水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (83)失敗

2022年09月15日 00時00分00秒 | #小説

 身をもって失敗をすることで、何が自分に足らなかったのか? という足らない要素を知ることになる。身体で覚(おぼ)える・・という性質のものだ。言われたり、単に頭で考えた場合の失敗は、残念ながら身体で体感していないから、また同じ失敗を繰り返すことになる。そういう方は、知識馬鹿と呼ばれる。頭デッカチと言う地方もある。^^
 とある碁会所である。レギュラー客の二人の老人がヘボ碁を打っている。ヘボ碁ならヘボ碁らしく、少しは言いようもあろうというものだが、言い合う内容はプロ棋士顔負けのプロの言葉だらけだった。勝敗が決したあとの感想戦である。^^
「いやいやいや…それではシチョウでダメでしょ!」
「いや、シチョウはカタツキのこの石が…」
「…なるほどっ! となれば、この大石はセキか…。そうなると、私が打ったこの手が失敗の悪手で、敗着ですか…」
「まあ、そうなりますか、ははは…」
「いや、そうとも限りませんよ。あなたのこの大石も、もう一眼が後手一眼で危ういっ!」
「おっ! 危うかったんですなあ~、ははは…」
 二人の碁を遠目で眺(なが)めていた碁会所の係員は、『二人とも失敗だらけで、死に石です…』とは思ったが、レギュラー客だけに冷(さ)めた目でチラ見しただけで目を伏せた。^^

                   完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする