きのう、印刷博物館に行ってきました。
この博物館、Wikipediaから引用しますと、
印刷博物館は、東京都文京区水道トッパン小石川ビルにある印刷に関する博物館である。2000年に凸版印刷が100周年記念事業の一環で設立し、印刷文化に関わる資料の蒐集や研究活動、活版印刷などの印刷を実体験するなどの実践・啓蒙活動を行っている。館長は樺山紘一。
とあるとおり、凸版印刷を事業主体とするいわゆる「企業博物館」ですが、館名に社名を冠していないことから察せされるとおり、凸版印刷という一企業の社史を紹介するのではなく、「印刷文化に関わる」全般を展示している、それはそれは立派な博物館でした。
私、印刷博物館を訪ねるのは初めてでしたが、印刷博物館のあるトッパン小石川ビルは、ほぼ毎朝、首都高速5号線上から眺めておりまして、
土地鑑はあるのですが、それでも高架上をクルマで走るのと、東京メトロ江戸川橋駅から江戸川ならぬ神田川沿いを首都高速の高架下を歩くのとでは趣がかなり違う。
行き交うクルマの走行音がかなりやかましいのですよ。
ああいった場所には住みたくない…と、かつて埼大通り(R463)沿いのアパートに住んで、クルマの騒音と振動に悩まされていたことのある私は思ったのでした。
それはともかく、私が印刷博物館に出かけたのは、「天文学と印刷 新たな世界像を求めて」を観るため。
この展覧会は、
天動説から地動説(太陽中心説)への転換が起こるきっかけとなった『天球の回転について』。著者であるコペルニクスの名は知られている一方、本書の印刷者を知る人は少ないのかもしれません。15世紀のヨーロッパに登場した活版および図版印刷は、新たな世界像を再構築していく上で大きな役割を果たしました。学者と印刷者は共同で出版を行うのみならず、学者の中には自ら印刷工房を主宰した人物も存在します。本展では学問の発展に果たした印刷者の活躍を、天文学を中心に紹介します。
というもの。
一見、天文学と印刷とはどう結びつくのか? と思いますが、そりゃ研究結果が印刷されて、それが世に広まれば世の中に何らかの影響を与えることは容易に想像できますけれど、「天文学だから」という特別な理由は思いつきません。
実際、この展覧会を観ても、その疑問は解決できず、「印刷物を通じて俯瞰する天文学の歴史」と称した方が適切だった気がします。
そんなわけで、アリストテレスから始まって、プトレマイオス、コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ケプラー、ガリレオ・ガリレイ、そしてニュートンと、それこそ天文学、いや科学の大御所たちの著作が勢揃いしていました。
その中でもっとも強く私の目を惹いたのは、ケプラーの「世界の調和」(1619)のこちらのページ。
<spaケプラー「世界の調和」よりn style="color: #0000ff;">楽譜のようなものが書かれています。
いや、「楽譜のようなもの」ではなく「楽譜」です。
図録から引用しますと、
本書(世界の調和)には『宇宙の神秘』にて披露した正多面体によって決定される惑星軌道の理論が再登場しており、終生この理論に執着していた様子がうかがえる。この理論の誤りは認めつつも、ケプラーが新たに取った方法は和音に見られる調和を惑星間の距離の比や、近日点と遠日点における速度などに当てはめるものだった。
へぇ~ と思いつつも思い出したのは、こちらで書いた「のだめカンタービレ」での千秋様のお言葉、
宇宙か…
それってたしか…ボエティウス・クイード・ダレッツォが言っていたことだと思うけど、1500年くらい前までは、神の作った世界の調和を知る学問が、天文学、幾何学、数論、音楽だったんだ。
それと、「チコちゃんに叱られる!」が「なぜ虹は7色か?」の理由を、かのニュートンが、虹の色の境目を古楽器のリュートのフレットに当てはめると「レミファソラシドレ」となると説明したから、としていたことでした。
和音の響き、天体の運行、そして数学も、そこに現れる調和=美しさは神が作ったからこそ、という考え方には素直に納得 できます。
それにしても、夜空を見上げて、その二次元の星の動きを観測して、そこから、三次元の天体の動きを理論づけるという作業は、とてつもなく知的で、そして想像力溢れることだと、改めて感心したしだいです。
この辺で「天文学と印刷」展の話はおしまいにしますが、出展目録と図録が素晴らしい ということを書いておきたいと思います。
常設展示の「総合展示ゾーン」も面白かったぁ~
時系列を大きく分けたブロックを、さらに「社会」「技術」「表現」の3つのキーワードで分類し、印刷と文化についての総合的な展示を行います。
というもので、わたし的には、指示された平仮名4文字を活版で組む、という体験コーナーが楽しかったです。
単純ではあるのだけれど、鏡面文字のブロックを左右入れ替えて並べるのは意外に難しい。とくに、「さ」と「ち」の見極めは、本能が邪魔するのですよ。
そして、展示物の中でこれは と思ったのがこちら
「たばこと塩の博物館」のサイトから説明を拝借しますと、
馬(ペガサス?)がうまい、とシャレをいい、それは地球をも股に掛けるほど、という意味のデザインでしょうか。文字の配置など、幾度も修正したあとが見られます。
ピーコック(孔雀)という名前のタバコのポスターなのに、なぜ馬(天馬? ペガサス?)が出てくる?
