水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (79)下調べ

2022年09月11日 00時00分00秒 | #小説

 下調べが足らないと、大変な事態に直面する。刈り込みはいいが、軽く伸びているところだけ…と、鋏(はさみ)を手に枝先を剪定し始めたのはいいが、下調べが足らなかったばかりに、葉の下に隠れていた足長バチに手の甲をチクリッ! と刺されてしまった今日の私のようなことになる訳だ。^^ 何度も刺されているから注意すればいいようなものだが、期間が長く過ぎると、どういう訳か人の記憶は薄れるようで始末が悪い。^^
 とある観光地を目指し車を走らせたのはいいが、ルートの下調べが足らないばかりに観光どころか這(ほ)う這うの体(てい)で自分たちの町へ辿り着いた二人の男のお話である。
 その日は天気もよく、上々の旅行日和だった。最初の内は順調な滑り出しで車は走った。問題が起きたのは、走り出して数時間が経過した、目的地まで半分くらいの地点だった。
「おいっ! どうなってんだよっ! 道が左右に分かれてるぜっ!」
「妙だなぁ~…カーナビは一本道なんだが…」
 運転する男が言うように、カーナビは一本道の図を示していた。さらに、『そのまま直進してくださいっ! そのまま直進してくださいっ!』という音声を繰り返し発していた。
「ははは…直進すりゃ、田畑に落ちてしまうじゃないかっ!!」
 運転する男は嗤(わら)いながら、車をゆっくりと車道の側へ止めた。幸い、田舎道で、車の数もほとんどなかったが、不幸なことに人家や人の姿もなかった。
「仕方がないっ! コインで…」
 助手席の男は、硬貨を軽く放り投げ<手で受けた。
「表か…。右へ行こう!」
「あいよっ!!」
 これが二人の運の尽きだった。目的の観光地は左の道だったのである。
 それから数時間、二人は全く関係ない街へ来ていた。しかも、そこからのルートが皆目、分からず、街の商店で訊(たず)ねているうちに夕方近くになり、深夜、這う這うの体(てい)で二人は自分たちの町へ辿り着いたのだった。
 下調べが足らないと、とんだ憂き目にあう・・というお話である。^^

                   完


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