たまたま続けておもしろい相談がありましたので、今日は保健師さんの勉強です。
今日の花はハスの花。T口さんが春先に植え付けてくださいました
ケース1
保健師さん「なんだか変なんですけど・・・。普通ではないと思うのです」
私「普通でないって?」
保健師さん「MMSの低下順が老化が加速している時と違います。言葉の問題にしても入力障害も出力障害もあるし。涙が出て途中で話せなくなってしまって」
ケース2
保健師さん「認知症だけでなく失語症もありそうなのですが」
私「どういうタイプの言葉の障害かしら?」
保健師さん「勝手にしゃべってる感じがしました。何か一つの単語が入るとそれだけでしゃべってしまうというか。
ずーと話し続けるんですが、突然ふと我に返った時みたいに黙ってしまったり。
検査中でも、勝手に話すので制止しながらやりました」
保健師さんは入力障害を考えたみたいですね。
認知症を理解するには、A「その方の、脳の機能がどういう状態になっているのか知る」ことがすべてのベースになります。
そしてその次、B「その脳機能でどのような生活を行っているのかを確認する」ことが続きます。
さらに大きなカギとしてC「ここ、数年の生活ぶり。それまでの生活を大きくかけ離れた生活を余儀なくされるような生活上の変化がなかったかどうかを聞きとる」という、もっとも保健師さんたちに期待される段階が必須になります。
このケース1・2についても同様のアプローチで考えてみました。
「簡単な検査をしております」といいながら書かれたものは「かうたなけうさおしています」
立方体模写が可能な点も注意が必要です。
MMSにも特徴的なことがいくつかありました。
時の見当識は5点なのですが、所の見当識で、どうしても郡の名が出てこない。
記銘は1回目「みかん、県名、わからない」2回目「みかん、わからない、わからない」とともに1/3点。3回目には3/3点になったのですが、テスト途中で「ダメダメそんなの」「わからない」と辛そうに訴えながら止めそうになったとのこと。
それなのに、想起は2/3点!
この脳機能からは、単純な老化の加速が起きたのではないということがわかりますね。
保健師さんは「言葉が出にくい様子がある。話が途中でふっと途切れ、話を変える様子がある」と言葉の出力障害を強く疑いながら、記銘ができなかったために「入力障害が主体」と考え、そうすると「この検査中の反応が説明できない」と悩んでいたみたいです。
失語症に関してはマニュアルC95Pにまとめてありますが、あくまでも典型的な場合の説明ですから、このケース1のように、入力障害と出力障害が一緒に起きることもよくあります。保健師さんの観察通り、出力障害が主体だと思います。(だから涙が出る。入力障害の場合はあまり泣いたりしません)
「生きがい対応型ディ、さわやかカラオケを進める。失語症が疑われるため家族に確認して専門医に受診」という保健師さんの結論は正しい展開です。
ただ、エイジングライフ研究所二段階方式では、A脳機能だけの解釈で終わることはありません。
B生活実態を見てみましょう。
本人が小ボケレベルだと自覚しています。(MMSは失語のために20点ですが、時の見当識が5点、想起2点ですから生活実態は確かに小ボケでしょう)
そうすると、C生活上の変化の有無が、ケース1を理解するためには重要なファクターになってくるのです。
今この方には言葉がうまく言えないという障害があります。
失語になったのは、1年半前の腰椎骨折を起こした時なのかどうか(転倒の際に頭部打撲したために失語症が起きた。または脳の言語野を含む部分に器質的な何かが起きたために倒れていたとも考えられる。この事故とは無関係にもう少し前だったことも考えられる)は、家族からの聞き取りを待つしかないのです。
が、その時をきっかけにして失語という障害を持っただけでなく(たぶん)、生活が大きく変わって家事などほとんど何もしない状態で、日中は近所を歩くだけくらいになったため脳の老化が加速してきていることも事実です(小ボケレベル)。
失語を念頭に置いた脳リハビリが必要です。
文を書くときに「それはだめだ。できない」と拒否したそうですが、保健師さんが励ました結果「話をしている」とちゃんと書けています。
図形の模写は一方が四角形。もちろん0点ですが、「惜しい!」
時の見当識の得点が5点ですから、図形の模写ができないとすれば、右脳障害を疑って「専門医受診」となるのですが、この場合は本来はできるのに、前頭葉の注意力が発揮されずにうっかりミスになったという印象が強いですね。
脳機能に問題がないということを確認するためには、再挑戦してもらっておいた方がいいでしょう。
記銘は2/3。3回目に3/3になったのはケース1と同じですが、「27」を二度とも「22」と答えたというのです。
ケース1とできなさ加減が違うでしょ。
こういうときにテスターは「しっかりしてくださいよ!検査中なんですから!」と相手の前頭葉を叱咤激励したくなるものです。
計算の際にも、93の後は「ダメダメ」と拒否的にやめてしまうし、一方的な話をし始めてしまう。
一言にいって、非常にテストがやりにくいタイプの方だったと思います。
誠蓮(マコトレン、八重咲きのハス)
A脳機能を見てみましょう。
前頭葉テストは全滅。立方体模写は上図の通り。テスト中は多弁なのにもかかわらず動物名想起は4個のみ。かなひろいテストは丸は6個付きましたが内容把握は全くできません。
MMSは20点でしたが、時の見当識5点、想起1/3点です。記銘と模写は脳機能としては多分問題なしで、実際には小ボケレベルということになります。
B生活実態は本人が小ボケレベルと表明しています。
C生活歴に至った時に保健師さんは「そうか!やっぱりこれでいいんですね」
ちょうど2年前に大きなターニングポイントがあったことを保健師さんは捕捉していました。ごく普通の、老化が加速された認知症と考えていいのです。
対人的トラブルが出ていて、小ボケ状態にとどまっているとは考えられなかったそうですが、生活実態の確認では「ゴミだしOK。風邪薬の自己管理OK」と家庭生活上のトラブルはまだ起きていないことが明らかになっていました。
ただこのケース2は、もともと性格的に難しいところがあったのです。
それをコントロールしてきた前頭葉が機能低下を起こしたために、その身勝手さやむずかしさが前面に出てきてしまったと考えると、今起きているトラブルの本質が見えてくると思います。
テスト場面では人間関係の問題は起きてきませんが、テストのやりにくさという形で端的に現われます。
A4版白紙の図形の模写の線分が一線でなくこのような描き方になる時には神経質な傾向を考慮するのが鉄則です。
また、日付けの書き方にも注意してごらんなさい。
「平成二十二 六月8日」単に前頭葉の注意力不足だけでない、「変わり者」らしさが出ていると思いませんか?
いずれにしても、結論としては失語を考える必要はなく、前頭葉が言語野の能力をフルに引き出せていないという解釈で十分です。
老化が加速して小ボケレベルなのに、でも生活実態上でトラブルが多発するときには、この性格傾向の偏りも考慮する必要があります。マニュアルC163Pを参照してください。