しかも、馬は、くわえ煙草していて、態度が悪いし…
このポスターの広告主は、村井兄弟会社というところで、20世紀初頭、「天狗の岩谷」こと岩谷商店との間で、歴史に残る宣伝合戦を繰り広げたことは有名な話です。
この宣伝合戦は、1904年のタバコの専売化によって終わってしまったのですが、これが広告や印刷に及ぼした影響は相当なものだったそうです。
ちなみに、京都の八坂神社の裏手にある長楽館は、タバコ事業から手を引いた(引かされた) 村井吉兵衛さんが建てた迎賓館、そして東京の日比谷高校は、村井さんの東京邸跡だそうです。
こうして企画展と常設展を楽しんだ私を、もうひとつの楽しい展示が待っていました。
1Fの「P&Pギャラリー」で開催されていた「現代日本のパッケージ2018」(入場無料)です。
身近な印刷物の代表例であるパッケージには、使いやすさに配慮したユニバーサルデザインや、地球環境に優しい包装材の開発など、解決すべき課題に対しさまざまな努力がなされています。一見、消費者にはわかりづらいこのような創意工夫は、それを評価するコンクールによって、誰の目にもわかるようになります。
P&Pギャラリーでは日本で開催されている大規模なパッケージコンクールの受賞作を通じて、こうした現代のパッケージのデザインや機能などの進化を一般の方々に広く知っていただき、パッケージへの理解を深める場を設けております。身近な存在でありながら、これまではなかなか深く知ることのなかったパッケージの面白さを本展でご紹介します。
とありますが、ごく限られた人にしか所有することができない美術品ではなく、大量消費を前提とした、いや、大量消費されることを目的として創られた、普通の日本人が日常生活の中で何気に目にする or 手にするデザインの素晴らしさ(美しさ)に、まさしく「目ウロコ」でした
と、たった今、気がつきました。
この「現代日本のパッケージ2018」は、きょうが千穐楽だったんだ…
きのう見られて良かったぁ~
それはともかく、どの作品、いや、どのパッケージも素晴らしかったのですけれど、中でも最高 と萌え上がったのは、「2018年日本パッケージングコンテスト」で経済産業大臣賞を受賞した「"aibo"パッケージ」でした。
繭の中ですやすやと眠っているようなaibo、、、かわいい…
コンテストの公式サイトでの説明には、
AIロボットという「生きもの」を包装する新たな包装形態を提案。環境を考慮し、「市場回収PETボトル」を50%使用したPETを使用。フェルト成型によりaiboを袋等に入れて隠すことなく保護することで、開けた瞬間の「生命の誕生・出会い」を演出。今後の包装スタイルの発展・普及を視野に入れた提案とした。
とありますけど、到着を待ちかねたaiboが自宅にやってきて、このパッケージを開けた瞬間の「飼い主」さんの気持ちの高まりったらないでしょうねぇ
パッケージといえば、家電の梱包にはかつては大量の発泡スチロールが使われていて、その処分(小さく刻んでカサを小さくする)にうんざりしたものですが、最近は、段ボールを芸術的に「折り紙」した包装がほとんどで、望ましいことだと思いつつ、その段ボールの切り方 & 折り方を設計した方への尊敬がハンパありません
こうして、企画展、常設展示、そしてイベントと、しみじみ楽しかった初めての印刷博物館でした。