残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《剣聖②》第二回
「随分と、いろいろ入ってますねえ…」
鴨下が素直に心情を吐露する。左馬介にもその訳は分からないから、誤魔化して「ええ…」とだけ答えた。一馬にもそこ迄は訊いていない。後に分かったことだが、この納戸に収納されている衣類や調度品の数々は、堀江家伝来の品だそうで、堀江家は由緒正しい家柄のようであった。なんでも、堀江妙兼(幻妙斎)で十数代続いていると一馬は云った。左馬介には、そのようなことはどうでもよかったが、堀江幻妙斎という人物の人となりについて、もう少し知りたい…とは思った。
納戸のことは兎も角として、幻妙斎のことを一馬から訊きだすことは出来そうにない。自分だけではなく全ての者がそうなのだから、それはそれで致し方ないのだろう。今迄の自分が恵まれていて、幻妙斎に度々、あえたのだ。今日直ぐにでも会って指南を仰ぎたいのは山々だが、そうすることは左馬介の方から出来ない。左馬介は自らを叱責した。師に頼っている自分が情けなかったのである。よく考えれば、師の幻妙斎に会えたとして、どのようになるというのか…。剣を手にして、振るのは自分なのである。師が振る訳ではないのだ。師から、もしも『…とせよ』と指南を受けたとしても、体が覚えなければ、身には、つかないのだ。