トシの読書日記

読書備忘録

スリーフリッパーのスペースシップ

2018-11-06 16:30:43 | ま行の作家



村上春樹「1973年のピンボール」読了



本書は昭和58年に講談社文庫より発刊されたものです。デビュー2作目です。


この頃の村上作品は、文芸誌「群像」に掲載した後、単行本になったりしているので、出版社は当然講談社ということになります。


本書は前作の「風の歌を聴け」よりはもう少し物語性が濃くなっていますが、でもやはり散文調の色は残っていますね。「僕」と「鼠」の物語が交互に語られていきます。


「僕」は昔、夢中になって遊んだピンボールを探して回るんですが、自分の記憶では全編そんな話だと思っていたんですが、ピンボールを探し始めるのは小説の後半、118頁あたりから、残り70項くらいのところだったんですね。前回読んでからかなりの年月が経ってからの再読だったんですが、感動的なシーンがあります。人のつてで自分の探し求めていたスリーフリッパーのスペースシップが、元は養鶏場だった冷凍倉庫にあり、そこには78台ものピンボールが並んでいました。そこ、少し引用します。


<スイッチはその扉のわきにあった。レバー式の大きなスイッチだった。僕がそのスイッチを入れると、地の底から湧き上がるような低い唸りが一斉にあたりを被った。背筋が冷たくなるような音だ。そして次に何万という鳥の群れが翼を広げるようなパタパタパタという音が続いた。僕は振り返って冷凍倉庫を眺めた。それは78台のピンボール・マシーンが電気を吸い込み、そしてそのスコアボードに何千個というゼロを叩き出す音だった。>

 
この部分、想像するとぞくぞくしますね。


大学生の頃付き合っていた直子という女性が、後に自殺し、「僕」は喪失感を抱えたまま大学を卒業し、就職する。そしてある日突然双子の女の子が家にいて、奇妙な共同生活が始まる。これはその喪失感を埋めるための村上氏の作意なのかなと思いました。そしてピンボールとの再会。ここで「僕」はそういった過去のものと訣別して前へ進もうと決意したのだと思います。なので双子の姉妹との別れで物語は終ったのでしょう。


深読み(?)するとなかなか味わい深い作品なんですが、「風の歌を聴け」のようなスカした感じは未だ全編に漂っていて、そこはちょっと読んでいてやっぱり少し恥ずかしいです。


この勢いで次、いってみましょう。

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