水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (73)引き

2022年09月05日 00時00分00秒 | #小説

 (72)押しがあれば、当然ながら引きも物事を成就させるための有効な手段となる。ただその引きも、中途半端な引きでは相手の思いのままになってしまうから、力強く引くことが必要である。相手に見透かされるような引きでは、返って引かなかった方がよかったな…と、押しと同じように、あとあと後悔することもあるから注意が必要だ。^^
 (72)の翌場所の国技館である。幕下へ陥落した紅葉山は再起の再十両を目指し、土俵に望んでいた。初日の相手は因縁(いんねん)の新十両になった樫川である。紅葉山は、相手のイナシを計算に入れた押しを稽古で習得していた。一方の樫川は、今場所も押してきたところをイナシてやろう! …と目論んでいた。
 行事軍配が返り、二人の力士は激しく立ち合った。紅葉山は若葉顔のいい景色で激しく樫川を突き押した。樫川は、ここぞ! とばかりに紅葉山の体をイナシた。だが、そのイナシは紅葉山の読み筋である。相手の引きを逆手(さかて)に取り、いとも簡単に樫川を寄り切ったのである。
「紅葉山ぁ~~!」
 その翌場所、紅葉山は再十両へと返り咲き、樫川はふたたび幕下上位へ番付を下げた。
 このように引きが足らないで甘いと、成就しないこともあるようです。^^

                   完


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