ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん32…三河三谷 『三谷の朝市』の、サヨリやアサリなど三河湾の魚介

2006年07月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 豊橋駅南口から徒歩1分のビジネスホテルに泊まったおかげで、昨晩豊橋の地魚料理店『げん屋』でのんびり飲んだにもかかわらず、朝5時ごろの始発電車が出発するギリギリまで眠れた。連日連夜の食べ歩きに夜の飲み歩きで少々くたびれ気味だが、これから行く『三谷の朝市』を覗いたらあとは帰京するのみ。身支度も慌しく駅へ向かい、3駅先の三河三谷駅で下車して海の方へ向かって坂を下る。突き当たりにあったこぢんまりした漁港に隣接した荷さばき場へと入ったところ、それまでの早朝の静けさとは一変。場内は並ぶ露店と買出しのお客で、そこそこの賑わいを見せている。

 蒲郡市内に3ヶ所ある魚市場のひとつ、三谷魚市場では、第2荷さばき場の中で朝市が毎朝行われている。場内には三河湾や渥美半島沿岸でとれる鮮魚、貝類を売る露店をはじめ、干物やみりん干しなど加工品も豊富に並んでいる。三谷漁港は底引き網漁が盛んで、店頭にも小柄のメイタガレイが箱単位で売られていたり、メヒカリがひと山いくらで並んでいたり。丸々した渥美のアサリやミル貝を並べて売っているおじさんに聞いたところ、メヒカリは西浦の漁船が、底引き網でとっているという。高級魚はあまり見られないが、近海でとれる手ごろな値段の魚介が中心の様子。お客も近隣の町からのおなじみの客がほとんどのようで、店の人とのんびりと談笑しながら商談をするなど、どことなくのどかな空気が漂っている。

 そんな具合なので、一見の客は少々居場所に困ってしまうが、鮮魚を売る店の店頭をのぞきながら、客が切れたのを見計らっておばちゃんに今の時期の旬の魚を聞いてみた。「春先はメバル、シラス、イカナゴ。ほかイシガレイ、クルマエビ、カサゴ、シャコ、マダコとか、割と近くでいろいろとれるよ」。中でも今はサヨリが中心で、店頭にも長い下あごに透けるような銀色がキラキラ美しいのが、数尾ずつ皿に盛って並んでいる。サヨリは産卵期である3月から5月が旬で、この時期は沖の底部から沿岸の浅瀬に戻ってきて、海面近くを群れをなして回遊している。特に今はすぐ近海でとれるため、三谷漁港ではほとんどの船がサヨリ漁を中心にやっていて、水揚げの多くを占めているという。本来は結構高い魚で、出始めの頃はキロ当たり1000円以上することもあるそうだが、「このごろ暖かくなってよくとれるから安くなったよ。どう?」。刺身のほか塩焼きにするとうまいよ、と、おばちゃんが熱心に勧めてくれる。

 店頭をあれこれ眺めているうちに、昨日『げん屋』で食べた、ハマグリほどの大きさはある大アサリのことを思い出し、貝を売っていたさっきのおじさんの店へ引き返してみることにした。大アサリは置いていますか、と聞いてみたら「アサリといっても、あれは『ウチムラサキ』という種類。このあたりの名物だけど、水揚げ港や漁業者から業者が直接買い占めるため、あまり市場には出回らない」。とのこと。大アサリもいいけれど、このへんでとれるアサリは身が肥えていて柔らかくうまいよ、と親父さんが勧めるように、三河湾では「普通の」アサリも代表的な漁獲なのだ。

 三河湾は東京湾、瀬戸内海、有明海と並び、日本屈指のアサリの水揚げ地である。湾は最深でも20メートルほどと浅く、干潟や浅瀬も数多い。そのため主に、「マンガ」と呼ばれる爪がついたカゴを使って人手で海底を掻く「腰マンガ」という方法や、小型船による底曳き網で漁獲される。豊富な漁獲量はもちろん、質の良さでも定評がある。湾を囲む渥美半島の南には黒潮が流れていて、その影響で太平洋から湾内へプランクトンが運ばれてくる。加えて湾内へ流れ込む川によって、降雨量が豊富な山間部からもプランクトンが運ばれてくる。このように栄養分が豊富な海域で生育するため、三河湾のアサリは大粒で身が詰まっているという訳だ。質、量ともに優れた三河湾のアサリは、親父さんによると旬は12月からちょうど今頃とのことで、「殻からはみ出すほど身がパンパン、もう少しすると堅くなるから今がお買い得」。渥美半島の沿岸で広くとれる中でも、江比間ほか、すぐ沖の大島近海でとれるのがうまいそうで、店頭で元気に潮を吹いている。

 今日は帰るだけなので、おみやげにアサリをひと袋ほど買い込んで、今夜の肴はあさりバターといくか。それに加えて市場内には加工品の店も多く、干物やみりん干しの店も魅力的。という訳で、お土産&市場食堂でお買い物は次回にて。(2006年5月22日食記)