は間違いなく「かくしゃくヒント」そのものです。そして、私たちには、こういう生き方は年齢に関係なくできるのです。

同封のお手紙は保健師さんにあてた添え書きです。岩手県と宮城県各地の保健師さんとお話をしてみてまだまだそこまでは手が回らないというのが実態の町もありましたが、田野畑村、多賀城市、塩竈市の保健師さんが「教室の皆さんに投げかけてみます」と言われたので、その三か所に送っていただくように頼みました。

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それだけではありません。
私にまでベストを送ってくださいました。リバーシブルになっていてとっても素敵です!  単衣もありました2011_0918_174200p10000032011_0916_054700p1000001_2

キヌさん、仲ちゃん、ありがとうございました。きっと送られた町の皆さんも喜ばれることと思います。
かくしゃくヒント12の付録
友人に声をかけて、田野畑村のことを話しましたら、あっという間に輪が広がって、「裁縫道具とちょっと布を送ってあげられたら・・・」という当初の思いを大きく超えることになりました。その経緯も前回のブログに書きました。
今回のような、みんなの気持ちがさざ波のように広がっていく暖かい人間関係そのものも、人がかくしゃくと生きるための温床のような気がします。やっぱりみんな仲良くしなくっちゃ?

 


 田野畑村、その後(かくしゃくヒントその11-人のためになる)

2011年09月02日 | かくしゃくヒント

岩手県田野畑村の震災後の報告をしました。http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20110816

「糸や針を送ってあげよう!」と思い、最初は私一人でやるつもりでしたが、こういうことはみんなの力を借りた方がものもたくさん集まるし、田野畑村の認知症予防教室「ほのぼの教室」の皆さんも励まされるだろうと思って、友人に声をかけました。いろいろと大きな輪ができてびっくりしています。2011_0502_125600p1000312

友人→お姉さん→友人→洋裁仲間。洋裁をやるような人たちは理解が深いです!

「縫物をするなら糸と針だけじゃあだめ。ハサミも、ヘラも、メジャーも、アイロンも、ミシンも・・・さぁ、どこにあるかしら」と私の予想を超えた展開!

「毛糸はそれでも送り易いけど。布は難しい。もう着なくなった着物があるけど着物ではダメかしらねえ。一味違うものができるけど・・・」

「どうぞよろしく」とお願いしたら、間髪いれずに送ってくださったそうです。
K保保健師さんから弾んだ声で電話がありました。
「お心のこもった感動的な荷物でした。ここまでと思うほどにいろいろ揃えてくださって。
眺めるだけで夢が膨らむようでした。
教室の皆さんがこれを見てどういう顔をされるか楽しみです」

実は、「着物・・・」という言葉から、私はひらめきました。
毎度おなじみの奥州市江刺区稲瀬「年とらんと会」の千葉キヌさん
旧江刺市時代、認知症予防教室を脳元気教室と銘打って各地区で展開していました。そして毎年一度、各教室の合同交流会が行われていました。

その記念すべき第一回交流会の時、私は講評をするために訪れていました。
「年とらんと会」のメンバーは、500人くらいの会場の中でも際立っていました。
理由は、皆さん全員がお手製のチャンチャンコ(かといってお揃いではありません。みんなちがう!)を着ていたのです。

各コーナーにそれぞれの教室の作品紹介ブースがあって、「年とらんと会」の皆さんの今年一年の成果も展示されていました。
作品展示コーナーへ眼をやると、もちろんチャンチャンコは展示されていましたが、その横に何と型紙が重ねられていました。
「これは?」という私の問いに
「見たら作りたくなる人もいると思って・・・簡単にできるものだから型紙を用意しておいたんです」と答えてくれたのが千葉キヌさん。 2011_0218_150400p1000182

今年の3月10日にもお邪魔をしたばかりでしたから、電話をかけました。

事情を話すと
「わかった!、型紙を送ればいいんですね。見ればわかるから!それから見本も一緒に入れておいてあげよう・・・・・ミシンがないだろうから、手縫いのにした方がいいよね」

後半部はひとり言のようでした。千葉キヌさんの頭の中がフル回転し始めているのが見えるようでした。

続けて話されたことばに私は感動しました。

「この年になると、迷惑をかけないように気をつけて生きることを、いつも考えてる。そうするとそれでいっぱいになってしまうけど、私でもお人の役に立てることができるんだね!うれし~い!」

ボケ予防にといっていろいろなことを勧めますが、究極は「人のためになる」ということを実感できるようなことをすることだと思います。
「人は一人では生きられない」という言葉を、東日本大震災の後、何度見聞きしたでしょうか?「人のためになる」このことほど生きる意欲をかきたてるものはないのではないでしょうか?

