脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立

2023年06月30日 | エイジングライフ研究所から
わざわざ「共生社会の実現を推進するための」という冠語をつけて、認知症基本法が6月14日成立しました。
私の知る限りでは、ニュースの扱いは小さなものだったように思いますが、どうでしょうか?皆さんは関心を持ちましたか?
冠語の意味は、いろいろな思いが込められていると思います。例えば産経新聞の見出しには「認知症基本法が成立 尊厳保持、本人の意見反映」と表現されていました。
「共存」に触れていませんが、2025年には認知症者が約675万人になると予測されている認知症 、これは65歳以上の国民の5人に一人という割合になります。共存する以外ないでしょう。
「尊厳保持」はもう少し説明すると「認知症の人が尊厳を持ち、希望を持って暮らせる共生社会の実現 」となります。
「本人の意見反映」正確には「認知症の人が尊厳を持ち、希望を持って暮らせる共生社会の実現」を 「認知症の人や家族らの意見を聞いたうえで基本計画を策定する」 となっています。
素晴らしく明るい社会が見えてきますか?
庭に来たカワラヒワ

さあ、今から反論をしたいと思います。日本のみならず世界中の専門家に対してわかってもらわなくてはいけません。
アルツハイマー型認知症(従来は老年痴呆と呼ばれていたものです)は、発病の機序として、アミロイドβやタウタンパクなどを犯人にすべきではありません。原因は、高齢者が何らかのきっかけで、前頭葉の出番の少ない閉じこもった生活を続けていくうち、段々に脳機能の低下が起きてくる。あたかも歩かなければ筋肉の衰えが加速すること(廃用性委縮)と同じように廃用性機能低下が起きてくるのです。
脳機能を測ってみれば、一目瞭然。最初に機能低下を起こすのは前頭葉。
最早期では、前頭葉不合格でも、一般的に使われている認知検査では合格点になります。満点のことすらあって、その時には記憶力の検査項目には何ら問題がないということですよ。この時は社会生活だけにトラブルが起きるのです。
次に、前頭葉機能の低下はさらに進み、認知検査でも次第に不合格になっていきます。
一般的に「ボケちゃった」といわれるときには、前頭葉機能は測定不可。30点満点の認知検査MMSE でいえば14点以下、さらに一けたになっていきます。ここまでに7~8年はかかるでしょう。

とてもいいにくいのですが、認知検査で一けたにまで脳機能低下が進んでしまうと時・所・人に対する見当識はズタズタです。
「時」は、今がだいたい何時ごろかはわかりますが、時によっては昼夜の区別がつかないために夜なかに騒ぐことになります。
「所」は、はっきり認識できなくて自分の家かどうかもわからないときがあります。落ち着かない状況が勃発すると徘徊…
「人」は、「どなたさまがわかりませんが、御親切にしてくださってありがとうございます」と娘に言ってしまい、悲しませることになります。
繰り返しますが、こういう状態になった時、世の中の人は「ボケた」とか「認知症になってしまった」というのです。
こういう脳機能になってしまった人が、どのように状況判断や見通しをしてどのような希望を申し述べることができるでしょうか?

世界中で起きてしまっている「認知症」の誤診について説明しましょう。
いま説明した認知症は、介護をしてきた人にとっては、あまりにもわかりきったことです。「そうそう。だんだん進んでいくんですね」

「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」これは2006年国連で採択された世界障害権利条約の合言葉ですが、「認知症者の声を聞いて」とか「忘れるだけだから、そこに対して寛容に」「急がせないで。失敗も許せるような社会を」などと「認知症」の当事者が、発言し始めました。最初はクリスティーン・ブライデンさんでしょう。
日本でも、いろいろな方の講演が開かれたり、テレビ番組の特集があったります。
これは全部「認知症」ではありません。側頭葉性健忘症という認知症とは別の病態です。脳機能から説明すると、前頭葉機能は正常で、記憶に関する機能だけに問題が起こるのです。
認知症のように徐々に進行するのではなく、「あのころから記憶障害が始まった」といわれることがほとんどです。もちろん少しずつは進行して明確になるのですが。
クリスティーン・ブライデンさんのデビューが鮮烈だったので、それに導かれるように側頭葉性健忘の人たちが声をあげたのです。実は私のブログにもカテゴリー「側頭葉性健忘症」としてたくさん紹介していますので、興味がある方はぜひお読みください。すべてが本人または家族からの情報で書いてあります。

