バイデン大統領は、欧州訪問を締めくくる演説で、また、激しいプーチン大統領非難をくり返したようです。そして、「この男が権力の座にとどまり続けてはいけない」と言い放った言葉は、さすがにアメリカ側も、政権転覆の意図を表明したとされることを恐れて、ブリンケン国務長官が「吾々はロシアを体制転換させる戦略はもっていない」と釈明したようです。
でも、「非難されるべきはウラジミール・プーチンだ」と言い、プーチン大統領を「虐殺者」、「真の悪党」「戦争犯罪人」「人殺しの独裁者」などいう言葉で、非難し続けてきたバイデン大統領の本心、また、アメリカ政府の本心は、政権転覆によって、ロシアを弱体化したり、アメリカに敵対しない政権にしようという意図があるのではないか、と私は疑います。
なぜ、バイデン大統領が、各国の大統領や首相と個別に電話会談をしたり、また、G7の会合を開き協力を求めたり、制裁を呼びかけたり、欧州を訪問したりして、ウクライナ問題で活発に活動しているのか、ということを考えれば、それが、ヨーロッパにおけるロシアの影響力拡大が、アメリカの利益を損なうことにつながるので、それを阻止すること、そして、ヨーロッパにおけるアメリカの影響力維持を意図したものであることは明らかだと思います。ノルドストリーム2に対するアメリカの姿勢が、そのことを示していると思います。
また、ウクライナの戦争を「民主主義と専制主義」の対決などというのも、ロシア側との権力争いや利益の争奪戦を隠すものであることは、武力で決着させようとする姿勢で明らかではないかと思います。私は、米ロの権力争いや利益争奪戦の犠牲になっているのが、ウクライナではないかと思っています。
だから、アメリカが関与しなければ、現在のように、経済制裁によって世界を巻込む戦争にはならなかったのではないかと思います。また、直接的な関わりのない国や、政治と関わりのない人々に、甚大な被害を及ぼす経済制裁が、民主主義の名によってなされることも問題だ、と私は思います。
ウクライナの戦争の問題を、少し離れたところから、考えたいと思います。
現在世界中で、様々な格差が広がっていると言われます。アメリカ、中間層の衰退が指摘されています。
その中間層の衰頽や没落は、大国の没落につながるものだと思います。その必然性を学問的に明らかにしたのが、「資本論」で有名なカール・マルクスです。
マルクスは、資本蓄積の発展に伴って、生産は次第に集積し、自由競争は次第に独占へと転化すると指摘しました。そして、賃金労働者によって担われる生産の社会化が進む一方で、富の取得は経営者(資本家)に委ねられて恣意的に決定され、経営者(資本家・富者)と賃金労働(貧者)の間の矛盾は次第に大きくなるというのです。窮乏化論と言われています。それが、現在問題とされている格差の拡大だと思います。
この格差の拡大(窮乏化)の矛盾が、資本主義の「弔いの鐘」となるとマルクスは指摘したのです。そして、万国の労働者が団結し、経営者(資本家・富者)を倒す世界同時革命によって、この矛盾が解決されると説いたのです。
でも、現実は世界同時革命とはならず、一国社会主義の国が生まれたに過ぎませんでした。世界的な資本主義体制の変革には至らなかったのです。
だから、現在問題とされている格差の拡大は、マルクスの窮乏化論が、現実認識として少しも間違っていないことを示していると思います。
マルクスは、資本論の「第七篇 資本の蓄積過程」のなかで、「きわめて勤勉な労働者層の飢えと苦しみと、資本制的蓄積にもとづく富者の粗野または上品な贅沢的消費との内的関連は、経済的諸法則を認識することによってのみ暴露される」と書いているのですが、現在の日本において、非正規労働者として懸命に働きつつ、日々の生活に苦しむ多くの人々と、逆に、民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在したことを誇る実業家が存在する現実が、マルクスの窮乏化論の正しさを示していると思います。
資本主義体制のもとでの生産は、労働者が生産過程で創出する剰余価値(利潤として現れる)を、資本家が搾取し、それによって社会的生産力を高めつつ労働者の生存を保証するので、剰余価値を増大させる労働時間の延長、労働強度の増大、過度の労働、労働生産性の発展が、経営者(資本家)のつとめとなり、それが、労働者の隷属状態を作り出しつつ、すべての労働者を窮乏化させるよう作用するということです。だからマルクスは”社会的生産力の増大が剰余価値の生産の形態をとる限り、資本主義は労働者にとって賃金奴隷制度になっているのである。”と書いています。
現実社会の様々な格差の拡大は、経営者や労働者が資本の論理に支配されている限り、必然的なものであるということだと思います。
人類は今、この格差の拡大を乗り越えることができるのかどうかが問われているのではないかと思います。それは、温暖化の問題や海洋汚染の問題にもつながっている問題であり、各国が自国の利益だけではなく、人類の利益を考えた政策を実現できるかどうかということでもあると思います。
核兵器廃絶の問題にもつながっていると思います。大国が自ら核兵器を所有しながら、北朝鮮やイランにはその所有を認めないというのは、筋が通らないと思います。北朝鮮のICBM「火星17」の発射が、国際法違反だといわれていますが、そういう国際法自体が、私は搾取によって利益を集めている大国のエゴに基づくものだと思うのです。
だから私は、今回のロシア軍ウクライナ侵攻の問題のような国家間の争いは、自国の利益を代表する政治家ではなく、国益を離れ、純粋に法的な観点で対処することのできる法律家を集めた国際機関が対処すべきだと思います。
それができるかどうか、様々な面で岐路に立たされている人類の課題だと思います。格差拡大の問題も、温暖化の問題も、海洋汚染の問題も、核兵器廃絶の問題も、ウクライナの問題も、資本家階級と一体となった利益集団の一員である政治家による話し合いでは、根本的解決はできないと思います。
先日、アメリカのIT機器大手、アップルの時価総額が、世界の上場企業で初めて3兆ドル(約345兆円)を超えたとの報道がありました。それは、日本企業のトップ、トヨタ自動車(約36兆円)の約10倍で、アップル一社で東証一部上場企業の時価総額合計(約730兆円)のほぼ半分に達するとのことでした。
アメリカにはこの他、グーグル、アマゾン、フェイスブック(メタ)もあり、マイクロソフトなどもあります。世界中から利益や情報を集める、こうしたアメリカのIT機器大手を中心とする合法的な搾取のシステム、及び非人間的な競争原理が修正されない限り、世界が直面する様々な問題の解決は難しいと思います。
様々な危機に直面している人類は、一日も早く利益追求の論理(資本の論理)から離れた法や道義・道徳に基づく決断を迫られていると思います。