無意識日記
宇多田光 word:i_
 



週末のニュースで吃驚したのがアニメ「ONE PIECE」のリメイクの話。まだ東映版が絶賛制作&継続オンエア中なのにWIT STUDIOがNetflix出資で第1話から作り直し始めるだなんて前代未聞のタイミング。アニメ化25周年でのリメイク発表になるんだってさ…


…25周年でリメイクかぁ。宇多田ヒカルは来年デビュー25周年。ならばリリースするベストもリメイクに? と、これは当然出てくるアイデア。

ただこれ、新しいリスナーにとっては別にリメイク嬉しくないんだよね。名だたる名曲の数々をまずはオリジナルで一通り手軽にまとめて聴けるのが初心者向けのベストアルバムな筈。昔からのファンなら昔から慣れ親しんだ曲を新鮮に聴かせて貰う事に意味は見出せるんだけどね。

『SCIENCE FICTION』が、例の宣言(という程大仰なもんでもなかったけど)通りに新旧何れにも満足して貰える作品になっているのであれば、それはどんな音源集になるのやら。「手の加え方」の少ない順に並べてみると…


① プレイリスト配信
② リマスタリング
③ リミックス
④ リプロダクション
⑤ リ・レコーディング
⑥ スタジオライブ・レコーディング
⑦ コンサート・レコーディング


…こんな感じになるかな。


①は現代に於ける最も手軽なベストアルバム。SpotifyやApple Musicなどのサブスクでベスト選曲のプレイリストを配れば宜しい。これでそんなに問題なかったりするから困ったもんだ。

だが、単なるプレイリストでは音質や音量がバラバラになる畏れがあったりなかったりするので、纏めて聴くのに耳当たりを良くする為そこらへんの微調整をするのが②のリマスタリングだ。これは結構可能性が高いというか、やってくるだろうね。少なくとも「全曲リマスタリング音源」は謳ってくると思われる。

③④⑤は紛らわしい…というか、世の中でも余りちゃんと区別されることなくやってきた気がするので、今回は私の勝手な分類ということで。

③のリミックスは、「当時録音した素材を全部引っ張り出してきて再構成しなおす」こと。『Eternally - Drama Mix -』がいい例で、あのトラックにはオリジナルにはないヴォーカルやコーラスが入っているが、あれは2008年に新しく録音したものが使われている訳ではなく2001年当時に録音はしていたけどミックス段階で採用されなかったパーツ、パートが使われているのだ。今回のベストアルバムで、このパターンを全曲に渡ってやってくれたらなかなか興味深い事になるだろう。そしてこの程度の改変ならオリジナルのイメージも損なわないので、新旧を満足させるという目的ならここらへんが落としどころになりそう。

④のリプロダクションはちょっと聴き馴染みがない言葉だが、要するにプロデュースの段階、即ち「楽曲の方向性そのもの」をいちから見直そうという位の手法。既に録音している素材に加えて、新しく録音したものも用いて、新しいプロデューサーが、或いは同じプロデューサーでも異なるコンセプトでサウンドを見直して構築する。このパターンは、オリジナルから然程変わらないものから原形をギリギリ留めているものまで、結構幅のある結果になりがちなのでなかなかにデンジャラス。ただ、作詞作曲クレジットが変わる訳ではないので最後の一線は越えないかな。で、このリプロダクションだとちょっと新しいリスナーには抵抗があるかもしれない。もっと時代に敏感なアーティストの作品なら、時代に合わせて現代風のプロダクションにすることで今のリスナーの耳にも違和感なく仕上げられるという利点もあるのだけど、宇多田ヒカルはどちらかというとタイムレスというか、本人独自のサウンドメイクがメインなので余りそういう需要はないかもねぇ。

⑤⑥⑦はまぁ大体同じというか、当時の素材を一切使わず、歌声から何から全部録音しなおす手法だね。⑤の単なるリレコ(再録音)はスタジオでの通常作業~リズム隊録ってキーボード被せてギタリストに来て貰ってコーラスパート48トラック録音~のプロセスをもう一度やろうという酔狂な企画。ヒカルの体力は勿論の事精神の安寧が心配になるわね。