これは講演を聞きに行ったものです。

なんとのこの記事の最初に登場する藤田さんは、今回の認知症基本法が成立した時の記者会見にも登壇していました。認知症の人がこれだけ長期間社会活動ができるはずはありません。
後半には、介護体験がある友人の言葉が載っています。
「テレビで出てくる人と、うちのおばあちゃんは全く違う。とてもあんなことは言えない。どころか考えられもしない」という声はなぜ出てこないのでしょうか?
テレビも雑誌も「認知症」についてもっと正しい情報を伝えてほしいと願っているのですが、考えたら専門家が理解していないのです。
脳機能からみるとすぐにわかることですが、症状からだけ見てしまうと側頭葉性健忘症の人の「記憶障害」だけ前面に出ている状態を「認知症」の初期と見誤ったのですね。
このブログを読んでみてください。NHKは世の中のみんなが信頼していると思いますから、疑問を感じたものをいくつか出しますね。


こういうタイプの認知症があるといわないでください。たとえ若年性認知症と名付けても間違いです。これは側頭葉性健忘であって認知症ではありませんから。

つまり「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」がせっかく成立しましたが、前提に大きな誤りがあるのです。
その前に、厚労省が若年発症を「若年性認知症」と安易に定義づけたことから問題です。でもそう指導した専門家集団の責任の方が大きいですね。

私は明日上京のついでに、30日から上映される「オレンジランプ 39歳、パパが認知症?どうする、私!」という映画を見てきます。実話をもとに製作されたそうですが、「39歳、パパが側頭葉性健忘症?理解しました、私!」なのです。
「(若年性)認知症」ほんとうは「側頭葉性健忘症」。




6月の右脳訓練―有馬温泉と六甲高山植物園

2023年06月23日 | 私の右脳ライフ
倉敷の「うな北」での姉弟会の顛末はこの前の記事(6月の右脳訓練ー姉弟会in倉敷)でお話ししました。
伊豆高原に住んでいますから、結構距離はあります。旅程作りが大好きな私としたら夕方に岡山到着でいいのですから、途中の時間を生かしたいくつかのアイディアがひらめきましたが、一路目的地だけ行きたいという夫とは意見が合いません。一足先に私が出発、途中でドッキングするという変則旅から始まりました。
7:20に出発して、伊豆に移る前に住んでいた磐田市の友人を訪ねておしゃべりに花を咲かせました。
8:50出発の夫が乗り込んでいる岡山行き新幹線に浜松から乗車。その乗り換え時間を利用して、懐かしい浜松駅をちょっと見てきました。

岡山帰省のもう一つの目的はお墓詣りです。兄弟で幼い頃の話が弾み、父母への何よりの手向になったと思います。これも無事に済ませて、姉弟会。

姉の家でゆっくりして、帰りは弟夫婦と有馬温泉へ寄ります。そこまでが私の担当で、倉敷駅で集合した後はすべて弟の指示通り。なんというらくちんな旅でしょう。電車の乗り換えだけでなく有馬温泉の見どころ、金の湯足湯、温泉街散策、食べ歩き候補まで完璧なリサーチ!
日本一に輝いたジェラート屋さんにも寄りました。

翌朝は窓一面、雲海のプレゼント。誰に頼んだらこんな状況設定ができるのでしょうか!

「翌日はケーブルにちょっと乗って、森の音ミュージアムと隣り合わせの六甲高山植物園に行こうと思うんだけど」
もちろん何の文句もありませんとも。
森の音ミュージアムの演奏会の時刻もチェックしてくれていました♪珍しいバイオリンの自動演奏でした。牧野富太郎博士の直筆植物画が展示されていましたよ。
ヒツジグサの池横のカフェでアイスクリームを食べて散策路を楽しみます。
園芸種でも自然な植栽を生かした散策路が続きます。

ギボウシも北海道で見るような色と形です。

さすが森の音ミュージアム。林に隠れた鳥の頭を撫でると音楽が流れます。

バラはまだまだ咲き誇ってました。

ガーデニングが大好きな義妹が、多分一番楽しみにしていたのが六甲高山植物園でしょう。
靄に霞んで、深い山を歩く風情がありました。
すぐ隣に自動車通があるのですけれど。

とにかくまずヒマラヤの青いケシ!
もしかしたらベストタイミングで会えたのかもしれません。
思い出すだけでも、大阪この花さくや館、越後湯沢アルプスキー場、蓼科湖などで見たことがありますが、一番きれいでした。白花ヒマラヤの青いケシと赤花ヒマラヤの青いケシまでありました!

