ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん31…豊橋 『魚介三昧げん屋』の、三河湾の地魚に大アサリの酒蒸し

2006年07月16日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 名古屋の大須で味噌カツの店でお昼を済ませると、今回の旅の目的はとりあえず果たしたも同然。新幹線に乗れば夕方には家へ帰れるが、まだ体力も財布の中身も、お腹の具合も幾分余裕がある。さてどこへ立ち寄ろうか、と迷いながら、とりあえず名鉄の特急に乗って終点の豊橋駅へ。渥美半島の付け根に当たり、すぐ目の前には三河湾を臨む町だけに、おいしい魚料理にめぐり合えそうな予感だ。駅の裏手のビジネスホテルに落ち着き、ここで1泊して食べ歩きを楽しむことにした。

 見ず知らずの町なので、地元の人を頼りにしていい店情報の収集だ。ホテルのフロントの女の子に「ちょっと予算は高いけれど、料理の評判はいいですよ」と勧めてもらった、『魚介三昧げん屋』を目指して、飲み屋や料理屋が建ち並ぶ松葉小路へ。繁華街の一角に、江戸時代の長屋を模したレトロな外装が目を引く。戸をくぐると、板前さんから仲居さんまで店のスタッフ全員がいっせいに「いらっしゃいませえっつ!」と、元気良くお出迎え。商家風で木調を生かした店内の、旧家の広い座敷のような席へと通された。長いカウンターのケースには、三河湾で揚がった魚介を中心に鮮魚がズラリ。料理長が自ら市場で厳選した、産地や旬、漁法にまでこだわった、すべて天然、生の素材が揃っている。メニューや黒板には、その日にとれた魚介を使った本日のおすすめや、一品料理の数々が大きく書かれ、豊富な地酒とともにオーダーに迷ってしまうほどだ。

 品書きによると、刺身は形原のメヒカリ、三河の白ミルに舞阪のハモ。ほか舞阪夢カサゴ唐揚げ、西浦のノドグロ醤油焼きなど、三河湾や伊良湖、舞阪、御前崎といった地元で水揚げされた天然の魚介を使った料理が種類豊富である。ホテルの女の子の話どおりやや値が張るが、予算よりも食欲のほうが勝ってしまいそうだ。店のお姉さんによると、5月末のこの時期は三河湾でとれる魚はやや少なく、スズキ、イシガレイなど白身魚がよくとれるそうである。そのほかシラスやちりめんじゃこにイカナゴといった小魚、江比間や大島のアサリや、海が暖かいため5月なのに岩ガキもとれるとか。手書きの三河湾周辺の地図を手渡してくれ、地名とともにとれる魚介を教えてくれるので分かりやすい。

 そこで地物を中心に造りを1人前お願いすると、この日の地物であるノドグロ、青柳、ニシ貝、サバ、白魚に、富山の白エビ、鹿児島のキビナゴも一緒に盛られて運ばれてきた。氷を敷き詰めた器に盛られ、涼しげで彩りも鮮やか。脂ののったものはたまり醤油と自家製柚子コショウで、白身はカツオ風味の自家製土佐醤油とワサビで頂く。まずは地物のノドグロから。脂がトロリ、身が舌の上でサラリととろけ、上品な味わいである。サバは締めサバでなく、刺身のまま食べられます、と店の人自慢の一品とか。脂の濃厚なコクと、柚子コショウの香りが渾然一体となり、これはうまい。地魚のつくりに合うのはやはり、地酒と、地元・愛知の関谷醸造自慢の「蓬莱泉 可」をここらで1杯。甘めだがスッキリしていて、脂ののった魚をぴしゃりとすっきり締めてくれる。ほか、貝もなかなかで、ニシ貝は粘りがあり甘味が後からグッ、青柳は歯ごたえがクキッと瑞々しい。

 造りでひとしきり酒を飲んだ後は、温かい料理が食べたくなった。締めくくりにアサリの酒蒸しを注文したところ、普通のアサリが本日はなく、代わりに「伊良湖の大アサリでもよろしいでしょうか?」と店の人。大アサリは名の通り大振りのアサリで、正確には「ウチムラサキ」と呼ばれるように殻の内側が紫色をしている。渥美半島先端部の渥美町のものがおいしいとされ、旬は5月頃。この時期に渥美半島をドライブしていると、沿道のみやげ物屋の店頭で網焼きにしていたり、旅館や民宿での定番料理となっていたりと、伊良湖周辺で知られた名物である。

 そして運ばれてきた器には何と、大きな貝がひとつだけゴロン、と入っていた。まるで大柄なハマグリほどでっかく、さらに大きいのだと器から殻がはみ出すほどですよ、とお姉さん。身は切り分けてあるけれど、アサリ数個分は充分あるほどたっぷりだ。貝柱はグイグイとかむと味が出て、ヒモはシャッキリ、水管も太くシコシコ、身はホクホク。貝1枚で、余裕で徳利がひとつ空いてしまう。中でも身は口に入れると絶句、の旨さで、まさに三河湾の豊かさがグッと凝縮したような味わいだ。

 締めに貝のエキスたっぷりのスープを飲み干しで、ほっとひと息。さらに料理も地酒も注文して、本腰を入れて飲みたいところだが、少々高めの予算を心配して、そして2日間にわたって毎食事時にがっちり食べて、飲んで、と繰り返しているため、少々時間が早いが今日はこのあたりでおあいそ、とした。ほど良く回った地酒のおかげで早寝すれば、明日はスッキリ早起きして、旅の締めくくりに三河湾の魚介がずらり揃った朝市探訪、といこう。(2006年5月21日食記)