水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (74)どちらにしても

2022年09月06日 00時00分00秒 | #小説

 どちらにしても足らないとき、あなたならどうしますか?^^ どちらにしても足らないのであれば、足す努力など無駄だ…と考えるのか、足らないのが分かってはいるが、それでも出来るだけ足るように足そう…とアグレッシブに考えるか? である。これは、恰(あたか)も魚が産卵のため河川を下流から遡(さかのぼ)る現象に似通っている。まあ、ムダなことを…と思う人もいるだろうし、いやいや、大したものだ…と感慨深げに思う人もいることだろう。私の場合は、あっ! そうなのっ? と思うくらいである。^^
 棚倉は疲れ果てていた。どちらにしても会社は左前で、先行きが危ぶまれてたから、棚倉一人が必死に頑張って仕事に励んだとしても、先行きが、おぼつかないことは目に見えていた。だが棚倉は、倉庫の棚卸をとにかく続けよう! と、疲れた身体に鞭(むち)するように頑張っていた。どちらにしても左前なら、なにも頑張る必要などないのである。それでも棚倉は残業を続けた。
『どれ…ここらで、ひとまず食うとするか…』
 昼の合間にコンビニ弁当は二つ、買ってあったし、厨房で沸かした茶は魔法瓶にいれておいた。一つの弁当は昼に食べたが、夕飯分のもう一つはある。棚倉は倉庫の隅の椅子に座り、一人寂しく食事をした。棚倉は、どちらにしても…という発想を凍結することにしていた。だから頑張れたのである。どちらにしても…と思えば、頑張る力は半減するか失せる…と棚倉には分かっていた。
 半年後、棚倉の勤める会社は、業績が伸び右前へと反転した。
 どちらにしても自分一人の努力では足らないから…という考えを捨てれば、物事は足りる方向へと好転するようである。^^


                   完


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