何しろ、とってもいいタイミングだったのです。
コマクサとエーデルワイスも六甲高山植物園の看板娘らしいのですがピタリの咲き具合。

オオヤマレンゲも、咲きごろとひっそりパンフレットに書かれていました。白い花にも心惹かれます。
こんな白い花たちも。大山にはギンリョウソウの大群落があったそうです。ここにはたった一本見つけることができました。

確かに黄色の花は元気が出ます。

最近は貴重になったというニッコウキスゲの群落です。

そして結論。
何もかもすばらしかった!
今回の旅は、実は全日、曇り~雨予報だったのですが、生来楽天的な私は「多分大丈夫だろう」と根拠もなく思っていました。出発の時は結構な雨が降っていましたが、後は傘を差さなくてもしのげる程度の雨に一回あっただけという信じられないほどの幸運に恵まれました。

もちろん多くの植物たち。
太閤が愛でた西の奥座敷、日本三古泉の一つ有馬の湯。
美味しい食事。
変化に富んだ観光。
全部、楽しんだのです!
時が経って今思うのは、共に過ごした時間や交わした言葉が私の周りに漂っているような感じがあるということなのです。
メールも電話も、連絡手段はたくさんあります。
でも生で一緒に過ごすということは、表情や身振りや口調などに注意を払いながら言葉を理解して、同時に自分の言いたいことを模索し、自分らしくその場にあった形で表現する、つまり前頭葉フル回転。
しかも兄弟という許された関係性の中ですから、この体験はちょっとした緊張感を持ちながら、そのまま楽しみや喜びにつながっていく。
植物よりも温泉よりも食事よりも、一番前頭葉を刺激してくれたことになります。
ありがとう。TさんとC子さん。また遊びましょう。また計画立ててください(笑)




新神戸駅のエスカレーターは関西流!

認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。




6月の右脳訓練ー姉弟会in倉敷

2023年06月22日 | 私の右脳ライフ


ことの起こりは長男です。
長男が投資育成を始めて関係ができた「うなぎのぼり」という会社は、創業100年を超える熊本の老舗うなぎ屋さんが三つのミッションを実現しようと新しく歩みを始めた会社です。
そのミッションが興味深いものです。
1.「串打ち3 年、捌き8 年、焼き一生」といわれるウナギ職人の養成が困難な日本の現状を打破する新技術を開発。最先端テクノロジーも取り入れているとか。
2.老舗の味を全国から世界までに。
3.高齢者に優しいうなぎ屋になる。ハレの食事であるうなぎ文化を絶やさない。



その「うなぎのぼり」が新しいお店を倉敷美観地区に開店することになったそうです。
実は夫は岡山県出身(現在は倉敷市)、姉も弟も倉敷市に住んでいます。姉は倉敷美観地区から車で5分くらいのところに住んでいますから、視察?に合わせて長男が「美智子伯母さんをご招待したい」という話を持ち掛けてくれました。それがこの際だからということで三姉弟夫婦参加計7人の会になったのは、流れというものだったのです。
アイビースクエアロビーで集合。アイビースクエアそのものも私には初体験。





目的の「うな北」は倉敷美観地区の本通りに面していました。


うなぎは確かに表面はパリッと身は柔らかく、見事な焼き加減でした。甘めのたれが、九州育ちの私には懐かしい味でした。
店は間口こそ狭いものの、奥行きがたっぷりしていて何よりも重厚な柱と梁に見とれてしまいました。
使われなくなった店舗を、最小限手を入れてその街並みに溶け込むようにして開店するという気概を感じました。

この三姉弟が揃ったのは、もう10年以上も前、母のお葬式の時だった…
82歳の義兄から73歳の義妹。誰が死んでも、残りのこのメンバーが集まって「寂しくなったねえ」といいながら「それでもいい人生だったよね。立派に生きてくれた」と話すはずです。下のものが先に逝ったら「若いのに…」といいながら「でも、手がかかるようになっても生きたいとは思わなかったはずだから…」と納得するはずです。
私たちもそこまで長く生きてきたということですね。

