水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (94)作曲

2022年09月26日 00時00分00秒 | #小説

 大作曲家、琴徹也(ことてつや)は新曲を作曲していた。だが、途中までスムーズに浮かんでいた曲想が、どういう訳か突然、途絶えたのである。その後、いろいろと浮かんではくるのだが、今一つ何かが足らないメロディになってしまい、どうも満足出来なかった。
「ダメだな…」
 琴は愛用のギターを置くと部屋を出た。そして応接室へ入ると、テレビのリモコンを何げなく押してみた。映った映像は演歌番組だった。リモコンを押してすぐ、チャンネルも変えず、しかも、放送される時間帯も知らなかったのだから、偶然にしては上手(うま)く出来過ぎている…と、琴は思った。司会のアナウンサーがなにやら話している。耳を澄ませば、次に歌われる曲の紹介だった。
『それでは歌っていただきましょう! 守水かおるさん! ♪予讃線♪ !』
 ♪予讃線♪は、琴が作曲したヒット曲だった。守水の歌声を聴いているうちに、琴の脳裏に積乱雲の湧き出るがごとく、俄(にわ)かに途絶えていた曲想が閃(ひらめ)いたのである。
「お、おおっ!」
 ひと声、小さく呟(つぶや)くと、琴は自室へ足早で引き返した。そして十数分後、のちに大ヒットする新曲♪吉野川♪が完成したのである。
 このように、足らない部分の閃きは、何でもない小事から突然、湧くこともあるようです。^^

                   完


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