水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (85)踏み込み

2022年09月17日 00時00分00秒 | #小説

 力士の前まわしは前褌(まえみつ)と呼ばれるそうだ。地力(ぢりき)がある力士は前褌を取られようと取られまいと相手力士をものともしないが、フツゥ~は不利になるケースが多いという。立ち合いの踏み込みが足らないと前褌を取られやすくなるそうだ。これは何もお相撲に限ったことではなく、私達が暮らす社会でも見られる。
 とある会社である。とある課では課長の出力(でぢから)と係員の弱気(よわき)が話をしている。
「君はねっ! 踏み込みが足らないんだよっ! 踏み込みがっ!!」
 窘(たしな)められた弱気は、そんなに言わなくても…とは思ったが、そうとも言えず、軽く頭を下げた。課長の出力が声を大きくするのも当然で、弱気は、今一歩の踏み込みが足らず、他社に契約を攫(さら)われるケースが多かった。
「すみません…」
「踏み込み、踏み込みっ! 踏み込んで、そのまま押し出すんだっ!」
「えっ!? …押し出す!?」
 相撲好きの出力の言う意味が分からず、弱気は訝(いぶか)しげに出力を見つめた。
「そう! 押し出す…いや、契約を取るんだっ!」
「はいっ!!」
 意味が分かった弱気は、踏み込みよく返事をした。
 踏み込みは、理解できるとよくなるようだ。^^

                   完


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