実はこの話はその場でみんなで口に出して話したことです。
三姉弟、夫婦揃ってみんな元気で会えたなんてすばらしいことと何度も言いましたが、フレンチよりもイタリアンよりも中華よりも、鰻屋さんだったというのが「祝いの席」としてしっくり来たような気がします。そしてうなぎ屋さんのうな重には、料亭いただく懐石料理よりも和やかで喜びの声を掛け合いやすい雰囲気がありますね。
「うなぎのぼり」の目指すものが体験できたような気になりました。





認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。


認知症治療薬レカネマブの今後について考える

2023年06月21日 | エイジングライフ研究所から
6月10日付、エーザイのホームページよりニュースリリースの記事。
米国食品医薬品局(FDA)の末梢・中枢神経系薬物諮問委員会(Peripheral and Central Nervous System Drugs Advisory Committee、以下 本諮問委員会)が開催され、「LEQEMBI®」注射100 mg/mL溶液(一般名:レカネマブ)の臨床第Ⅲ相Clarity AD検証試験の結果が、本剤の臨床上のベネフィットを示すエビデンスであることが、全会一致で支持されました。「LEQEMBI」は早期アルツハイマー病治療薬として FDAより2023年1月6日に迅速承認取得。 
 
当初は「今までとはメカニズムが違う認知症の治療薬が、とうとうできた!」と大歓迎でニュースを読んだ人が多かったと思います。
この鮮やかな「くれない」はニューヨークランプミュージアムで6/4に写しました。「くれない」以外は6/18の城ヶ崎文化資料館の自生種アジサイです。

しばらくすると、いろいろな立場からの疑問が呈せられるようになってきました。
簡単に列挙してみると
1.CDRの評価には客観性はどこまであるのかという有効率27%への疑問。

2.治験で見られた出血や脳のはれという副作用。(死亡例の報告もあり)
微小出血が見られた人は17.3%(偽薬投与グループは9%)、脳にむくみが生じた人は12.6%(同1.7%)

3.薬価が高い。アメリカでの標準的価格は一人当たり年間26500ドル(約350万円) 

4.保険適用になったときに起きる問題。
①国の医療保険財政への負担増による財政問題。

②完全に治すのではなく悪化を7.5か月遅らせることができることとの対費用効果。

③服用が長期にわたったときの影響が不明。

④対象者が限定的。(有効なのは、認知症のごく初期MCIや軽度認知症に限るとされている)

あまり声高には言われませんが、私の疑問として。
⑤錠剤の服用ではなくて、現時点では2週間に一度の静脈点滴。そうすると医療スタッフの負担が増すことになる。

⑥副作用を見逃さないために、投与後半年間は3回のMRIが必要とされているが、その費用も大きい。

⑦FDAの迅速承認そのものに対する糾弾が起きている。

今お話ししたように、やはりいくつもの疑問を持たれているレカネマブですが、私が最も主張したい疑問点は、そもそもレカネマブが標的にしているアミロイドβが認知症の真犯人であるのかどうかということなのです。

1992年に「アミロイド仮説」が提唱されて以来多くの研究者に支持されてきたのは事実です。
このアミロイドβを標的にした新薬開発はすべて徒労に終わりその経済的損失は60兆円とも言われています。製薬会社はエ―ザイとバイオジェンを除き撤退。

声を大きくして言います!
アルツハイマー型認知症と言われる認知症の正体は、高齢者が何かのきっかけから脳をイキイキと使わない生活を続けることが引き起こしたいわば生活習慣病に過ぎません。

もしアミロイドβの沈着が原因ならば、脳機能検査を行ったときのMMS下位項目が示す見事な規則性をどのように説明できるでしょうか?
何よりも、改善する人たちをどう説明できるでしょうか?
世のなかの人たちから「あの人、危ないよね。退職したら何をするのかしら。趣味もないし人づきあいだってないでしょう」といわれる人は、確かに退職をきっかけにして脳が老化を進めることが多い。「友人が多く趣味を楽しむことができる人ってボケないよね」とみんなで言い合う。皆さんは、どうしても生き方と認知症には関連があると思っているようですね。
体験に裏打ちされた、いわば生活の知恵とでもいえそうなことを完全に無視できるものでしょうか?