生きる目標として、前頭葉が納得できるものが有効です。
趣味もあるでしょうし、運動が生きがいの人もいます。
退職前なら仕事だって当然生きがいになります。2011_0810_233400p1000217でも、これらのことと「人のためになる」ことをすることとは、隔たりがありますね。

今回、布が届いたらという前提で保健師さんたちといくつか復習をしました。2011_0629_084900p1000105

今回、布を必要としている教室は
ディサービスとはちょっと違って「やってもらう」ではない、自分たちでいろいろ楽しみながら認知症予防を図るという目的をもっている教室なのです。
「雑巾を縫って、手先を動かしていればボケ予防になる」とよく言われますね。
脳をどのように使っているかという視点から見ると、本質的に違うのです。
ロボットのように指を動かすだけの時でも、もちろん脳が指令を出しています。
でも楽しみながら、工夫しながら、制約なく自由に作り上げていくときには、右脳と前頭葉が連携しながらフル稼働していくのです。
この教室では、仕事としてやるわけではないので、効率とか上手下手などは問いません。
それよりも、同じ布から、いかに自分らしく作り上げていくかのほうが大切。
切り替えたり、ポケットを付けたり・・・
基準は右脳ベースで、好きか嫌いかで決めていきます。
そしてできた作品をみんなで楽しむ。きっと笑顔があふれるでしょうね!
このような時にも脳はとても活発に動きます。一人でひたすら針を動かして雑巾を縫うのとは大違いで、まさにボケ予防。
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でも、千葉さんが述懐されたような生きる意味を再確認するようなこととは、またちょっと違うと思いませんか?
いつもは楽しむことがあればいいと思いましょう。右脳を使って、人と一緒に楽しむのです。
でも究極のボケ予防は、千葉キヌさんの言葉に大きなヒントが隠されていると思います。
今回ご協力いただいた皆さまがたへ。

「だいたいどんな状態なのかしら?これはいるだろうか?これはどうだろう?この布はこのように整理してあげて・・・そうするとこれも必要になるはず」
見たこともない田野畑村のおばあさんたちの姿を思い浮かべながら、そして喜んでくださる姿も想像しながら、さまざまに工夫を凝らして下さったと思います。
その時、皆さまの前頭葉はイキイキとなさっていたはずです!
大きな声でご協力に感謝を、そして小さな声で「前頭葉が若返りましたよ。おめでとうございます」を申し上げます.
これは私にも言えることですね。自分もほめてやりましょう(笑)
追伸
14日まで、夏休みに入りますのでブログの更新もできません。ご用は月半ばまでお待ちください。

実務研修会終了。言い忘れました。

2011年09月01日 | 前頭葉の働き

先週末、浜松で実務研修会を開きました。
エイジングライフ研究所の研修会は、毎回全然違う雰囲気になるのが不思議なのですが、今回は、テストの解釈法の解説方法を変えてみたり、新しい「簡単マニュアル」を用意したりもしましたので、一層いつもと違う研修だったと思います。少しずつは進化していると思っています!2011_0829_122400p1000256       

今回研修を受けられた皆さんにご連絡があります。

二日目の途中で「脳のリハビリについては後ほど、マニュアルに沿って説明します」と言ったにもかかわらず、私の頭からきれいに消えてしまってました。

そのように話したことは覚えているのですけれど・・・

そして、もう一つ言い訳をすると、今思い出したのではありません。研修会終了後すぐに思い出したのですが、「時すでに遅し」という諦めと、急いでやらなければいけない用事が重なって今日になってしまいました。2011_0829_122300p1000255_2 

普通の人たちはこのようなことがあると
「ちょっとボケたかな?」とか、もっと深刻に
「これはボケに入ったに違いない」とか思うのでしょうね。

加齢に伴う許容範囲の「注意分配能力」低下だと思います(笑)
同じような事件をこのブログでも何度か報告していますね。
若いころには想像もできなかった、能力低下が起きてきます。

病的なもの忘れと正常な物忘れの違いを「昨夜の夕食の献立を忘れているくらいは歳のせい。病的な物忘れは夕食を食べたことすら忘れている」とよく説明されますが、ボケに向かっているかどうかの分かれ道は 「意欲があるかどうか」なのです。

日常生活でいろいろな失敗を起こしても、年齢相応の脳の機能があれば、(と、いうことは若いころよりも注意分配能力が低下していても、それが年齢相応なら何の問題もないという意味になります)「物忘れ」を訴える前に「意欲低下」を訴えるものです。2011_0829_125200p1000258 2011_0829_125200p1000257                

前頭葉機能が年齢相応にキチンと機能していれば、失敗を起こした時に
①反省ができます。
②次に失敗しないように工夫ができます。

エイジングライフ研究所が出している認知症予防のパンフレットには
「物忘れ 反省と工夫がきけば 歳のせい」と書いてありますね?!

言い訳ばかりしていると、今日のブログのテーマをまた忘れそうです。
脳のリハビリ、教室運営についてはマニュアルBの238Pから説明してありますので、一度眼を通しておいてください。予防教室のカリキュラム作成上の留意点については250Pからです。

タケノコいも畑(友人は立っています!)2011_0829_135200p1000261
                       

予防教室開催の時には、この集りの意味をいつも脳機能という側面から解説をしてあげることです。
その説明が十分に理解できるためには、理解できるだけの脳機能と体験が必要です。

もっと近道は、脳機能テストをしてあげること。もちろん、その結果に基づいた生活改善指導は当然です。

身に付くと、長期間追跡した脳機能テスト(小布施町と豊科町)に報告したように、年齢は重ねていくのに脳脳機能が改善していく人たちがたくさん生まれるのです。                                      


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