じゃあということで、スタジオライブでいっぺんに録っちゃいましょというのが⑥で、そうこれは『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios 2022』ですね。あのノリでベストアルバムの選曲を埋めようという、まぁこれならリハーサルは大変だけど、精神はおかしくならないかな。

⑦は、ちゃんとしたコンサート会場で観客まで入れて歓声も含んだまるっきりのフルコンサートの模様を全部録音してベストアルバムだと言い張るパターン。この夜の招待に当選した人は宇多田ヒカルのベストアルバムに永遠に自分の歓声を刻み込める事になるので思い出深いなんてもんじゃないのだが、音源に拍手や歓声が入っているのを嫌う勢(つまり、普段からライブアルバムの類は聴かない人たち)がかなりの数いらっしゃるので、そこをどう判断するかになるわよねぇ。


と、いう感じでかなりのグラデーションが考えられるのだけど、現実的なのはやはり②か③、或いは②と③のハイブリッドあたりがいちばん有り得るかな? つまり、全曲リマスタリングをしながら、全曲ではなく何曲かで“Scientifically Fictional Remix 2024”のバージョンを制作する…とかそんなんでどうでしょうかね?


勿論、②で留めておいて、音源自体は初心者向けに徹し、それ以外の付録でベテラン勢に納得してうただく、みたいなパターンも大いに有り得るので、「新旧に満足して貰う」為の方法論は、音源のバリエーションのみで考えを閉じるのはまだまだ不適切だ。様々な広範な可能性を期待しながら公式からの追加情報を待ちましょうかね。

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全然関係ない話なんだけど、ファッションブランドZARAがガザを連想させる写真をリリースして炎上したというニュースを読んで溜息を吐いてしまった。見たところ「濡れ衣キャンセルカルチャーの餌食がまたひとつ」な模様だが、何が言いたいかといえば、表現者というのは最低限の国際ニュースはチェックしておかないと、どこで何が飛び火してくるかわからないから日頃から注意が必要だねという話。

予め対処した例としては、日本の漫画作品「東京卍リベンジャーズ」なんかが思い起こされる。ご覧の通り作品名の真ん中に卍(まんじ)の字が入るデザインだがこれはドイツではハーケンクロイツと酷似していると見做され公には使えない。実際、漫画以上に国際展開が為されているアニメの方ではタイトルから卍がハズされて「東京リベンジャーズ」となっている(それが理由かは知らないが)。デリケートな問題ではこういった対処が必要なケースが出てくるのだ。


ヒカルパイセンに関していえば、国際問題への関心が平時より高く、そういった問題で炎上する可能性はそう高くはない。だが、全国ツアー・世界ツアー規模のプロジェクトとなってくるとそのアウトプットはとても独力で取り仕切れるものではない為、組織的なコンプラ対策が求められるだろう。特に、ヒカルが普段やや受け身になりがちなヴィジュアル面でのチェックは厳重に行って貰いたいところ。

機械翻訳が普及したからこその言語間のトラブルも勿論気掛かりだが画像一枚の威力にはとても敵わない。TEXTよりJPGの方が文字通り桁違いに影響力が強い。画像と映像で誤った印象が流布しないような対策が求められる。

来年の宇多田ヒカル25周年のコンセプトは『SCIENCE FICTION』である。20世紀に於けるサイエンス・フィクション~科学による虚構とはおおまかに「空想科学小説」を指し娯楽性の高いコンテンツだったのだが、21世紀に於ける科学虚構とは、寧ろ現実を侵食する虚構かどうかわからない虚構のことを指すつもりなのではないか、と目下こちらは空想中だ。「発達した科学は魔法と区別がつかない」とはよく言われるが、「科学の発達が現実と虚構の間(あわい)を曖昧にしていく」のが、現代の肌感覚になるかもしれない。今回のヒカルの『SCIENCE FICTION』がそういったコンセプトかどうかはまだわからないが、仮にそういった領域に踏み込むのなら、ガッチガチのコンプライアンスで守ってあげて欲しいなと切に願うのでありました。日本全国ツアーの後に海外ツアーが控えているのなら特に、ね。

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