3年間続くごくごく早期の人達(前頭葉機能だけの低下にとどまっている人たち。私たちは小ボケと言います)が、変化と楽しみがある生活に変更することで、見事に改善してくるのです。
生活を変えるということは、楽しい時間を過ごすということです。あっという間に時間がたったと実感されるとき、脳はちょっと低下を戻しているのです。
ところが、どんなにがんばって楽しい時間を確保したところで、心配事などがあれば、楽しみは吹き飛んで老化を進めようとする力が強く働くことになってしまうことは容易に想像できるでしょう。
イキイキと自分らしく生き続けることができるかどうか、そこに認知症予防も改善のカギもあるのです。
そうするとアミロイドβは?
単なる老化現象ということかもしれません。戯言ではなくて、下の記事の終わりの方にナンレポートの報告を書いてあります。よく眺めてみてください。脳の萎縮もアミロイドβによる老人斑もそれが認知症の原因とはいえない。そろそろアミロイドβ犯人説根本から、覆して考えてみるのもアリではないですか!
認知症治療の新薬発表―言わずばなるまい




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認知症治療薬―天動説と地動説

2023年06月05日 | エイジングライフ研究所から
最近のニュースで、世界初の認知症治療薬(と言うことは、今までの薬は対症療法薬だったということですよ)としてエーザイのレカネマブのことが大きく取り上げられています。日本老年精神医学会理事長で大阪大の池田学教授が「承認されたら(アルツハイマー病を含む認知症の)治療戦略が大きく変わるターニングポイントになる。世界的な大変革。認知症に対する社会の認識が変わったとされる介護保険導入以来の変革が期待される」と称賛していることが大きく取り上げられました。
1月にまたまた認知症治療薬「レカネマブ」登場というテーマで記事を書きました。関心がある方はどうぞお読みください。
撮影:中伊豆ワイナリー

池田教授の話を読んでいくと、いくつもの疑問符が付きました。
治療薬レカネマブはこれだけ明確に効果のエビデンスが出てきた点で高く評価している。27%抑制できた。
何を用いた評価かチェックしたら、CDRを使ったとありました。
Clinical Dementia Rating (臨床的認知症尺度)
このスケールは、「記憶」「見当識」「判断力問題解決」「社会適応」「家庭状況興味関心」「介護状況」に分けて観察して、その状態はどの段階に対応するかどうか評価する人が決めます。段階は健康=0 認知症の疑い=0.5 軽度認知症=1 中等度認知症=2 重度認知症=3と分かれています。何の問題もないと0、最重度だと18ということになります。
たしかに各分野での状況はつかめるとは思いますが、あくまで家族・介護者など第三者が観察評価するのです
たとえ医師が行ったとしても、診察室での観察で決められることは限られていますから、結局は家族など周囲の人からの情報に基づいて評価することになります。そこにバイアスはかかりませんか?客観的といえるのでしょうか?数値化できるといっても、その人の脳機能を測定したものではありません。

数字で表されると言ってもあまりにも主観的にすぎる。そこは大問題ですが、さておき、レポートを読んでみることにします。
18か月の追跡でどれだけの効果があったかというと、プラセボ投与群に対してレカネマブ投与群がCDRの評価で0.451高評価(グラフから概数を見てみるとプラセボ群1.7に対しレカネマブ投与群が1.25)だったので、それを単純に比較して27%効果があったという結論なのです(対象は各群約800人)

CDRに立ち戻ってみましょう。6分野のどこかたった1分野で軽度認知症→認知症の疑い、認知症の疑い→正常の段階へと、1/12の確率で一つ改善できたときに、➕0.5という評価になります。ということは、そのレベルの改善まではいっていないのですから数字のマジックを感じないわけにはいきません。あ、平均値です。

大事なのは、レカネマブは病気のメカニズムに働きかける初の治療薬で、この登場によって難治性だった神経変性疾患という病気のグループが積極的な治療の対象になることだ。
その昔、みんなは「太陽が東から出て、西に沈む」現象を疑いもなく、太陽が動いていると思っていました。天動説ですね。
でも様々な矛盾から、地球が自転しながら太陽の周りを公転しているとする地動説が今は支持されています。提唱者はコペルニクス。
今、認知症の理解に関してコペルニクス的転回が必要です。
世界中、認知症の原因をアミロイドβとかタウ蛋白に求めています。そしてそれに従って製薬会社もしのぎを削ってきました。
アミロイドを、除去する、溜まらないようにするなどの様々なアプローチが行われて、残念ながらそのどれもが失敗してきました。製薬業界の開発費に掛けた損失は60兆円と読んだことがあります。
レカネマブは免疫系に指令を出す抗体で、神経細胞にとりついてきたアミロイドβを攻撃し除去するというものです。

