水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (96)根回し

2022年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 私達が暮らす社会では、根回しが足らないと物事が成就しないことが多々ある。サラリーマン諸氏の方々には、よくお分りのことと存じる。
 いつやらの短編集にも登場したとある中央官庁である。
「次官! そこのところを、何卒(なにとぞ)、よろしく…」
 事務次官に揉(も)み手で頼み込んでいるのは、次期次官の呼び声が高い黒丸(くろまる)である。
「ああ、分かっとるよっ! まあ、私一人の力で、どうなるって話でもないがねっ!」
「ははは…それは分かっております」
「根回しはやっとるんだろうねっ!」
「はっ! それはもう…。法律に触れない範囲で…」
「頼むよっ! 蜂のひと刺しは、もうこりごりだからねっ! 私が今の地位に昇進するまで、何回、刺されたと思ってるんだっ!?」
「いや、そこまでは存じ上げませんが…」
「五回以上だよっ! 腫れが引くまでどれだけ辛抱したことか、ぅぅぅ…」
 事務次官は突然、よよと泣き始めた。
「だ、大丈夫ですか!? 次官っ!!」
「ぅぅぅ…泣きたくなかったら、根回しを十二分(じゅうにぶん)にすることだっ! いやっ! それでもダメだな…。最低でも十三分(じゅうさんぶん)っ! 十分(じゅうぶん)くらいではダメなんだよっ、君っ!」
 分かっとるのかっ! という顔で次官は黒丸をチラ見した。
「はっ!!」
「これから私が、そのノウハウを言うから、早くメモりなさいっ!」
 次官が手短に話すノウハウを黒丸は必死に手帳鉛筆をナメナメ書き記(しる)した。
 翌年の春、人事異動が内示され、めでたく黒丸は白丸になった。根回しをやり過ぎた挙句、御用になったのである。^^
 足らない根回しや足り過ぎる根回しは、しない方がいい・・というお話である。^^

                   完


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