ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん33…三谷漁港の朝市 『魚がし食堂』の、おかずが選べる定食とアサリの味噌汁

2006年07月19日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 三河湾に面した三谷漁港で行われている朝市には、春先が旬のサヨリ、小柄なメイタガレイ、近くの大島や渥美半島の江比間でとれるアサリなど、近海でとれた魚介がずらりと並んでいる。早朝の列車で豊橋からやってきて、場内をぐるりと一巡し終わったところで時計を見るとまだ6時過ぎ。地元の常連客が中心の小ぢんまりした市場なので、ひととおり散策するのに思ったほど時間が掛からなかった。豊橋から東京へ帰る新幹線の時間までは、まだ充分すぎるほど余裕がある。おみやげを適当に買って、市場周辺の食堂で魚料理の朝食を頂いて、と、もう少しのんびりしていくことにしよう。

 とりあえず、三河湾の魚について色々教えてくれた親父さんの店に引き返し、丸々と身が詰まったアサリを購入。三河湾は日本有数のアサリの水揚げ地だけに、店頭の箱に入ったアサリは勢いよく水を吹いて元気がいい。アサリの袋をぶら下げて市場内を歩いていると、干物やみりん干しの店を発見。太刀魚や小鯛、メヒカリにアジなど、こちらも材料は三河湾で水揚げされた魚のようである。中でも目を引くのは、束になって売られている細長い魚。見た感じ、まるでウナギかアナゴの干物のようでもある。

 正体が分からないので、店番をしていたおばちゃんに聞いたところ「細長いのは太刀魚やアナゴ、あとアナゴの仲間のダルマメジ。おすすめは柔らかい太刀魚だけど、ダルマメジは安くてお得だよ」。ついでに他の小魚も何か教えてもらうと、エソやメヒカリとのことで、どれも軽くあぶれば酒の肴に持ってこい。旅のみやげにかさばらないので、おばちゃんに適当に見繕ってもらうことにした。オススメの太刀魚に加え、小鯛とメヒカリ、さらに「高級魚」というホーカイも入れてもらい、締めて500円ちょっとは確かに手頃だ。

 買い物が済んだところで、早起きして歩き回っているのでお腹が空いてきた。駅からここまで歩いてくる途中まだやっている店はなく、市場や漁港の労働者向けの食堂があればいいが。みりん干しのおばちゃんに、漁港の周辺で朝ご飯が食べられる店がないか聞いてみると、「その先の魚市場に、市場で働く人向けの食堂があるよ。もうやっているんじゃないかな」。その名も『魚がし食堂』は、三谷魚市場の競り場の一角にある小さな食堂で、この時間は水揚げ終了後の漁師達で賑わっている… と思ったら、覗いてみると人気がないので拍子抜け。卓では店のおばちゃんは居眠り中で、入口をくぐると「今日は暇だからね」と、笑いながら台所へと向かっていった。

 カウンターに腰掛けると、マグロ揚げ、ブリカマ、イカ生姜焼き、里芋など目の前にはおかずが色々並び、好みでとる仕組み。今日はあいにく、この漁港で水揚げされた魚を使ったおかずがないとのことで、マグロ揚げとモズクにごはん、味噌汁を組み合わせることに。すると「味噌汁の実はアサリだけどいい?」とおばちゃん。いいも何も、さっき市場で見たあのアサリなら大歓迎だ。味噌汁は頼んでから温め、ネギをちらして出された。昨日の大アサリほどではないが、普通のアサリといっても大振りで、汁は貝の旨みが濃厚、身はふくれていて滋味あふれる味わい。これは早起きの胃袋にうれしい味だ。地物の魚のおかずはあいにくないが、このアサリ味噌汁があれば充分満足。太いモズクにたっぷりのフライも、働く人の食事といった感じでボリュームがある。

 お客が自分ひとり、しかもよそからの珍しい客ということで、おばちゃんはなにかと愛想がいい。ワサビ海苔を出してくれたり、とれたての里芋をゆでたのをつけてくれたりと、なかなかサービス旺盛だ。朝のニュースを見ながらのんびりお茶を飲んでいると、なじみらしい客が2、3組やってきた。常連とおばちゃんとの会話が盛り上がるにつれ、店の空気もいつもの雰囲気になってきたよう。ここらでよそ者は引き上げよう、と時計を見てもまだ7時過ぎ。11時の新幹線の時間まで、駅からすぐのホテルに戻ってひと眠りするとするか。(2006年5月22日食記)