医学会でも薬学会でもまず顕著な結果(症状)があって、その原因を探索してきました。
もともと、重度認知症の人の脳を解剖してみたら、アミロイドβ由来の老人斑、タウタンパク由来の神経原繊維、脳の萎縮が顕著に見られたのです。
重度認知症の人のとんでもない症状が先に明確にあります。そして脳を解剖してみたら、明らかな変化がクリアに見えます。だからこの症状の原因はこれだ!(アミロイドβ、タウ蛋白、脳の萎縮をそれぞれ対象にして)と研究が始まっていったのです。

私はよく思い出します。
脳ドックが始まったころ、高齢者の脳に萎縮や多発性脳梗塞(といっても、ラクナ梗塞、穿通枝梗塞といってごくごく細い血管が詰まり、CT上には小梗塞巣が見えるのですが、後遺症や知的能力低下はないタイプ。加齢現象です)が見つかって、受診者を怖がらせたことが多発しました。
「ボケてないかどうか」というより「ボケてないというお墨付きが欲しい」という軽い気持ちで受診した高齢者は、CT画像を見せられて「脳の萎縮」や「多発性脳梗塞」を指摘されるのです。
極端なケースとして、そのように説明されたことがきっかけで認知症への道を進み始めてしまった人もいました。
相談されたときに「『多発梗塞も委縮もよくわかりました。ところで私にはボケ始めというか知的機能の問題はあるのでしょうか?何の支障もなく趣味もボランティアも楽しくやり続けていますが、近々問題が起きてくるということですか?いやこんな脳ならおきてないとおかしいですよね…』と前半質問、後半独り言でお医者様に言ってみましょう」といったものです。
脳の器質(形)と機能(働き)は一致しないということは、働きをきちんと調べてみるとよくわかります。私はたくさんの方の脳機能検査をしましたから、特に高齢者は老化現象が加味されていますから、決して形だけで決めつけたらいけないことは肝に銘じていました。

つまり脳ドックでたくさん発見された正常高齢者の「萎縮」や「多発性脳梗塞」は、単なる脳の老化現象であったということです。脳ドック以前、どう考えても正常な高齢者の脳の器質状態を知っているドクターはほとんどいらっしゃらなかった。と言ってもドクターの責任ではありません。何かの問題があって受診するのですから、仕方ないと言えるでしょう。脳ドックの治験が積み上がると正常高齢者の脳の老化状態がはっきりしてくると思っています。
高齢の重度認知症者の脳CTには「萎縮」か「多発性脳梗塞」が必ず顕著に見られるために、困った症状の原因をその脳内変化に関連付ける気持ちはとてもよく理解できます。 従来は正常高齢者はCTを受けることはなかったので、正常高齢者の脳にも「萎縮」や「多発性脳梗塞」があることはわかっていなかった…

天動説と地動説に戻ります。
世の中の人たちの認知症に関する理解は「情報によるとアミロイドとか何かとんでもない原因がありそう。遺伝だってあるかもしれないし。とにかく怖い!」そう思いながら一方では「ボケるかどうか具体的に見てみると、どう考えても生活ぶりと関係がある。どんなに立派な学歴や職歴があろうとも、高齢者が何もせずぼんやりした暮らしをしているとだんだんボケてくる」というような印象を強く持っている、そんな状態だろうと思います。
権威ある研究者や、製薬会社の研究者は「アミロイドβが原因」といいます。とても科学的なような気がしますが、よくよく周りの高齢者を見てみましょう。そこには、あまりにも生活ぶりに左右されているという圧倒的な真実がありますから。
高齢者が何かのきっかけで、生きがいも趣味もなく、交遊も楽しまず運動もしない「ナイナイ尽くしの生活」になり、それを続けていくうちにだんだんボケていく、いわゆるアルツハイマー型認知症の如何に多いことか。
見えていることをよく見てみましょう。それが認知症の正体です。
認知症の理解に関して、コペルニクス的転回を求めます。
あたかも天動説(何らかの共通の原因がある)から地動説(個人の生き方)への展開のようですね。






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