ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん番外編&書き込み復活のお知らせ&拙書刊行のご案内!

2006年07月01日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 さかのぼること半月、ワールドカップ予選の初戦の日のこと。日本がオーストラリアと一戦を交えるその日の話である。群馬県の鹿沢高原での取材を終え、のんびりと別所温泉をぶらぶらして、真田氏ゆかりの上田で1泊。ホテルでのサッカー中継を前に、早めに市街で一杯やろうとしたときのこと。

 店を探して駅前通りを歩いていると、唐突になる携帯電話。「…お願いしている本の件だけど、7月20日に出版できるように進めてくださいね、では」と、出版社の担当者からの一言。原稿はほぼできているとはいえ、よくよく考えてみればあと1ヶ月もない! これは旅先で気ままに飲んだくれたり、のんびりサッカー見ている場合じゃないぞ、と、たまたま持参していた原稿を手に、行き先は飲み屋ではなく喫茶店へ。

…この時から昨日の原稿完成まで、余裕ある時間はすべて原稿執筆と校正に充当する日々。おかげで本ブログの更新も、半月に渡ってすっかりストップしてしまいました。ようやく出版のめどがつき、月も変わったところで、再び週に2~3回のペースの書き込みを復活していきたいと思います。

 なお、このブログのカテゴリーから生まれた拙書「旅で出会ったローカルごはん」は、上記のとおり7月20日、全国一斉発売となりました。以前に予告の通り、240ページほどのボリューム版、しかもオールカラー。ブログに掲載の料理の写真をでかでかと載せている以外にも、お店や料理人の写真、また旅先の名所の写真など、ビジュアル豊富で旅心と食欲? が盛り上がることうけあい。書店の旅行エッセイやグルメ本のコーナーに、当面は表紙が表に並ぶと思います。白地に緑色でスタンプ風の書名と、大きなカツ丼の写真が表紙。見かけたら、どうぞよろしくお願いいたします。

と、言い訳と宣伝だけで終わるのも何なので、喫茶店での執筆後に結局行った(笑)、上田の店の話を綴って、書き込みの復活の印としましょう。


 長野、松本に次ぐ、長野県3番目の都市というのに、上田の駅前から延びる目抜き通りには、まだ宵の口というのに人通りがほとんどない。前日は山の湯・鹿沢温泉に泊まり、今日は街へ降りてきて繁華街で一杯、のつもりが、少々拍子抜けだ。信州だけに、蕎麦屋でそばみそや板わさをアテに地酒を楽しもうにも、目をつけていた店は20時を回ったぐらいなのにもう準備中。いったん駅前のホテルに戻り、おすすめの飲み屋を紹介してもらったものの、チェーン系や若者向けの店など、いまひとつこの土地らしさがない様子。

 とはいえほかに選択肢も、そして時間もなく、ホテルで勧めてもらった店の中から、「焼酎の品揃えが豊富ですよ」という言葉に期待して、駅前通りを数分歩いたところにある『えんぎや』という店に落ち着くことに。信州らしく民芸風の店を期待したが、レンガをあしらった外観、内装は大正ロマンを意識したというレトロモダンな造り。でもカウンターに落ち着くとホテルの人の話の通り、上には焼酎の一升瓶がズラリと並び、ホッとしたような、ミスマッチでおかしなような。

 品書きによるとこの店は創作料理が中心で、マグロとアボガドの生春巻き、近海タコのアンチョビソースなど、山国の居酒屋ながらも工夫を凝らした海鮮料理が豊富な様子。とりあえずは様子見と、お勧めメニューの中にある〆サバと海鮮キムチサラダを頼んで、ビールで乾杯。サバは脂がよくのっており、マグロやイカなどたっぷりの刺身がのったキムチサラダもなかなか。少々奇抜な内装に関わらず、料理のほうはあなどれなさそうだ。

 それにしても自分のほかに、地元サラリーマン4人組しか客がいないのが気になる。「今日はわかっちゃいたけど商売はあがったり、もう、店を閉めようかと思うほどだよ」と、ジョッキのおかわりを運んできた親父さんと話をして思い出した。今夜は22時から、サッカーワールドカップ日本代表の初戦が行われる日だ。道理で街を歩いていても、飲みに出歩いている人をほとんど見かけないわけである。実は親父さんも見たいのでは、とあわてて、自分も試合が始まる前にはホテルへ戻りますから、と話すと、せっかく来たんだから気を使わずゆっくりしてってね、と笑っている。

 店の人との話が弾んだところで、何か信州ならではのものはありますか、と尋ねると「こんな感じの店だからなあ」と言いつつも2品を勧めてくれた。馬刺しは信州の名物で、上田や松本、伊那地方でよく食べられている。信州のほか熊本でも名物で、信州は赤身、熊本は霜降りと、嗜好が異なるといわれている。出された馬刺しも、脂はほとんどない赤身。肉の旨味が純粋に楽しめ、おろしニンニクで頂くといかにもスタミナがつきそう。もう1品の地鶏の唐揚げは大盛り、ジューシーで、ジョッキの残りが空いたところでそろそろご自慢の焼酎の出番だ。そば焼酎の『帰山』は浅間山山系の伏流水を使った、佐久市の千曲川酒造が醸造した地元信州の焼酎。樽熟成とあるだけに、まるでじっくり寝かせたウイスキーのような深みのあるコクがある。肉料理との相性も抜群で、土地の肴と地元の酒に出会えたうれしさもあり、ついつい酒が進んでしまう。

 と、気がつけばキックオフ30分を切っている。店を後にホテルへ向かう途中に、コンビニでビールを1本購入。親父さんに気を使い? 酒宴を途中で切り上げたので少々飲み足りず、日本代表の初戦勝利を祈念しつつ飲みながら観戦、といくか。(この時点では、まだ希望も楽しみもあったのだが…泣。2006年6月12日食記)